Heart to Heart
パロディー編
「小説 走れメロス」
――メロスは激怒した。
「なんだとっ!! この国の王は正妻がいるにも関わらず、
他国の公女姉妹まで嫁にして、
さらには自分付きのメイドにまで手を出してるだとっ!?
そんな人類の、男の敵は許しておけんっ!!
この俺様が成敗してくれるっ!!」
……と、いうわけで、久し振りに王都へとやってきたメロスは、
そのトレードマークともいえるツンツン頭を怒りでさらに逆立てつつ、
安物のナイフ片手に、たった一人で城へと乗り込んでいった。
そして……、
「おいっ!! ちょっと待てっ!! そこの妖しい奴っ!!」
「あ……」
……あっさりと捕縛。(笑)
兵士達に捕まったメロスは、縄でグルグル巻きにされたまま、
この国の王であるディオニスの前へと連れていかれました。
王政がしかれた国で王に歯向かう事は、即ち死を意味します。
こうなった以上、どうあっても死刑は免れまいと悟ったメロスは、
半ばヤケクソで、王様に食って掛かりました。
「お前が何人もの女の子をはべらしてるっていう羨ましい……じゃなくて、最低男かっ!!
貴様っ! 一国の王ともあろう者が、それで良いと思っているのかっ!?」
と、メロスのその言葉を聞き、王様はやれやれと溜息をつきます。
「あのな、この手の時代の王には妾はつきものだろうが?」
「うっ……それはそうだが……」
「だが、まあ、お前の言い分はわからんでもないから、
刑は免除やりたいところなんだけど……」
「……え?」
王様のその言葉に、メロスの表情がパッと輝く。
もしかしたら、上手く行けば助かるかもしれない。
言ってみるものだな、と、内心ほくそ笑むメロス。
……だが、その希望はあっさりと砕かれました。
「でも、それと、お前が俺の命を狙ったっていうのは別だから……やっぱり死刑ね♪」
「そんな〜……」(泣)
王様の判決を聞き、ヘナヘナとその場に崩れ落ちるメロス。
だが、この時、メロスの頭に名案が浮かびました。
それを実行する為、メロスは素早く立ち上がります。
そして……、
「ええいっ!! こうなれば逃げも隠れもせんっ!! 好きにするがいいっ!!」
「ほお、なかなか潔いな」
「ただ、今日一日だけ俺に時間をくれっ!
実は、今日は妹の結婚式なんだ! 村帰って、どうしても祝ってやりたいんだっ!」
「おいおい。見え透いた嘘をつくなよ。逃がした小鳥が帰ってくるとでも言うのか?」
「う゛っ……」
と、王様にツッコまれ、言葉を失うメロス。
実際、メロスは戻ってくる気などサラサラありませんでしたし、
そもそも彼に妹などいないのです。
しかし、ここで諦めるわけにはいきません。
諦めれば、そこに待っているのは、死あるのみ。
メロスは無い知恵を絞って、打開策を考えます。
そして、メロスが考えた方法は……、
「そんなに俺を信じられないのなら、
この王都に住む俺の親友のセリヌンティウスを人質にしろっ!
明日の日暮れまでに俺が帰ってこなかったら、
そいつを絞め殺してやってくれっ!」
……自分の身代わりを差し出すことだった。(爆)
「お前……最低だな」(汗)
さすがの王様も、メロスの極悪非道ぶりに顔を引きつらせます。
それでも、なんとか気を取り直すと……、
「ま、まあ、そこまで言うなら、お前に一日の猶予をやろう」
……そう言って、王様は兵士に命じてメロスを拘束する縄を解かせます。
「ところで、だ……」
そして、何を思ったのか、王様はこっそりとメロスに耳打ちしました。
「……ちょっと遅れて来い。
そうすれば、お前の罪は永遠に許してやるぞ」
「な、何を……っ!?」
「はっはっはっはっ! 命が惜しければ遅れて来い。
元々、見捨てるつもりだったんだろ? お前はそういう奴だよ」
「なっ……なっ……」
王様のあまりに外道な提案を聞いたメロスは、怒りのあまり目を見開き……、
「このメロスを愚弄するかっ!?」
「――でも、それは良いアイデアだな♪」(爆)
……と、憤慨したのもほんの一瞬で、メロスはコロッと王様の提案に乗りました。
実は、メロスが人質に差し出したセリヌンティウスの妻は、
メロスの初恋の相手であり、メロスは今も密かに彼女を想っているのです。
そこで、メロスは、これを機にセリヌンティウスを亡き者にし、
未亡人となった彼女をゲットしようと企んだ、というわけです。
危うしっ! セリヌンティウス!!
彼は、このままメロスの策略の餌食になってしまうのでしょうか?!
「……んじゃま、そういう事だから、しばらく人質になっていてくれ♪
な〜に、必ず戻って来るから、安心して待ってろよ♪」
「信用できるかーーーっ!!」
そして……、
兵士によって連行されてきた目つきの悪い男、セリヌンティウスに見送られ、
メロスは王都を出ていったのでした。
それから、丸一日が過ぎ――
メロスは、予定通り……、
約束の時間に少し遅れて城へとやって来ました。
これで、自分の命は助かり、邪魔なセリヌンティウスも排除し、
その妻をもゲットできたわけです。
自然と、メロスの足は軽快にスキップを踏み始めます。
ですが、そんなメロスを城で待っていたのは……、
「…………」(怒)
「…………」(怒)
「…………」(怒)
未だに生きているセリヌンティウスと――
ニコニコと微笑みながらおたまを構えている彼の妻――
――そして、呆れ果てた表情を浮かべた王様でした。
「えっ? えっ? えっ?」
自分を出迎えた彼らの様子に戸惑うメロス。
特に、まだセリヌンティウスが生きていることに驚きを隠せません。
そんなメロスに、王様達はやれやれと首を横に振り、口々に言い放ちます。
「まったく……ちゃんと約束の時間に戻ってきたら許すつもりだったのに、
まさか本気で遅れて来るとはな……」
「だから言っただろ? 試すだけ無駄だって」
「浩之ちゃ……セリヌンティウスを自分の身代わりにしようだなんて、許せないよ」
「えっ? えっ? あれっ?」
王様達にジト目で睨まれて、メロスはタジタジと後ずさります。
そのメロスの両脇を、控えていた兵士達がガッチリと抱え込みました。
「それで、誠……じゃなくて、王様? こいつ、どうするんだ?」
セリヌンティウスが、メロスを指差し、王様に訊ねます。
すると、王様は軽く肩を竦めると……、
「まあ、殺すのも何だし、命だけは助けてやるつもりだけど……」
その王様の答えに、セリヌンティウスは苦笑します。
「つくづくお人好しな王様だな?
あんなにたくさんの嫁さんに愛されてるのも頷けるってモンだ」
「――あ? 誰がお人好しだって?」
と、セリヌンティウスの言葉に、首を傾げる王様。
そして、王様は兵士に取り押さえられているメロスに目を向けると……、
「我が身可愛さに自分の友達を売るような奴は、
死よりもつらい目に遭ってもらうからな」
……そう言って、不敵な笑みを浮かべたのでした。
こうして……、
メロスは、国王暗殺未遂の罪と、友を見捨てようとした罪により、
険しい山々に囲まれたとある街へ島流しの刑にされました。
その街の名前は『山岳の街 エウス』――
別名、『男しかいない街』である――
「そんなのイヤだぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
――ちゃんちゃん♪
<おわり>
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