「知らないことが〜♪
おいで、おい〜でし〜てる〜♪」

「出掛け〜よう〜、口笛吹いてさ〜♪」

「ビックリしようよ、あららのら♪」

「比べて納得……うん、そうか♪」

「オモシロ地図を〜広げ〜よう〜♪」

「探検、発見――♪」








「「――ボ・ク・の・ま・ち〜♪」」

「あのさ、二人とも……、
どうして、そんな古い歌を知ってるんだ?」











第230話 「まっぴんぐ」










「――あっ、お兄ちゃんだ♪」

「わ〜い、まこ兄〜♪
ボク達と一緒に、宿題やろ〜♪」

「はあ……?」








 ある日の午後――

 偶然、双子に出会った俺は……、
 なし崩し的に、二人の宿題を手伝う事になった。

 宿題の内容は――
 自分が住む街の地図を作ること――

 しかも、規制の地図を使う事無く……、

 実際に、街を見て回り……、
 自分なりの地図を作らないとダメらしい。

「昔、そういう番組があったような……?」

「――んに? なにが?」

「いや、何でも無い……、
それにしても、随分と変わった宿題だな」

「そうかな? 楽しいよ?」

 なんて会話を交わしつつ……、
 俺達三人は、スケッチブックを片手に、街を歩く。

 五月雨堂、天川食堂、河合書店――

 どうやら、撫子商店街を、
メインに据えて、地図を作るつもりのようだ。

 次々と店を見て回り……、

 時には、一緒に遊び――
 時には、買い食いなどしながら――

 ――俺と双子姉妹は、商店街を、隅から隅まで見て回る。

「次は、何処に行くんだ?」

「えっとね、和由ちゃんのお家〜!」

 で、次の目的地――
 焼き立てパン屋『こるね』――

 以前、迷い猫探しの時に、
知り合った、和由ちゃんの家へと向かう。

 訊けば、双子姉妹と和由ちゃんは、クラスメートで……、

 幼稚園に通っている頃から、
とても仲が良く、いつも一緒に遊んでいるらしい。

 二人と仲が良い、って事は……、
 母さんとも、友達だったりするかもしれないな。

 鹿島姉妹、和由ちゃん、母さん――

 いつもの公園で、四人揃って、
仲良く遊ぶ姿を想像し、その違和感の無さに、俺は、思わず苦笑する。

 まあ、保護者同伴、という意味でなら、
母さんがいる事に、違和感が無いのも、当然なのだが……、

 ……母さんの場合、そういう風には見えないからな。

 と、そんな事を考えつつ――

 コンビニで買った、紙パックの、
ジュースを、三人で飲みながら、歩いていると――



「うにゃっ、まーく〜んっ!」

「まーくん、お散歩ですか?」

「もう、誠さんったら……、
また、こんな時間に、買い食いなんて……」

「誠様、すぐに、お夕飯ですよ」

「――みゃ〜♪」



 買い物帰りだろうか――

 両手に、スーパーの袋を持った、
さくら達が、こちらへと、小走りで、駆けてきた。

「みゃみゃ〜ん♪」

 持ち前の俊敏さを活かし、
ミレイユが、誰よりも早く、俺の元へとやって来る。

 そして、俺の体を攀じ登ると……、
 いつものように、俺の頭に、パイルダーオンした。

「まーくん、一緒に……?」

 ミレイユを追って、さくら達も、
当たり前のように、俺の傍へと歩み寄り――





「――んに〜っ!」

「んみぃ〜……」





 そんな彼女達の前に――

 精一杯に、両腕を広げて……、
 くるみちゃんと、なるみちゃんが立ち塞がった。

「お、おいおい……」

「あらら……」

 ――多分、威嚇しているのだろう。

 二人は、懸命に、顔を顰めて、
さくら達を、上目遣いに、睨み付けている。

 と言っても、二人とも、基本的に、顔が優しいので……、

 まるで、迫力は無く……、
 逆に、可愛らしく思えてしまうのだが……、

