「ある晴れ〜た日のこと〜♪
魔法以上〜の〜、愉快〜が〜♪」


「限り無く降り注ぐ、不可能じゃないわ♪」

「明日、また会う時、笑いながら〜ハミング♪
嬉しさを〜集めよ〜う、簡単なんだよ、こんなの♪」


「追い駆けてね〜、捕まえてみて〜♪」








「大きな夢――♪」

「夢――♪」

「――好きでしょ?」

「何で、また、いきなり……、
そんな奇天烈な真似をしてるんだ?」











第234話 「嬉しいワガママ」










 ある日のこと――

 買い物から帰った俺は、
制服姿の、さくら達に出迎えられた。

 いや、まあ、何と言うか……、
 それについては、別に問題は無い。

 さくら達が、制服のままで、過ごしているのは、いつもの事だし……、

 エリアやフランも含め、
そんな彼女達に出迎えられるのも、すでに日常だ。

 ――ただ、今日は、一つ違っていた。

 家に帰った俺が、玄関を開けた途端、
さくら達は、三人並んで、奇妙なダンスを踊り出したのだ。

 まあ、その踊りの元ネタは分かるのだが……、

 一体、何のつもりで……
 こんな脈絡も無い真似をしたのだろう?

 尤も、そん行為すらも、
いつもの事と言ってしまえば、それまでなのだが……、

「一体、何の騒ぎだ……、
まったく、エリアまで一緒になって……?」

 俺は、上着を脱ぎながら、さっきの踊りの件を、呆れ口調で訊ねる。

 すると、エリアが――
 照れ隠しに苦笑を浮かべ――

「す、すみません……楽しくて、つい……」

 ――と、のたもうた。

 なるほどね〜……、
 “楽しくて”“つい”やっちゃったんだ?

 俺に隠れて、こっそりと――
 しなくても良い、踊りの練習をして――

 ――帰宅した俺に、その成果を披露しちゃったわけだ。

「まあ、何と言うか……、
一年で、随分と変わったなぁ、エリア」

 少しからかってやろうと、
俺は、エリアの肩に、ポンッと手を置くと、感慨深くに呟く。

 だが、彼女は、俺よりも、さらに上手であった。

「それは、きっと……、
誠さんの色に、染められちゃったんですよ」(ポッ☆)

「うぐ……っ!」

 思わぬ逆襲に、俺は、言葉を詰まらせる。

 そんな俺の様子を見て、エリアは、
満足気に微笑むと、スカートを翻し、軽やかに回って見せた。

「誠さん……どうですか?」

「どう……って?」

「もう、まーくんったら……、
今のあたし達って、いつもと、何か違うでしょ?」

「よ〜く見てくださいね」

 エリアの言葉の真意が掴めず、俺は首を傾げる。

 それを見て、豪を煮やしたのか……、

 さくらとあかねもまた、
エリアと同様に、俺の前で、クルクルと舞って見せた。

「いつもと……違う?」

 言われるまま、俺は、さくら達の姿を凝視する。

 ――何が違う、って言うんだ?

 しかし、どんなに観察してみても……、
 彼女達の言う『違い』というヤツは、サッパリ分からない。

「……まだ、分かりませんか?」

「ほらほら、まーくん♪」

 頭を捻る俺に、さくら達は、まるで、
誇示するかのように、制服のスカートの端を、軽く摘んで見せる。

 ――学校の制服?
 ――それが、何なんだ?

 制服なんて、いつも着てるじゃないか?

