「エリアッ、フランッ!」

「誠さん、どうしたんですか?」

「見て見て、スイカだよ!
お母さん達が“持って行ってあげなさい”って」

「まあ、四玉も……?」

「でも、宜しいのですか?
こんなにたくさん、頂いてしまって……」

「遠慮する事は無いですよ。
そんな事を言ったら、逆に怒られちゃいます」

「――うんうん♪」

「じゃあ、お言葉に甘えて、
皆さんで、美味しく頂く事にしましょう」








「――では、早速、お切りしますね」

「わ〜い、スイカ〜♪」











第227話 「オイシイ食べ方」










「――今日は、スイカパーティーだっ!」

「はい……?」








 ある日のこと――

 誠様達が、大量のスイカを……、
 文字通り、両手一杯に抱えて、帰宅されました。

 訊けば、はるかさん達から頂いた、とのこと……、

 タダ同然で買えたので、
誠様とエリア様にも御裾分け、だそうです。

「タダ同然……?」

「あ〜、多分……、
駅前のデパートの商品券を使ったな」

「何故、誠様が、そのことをご存知なのですか?」

「……頼む、訊かないでくれ」

「はあ……?」

 訊ねるワタシに、誠様は、
何やら遠い目で視線を逸らし、言葉を濁します。

 おそらくは、商品券について、何かご存知なのでしょうが……、

 ご本人は言いたくないようですし……、
 取り敢えず、深く詮索するのは、止めておきましょう。

 メイドは、主人の事情に、口を挟んではいけません。

 ただ、ひたすらに……、
 己の主人を信じて、尽くすのみ……、

 もちろん、それが主人の為ならば、意見もしましょう。

 例え、意見した結果、
主人の気分を害し、解雇される事になろうとも……、

 まあ、ワタシの主人は、ルミラ様なので……、

 自然か、必然か……、
 意見する機会が多くなったりするのですが……、

「――お〜い、フラン?」

「は、はい……何でしょうか?」

「いや、何って……、
呼んでも、全然、返事しないからさ」

「申し訳ありません……、
少々、考え事をしていましたので……」

 誠様に、顔を覗き込まれ、ワタシは我に返ります。

 どうやら、物思いに耽っていた為、
誠様の呼び掛けに、気付くことが出来なかったようです。

 ――ああっ、何てことでしょう。

 ワタシとした事が、メイドの美学に酔い、
誠様に、いらぬ心配をお掛けしてしまうなんて……、

 最近、エビルさんにも指摘を受けますが……、

 誠様達と知り合ってからというもの、
こういう凡ミスが、増えているような気がします。

 以前は、このような事はなかったのに……、

 やはり、ワタシは……、
 何処か壊れてしまったのでしょうか?

 何百年と稼動していますから、その可能性は、否定出来ません。

 いずれ、メイフィアさんに、
徹底的にメンテナンスをして頂く事に――





「ねえ、フランソワーズ……、
折角だし、少し、胸を大きくしてあげよっか?」


「何故、そのような……?」

「だってさ〜……、
誠君のお相手する時とか、困るでしょう?」


「――必要ありません」(キッパリ)

「そうよ、メイフィア……、
誠君はナイチチ派なんだから、このままで良いの」


「お言葉ですが、ルミラ様……、
一番大きい、さくらちゃんでさえ、80未満なんですよ?
それじゃあ、誰が、誠君
“の”を挟んであげる、と言うのですかっ!?」

「言われてみれば、確かにっ!!」

「ルミラ様まで、同意なさらないでくださいっ!」

「でも、誠君……悦んでくれるかもよ?」

「……必要ありません」

「あ〜っ、一瞬、迷ったわね?」

「誠君“の”を挟んでる、自分の姿を想像したわね?」

「ルミラ様、メイフィアさんっ!
お戯れも、程々になさってくださいっ!」


「きゃ〜、フランが怒った〜♪」

「“誠君らぶらぶ〜”のフランが怒った〜♪」

「――お嬢様っ!!」

     ・
     ・
     ・





 まあ、多少は――

 いえ、正直なところ――
 かなり不安を抱かずにはいられませんが――

 しかし、背に腹は代えられません。

 なにせ、ワタシの整備が、
出来るのは、ルミラ様とメイフィアさんだけですし……、

 いっそ、みことさんに、
ワタシの整備方法を、お教えして――

 ――それでは、状況は、あまり変化しないような気もしますね。

 でしたら、やはり……、
 過去に経験もある誠様に……、



「――っ!?」(真っ赤)



 誠様に……ワタシの整備を……?

