「――で、どっちが良いんだ?」

「にゃにゃ〜♪」

「いや、両方は勘弁してくれ。
さすがに、今月は、小遣いがピンチなんだ」

「にゃ〜……」

「甲斐性無し、って……、
これでも、頑張って、遣り繰りしてるのに……」

「にゃにゃっ、にゃんにゃん!」

「ああ、もう、分かったよ!
ペットフードって、何で、こんなに高いんだ!」








「んに? まこ兄?」

「――何してるの?」











第231話 「きゃっとふーど」










 ある日のこと――

 俺は、窮地に立たされていた。








 場所は、近所のコンビニ――

 ミレイユを頭の上に乗せ、
彼女のエサを、買いに来たのだが――



「改めて見ると……、
キャットフードって、色々とあるよな」

「――にゃ〜ん♪」



 店に並ぶ、数々のキャットフード……、

 その豊富な商品を前に、
ミレイユの好奇心が刺激されてしまったらしく……、

 目を輝かせる彼女に――
 “どれが欲しい”と訊ねたら――

 ――“全部、欲しい”と言い出したのだ。

「あ、あのな……」(汗)

 俺の頭を、前足で、ペシペシと叩き、
おねだりしてくるミレイユに、俺は、困り果ててしまう。

 ――ミレイユの気持ちは分かる

 これだけ、沢山の種類があるのだ。
 “全部、食べてみたい”という気持ちは、痛い程、良く分かる。

 とは言え、流石に、全部は無理だ。

 いくら、我が愛猫の頼みとはいえ、
そんな我侭を許すほど、俺は、猫バカではない。

 だから、心を鬼にして――
 買うのは一つだけ、と厳しく言ったのだが――

「どうしても、選べないのか?」

「にゃ〜……」

 好奇心を、グッと堪え……、
 ミレイユは、何とか、欲しい物を、二つに絞込んだ。

 だが、それ以上は、選び切れないようで……、

「にゃ、にゃ、にゃにゃ?」

 新製品の二つの猫缶――

 目の前に置かれたそれを、
キョロキョロと、何度も見比べている。

 何度も、何度も――
 キョロキョロ、キョロキョロ――

「んにゃ〜……」

「…………」

 む、むう〜……、
 可愛いじゃないか、畜生……、

 迷っているミレイユの姿を見て、
その愛らしさに、俺は、内心で悶えてしまう。

 う、う〜む、どうしよう……、
 こんなに悩んでるんだし、二つとも買ってあげようか?

 ――いや、それはダメだ!

 俺だって、腹が減ってるんだっ!
 焼き立てパンのコーナーにある、メロンパンが、俺を呼んでいるんだっ!

 でも、それを我慢すれば、
ミレイユの喜ぶ顔が見られるんだよな〜。

「う、う〜む……」

「んにゃにゃ〜……」

 メロンパンか、猫缶か……、
 俺は、どちらを買うべきか、苦悩する。

 そんな俺の隣でも、ミレイユが、未だに悩み続けている。

 傍から見れば、かなり滑稽な光景だろう。

 何せ、飼い主と、飼い猫が……、
 一緒になって、ウンウンと唸っているのだから……、

 と、そこへ――
 背後から、聞き慣れた声が――



「んに? まこ兄?」

「――何してるの?」



 後ろを振り向けば――

 そこには、双子姉妹……、
 くるみちゃんとなるみちゃんの姿があった。

「二人揃って、どうしたんだ?」

「それは、ボク達のセリフだよ〜。
まこ兄こそ、こんな所で、しゃがみ込んで、どうしたの?

