――当たり前に思っていた。
いつでも……、
どんな時でも……、
必ず、傍にいると思っていた。
例え、離れて暮らしていても、
会おうと思えば、すぐに会えると思っていた。
だが、ふと思い出したように……、
そんな甘えを……、
まるで、戒めるかの如く……、
「なんか、今日は静かだな……」
第225話 「こんな日もある」
園村家――
「――こんにちは〜」
「あらあら……、
誠さん、何か御用ですか?」
「え〜っと……さくら、居ますか?」
「さくらさんなら……、
先程、お買い物に出掛けましたけど……」
「あ、そうですか……」
「ウチで待ちますか?
ちょうど、クッキーを焼いたんですけど」
「いえ、その……お邪魔しました」
「あらあら……?」
・
・
・
河合書店――
「――いらっしゃいませ〜♪」
「こんにちは……、
あやめさん、あかねは居ますか?」
「あら、誠君は、一緒じゃなかったのね」
「……って事は、居ないんですか?」
「ええ、留守よ……、
今日は、朝から出掛けてるわ」
「そう……ですか……」
「――あっ、そうだっ!
もし暇なら、一緒にビデオでも見ない?」
「いえ、今日は……遠慮しときます」
「それは残念ね〜……、
折角、ジャッ○ーの新作なのに……」
「すみません……お邪魔しました」
「…………?」
・
・
・
フィルスノーン――
「あら、誠君……、
こっちに来るなんて、珍しいわね?」
「こんにちは、ティリアさん……」
「もしかして、エリアに会いに来たの?
だったら、今は、お城に行ってるから居ないわよ。
「城、ですか……?」
「宮廷魔術師に、ってね……、
何度、手紙で断っても、しつこいらしくって……」
「直接、断りに行ったんですね?」
「ええ、だから……、
帰りは、ちょっと遅くなるかもしれないわ」
「わかりました……それじゃあ、帰ります」
「え、ええ……」
・
・
・
デュラル家――
「……えっ、フランソワーズ?」
「はい、先生……、
今日は、フランは、留守なんですか?」
「今、あの子には、魔界に行って貰ってるのよ」
「魔界……ですか?」
「ええ、まあ……、
こっちの業界にも、色々とあるのよね〜」
「一人で、大丈夫なんですか?」
「メイフィアも一緒だし、平気よ……、
ところで、フランソワーズに、何か用でもあったの?」
「いえ、別に……、
用って訳じゃないんですけど……」
「あら、そう……」
「……お邪魔しました」
「誠君、ちょっと待っ――」
・
・
・
……。
…………
………………。
まあ、何だ……、
たまに、あるよな……、
こういう、やたら間の悪い日、ってさ……、
何処に行っても、さくら達には会えなくて……、
いや、それどころか……、
ミレイユも、双子姉妹も、姿を見せなくて……、
いつも、当然の様に、一緒にいるから……、
たった一日、会えないだけで、妙に寂しく感じてしまう。
別に、いなくなったわけじゃないのに――
ただ、単に、ちょっと、
お互いのタイミングが悪いだけなのに――
――まるで、心に、ポッカリと穴が開いてしまったようだ。
こんな日があると……、
ついつい、悲観的な事を考えてしまう。
ああ、もしかして――
ついに、皆に愛想を、
尽かされる日が来てしまったのか、と――
可能性が無い、訳じゃない。
いや、むしろ……、
その可能性はありすぎる。
何故なら……、
俺は、未だに……、
彼女達に相応しい男になれていないのだ。
――いつか有り得る未来。
分かっている筈なのに……、
ついつい、忘れてしまいそうになる。
彼女達の優しさに、甘えてしまいそうになる。
さくら達の生活は――
毎日が、楽しくて、幸せで――
――こんな日々が、ずっと続くと思っていたから。
でも、たった一日……、
こうして、逢えないと、
どうしようもない自分の情けなさを、思い知らされる。
いつまでも変わらない、と――
当たり前のように思っていた事は――
全て、特別だったのだ、と――
……もう、帰ろう。
誰も居ない家だけど……、
だからこそ、こんな俺には相応しい。
大丈夫だ……、
明日になれば、きっと、逢える。
また、楽しくて、幸せな日々に戻れる。
明日になれば……、
明日になれば……、
明日になれば……、
・
・
・
でも、もし……、
明日になっても……、
彼女達に逢えなかったら……、
俺は、どうすれば……、
……。
…………。
………………。
「……ただいま〜」
「まーくん、何処に行ってたんですかっ!」
「うわっ、さくらっ!?
どうしたんだ、そんなに慌てて?」
「それは、こっちのセリフです!
わたし、ずっと心配してたんですからっ!」
「えっ……?」
「お買い物から帰ったら……、
お母さんが、まーくんの様子が変だった、って……」
「…………」
「だから、わたし……、
急いで、まーくんの家に来たんですよ」
「…………」
「もうすぐ、あかねちゃん……、
エリアさんや、フランさん達も来ます」
「…………」
「それに、浩之さん達も……、
皆、まーくんの事を心配してました」
「…………」
「折角、皆が集まるんですから、
今日のお夕飯は、ご馳走にしちゃいましょう♪」
「…………」
「まーくんは、何が食べたいですか?」
「…………」
「……まーくん?」
・
・
・
ああ、やっぱり……、
こんな日には、思い知らされる。
「――さくら」(ぎゅっ)
「あっ……」
俺は、決して……、
一人なんかじゃなくて……、
「あの、まーくん……ちょっと、苦しいです」
「うん……」
いつだって……、
皆に支えられている、って事を……、
「まーくん……?」
「…………」
そして……、
こんな俺にでも……、
帰るべき場所があって……、
「まーくんってば……?」
「…………」
“ただいま”と言ったら……、
“おかえり”って……、
笑顔で出迎えてくれる人がいる、って事を……、
「…………」
「…………」
だから、もう一度……、
精一杯の……、
感謝と、想いを込めて……、
「……ただいま」
「おかえりなさい、まーくん」
<おわり>
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