「……二人とも、どうしたんだ?」

 唐突な、双子の行為に、少し戸惑いつつ、俺は訊ねる。

 だが、それに答えようとはせず、
双子姉妹は、さくら達から、目を離さない。

「え、え〜っと……」

 そんな二人の態度に、
俺以上に、戸惑っているのは、さくら達である。

 なにせ、さくら達には、双子姉妹に、敵視される理由が無いし……、

 多少、面識がある、とは言え……、
 対立関係が出来る程に、交流があったわけでも無いのだ。

「んにに〜っ!」

「んみみぃ〜……」

 まるで、俺を守るように――

 なおも、双子姉妹は、
さくら達を、俺に近付けまいと、威嚇を続ける。

 なるみちゃんは、瞳に涙を浮かべ……、

 くるみちゃんは、今にも、
さくら達に、噛み付いて行きそうな雰囲気だ。

「…………」

 そんな二人の様子に、俺は、言葉を失ってしまう。

 くるみちゃんだけ、ならともかく――

 あの、引っ込み思案な、
なるみちゃんまで、こんな真似をするなんて――

「ふふっ……そういう事ですか」

 正直、情けない話だが……、
 不穏な空気に、俺は、狼狽えてしまっていた。

 だが、そんな俺とは逆に、
さくら達は、優しい笑みを浮かべると――

「まーくん、わたし達は、先に帰りますね」

「あまり、遅くなっちゃダメだよ」

「にゃにゃ〜ん」

 と、そう言い残して……、
 商店街の向こうへと、立ち去ってしまった。

「何なんだ、一体……?」

 ミレイユまでもが、さくら達の後を追って、駆けて行く。

 訳が分からぬまま、俺は、
さくら達の背中を、呆然と見送る事しか出来ない。

 ふと、双子に視線を戻せば――

 なるみちゃんは、俺の服の袖を、
ギュッと掴んだまま、安堵の表情を浮かべ……、

 頬を膨らませた、くるみちゃんは、
俺の足にしがみ付き、上目遣いで、こちらを見上げている。

「……ああ、そうか」

 機嫌が悪そうな、二人の……、
 特に、くるみちゃんの様子を見て、俺は、何となく、理解した。

 二人が見せた行動――
 それが、何を意味していたのかを――



 ようするに――

 ヤキモチを妬いていたのだ。



「……さあ、行こうか」

 俺を見上げる双子姉妹――

 幼い彼女達の気持ちを、
擽ったく思いながらも、俺は、嬉しくなってしまった。

 二人の頭を、少し乱暴に撫でると、俺は、先立って歩き出す。

「まこ兄……?」

「……いい、の?」

 それが意外だったのか……、
 双子は、不思議そうに首を傾げ、その場に立ち尽くしている。

 呆然としている二人に、俺は、手を差し伸べる。

 すると、彼女達は、
嬉しそうに、俺に抱き付いてきた。

「ほら、まだ宿題は、終ってないだろ?」

「「――うんっ!」」

 そんな二人を、両腕にぶら下げたまま――

 俺は、次の目的地である、
焼き立てパン屋『こるね』へと、向かうのだった。

     ・
     ・
     ・








 それから――

 俺と、双子姉妹は……、
 隅から隅まで、商店街を歩き回った。








 俺が知る街の話を――
 俺が知らない街の話を――

 双子が知る街の話を――
 双子が知らない街の話を――

 お互いに、教え、教えられながら――
















「――よしっ、出来たぞ!」

「……私も描けたの」

「ボクも完成〜っ!!」



 そして、夕方になり――

 いつもの児童公園で、
俺達は、商店街の地図を描き終えていた。

「ねえねえ、まこ兄の見せて〜」

 俺達は、三人揃って、ベンチに腰掛け、
早速、お互いの作品の出来映えを、見せ合う事にする。

「うわ〜……お兄ちゃん、上手〜」

「ま、まあな……」

 双子に褒められ、俺は苦笑を浮かべる。