「……もしかして、お腹痛いの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 体の具合を気遣って……、
 心配そうに、くるみちゃんが、俺の顔を覗き込む。

 そんな彼女に苦笑しつつ、立ち上がると、俺は、改めて、二人に向き直った。

 どうやら、いつもの公園で遊んだ後……、

 その帰り道の途中で……、
 コンビニの店内にいる、俺を見つけたらしい。

 二人は、大きなボールを、両手に抱えたまま、俺を見上げ、首を傾げている。

「ええと、実はさ……」

 そんな彼女達に、俺は、
ミレイユを示し、事情を説明する事にした。

 すると、くるみちゃんが――
 エッヘンと、得意気に胸を張り――

「あのね〜、まこ兄……、
ペットのエサは、コンビニで買っちゃダメなんだよ」

「……そ、そうなのか?」

「だって、コンビニだと、値段が高いでしょ?
だから、スーパーとかで安売りしてる時に、まとめて買うんだよ」

「そんなこと、良く知ってるな?」

「えと……和由ちゃんが教えてくれたの」

「和由ちゃん……?」

 双子の言葉に、俺は納得する。

 ああ、なるほど……
 猫を飼っている、和由ちゃんの受け売りなら頷ける。

 言われてみれば、確かに、彼女達の言う通り、
割高なコンビニで買うよりも、スーパーとかの方が安上がりだ。

 流石は、俺よりも、猫の飼い主暦が長い和由ちゃんである。

 ってゆ〜か、俺って奴は……、
 それくらい、言われる前に、気付けっての。

 ちょっと考えれば、分かる事だったろうに……、

「……どうしたの?」

「い、いや……何でもない」

 遥かに年下の幼女に教えられ……、
 そんな自分の不甲斐なさに、俺は、ちょっと落ち込んでしまう。

 だが、すぐに気を取り直すと、
俺は、ミレイユを抱き上げ、コンビニを出る事にした。

 もちろん、スーパーへと出直し、キャットフードを買う為である。

「ありがとう、二人とも……、
早速、スーパーの方に行ってみるよ」

 双子姉妹の頭を軽く撫で、俺は、店の出口へと向かう。

 すると、双子姉妹は――
 俺の服の袖を、クイクイッと引っ張り――

「じゃあ、ボク達が教えて上げるね♪」

「一緒に、行ってあげる」

 ――すっかり、先生気分らしい。

 売り場を案内する気満々で……、
 俺の腕を引っ張り、二人は先立って歩き出す。

 言うまでも無いが、スーパーに、
買い物に行くくらい、俺一人で充分である。

 とは言え、二人のやる気に水を注すのも気が引ける。

 だから、仕方なく――
 俺は、僅かに肩を竦めると――



「それじゃあ、お願い出来るかな?」

「「――うん♪」」



 二人の好意を――

 素直に、受け取る事にした。








 ……。

 …………。

 ………………。








「――ありがとう、今日は助かったよ」

「んに〜、どういたしまして♪」

「困った事があったら……、
いつでも、私達に、言って欲しいの」



 スーパーでの買い物を終え――

 俺は、双子姉妹と手を繋ぎ、
雑談を交わしながら、のんびりと商店街を歩く。

 俺達の先頭を歩くのはミレイユだ。

 新製品の二つの猫缶……、
 それを両方とも買う事が出来て、ご満悦らしい。

 首に揺れる鈴飾りを、チリンと鳴らし、尻尾を振りながら、機嫌良く歩いている。

 そんな上機嫌のミレイユの、
後ろを歩きつつ、俺は、双子姉妹にお礼を言う。

 買い物の途中や、歩く道すがら、
二人は、俺に、猫を飼うのに役立つ知識を、色々と教えてくれたのだ。

 もちろん、ほとんどが、和由ちゃんからの受け売りなのだろう。

 でも、大切なのは、その知識を、
“何処で得たか”ではなく“何処で使うか”である。

 だから、二人の心遣いは……、
 俺にとっては、本当にありがたりモノだった。

「んにに〜♪」

「……嬉しいの」

 二人と手を繋いでいる為、俺は、荷物が持てない。

 そんな俺の代わりに、
二人が、荷物を持ってくれているのだが……、

