「――ただいま〜」
「あっ、お帰りなさ〜い♪
ねえねえ、まこりん、ちょっと来て〜っ!」
「妙に上機嫌だな……?」
「んっふっふっ……、
まこりんに、見て貰いたいモノがあるんだ〜」
「果てし無く、嫌な予感がするんだが……」
「いいから、いいから♪」
「はいはい……」
「――そ〜れ、御開帳〜♪」
「な、ななな……、
なんじゃこりゃぁぁぁ〜〜〜〜っ!?」
第223話 「合成写真」
ある日の午後――
学校から帰ってくると、
満面の笑みを浮かべた母さんに出迎えられた。
「……何か企んでないか?」
「むむむむ……、
実の母親を疑うのは良くないぞ?」
その笑みに、ひしひしと、不吉な予感を覚えつつ……、
俺は、母さんに急かされるまま、
家へと上がり、リビングへと連れて行かれる。
と、そこで目にしたのは――
「……何だ、これ?」
一体、何処から持ってきたのか……、
『それ』は、堂々と、
リビングの真ん中に鎮座していた。
俺の背丈くらいはあるだろうか……、
妙に仰々しく――
真っ赤な布で隠された『それ』――
その存在感に、禍々しいモノを、
感じながら、俺は、『それ』の正体を、母さんに訊ねる。
すると、母さんは、ニンマリと笑みを浮かべ……、
「――そ〜れ、御開帳〜♪」
『それ』を覆い隠す布に、
手を掛けたかと思うと、一気に取り払った。
そして……、
その中身を見た瞬間……、
「なんじゃこりゃぁぁぁ〜〜っ!?」
響き渡る俺の声――
なんと……、
そこにあったのは……、
「みーちゃん等身大ポップ!
らぶらぶアダルトバージョン〜♪」
――そう。
等身大のポップだ。
『ポップ』というのは、アニメ専門店や、
ゲーム店の店頭に飾られている、人型の看板の事である。
そんな物が、我が家のリビングに、持ち込まれていたのだ。
いや、まあ……、
百歩譲って、それは良いとしよう。
……だが、これだけは訊かせてくれ。
何故に――
このポップには――
――ウチのバカ母が描かれているのでしょう?
しかも、CG合成でもしたのだろうか……、
本物と違って……、
年相応(?)に成長した姿だし……、
「取り敢えず、ツッコミたい部分は、多々あるが……」
俺は、そのポップに歩み寄り、
表面をコンコンと叩きながら、母さんに向き直る。
「母さんは、もう大人なんだから、
『アダルトバージョン』って言うのは、どうかと思うぞ?」
「……細かい事を、気にしちゃダメだよ」
「まったく、何でまた、
こんな訳の分からない物を……」
軽い眩暈を覚え、俺は頭を抱える。
そんな俺の反応を見て、
母さんは、不満そうに、頬を膨らませた。
「む〜、嬉しくないの?
折角、お仕事の合間を使って作ったのに〜」
「真面目に仕事しろよ、頼むから……」
「これがあれば、みーちゃんが、
お仕事で留守にしてても、まこりんは寂しくないでしょ?」
「余計なお世話だ……、
だいたい、こんな物をどうやって作ったんだ?」
「――HM開発課の科学力を惜しみなく発揮っ!」
「無駄に技術を使うなっ!
そんな真似して、上司に怒られなかったのか!?」
「源ちゃんも、ノリノリで手伝ってくれたよ♪」
「…………」(泣)
『源ちゃん』って……、
間違いなく、主任さんの事だよな。
責任者が率先して、こんな馬鹿な真似をするなんて……
将来の進路……、
本気で、考え直そうかな?
「は、ははは……」(泣)
お気楽な母さんの言葉を聞き、
『何か』に絶望した俺は、力尽きたように、ガクッと膝をつく。
だが、そんな俺に構わず……、
まるで、トドメを刺すが如く……、
母さんは、さらに、追い討ちを掛けてきた。
「ちなみに、これを裏返すと――」
「――裏返さんでいいっ!!」
素早く、ポップを裏返そうとする母さん。
それを止めようと、
俺は、慌てて、母さんに手を伸ばす。
だが、それも間に合わず……、
・
・
・
――しばらく、お待ちください。
「いいか、母さん……、
二度と、こんな馬鹿なモノは作るなよ」(怒)
「……あいあいさ〜」(泣)
調子に乗りすぎの母さんに、
軽く『制裁』を与え、俺は、反省を促す。
それが効いたのか、母さんは、俺の言葉に素直に頷いてくれた。
ちなみに、例の危険物には、
中身が見えないように、しっかりと布が被せてある。
「折角、まこりんの夜のお供にして貰おうと……」
「あのな〜……、
冗談でも、そういう事は言うなよ」
「え〜、本気だもん♪」
「――なお悪いっ!」
ガックリと膝をつき、母さんは大袈裟に嘆いている。
そんな母さんの様子に、
軽い頭痛を覚えながら、俺は、深々と溜息をついた。
……まったく、母さんには、羞恥心というモノが無いのだろうか?
いくら、CG合成したモノとはいえ……、
相手が息子とはいえ、
『あんなモノ』を、恥ずかしげもなく見せるなんて……、
まあ、問題となる裏面は、母さんだけで作ったそうで……、
他の人には見られていないから、
最悪の事態だけは、一応、免れているらしいが……、
「それはともかく……、
これ、どうやって処分するんだよ?」
廃棄方法に悩み、俺は頭を捻る。
さすがに、粗大ゴミとして出すわけにはいかないし……、
とは言え、物置に保管して、
さくら達に見られでもたら、トンデモナイ事態になる。
「……いっそ、燃やすか?」
「ええ〜、燃やしちゃうの〜」
「古来より、ヤバイ写真の、
処分方法は、燃やすと相場が決まってる」
「心霊写真じゃあるまいし……」
「そっちの方が、よっぽどマシだっての」
「む〜……」
で、悩んだ挙句――
良い方法も思い浮かばず、
取り敢えずは、庭の物置の奥に、保管しておく事となった。
……問題を先送りにした、とも言う。
「何と言うか……、
未来に禍根を残したような気分だ」
「でも、これで、みーちゃんに、いつでも会えるよね♪」
「…………」(嘆息)
元々、処分するつもりなど、
毛頭無かった母さんは、この結果に、ご満悦のようだ。
鼻歌なんぞ唄いながら、俺の背中を、ポンポンッと叩く。
そんな母さんを見て、
俺は、今日、何度目かの溜息を吐きつつ……、
心の底から……、
神様に、懇願するのであった。
どうか、未来永劫――
あの危険物が――
さくら達に発見されませんように――
ちなみに――
これは、余談だが――
約二年後……、
最新式の試作メイドロボの要望により、
再び、このCG合成技術が発揮される事となるのだが……、
まあ、そのお話は……、
次の機会に、という事で……、
<おわり>
<戻る>