 確かに、エリアが、家で、
制服を着ているのは、ちょっと珍しいが……、

 だからと言って、別に、今回が初めてという訳じゃない。

 在校生じゃないのに……、
 制服姿で、堂々と、学校内を歩いてたりするし……、

「う、う〜む……」

 どうしても、彼女達の言う『違い』が分からず、俺は頭を抱える。

 それを見て、諦めがついたのか……、
 さくら達は、溜息を吐くと、俺に答えを教えてくれた。

「ほら、よく見てください……、
制服のデザインが、変わってるんですよ」

「――おおっ!」

 さくらの言葉を聞き、俺は、ようやく納得する。

 確かに、さくらの言う通り、
今、彼女達が着ている制服は、デザインが変わっていた。

 とは言っても、その違いは、ほんの少しで……、

 従来の制服をベースとして、上着の裾に、
桃色のラインがある、って程の、僅かな違いなのだが……、

 そういえば、以前、HRで、ユリカ先生が、
『来年から、制服のデザインが変わる』って、言ってたっけ。

 新しくなるのは、女子の制服だけ、って事だったから、すっかり忘れてたよ。

 なるほど、なるほど……、

 その新制服を見せたくて――
 さくら達は、こんな奇天烈な真似を――

「――って、ちょっと待て」

「はい……?」

 ある矛盾に気付き――

 俺は、首を傾げつつ、改めて、
新制服を着た、さくら達の姿を凝視する。

 新制服になるのは、来年からなのに……、

 どうして、俺の目の前に……、
 その新制服が、三着も存在しているんだ?

「それはですね……ふふふっ♪」

「実はね〜……♪」

 疑問を抱く俺に、さくら達は、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 そして、もう一度、その場で、
クルッと回って、軽くポーズを取って見せると――



「なんと、新制服のモデル候補に、
わたし達が、選ばれちゃったんですよ♪」



「……なんですと?」

 一瞬、言葉を失ったが……、

 その意味を理解した俺は、
驚きのあまり、間の抜けた声を上げてしまった。

「え、え〜っと、モデルって事は……、
学校のパンフとかに、写真が載ったりするのか?」

「うん、そうだよ♪」

 確認するように訊ねる俺に、あかねが頷く。

 な、なるほど……、
 そういう事なら、納得がいくな。

 制服のデザイン、新入生が、
学校を選ぶ要素の一つ、と言っても過言ではない。

 ――いわば、制服は、その学校の顔だ。

 ならば、そのモデルには、
当然、制服の似合う、見栄えの良い者が選ばれる。

 学校案内のパンフレットに、写真を載せるとなれば、尚更だ。

 となると、さくら達は、
モデルとしては、まさに逸材と言える。

 美少女だし――
 成績も優秀だし――

 つまり、モデルに選ばれたから、
誰よりも早く、新制服が手に入った、という事か。

「しかし、モデルとは……凄いな」

 事実を理解し、俺は、やや複雑な心境で、軽く溜息を吐く。

 制服のモデルに選ばれるなんて――
 さくら達の恋人としては、ちょっと鼻が高いけど――

 でも、そうなると――

「琴音さんや葵さんも、
モデルの候補に上がっていたらしいですよ」

「ま、まあ、そうだろうな……」

 エリアの言葉に、我に返った俺は、慌てて頷く。

 さくら達が候補に選ばれたのなら、
琴音ちゃんや葵ちゃんだって、候補に上がらない訳が無い。

 まあ、あの二人は、同好会の方が忙しいから、辞退するんだろうけど……、

 ちなみに、忙しい、という点では、あかりさん達も同様だ。

 三年生は、受験があるから、
制服のモデルなんてやってる暇無いからな。

 だから、モデル候補は、
一年生と二年生から選抜されたのだろう。

「……じゃあ、マルチは?」

「メイドロボは、対象外だそうです」

「まあ、仕方ないか……、
で、他に候補者はいたりするのか?」

「え〜っと、確か……」

 再度、訊ねる俺に、さくら達は小首を傾げ、記憶を手繰る。

 だが、何を思ったのか……、
 急に不機嫌な表情で、俺を睨んできた。



「……ねえ、まーくん?」(怒)

「どうして、先程から――」(怒)

「そんな事を訊くのかな? かな?」(怒)



「ま、待てっ! 落ち着け!
別に、変な意味で訊いたわけじゃないっ!」(滝汗)

