Heart to Heart
          
パロディー編

     「ゲーム ラグナロクオンライン」







 ここは、プロンテラ衛星都市『イズルート』――

 今日も今日とて、誠達は、
待ち合わせ場所である、この街の入り口手前の広場に集まっていた。





「というわけで、冒険を始めて早三日……、
ようやく、全員の一次転職が終わったわけだが……」

 砂漠の都市『モロク』で、盗賊への転職を果たした『藤井 誠』は、
そう言って、眉間に寄ったシワを揉み解しながら、自分のパーティーであるさくら達を見回した。

「大変でしたよね」

「ノービスじゃ、ポリン倒すのも一苦労だったもんね〜」

「私なんて、完全にINT型ですし……」

 誠の苦虫を噛み潰したような表情の意味を知ってか知らずか……、

 アコライトの『園村 さくら』と剣士の『河合 あかね』、
そして、魔術師の『エリア・ノース』は、なんともノン気な笑みを浮かべる。

「……あのさ、二つほど質問しても良いか?」

 そんなさくら達に、激しい頭痛を覚えつつ、
意を決した誠は、先程から気になっていた疑問点を指摘することにした。

「さくら……そのフライパン、何処から持ってきた?」

「――はい?」

 誠に訊ねられ、さくらは自分が装備している『フライパン』を見つつ、首を傾げる。

 そして、質問の意味を理解したさくらは、
何でもないことのように、あっけらかんと答えた。

「フェイヨンダンジョンの地下2階に出てくる、
通称『目玉焼き』さんが落としていったので、それを拾って来ました」

「普通、アレは拾えないんだよっ!!」

「ちなみに、正式名称は『秋子
おばさんのフライパン』です」

「それはゲームが違うだろうがっ!!
ってゆーか、そんなモン持ってたら、チート扱いされるぞ?!」

「ついでに言いますと、精錬値+10だったり……」

「うわっ! さらに胡散臭いしっ!!」

 さくらの言葉を聞き、誠は頭を抱える。

 だが、彼女達の奇行にはいい加減慣れているのか……、
 誠は、すぐに落ち着きを取り戻すと、今度はフランこと『フランソワーズ』に目を向けた。

 PCのグラフィックでは有り得ない……、
 メイド服姿のフランに……、

「なあ、フラン? 確か、お前も最初は、俺達と同じノービスだったよな?」

「はい、仰る通りです」

「そのお前が、どうして『カプラ職員』になってるんだ?」

 ――そう。
 カプラ職員である。

 カプラ職員とは……、

 街の入り口付近など、随所に待機して、
冒険の記録を残したり、アイテムを預かったり、と、冒険者を支援するNPCのことで……、

 つまり、フランは、元々はPCであったにも関わらず、
NPCであるカプラ職員に転職する、という離れ技をやって見せたのだ。

「まあ、どうやって転職したのかは、敢えて聞かない事にして……、
それじゃあ、俺達と一緒に冒険出来ないだろ?」

「――問題ありません」

 本来、NPCとは一定の場所に待機し、
全てのプレイヤーに対して、平等にサービスを提供する存在でなければならない。

 だから、当然、特定のパーティーを贔屓するわけにはいかないわけで……、

 誠が、その点を訊ねると、
フランは懐から何かを取り出しつつ、自信満々に答えた。

「このアイテムをご使用頂ければ、
ワタシは誠様達専属のカプラ職員になることができます」

 そう言って、フランが誠に差し出したのは、一枚のチケット……、

「……『カプラ利用券』?」

「それを使って頂ければ、炊事、洗濯、掃除から……、
お望みとあらば、その、夜のお相手まで、ワタシをご利用頂けます」(ポッ☆)

「なんか、微妙に利用の意味が違うような気がするが……」(汗)