 幼女二人の作品に比べたら、
俺の描いた地図が、上手いのは当たり前だからだ。

 だいたい、俺から見れば、二人の作品の方が、凄いと思う。

 俺も、昔、放送されていた、
某教育番組を意識して、描いてみたのだが……、

 それでも、俺の作品は、あまりに、
普通過ぎて、双子の作品にあるような面白味が、まるで無い。

 それに比べて、二人の作品には、個性がある。

 例えば――
 なるみちゃんの作品は――



 ――和由ちゃんのお家
 ――スフィーちゃんのお家
 ――リーナちゃんのお家
 ――ラピスちゃんのお家

     ・
     ・
     ・



 と、商店街の地図には、
在りがちな、店の名前の羅列ではなく……、

 全て、住んでいる人の名前……、
 おそらく、友達の名前で構成されている。

 しかも、各名前の横には、似顔絵のイラストまで入った凝り様だ。

 もちろん、子供特有の稚拙な絵だが、
全ての似顔絵が、明るく、優しい笑顔を浮かべている。

 ――なるみちゃんの人柄が良く表れた作品だ。

「ほらほら、ここにね……、
ちゃんと、お兄ちゃんも描いたんだよ♪」

「おおっ、ホントだっ!」

 描かれた地図の隅っこ――

 なるみちゃんが示す場所には、
双子姉妹と手を繋いで歩く、俺の姿も描かれている。

 多分、商店街には、俺の家が無いから、
こういうカタチで、俺を、絵の中に加えてくれたのだろう。

 ……正直なところ、かなり嬉しい。

 嬉しかったので、お礼に、
なるみちゃんの頭を撫でてあげる事にする。

「んみぃ〜……♪」

 頬に両手を当てて、ウットリするなるみちゃん。

 そんな彼女の反応に、
気を良くした俺は、さらに、彼女の頭を撫で続ける。

「ううう〜……」

 すると、何を思ったのか……、

 その様子を、隣で見ていた、
くるみちゃんが、突然、俺の膝の上に座り込んできた。

 俺の足を跨いで――
 まるで、馬乗りするかのように――

「く、くるみちゃん……?」

「んに〜……」

 俺と向かい合うように座り……、
 くるみちゃんは、挑み掛かるような目で、俺を見上げている。

 そして、小さな胸に抱えた、
スケッチブックを、俺の目の前に突き出すと……、

「まこ兄っ! ボクのも見てっ!!」

「あ、ああ……もちろん」

 くるみちゃんに言われるまでも無く……、

 俺は、彼女から、スケッチブックを、
受け取ると、それに描かれた作品に目を落とす。

 そして――
 作品を見た瞬間――

「これは、また……凄いな……」

 ――あまりの独創性に、俺は言葉を失った。

 何が凄いのか、と言うと……、
 まず、前提条件である『地図』という概念から外れている。

 くるみちゃんが描いたモノは、
確かに、一見、地図に見えるのだが……、

 地図としての役割を、完全に放棄しているのだ。

 何故なら、この地図には、
目印となるようなモノが、何も描かれていない。

 では、一体……、
 この作品には、何が描かれているのか?



 ――まこ兄とパン食べる。
 ――まこ兄とジャンケンする。
 ――まこ兄とちゅ〜する。
 ――まこ兄とケンケンパする。

     ・
     ・
     ・



 ――そう。
 それは、今日の出来事であった。

 地図の各箇所には、俺と一緒に、
商店街を歩き回った際の出来事が描かれていたのだ。

 いやはや、まったく――
 確かに、面白くはあるけれど――

 これって、一応、宿題なんだし、
流石に、このまま、学校に提出するのは、マズイんじゃ――

     ・
     ・
     ・








「んっ……?」








 ――って、ちょっと待て。

 なんか、この地図……、
 物凄くヤバイ事が描いてなかったか?








