――困っている。

 今、俺は、かなり、
困った状態に陥ってしまっている。

 その原因を作っているのは……、

 目の前にある――
 色鮮やかな、衣服の数々――

 ――ぶっちゃけた話、女性用の下着だ。

 いつも、さくら達に、
任せっぱなしなのは良くない、と……、

 たまに、自分で洗濯してみたのだが……、

 そうしたら……、

 洗濯機の中から……、
 これらが、出てきたわけで……、








 まったく……、
 いくら、俺の家とはいえ……、

 男の家の洗濯機に、下着なんぞ入れるなよ。











第218話 「あんだーうぇあ」










「さて、どうしたものか……」



 とある休日――

 洗濯をしていた俺は、
その中から、危険物を発見した。

 おそらくは……、
 いや、間違いなく、さくら達の物であろう……、

 その危険物とは、女性用の下着――

 取り敢えず、それらは
見なかったことにして、他の洗濯物を、庭に干す。

 だが、しかし……、
 それは、問題を先送りしているだけであり……、

 結局、最後には、
それと向き合う羽目になるわけで……、

 まあ、ようするに……、

 俺は、この下着を前に、
どう対処したら良いか、分からないのだ。

「うう〜む……」

 もう、既に15分程――

 皆の下着を前にして、
俺は、腕を組み、悩み続けている。

 居間の床に、下着を並べて、苦悩する青少年――

 端から見れば、
さぞかし、妖しい光景に見えることだろう。

 ってゆ〜か……、
 間違い無く、変な誤解をされるな。

「……サッサと干してしまうに限る、か」

 もし、さくら達に目撃されたら……、

 その惨劇を想像して、
俺は、恐怖のあまり、身を震わせる。

 ブッ飛ばされるだけなら、まだ良い。

 もし、それをキッカケに……、
 全員掛かりで、迫られでもしたら……、

「危険だ、危険すぎる……」

 俺は、何度も頭を振って、
そのデンジャラスな想像を掻き消す。

 そして、証拠隠滅の為、すぐさま、作業に取り掛かった。

「さて、と……」

 取り敢えず……、
 最初は、精神的負担の軽そうなモノから……、

「これは……あかね、だな」

 手に取ったのは、水色のパンティー。

 猫の顔がプリントされており、
これが、誰のモノなのかは、容易に想像出来る。

 しかし、あかね……、

 高校二年にもなって、
『お子様パンツ』ってのは、どうよ?

「まあ、良いけどさ……」

 と、肩を竦めつつ、俺は、
あかねの下着を、洗濯バサミで挟み、次に取り掛かった。

「多分、さくら……だよな?」

 次は、ピンク色の下着……、
 しかも、上と下で、お揃いのモノだ。

 ちょっと迷ったが、おそらく、さくらの物であろう。

 その判断の決め手……、
 それは、ブラジャーがある、ということ……、

 いや、だってさ……、

 ウチに出入りするヤツで、
ブラジャーが必要なヤツって、さくらだけだろ?

 あかねとエリアは、小柄な方だし……、

 フランは、未知数だけど……、
 スタイルから考えて、必要とは思えない。

 当然、幼女体型の母さんなんて論外だ。

 となれば……、
 消去法で、残るのは一人だけ……、

「まあ、色的にも、あいつらしいし……」

 ただ、さくらの場合、
黒という可能性も、捨て切れないのだが……、

 と、俺は、さくらの下着姿を妄想してしまう。

 それに赤面しつつ、俺は、
手早く下着を干し、次のモノに手を伸ばした。

「……エリア、だな」

 真っ白で、シンプルな下着……、

 いや、それどころか……、
 あまりにも、飾り気が無さ過ぎる。

 もしかしたら……、
 フィルスノーンのモノなのかも……、

 そう考えれば、この簡素なデザインも、大いに納得できる。

 とはいえ……、
 恋人としては、もう少し色気が欲しい。

 まあ、そこが、エリアらしくはあるし……、

 そういう素朴な雰囲気が、
彼女の、エキゾチックな魅力に繋がるんだけどさ。

「でも、エリアって……、
時々、物凄く大胆になったりするんだよな」

 持ってる水着はビキニだし……、
 寝巻きが水の羽衣だったりするし……、

 なんて事を考えつつ、
俺は、最後の下着に目を向ける。

 その瞬間――



「こ、これは……っ!?」



 ――俺は、硬直した。

 小刻みに震える手で、
それを手に取り、まじまじと見つめる。

 純白のレースの下着――

 派手過ぎる事無く……、
 それでいて、大人の魅力があって……、

 まあ、ようするに……、
 とても『センスの良い下着』であった。

 こういうのを『見えないところのオシャレ』と言うのだろうか……、

「むむむむ……」

 これは、一体、誰のモノなのだろう?