 引きつった笑みを浮かべつつ、
誠は、顔を真っ赤にして恥ずかしがるフランから、チケットを受け取る。

 そして……、

 まあ、何にせよ……、
 一緒に冒険出来るなら、問題無いか……、

 と、無理矢理、自分を納得させてから、誠はスクッと立ち上がった。

「さて、そろそろ、今日の冒険を始めよう。
さくら達は、何処か、行ってみたいところはあるのか?」

 どうやら、雑談の時間は終わりのようだ。
 装備と回復アイテムの残りの数を確認しつつ、誠は、さくら達に訊ねる。

 すると……、

「「「プロンテラ大聖堂っ!!」」」

 シュタッと手を上げた、さくら、あかね、エリアの、三人の声が見事にハモッた。

「ど、どうして、そんな場所に行く必要が……」(汗)

 ひしひしと嫌な予感を覚え、思わず後ずさる誠。
 そんな誠の両脇をあかねとエリアが、ガッチリと押さえ込んだ。

「さあ、誠さん、行きましょうか♪」

「な、何をしに……?」(汗)

「それは、もちろん――♪」

 恐る恐る訊ねる誠に、嬉々とした表情のさくらが、
プロンテラ大聖堂直行便のワープポータルを出現させながら答える。



「――わたし達の結婚式を挙げるんですよ♪」



「…………」(大汗)

 さくらの発言に、表情を強張らせる誠。

 まあ、それも無理はないだろう。

 ゲーム内のPC同士を結婚させる、というイベントは、そんなに珍しい事ではないとはいえ、
新郎一人に新婦四人、となれば話しは別だ。

 そんな真似をすれば、絶対に、ラグナロクの歴史に名を残すことになってしまう。

 そうなれば、将来、PK機能が実装された場合、
『藤井 誠』というPCは、男性プレイヤーのターゲットにされてしまうかもしれないのだ。

 唯一、救いなのは、この会話が、チャットモードであったことか……、

「い、いや、でも……まだ、ウェディングドレスもブーケも無いし……」(汗)

 彼女達の気持ちは嬉しいが、そんな事態を避ける為に、誠は何とか抵抗を試みる。

 だが、今回は、さくら達の方が一枚上手であった。

「大丈夫ですよ。弓手の『陣九朗』さんと、
アコライトの『聖悠紀』(?)さんが、全部、用意してくれましたから♪」

「全て、ワタシがお預かりしています」

「引き出物は、イグドラシルの葉だよ〜♪」

「あううう……」(滝汗)

 必死の抵抗を、アッサリと一蹴され、完全に追い詰められる誠。

 しかし、協力者である陣九朗達は、誠を見捨ててはいなかった。
 誠が腹を決めるまでの時間を作る為に、ちゃんと逃げ道を用意してくれていたのだ。

「あっ、でも、指輪だけは自分達で用意するように、って言っていましたね」

「じゃ、じゃあ、結婚式は、まだ挙げられないなっ!
やっぱり、結婚式には結婚指輪は必要不可欠だしっ!!」

「そうですね……それでは、頑張って、早く指輪を買うことにしましょう」

 さくらの言葉から、逃げ道の存在を知った誠は、
すぐさま、それに飛び付き、有無を言わせぬ勢いで、彼女達に提案する。

 そして、誠は、渋々ながらも、さくら達を納得させ、時間を稼ぐことに成功した。

 もっとも……、





「指輪は、一番安い『花の指輪』で充分ですからね♪」

「は、はい……」(泣)





