Heart to Heart
         
パロディー編

      
「おとぎばなし 桃太郎」







 昔々、あるところに――

 それはそれは不幸な美少女が、とある村の外れで暮らしていました。

 その不幸っぷりは類を見ないものでした。

 魔王の手下に両親を殺され……、
 さらに、故郷を滅ぼされ……、

 それで、仇討ちの冒険に出たのは良いのですが……、

 冒険の途中で、仲間の女剣士に純潔を半ば奪われるわ……、
 仇である魔王と闘う前に、志半ばで死んでしまうわ……、

 それはもう、同情してしまう程に不幸でした。

 まあ、色々と奇跡が起こって、今もこうして生きているわけですが、
だからと言って、その不幸っぷりが直るわけもなく……、

 魔王が倒され平和になった世界で、ただ一人、寂しく生活を送っていました。

 しかし、どんなに不幸でも、彼女は魔王を倒した功労者の一人です。
 そんな彼女の不幸を、神様が放っておくわけがありません。

 そこで、神様は、彼女に一つの幸運を授ける事にしました。
















 ――それは、良く晴れたある日の事でした。

 少女が川で洗濯をしいると、
川の上流から見慣れない物がどんぶらこっこと流れて来たのです。

 それは、一台のノートパソコンでした。

 少女は何となくそれを拾い、家に持って帰る事にしました。

 そして、妖しいと思いつつも、パソコンを色々といじり回していると、
突然、それにインストールされた悪魔召喚プログラムが起動してしまいました。

 いきなり、空間に浮かび上がった召喚の魔方陣に、
驚きのあまり腰を抜かしてしまう少女。

 呆然とする少女が見つめる中、魔方陣の輝きは増していきます。

 瞬間、激しい光を発する魔方陣。
 それと同時に、魔方陣の中から、少女と同じくらいの年頃の少年が現れました。

 その少年は、自分のことを『桃太郎』と名乗りました。

 ちょっと目つきは悪いが、優しい微笑みを見せる桃太郎に、
少女は一目惚れしてしまいました。

 そして、しばらく一緒に暮らすうちに、少年も少女を愛するようになり、
二人はめでたく夫婦になりました。

 素敵な旦那様とらぶらぶな毎日を送り、幸せ絶頂の少女。

 しかし、一つだけ困ったことがありました。

 それは、桃太郎が凄まじく大食らいで、
家計のエンゲル係数がやたらと高くなってしまったことです。

 このままでは、破産して、夫婦で飢え死にしてしまいます。

 そこで、桃太郎は一つの案を出しました。

 自分が隆山に住むという鬼を退治して、
その鬼達が貯め込んでいるという財宝を奪ってくる、と。

 言っている事はほとんど強盗そのものですが、
『鬼に人権は無い』と強引に納得し、少女はその案を採用する事にしました。

 少女は、あまりにも不幸な人生が続いた為に、
自分達の幸せの為なら、手段を選ばなくなってしまったようです。

 というわけで、鬼退治への旅立ちの日がやって来ました。

 しかし、旅立つのは桃太郎だけです。

 本来なら、魔法使いである少女も同行するべきなのでしょうが、
長い夫婦生活により、彼女のお腹には二人の愛の結晶が育まれている為、
体を大事にしなければいけません。

 ですから、少女はお見送りです。

 少女は旅立つ前に、桃太郎に二つのアイテムを渡しました。

 一つは、自分の純潔を奪ったことを恋人にばらすと、
例の女剣士を脅して手に入れたフィルスソード。

 もう一つは、キビダンゴ……ではなく、お弁当です。
 ちなみに、中身はたい焼きに肉まんにバニラアスクリームだったりします。

 それらを受け取り、少女のいってらっしゃいのキスを頬に受けて、
桃太郎は旅立ちました。

 いざっ!!
 鬼を退治する為に隆山へっ!!














 さて、旅立ってからしばらくして――

「……腹減った」

 小腹が空いてきた食欲魔人な桃太郎は、
お弁当をいきなり全部食べてしまいました。

 これでは、鬼退治には欠かせない三匹のお供を仲間に加える事ができません。

 この桃太郎は、一体、何を考えているのでしょう?

「それにしても、俺のお供になる奴って、一体誰なんだろうな?」

 いっぱいになった腹を擦りながら、桃太郎が呟きます。

「まあ、イヌはあかりさんで、サルが志保、キジは……コリンさんかユンナさんかな?
もしかしたら意表をついてカラスの往人さんだったりして」

 と、何やらシャレになってない事をのたまう桃太郎。

「いや、まてよ。あの弁当のラインナップからして、
あゆ、真琴、栞ちゃんって可能性もあるな」

 確かに、その可能性は否定できませんが、
そのお弁当を全部食べてしまっては、すでに意味がありません。

 こんな調子で、果たして、桃太郎はお供を仲間に出来るのでしょうか?