 誠様の目の前で、服を脱いで……、
 体の隅々まで、見られて、触られて、弄られて……、

「フラン、大丈夫か?
なんか、顔が真っ赤になってるぞ?」

「い、いえ……何でもありません」

 誠様の声に、ワタシは、再度、我に返ります。

 い、いけません……、
 またしても、やってしまいました。

 誠様を前にして、妄想に取り憑かれてしまうなんて……、

 そういうのは、琴音さんか……、
 もしくは、さくら様の役目の筈ですのに……、

「まあ、大丈夫なら良いけど……」

「ご心配をお掛けしました。
ところで、そのスイカは、どのように致しましょう?」

 度重なる失態に、内心、気落ちするワタシ……、

 しかし、いつまでも、
それを悔やんでいるわけにはいきません。

 気を取り直し、ワタシは、
誠様達が持つスイカに目を向けます。

 すると、誠様は、満面の笑みを浮かべ――



「当然、食べる……今すぐにっ!」

「――では、早速、お切りしますね」



 余程、スイカが楽しみなのでしょう……、

 誠様は、急かすように、
ワタシに、スイカを差し出しました。

 誠様から、スイカを受け取り、ワタシは、台所へと向かいます。

 そして、適当に切り分けた、
瑞々しいスイカを、お盆に乗せて、リビングへ戻ると……、

「わ〜い、スイカ〜♪」

「うにゃ〜、美味しそうだね〜♪」

 すでに、誠様とあかね様は、
縁側に腰掛け、スイカが来るのを待ち構え……、

 さくら様とエリア様は、スイカを運ぶのを手伝ってくださいました。

「それでは――」

「――いただきま〜す♪」

 一同、縁側に並び……、
 誠様達は、美味しそうに、スイカを食べ始めます。

 残念ながら、ワタシは、自動人形なので、
誠様達とご一緒に、スイカを食べる事は出来ませんが……、

「美味しいですね、まーくん♪」

「もぐもぐもぐもぐ……、
ああ、はるかさん達に感謝、だな」

「あら、あかねさんったら、頬に種がついてますよ」

「うにゃ、どこどこ〜?」

 こうして、お傍に控え……、

 仲睦まじい誠様達の姿を、
拝見しているだけで、ワタシは、とても幸せです。

 ――と、言ってる間に、もう、スイカが無くなりそうですね。

 やはり、四人で食べれば、
スイカ一玉など、あっという間に消えてしまいます。

 きっと、皆さん、まだ足りない……、
 特に、誠様は、これだけでは物足りない事でしょう。

 すぐに、次のスイカを切ってくる事にしましょう。

 ワタシは、談笑している誠様達の、
お邪魔をしてしまわないよう、静かに立ち上がり、台所へ向かいます。

 そして、新しいスイカを切り分けながら……、

「それにしても――」

 改めて、誠様達の姿を見て、
ふと、ワタシは、ある事に気付きました。

 こうして、注意して見ると……、

 スイカの食べ方、というのは、
人それぞれの、性格が出るモノなのですね。

 例えば、あかね様ですが――



「むしゃむしゃ、うにゃ〜♪」

「あの、あかねちゃん……、
女の子なんですから、もう少し……」

「お行儀良く食べた方が良いですよ?」

「――うにゃ?」



 一番、オーソドックスな食べ方で――

 種ごとスイカに齧り付き、
口の中の種を、直接、お皿に吐き出しています。

 そんなあかね様を、さくら様達が、やんわりと注意しますが……、

 どうやら、あかね様は、
その意味が分からないようで、小首を傾げています。

 確かに、あかね様の食べ方に間違いはありません。

 むしろ、幼い容姿も相成って、
その食べ方は、とても愛らしく見えます。

 ですが、やはり、あかね様も、
女性なのですから、もう少し、お行儀良く食べるべきでしょう。

 いくら、傍にいるのが、誠様だけとはいえ……、

 いえ、誠様だからこそ……、
 もっと、女性らしい慎みを持たなければ……、

 せめて、エリア様のように――



「うふふふ……、
甘くて、冷たくて、美味しいです♪」

「エリアは器用だな……、
よく、そんな面倒な食べ方が出来るな?」

「――そうですか?」



 器用にスプーンを使い――

 エリア様は、スイカの中の種を、
綺麗に取り出しながら、丁寧に食べています。

 さすがは、アノル村の村長のご息女、と言うべきでしょうか……、

 スイカの食べ方一つ見ただけでも、