 俺の言い回しが悪かったせいか……、

 どうやら、さくら達に、
妙な誤解をさせてしまったようだ。

 ――しつこく、さくら達以外の、モデル候補を訊ねる。

 それって、つまり、さくら達よりも、
相応しい子がいる、って言ってるようなものだからな。

「か、勘違いするなよっ!
決して“そういう意味”で言ったわけじゃない!!」

 さくら達の誤解を察した俺は、慌てて弁明する。

 たが、納得し切れないのか……、
 彼女達の機嫌は、なかなか直らない。

「本当かな? かな?」

「嘘じゃないです。本当です。
だから、そんな、ひぐらし風味に睨まないでください」

 ――今にも『嘘だっ!』とか叫ばれそうで、凄く怖いんです。

 俺は、土下座する勢いで、
何度も何度も、さくら達に弁解を繰り返す。

 その甲斐あってか……、
 何とか、弁明の余地は与えられたのだが……、

「じゃあ、教えてくれるよね?
何で、他のモデル候補の聞いたりしたの?」

「どうしても……言わなきゃダメ?」

「――ダメです」

 今度は、納得のいく説明を要求してきた。

 正直なところ……、
 それを話すのは、かなり恥ずかしい。

 とはいえ――
 もう、この状況では――

 理由を話さない訳にもいかないし――

「え〜っと、だな……、
三人とも、新制服のモデルになったんだよな?」

「……そうですけど?」

 照れ隠しに、そっぽを向きながら……、
 俺は、ワザとぶっきらぼうな口調で、語り始める。

「モデルって事は、写真を撮るんだよな?」

「うにゃ、もちろんだよ」

「その、撮った写真って……、
学校のパンフとかに掲載されるんだよな?」

「ええ……それが何か?」








「それって、つまり……、
色んな奴らに、お前らの写真が……」

「「「あっ……」」」








「…………」(真っ赤)

 あまりの恥ずかしさに、
俺は、最後まで語ることが出来なかった。

 でも、俺の想いは、充分に伝わった事だろう。

 ――ああ、そうだよっ!
 ――そういう事なんだよっ!

 さくら達がモデルに選ばれたのは嬉しい。
 彼女達の恋人として、鼻が高い。

 ……でも、面白くなかった。

 彼女達の姿を写した写真が……、
 不特定多数の人の手に渡るのが、嫌だった。

 ようするに――
 これは、俺の我侭――

 ――つまらない、俺の独占欲なのだ。

「まーくん……」

「誠さん……」

「……何だよ、笑いたきゃ笑えよ」

 呆然と、俺を見つめる彼女達……、
 その視線に耐え兼ね、俺は、憮然とした表情のまま、目を逸らす。

 すると、さくら達は……、
 顔を見合わせ、クスッと微笑むと……、



「じゃあ、明日にでも、
モデルの仕事は、お断りしてきますね」



「……えっ?」

 予想外の言葉に、俺は、さくら達に向き直る。

 そこには、とても嬉しそうな……、
 でも、ちょっと照れたような彼女達の笑顔が……、

「良い……のか?」

 俺の勝手な我侭で……、
 大事なことを、簡単に決めて良いのか?

 そう訊ねると、三人は、また、顔を見合わせ、頷き合う。

「だって……ねえ?」

「大好きな誠さんに、
そんな嬉しい事を言われてしまったら……」

「……断らない訳には、いかないじゃないですか♪」

 一寸の迷いも無く……、
 さくら達は、ハッキリと言い切る。

 そして、俺に身を寄せると……、



「だからね、まーくん――」

「安心してくださいね――」

「私達の全ては――」
















(誠さん)(だ)♪」
















 えっと、その……、

 こういう時は……、
 “ありがとう”って言えば良いのかな?(照れ)








<おわり>
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――おまけ その1――


「でも、そうなると……、
これから、先生方は大変ですね」

「残った候補者が、生徒会長だけ、だもんね」

「最後の候補は、生徒会長なのか?
生徒の代表なんだし、まさに、適任じゃないか」

「だって、生徒会長といえば――」

「朝霧 麻亜子さん……、
あの、まーりゃんさん、なんですよ?」

「……すまん、どんな子なのか、よく知らない」





「自称、永遠の十四歳――」

「例えるなら、みことさんの外見に、
理奈さんと、ルミラさんの性格を、足して割ったような――

「――先生曰く、“成績以外は、藤井みことの再来”」

「OK、わかった……
全力を以って、接触は回避する」








――おまけ その2――


「あのさ、そういえば……、
モデルに選ばれたは
“三人”なんだよな?」

「うん、そうだよ♪」

「わたしと、あかねちゃんと、エリアさんの三人です」

「なんで、エリアまで……?
言い方は悪いが、エリアは部外者だろう?」

「うふふ……それは秘密です♪」

「……?」