 消去法でいけば……、
 最後に残ってるのは、フランなのだが……、

 こういうのは、控え目な、
彼女の性格には、ちょっと合わないような気もするし……、

 となると……、
 あと、考えられるのは……、



「……勝負下着?」



 ――そう。
 それしか考えられない。

 つまり、この下着は……、

 『いざという時の為』に、
さくら達が、身に着けているモノ、というわけだ。

 では、その『いざという時』というのが、どんな時なのか……、

 それはもう……、
 言うまでも無く『アレ』なわけで……、

「…………」

 マズイ……、
 無性に気になってきた。

 これは、一体、誰の物なんだっ!?

「う〜む……」

 どんな些細な事でも良い。
 何か、判断材料はないだろうか。

 俺は、真剣な面持ちで、下着を観察する。

 と、そこへ――








「ま、誠様……?」

「――え゛っ?」








 まさに、最悪のタイミング――

 ハッと我に返り……、
 見れは、そこには、フランの姿があった。

「…………」

 居間の手前の廊下で、
フランは、呆然と、立ち尽くしている。

 まあ、無理もないか……、

 家に遊びに来てみれば、
男が、下着片手に、首を傾げていたのだから……、

「…………」

「え、え〜っと……」(汗)

 未だ、状況が理解出来ないのか……、
 フランは、スーパーの袋を持ったまま、その場から動こうとしない。

 そんな彼女を前に、
俺は、必死で弁明を試みるが……、

「あ、あのな……、
俺は、洗濯物をだな……」

 良く考えれば、俺に、落ち度は無い。

 俺は、洗濯をしていただけ……、

 そんな俺が、下着を、
手にしているのは、不可抗力なのだ。

 しかし、冷静さを欠いてしまっては、
何を言っても、説得力は無く、言い訳にしか聞こえない。


 
――ドサッ!


 フランの手から、スーパーの袋が落ちた。

 だが、それに構わず、フランは、
俺に、虚ろな瞳を向けたまま、ゆっくりと、歩み寄ってくる。

「待て、落ち着け……これは、誤解だ」

 その迫力に圧され、後ずさる俺……、

 サッサと逃げれば良いのだろうが……、
 どうやら、恐怖のあまり、腰が抜けてしまったらしい。

 誤解も解けず――
 逃げることも出来ず――

 まさに、絶対絶命――

「…………」(泣)

 終わったな……、
 せめて、楽に逝けますように……、

 ついに、俺は観念し、逃げるのを諦めた。

 そんな俺の前に、フランは立ち止まり……、
 未だ、下着を持ったままの、俺の手を、両手で握る。

 そして……、

     ・
     ・
     ・








「ご安心ください……、
この事は、ワタシの胸の内に秘めておきます」


「……はい?」

「これは差し上げますので、
さくら様や、あかね様達の為にも、
どうか、二度と、このような真似はなさりませぬよう……」


「おい、ちょっと待て……」

「これでは、ご不満ですか?
それでは、別の物を、ご用意致しますが……」


「いや、そうじゃなくて……」

「ま、まさか……、
脱ぎたてを、ご所望ですか?」(ポッ☆)


「な、ななな……っ!?」

「わ、わかりました……、
そこまで仰るのなら、
今、ここでっ!!」(真っ赤)


「だぁぁぁぁ〜〜〜っ!!
人の話を聞けぇぇぇ〜〜〜っ!!」

















 ……。

 …………。

 ………………。
















 で、結局――

 その誤解を解くのに、
二時間も掛かってしまったわけだが……、

 まあ、そのおかげで、
一つ、重大な秘密を知ることが出来た。

 それは……、
















 なるほど……、

 あれって、フランのだったんだ。(爆)








<おわり>
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