エリア様の、女性らしい、慎み深い性格が伺えます。

 まあ、不遜ではありますが……、

 由緒正しき、デュラル家の、
メイドとして、もう少し、贅沢を言わせて頂けるのならば……、

 理想的なのは――
 さくら様のように上品に――



「――さくら様、どうぞ」

「ありがとうございます……、
面倒を掛けちゃって、ゴメンなさい」

「いえ、お気になさらず……」

「はるかさんの影響か……、
さくらは、意外に、お嬢様育ちなんだよな〜」

「まーくん……
“意外に”は余計です」



 ひとくちサイズに、スイカを丸く繰り抜き――

 お皿の上に盛られた
“それ”を、
さくら様は、フォークを使って食べています。

 そのお姿は、誠様の仰る通り……、
 まるで、良家のお嬢様のように、気品に満ちています。

 尤も、誠様から見ると、
その食べ方には、少々、不満がおありのようですが……、

「スイカってのはさ……、
もっと、豪快に食べた方が美味いんだぞ?」

 ワタシが、新しくご用意したスイカに、手を伸ばしつつ……、

 上品に食べる、さくら様とエリア様に、
誠様は、憮然とした様子で、やれやれと、肩を竦めました。

 そんな誠様の言葉に、さくら様達は、苦笑を浮かべます。

「仕方ないですよ……、
女の子は、そういうモノなんです」

「だいたい、誠さんの場合は、豪快過ぎます」

「……難儀だなぁ」

 お二人に、口々に反論され、
誠様は、拗ねた様に、そっぽを剥くと、スイカに齧り付きました。

 確かに、さくら様達の仰る通り……、

 誠様の食べ方は、少々……、
 いえ、かなり、豪快すぎるモノと言えます。

 なにせ――
 その勢いときたら――








シャクシャクシャクシャクシャクシャク
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 まあ、いわゆる――

 あの有名な芸人の……、
 『志○食い』と言えば良いのでしょうか?

 誠様は、大きな口で、スイカに齧り付くと……、

 物凄い勢いで……、
 端から、一気に、平らげてしまうのです。

 なんと、その間、約五秒――

 この速さに対抗出来るのは、
おそらく、楓さんくらいしかいないでしょう。

 ――しかも、ただ、早いだけではあれません。

 スイカには、当然、種があり……、

 あのような食べ方をすれば、
口の中に、大量の種が残ってしまいます。

 その種を、誠様は――


 
ププププププププ……ッ!!


 まるで、マシンガンの如く――

 狙い違うことなく……、
 高速連射で、お皿の上に吐き出すのです。

 その光景は、もはや、
隠し芸と言っても、過言ではありません。

 ――と言いますか、豪快にも程があります。

「あの、誠様……?」

「んっ? どうした、フラン?」

 あっという間に、スイカを食べ終え、
誠様は、すぐさま、次のスイカを手に取ります。

 そんな誠様を呼び止めると……、

 ワタシは、心を鬼にして……、
 メイドとして、誠様に忠告する事にしました。

「お言葉ですが、誠様……、
そのお召し上がり方は、お控えになった方が宜しいか、と……」

「……何でさ?」

「誠様は、普通でありたいのですよね?」

「あ、ああ……」

「ギャグキャラ、と言いますか……、
お笑い芸人扱いなど、以ての外、なのですよね?」

「もちろんだ……、
それと、スイカと、何の関係が?」

「そ、それは……」

 ワタシの言葉に、誠様は、キョトンとしています。

 そんな誠様の様子を見て、
全てを悟ったワタシは、言葉を詰まらせました。

 ああ、誠様……、
 お気付きになられないのですか?

 もう、すでに、手遅れなのですか?

 今の誠様は――
 スイカを食べる、貴方のお姿は――

     ・
     ・
     ・








 
シャクシャクシャクシャク……

 
ププププププププ……ッ!!

 
シャクシャクシャクシャク……

 
ププププププププ……ッ!!

 
シャクシャクシャクシャク……

 
ププププププププ……ッ!!
















 まさしく――

 お笑い芸人そのもの、だという事に――








<おわり>
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