 俺の役に立てた事が嬉しいのか、
双子は、こちらを見上げ、照れ笑いを浮かべている。

 嬉しさのあまり、荷物の重さすら、苦にならない様子だ。

「分かってるつもりではいたけど……、
猫を飼う、ってのは、思ってた以上に大変なんだな」

 双子の話を聞きながら、俺は、改めて、思い知る。

 動物を飼う、ということ――
 一つの生命を背負う、ということ――

 その責任の重さを――

「うん、そうだね……」

「和由ちゃんって、凄いよね」

 俺の想いに共感したのだろう。
 先を歩くミレイユを見つめ、双子は頷く。

「もし、分からない事があったら、和由ちゃんに訊くと良いよ」

「瑞佳お姉ちゃんでも良いよね」

「――みずか?」

 聞き慣れない名前に、俺は首を傾げる。

 だが、少し記憶を手繰り、それが、
以前、知り合った『長森 瑞佳』さんである事を思い出した。

「ふむ、なるほど……」

 8匹もの猫を飼う瑞佳さん――

 確かに、ベテランの彼女なら、
様々なアドバイスをしてくれるに違いない。

 ――今度、ミレイユを連れて、行ってみようかな?
 ――家は何処にあったっけ?
 ――手土産くらいは、持っていくべきだよな?

 そんな事を考えつつ、俺は、
頭の中で、長森宅に行くプランを立て始める。

 と、そこへ――
 不意に、くるみちゃんが――





「でも、まこ兄なら……、
猫さんに、直接、聞けば良いんじゃない?」

「――はい?」

「さっきも、そんな感じだったし……、
まこ兄って、猫さんと、お話が出来るんでしょ?

「…………」
















 ――ちょっと待て。

 もしかして、俺って……、
 そういうふうに、認識されてるのか?
















「おい、ミレイユ……」

 ――ピタッ、と立ち止まる。

 そして、くるみちゃんに、
指摘された事実を確認する為、ミレイユを呼び止める。

「みゃ……?」

 俺に呼ばれ、ミレイユが振り向く。

 もう、これだけでも、充分に、
意思疎通が出来ている、とも言えるのだが……、

 これくらいなら、単に“ミレイユが賢いだけ”で説明できる。

 というわけで――
 俺は、さらに、確証を得る為に――

 ――ミレイユに、無理難題を吹っ掛けてみた。








「ミレイユ……お手」

「――にゃんっ♪」

「おかわり」

「にゃにゃんっ♪」

     ・
     ・
     ・








「三回まわって、にゃん」

「……(グルグルグル)……にゃん!」

「――バキュ〜ン」

「うみゃ〜ん……」(ぱたっ)

     ・
     ・
     ・








「ラジオ体操、第一〜」

「にゃ〜んにゃ〜にゃ……♪」

「だ〜れが、こ〜ろし〜た――」

「にゃっにゃっ、にゃ〜にゃにゃ♪」

     ・
     ・
     ・









「わ〜っ、凄い凄〜いっ!!
この前、駅前にいた旅芸人さんみた〜い♪」(パチパチ)

「お兄ちゃん、凄いの……♪」(ぱちぱち)

「は、ははは……」(乾笑)
















 
――ちゃららら、ちゃっちゃっちゃ〜ん♪


 藤井 誠は、レベルが上がりました!

 猫寄せ体質がLVアップ!

 猫と意思疎通が出来るようになりました!
 藤井 誠とミレイユは、大道芸を覚えました!
















「んに、まこ兄……?」

「どうして、泣いてるの?
お兄ちゃん、やっぱり、お腹痛いの?」

「いや、そうじゃなくてね……」(泣)
















 ……また、上がっちゃってる。

 いつの間にか……、
 また、レベルアップしちゃってる。
















 お〜い、往人さ〜ん……、

 いつか、また出会えたら……、
 俺と一緒に、大道芸やりませんか〜?(壊)








<おわり>
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