 その稼いだ時間は……、
 あまりにも短いもののようではあるが……、
















 まあ、それはともかく……、

 指輪を買う為のお金を稼ごうにも、
まずはレベルを上げなければ話しにならない。

 そこで、誠達は、手っ取り早く、
レベルを上げる為、熟練者に協力を仰ぐことにした。

 というわけで――
 向かう先は、首都『プロンテラ』――

 そこに、誠が前もって話をつけておいた、
熟練者である、騎士の『藤田 浩之』が待っているのだ。

「おっす、田中わび助」

「誰が、田中わび助だっ!!」

 街の入り口手前で、露店のチャットを立てながら待っていた浩之を発見した誠は、
軽いジョークをまじえた挨拶を交わす。

 そんな誠にツッコミを返しつつ、
浩之はチャットを閉じると、早速、誠達にトレード申請をしてきた。

「俺やあかりの使い古しで悪いけど、これは転職記念だ」

 そう言って、浩之は誠達に装備品と回復アイテムを配っていく。

「いつも悪いな、浩之」

「良いって良いって、気にするなよ」

 浩之から貰った装備品を、ありがたく受け取り、装備していく誠達。

 ちなみに、その貰ったアイテムを売ってしまえば、
指輪は買えてしまったりするのだが、それは言わないお約束だ。

「……それで、これから何処に行くんだ?」

 無事に装備を終えた誠は、
ステータスのチェックをしつつ、浩之に、これからの予定を訊ねる。

 すると、浩之は『♪』マークを出現させながら……、

「任せとけよ! 初心者にピッタリのエリアを探しておいたからな」

 と、誠達を促すように、先立って歩き出した。

「頼りにしてるぜ、浩之」

「よろしくお願いします、浩之さん」

「セーブをする時は、いつでもワタシにお申し付けください」

「うにゃ〜、待ってよ〜!」

 慣れた歩調で先を進んでいく浩之を、誠達は慌てて追い駆ける。

 そして、浩之の姿を見失い、少し迷ったりもしつつ、
ようやく、誠達は、浩之が待つ『カオスゲート』の前へとやって来た。

「全員、準備は良いか?」

 ゲートの前に集まった誠達を軽く見回し、
浩之は、ちょっと勿体振るように、ゆっくりとゲートに手を触れる。

 そして、誠達にも分かるように……、
 まるで宣言するかの如く、声高々に『エリアワード』を言い放った。

「よしっ! それじゃあ、行くぜ!
向かうエリアは、Δサーバー『萌え立つ 過越しの 碧野』だっ!」

「よっしゃっ! 腕が鳴るぜ――って、あれ?」
















そして、彼らは足を踏み入れる。

自分達と世界を巻き込む、過酷な戦いの始まりを告げるエリアへと……、

「おい? ちょっと待て」(汗)






向かった先のエリアにあるダンジョン――

その奥で目撃した、謎の巨大モンスターと、
それに追われる二人の少女。

「ラグナロクって、こんな内容だったか?」(大汗)






「んに〜! まこ兄、助けて〜〜〜っ!!」

「怖いよーっ! くすんくすん」








その巨大モンスターに、
浩之は、たった一人で闘いを挑む。

「何か、微妙に違うような……」(大汗)






「さあ、浩之〜♪ この僕に、キミの熱い○○○を挿入してよ〜〜〜♪」

「今すぐ死んでしまぇぇぇーーーーっ!!」

「おい、人の話を聞けよ……」(怒)






そして、謎の敵より放たれるデータドレイン――

それによって、意識不明となってしまうリアルの浩之――








謎のハッカー『ルリ』の助けによって、
窮地を脱した誠達は、浩之を救うことを決意する。

「あの、だからさ……」(怒)






謎の双子から託された違反スキル――
浩之を意識不明にした『ウイルスバグ』に対抗できる唯一の力――

敵のデータを書き換え、弱体化させる『データドレイン』――
プロテクトエリアへの侵入を可能にする『ゲートハッキング』――

この二つの力だけを手掛かりに……、
















そして――








数々の冒険の末……、

誠達は、見事に、第1相『マサシ』を撃退することに成功する。








――だが、彼らは、何も分かっていなかったのだ。








ゲームを汚染したウイルスは、
現実世界にまで、影響を及ぼし始めていることを……、

このゲームと自分達との関係は、
もう既に、遊びの域を越えてしまっていることを……








彼らの闘いは……、

まだ始まったばかりなのだ、ということを……、
















果たして――

誠達は『ネットワーククライシス』を防ぐ事が出来るのか?

未だ、意識の戻らない浩之を、救うことが出来るのか?

謎の双子『なるみ』と『くるみ』の正体とは?

『誰彼の碑文』に隠された秘密とは?








全ての謎を解き明かすことが出来るのは……、

……もう、彼らしかいない。
















――次回作!!

『ラグナロクオンライン Vol.2 悪性変異』に続くっ!!















「だから、途中からゲームが
変わっとるだろうがぁぁぁぁぁっ!」

















 ――ちゃんちゃん♪








<おわり>
<戻る>

協力:聖悠紀 帝音