 ――まこ兄とパン食べる。
 ――まこ兄とジャンケンする。
 ――
まこ兄とちゅ〜する。
 ――まこ兄とケンケンパする。

     ・
     ・
     ・








 ――まこ兄とパン食べる。
 ――まこ兄とジャンケンする。
 ――
まこ兄とちゅ〜する。
 ――まこ兄とケンケンパする。

     ・
     ・
     ・








 ――まこ兄とパン食べる。
 ――まこ兄とジャンケンする。
 ――
まこ兄とちゅ〜する。
 ――まこ兄とケンケンパする。

     ・
     ・
     ・








 ――まこ兄とパン食べる。
 ――まこ兄とジャンケンする。
 ――
まこ兄とちゅ〜する。
 ――まこ兄とケンケンパする。

     ・
     ・
     ・








 ……。

 …………。

 ………………。








 ……。

 …………。

 ………………。
















 
おいおいおいおいっ!!
 
本気でマズイじゃね〜かっ!?

 
――『ちゅ〜』って何だっ?!

 
俺は、そんな危険な
真似をした覚えは無いぞっ!!

















「あのさ……これ、何かな?」

「――んに?」

 問題の箇所を指し示し、
俺は、作者である、くるみちゃんに訊ねる。

 訊ねられるまま、彼女は、スケッチブックを覗き込む。

 そして、俺が示す箇所を見て、
くるみちゃんは、不思議そうに、首を傾げると……、

「これって……コレのこと?」

 そう言って、くるみちゃんは、
両腕を一杯に使って、ギュ〜ッと、俺の体に抱きついた。

 ――そう。
 『ギュ〜ッ』と、である。

「なるほど……そういう事か」

 くるみちゃんの頭を撫でながら、
俺は、彼女の間違いと、自分の早合点に気付く。

 よく考えれば、双子姉妹は、まだ、小学1年生である。

 当然、平仮名とはいえ……、
 文字だって習い始めたばかりなわけで……、

 ようするに……、
 くるみちゃんは、書き間違えたのだ。



 『ちゅ〜』の『ち』の字と――

 『ぎゅ〜』の『ぎ』の字を――



 いやはや、全く……、
 はた迷惑で、危険な間違いである。

 ってゆ〜か、この間違え方は、かなり無理がないか?

 どう考えても、ワザと……、
 誰かに入れ知恵されたとしか思えない間違え方だ。

 不幸なことに、双子の周りには、、
そういう真似をしそうな人が、やたらといるし……、

 とにかく、前もって、ちゃんとチェックしておいて良かった。

 こんなのが、学校に提出されていたら、
俺は、間違いなく、犯罪者扱いされていただろう。

「あのさ、これ――」

 ――ちゃんと、書き直そう。

 と、間違いを指摘する為、俺は、
再度、くるみちゃんに、スケッチブックを見せる。

 正直、これ以上、くるみちゃんと抱き合ってると、周囲の目が痛いし……、

「ねえ……何の話?」

 俺達のやり取りを見ていた、
なるみちゃんが、ちょっと強引に、話に割り込んできた。

 そして、くるみちゃんよりも先に、スケッチブックを覗き込むと……、

「――んみぃっ!?」

 問題の部分を見て……、
 彼女もまた、俺と同じ誤解したのだろう。

 くるみちゃんは、顔を真っ赤にして、絶句してしまった。

 そして、瞳に涙を溜めて、
真っ赤になった顔で、俺を見上げると――

 人目を憚る事無く――
















「くるみだけ、ずるい〜!!
私も、お兄ちゃんと、
ちゅ〜したいぃぃぃ〜〜〜っ!!」



「誤解を招くような事を、
大きな声で言うなぁぁぁぁぁ〜っ!!」

















 ああ、どうして……、

 俺の人生って……、
 いつも、崖っぷちなんだろう?








<おわり>
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