 と、ナレーションが少々不安に思っていと……、

「あ、あの……ちょっと良いですか?」

「……ん?」

 唐突に、フライパンを持ったペンギンさんが、桃太郎に話し掛けてきました。

 よく見ると、そのペンギンの他にも、クマさんバットを持った猫さんに、
竹ボウキを持ったフランス人形さんがいます。

「どうした? 何か用か?」

「はい……あの、今から鬼退治に行くんですよね?」

「ああ、そうだけど」

 桃太郎が頷くと、ペンギンさん達はパッと顔を輝かせます。

「でしたら、あなたの持っているお弁当をワタシ達にお譲りください」

「うにゅ♪ そしたら、あたし達、お供になってあげるよ♪」

「……もう全部食っちまったよ」





 桃太郎の言葉に驚愕するペンギンさん達。

 無理も無いでしょう。
 このままでは、自分達の出番が無くなってしまいます。

「そ、そんなっ! 全部食べちゃうなんてっ!!
それじゃあ、わたし達、まーくんと一緒に行けないじゃないですか!」

「ンなこと言われたって……だいたい、その『まーくん』って何だ?」

「桃太郎……略して『まーくん』です♪」

「……なるほど」

 どう略せばそうなるのでしょうか?
 桃太郎も何故か納得してますし……、

 まあ、本人達が気にしないのなら、別に良いでしょう。

「それにしても、困りましたね。
このままでは桃太郎様のお供になることができません」

 小首を傾げて悩むフランス人形さん。

 そんなにお供になりたいのなら、勝手についていけば良いのでしょうが、
お話の都合上、そういうわけにはいきません。

「……どうしましょうか?」

「うーむ……」

 桃太郎もヘンギンさんも、一生懸命考えています。

 と、その時、唐突に、猫さんがポンッと手を叩きました。
 どうやら、何か良い考えが浮かんだようです。

「うにゃっ! じゃあ、あたし達をお嫁さんにして♪
そしたら、鬼退治のお供になってあげる♪」


「――ぶっ!!」


 猫さんのあまりに突拍子の無さすがの桃太郎も思い切り戸惑います。

「まあ♪ それは良いですね。
じゃあ、そういう事にしちゃいましょう♪」

「お、お嫁さんだなんて……、
ワ、ワタシは皆様にお仕え出来ればそれで充分……」(ポッ☆)

 そんな桃太郎とは対照的に、猫さんの提案を聞いたペンギンさん達は、
それは名案、と嬉しそうにはしゃぎます。

「お、おいおい……俺にはもう嫁さんが……」

「大丈夫です♪ わたし達はペンギンに猫にフランス人形ですから、
法律的には何の問題もありません♪」

 確かに、法律的には問題無いかもしれませんが、
常識的というか、人間的な問題があります。

 もちろん、桃太郎もそこを指摘して……、

「……なるほど。じゃあ、問題無いな」

 ……納得してしまいました。(笑)

「それでは……まーくん、よろしくお願いしますね♪」

「よろしくね、まーくん♪」

「す、末永くよろしくお願いします」

「おう、よろしくな」

 ペコリと頭を下げるペンギンさん達の頭を、桃太郎は優しく撫でました。
 桃太郎に撫でられ、ペンギンさん達はとても嬉しそうです。

 ……まあ、経緯はともかく、
結果的には、これで三匹のお供が仲間に加わりました。

 あとは、一路、鬼が住む隆山に向かうだけです。

 ……でも、こんなメンバーで本当に大丈夫なのでしょうか?
















 ……とまあ、ナレーションの不安もなんのその。

 桃太郎達は、とうとう隆山に辿り着きました。

「ここが、鬼が住むと言われている隆山か」

「ああ、そうだ、誠……じゃなくて、桃太郎」

 隆山一帯を見下ろす小高い丘の上に立ち、長かった(?)を思い返しながら、
感慨深げに言う桃太郎に、隣りに立つ一人のお侍さんが頷きます。

 彼の名前は『耕一』――

 道中、桃太郎達が立ち寄った村で『柳川』という鬼に襲われていたところを、
桃太郎達に助けられ、そのお礼に隆山までの道案内をかって出た男です。

 ちなみに、その『柳川』という鬼はペンギンさんが瞬殺し、
今頃、簀巻きのまま海のもくずになっている事でしょう。

「……で、耕一さん? 鬼の大将は何処にいるんだ?」

「あそこだ」

 訊ねる桃太郎に、お侍さんは隆山でも一際大きな建物を指差しました。

「あそこが、鬼達の住処である『鶴来屋』だ。
あの巨城に鬼達の大将がいるっ!」

「……そうか」

 お侍さんの言葉に力強く頷き、桃太郎は腰のフィルスソードを抜き、天高く掲げました。
 ペンギンさん達もそれに習い、自分達の武器を高く掲げ、重ね合わせます。

「よしっ!! みんな、これが最後の闘いだっ!!
気合い入れていくぞ!!」

「「「「一人はみんなの為にっ!! みんなは一人の為にっ!!」」」」

 ……それは作品が違うのではないでしょうか?

 それに、フライパンやバットや竹ボウキでカッコつけられても、
全然、まったく、これっぽっちも様になりません。

 それでも、桃太郎達は、一応、気合いは入ったようです。
 四人の表情は真剣そのもの。

「いくぞっ!! 全速先進っ!! とっかぁぁぁぁぁぁーーーーーーん!!」

 そして、鬨の声を上げて、鶴来屋へと走っていきました。
 道案内の耕一も、駆けて行く四人を慌てて追い駆けます。

 鶴来屋の入り口の自動ドアをぶち破り……、
 受付の従業員を脅して、大将の居場所を聞き出し……、
 職員専用のエレベーターで最上階へと上り……、

 そして、ついに……、

 桃太郎達は『会長室』と書かれた扉の前に到着しました。
 この向こうに、鬼の大将がいるのです。

「……ゴクッ」

 いよいよ決戦の時が来たと、桃太郎達は息を呑みます。

 皆が互いの顔を見合わせ、頷き合いました。
 それを合図に、意を決した桃太郎が、扉を蹴り空けます。

 そして、桃太郎達は一気に部屋へとなだれ込み……、
















「「「「「ごめんなさいっ!!
参りましたっ!!」」」」」

















 ……鬼の大将の姿を見た瞬間、即行で土下座して謝っていました。(笑)

 特に桃太郎とお侍さんは、頭をグリグリと床に擦り付け、情けない事この上ない。

 しかし、それも無理もないことなのです。
 何故なら、鬼の大将の正体は『千鶴』さんだったのですから。

 しかも、その手には、出来たてホカホカといった感じで、
ユラユラと妖しい湯気を立てる
お鍋がっ!!

 そんな、ある意味最終兵器な物体を持っている彼女に勝てるわけがありません。
 例え、桃太郎達がどんなに強くても、絶対に不可能なのです。

「な、何なんですか……あなた達は?」

 唐突に現れ、いきなり土下座する桃太郎達に、
千鶴さんはちょっとうろたえます。

「そ、それは……」

 千鶴さんの質問に、言葉を詰まらせる桃太郎。

 ――無理もありません。

 自分の生活費の為に、鬼の財産を奪いに来た、なんて理由を、
正直に彼女に話せるわけかなのですから……、

「……俺もここまでか」

 と、死を覚悟する桃太郎。
 だが、その時……、

「ちょっと待ってくれっ!! 桃太郎達がここに来たのには深い訳が……」

「――え?」

 桃太郎を助けようと、お侍さんがバッと顔を上げました。
 お侍さんと千鶴さんの目がバッチリと合います。

 そして、その次の瞬間……、








「……………………まあ♪」(はぁと)








 ……千鶴さんの頬が朱に染まりました。
















 その後――

 話はトントン拍子に進んでしまいました。

 何故なら、千鶴さんがお侍さんにすっかり惚れ込んでまったのです。

 そろそろ、結婚適齢期を過ぎようとしていた千鶴さん。
 そんな時、目の前に現れた素敵な青年……即ち、お侍さん。

 このチャンスを逃す手はありません。

 そこで、お侍さんを自分の夫にしようと考えた千鶴さんは、
桃太郎達の事情を聞き、ある交換条件を持ち出しました。

 それは、桃太郎達の生活を鶴来屋で援助する代わりに、
お侍さんを自分に差し出せ、という内容でした。

 その交換条件に対し、桃太郎は……即答しました。

「――わかった」

「ちょっと待てっ!!」

「では、交渉成立ですね♪」

「俺の意見はっ?! 俺の意志はっ!?」

「それでは、今後の皆さんの生活は、この鶴来屋が保障しましょう♪」

「はい。よろしくお願いします」

「お任せください♪」

「じゃあ、耕一さん……そういうわけだから、お幸せに」

「ちょっと待たんかっ!! この外道ぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

「さあさあ、耕一さん……じゃなくて、あ・な・た♪
あっちで一緒にご飯を食べましょう♪
私の手作りですから、いっぱい食べてくださいね♪」


「いやだぁぁぁーーーっ!!」
























 ――こうして、桃太郎の冒険は幕を閉じました。








 その後、家に帰った桃太郎は、
妻である少女とペンギンさんと猫さんとフランス人形さんの四人と一緒に、
何不自由なく、末永く、幸せにしましたとさ。

 ――めでたしめでたし♪
























「全然めでたくねぇーっ!!」








 ――ちゃんちゃん♪








<おわり>
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