キ〜ンコ〜ン――

 カ〜ンコ〜ン――


「よしっ、授業終了!
今日も一日、ご苦労さんでした、っと」

「まーくん、一緒に帰ろ〜」

「ああ、そうだな……、
途中、ちょっと寄り道するけど、良いか?」

「はい、構いませんよ」

「手間取らせて、悪いな……、
じゃあ、すぐに準備するから、ちょっと待っ――」

「……ねえ、藤井君?」

「うん? どうした、葵ちゃん?」

「えっと、その……、
お客さんが来てるみたいだよ?」

「――お客さん?」








「お兄ちゃ〜〜〜んっ!!」

「やっほ〜! まこ兄〜っ!!」











第216話 「道とは如何なるモノか」










 まさに――

 突然の襲来であった。








「なるみちゃん……くるみちゃん?」

 教室の入り口で、
元気良く、俺の名を呼ぶ双子姉妹……、

 葵ちゃんに教えられ……、

 机に座ったまま、その姿を、
確認した俺は、思わず目が点になった。

 ――どうやって学校に?
 ――部外者は立入禁止だろ?

 咄嗟に、幾つかの疑問が、脳裏に浮かび上がる。

 だが、まあ……、

 それを追求するのは、
取り敢えず、後回しにするとしよう。

 二人が、ここに来てしまった以上、
もう、俺に関して、妙な噂が立つのは止められない――

 ってゆ〜か、既にクラスメート達は、俺を生暖かい目で見てるし……、

 とにかく……、
 まず、真っ先に、ツッコむべきは……、



「その制服……、
何処で手に入れたんだ?」

「「みーちゃん♪」」

「ああ、そうだろうよ……」(涙)



 あっけらかんと答える二人――

 予想していたとはいえ……、
 認めたくない答えに、俺は膝を抱えて涙する。

 ――そう。

 双子姉妹は、
東鳩高校の制服を着ていたのだ。

 二人が言う通り、母さんから貰ったモノなのだろう。

 確かに、母さんの古着なら、
この子達でも、サイズが合うのだろうけど……、

 ああ、母さん……、
 どうして、未だに、こんなの持ってますか?

 ってゆ〜か、一体、何に使ってるんですか?

 ああ、もう……、
 容易に想像が付くぞ、クソ親父っ!!

 今頃、職場で、よろしくやってる、色ボケ両親を呪いつつ……、

「……で、こんな所に、何しに来たんだ?」

 気を取り直し、俺は、
飛び付いて来た、二人に訊ねる。

 すると……、

「まこ兄と遊びに来たの〜!」

「どうやって来たんだ?
家から、ここまでは、けっこう遠いだろ?」

「この子が……教えてくれたの」

「みぃ〜……♪」

 見れば、俺の足元には、
いつの間にか、ミレイユの姿があった。

 どうやら、コイツが、二人を、ここまで案内したらしい。

 ミレイユは、誉めて、と言うように、
目を細めて、俺を見上げると、体を摺り寄せてくる。

「……ったく、しょうがね〜な〜」

 色々と言いたい事はあったが……、

 二人を、この学校まで、
無事に連れて来たのは、確かである。

 俺は、ミレイユを誉めてやる為、膝の上に抱き上げると……、

「にゃ〜ん♪」

「んにに〜♪」

「んみぃ〜……♪」

 ミレイユの背中を……、
 そのついでに、双子の頭も撫でてやる。

 周囲からの生暖かい……、

 特に、さくら達の視線が痛いが、
取り敢えず、そっちは、後でフォローする、ということで……、

「ねえねえ、まこ兄!」

「……似合うかな?」

「ああ、そうだな……、
二人とも、良く似合ってるよ」

 余程、東鳩高校の制服が気に入ったのだろう。

 二人は、俺の前で、
クルクルと、踊るように、回って見せた。

 短めのスカートが、フワッと舞い上がり、綺麗な円を描く。

 そんな無邪気な二人の、
微笑ましい姿に、俺は、ついつい目を細めてしまう。

 うむうむ……、
 二人とも、とても可愛いぞ。

「まーくん……、
ものすご〜く、目尻が下がってますよ」

「藤井さんって、やっぱり……」

「……やっぱり、とか言うな」(泣)

 さくらと琴音ちゃんに、
ジト目で睨まれ、俺は、軽く咳払いをする。

 と、そこへ――

「ねえねえ、まこ兄……?」

「……どうした?」

 チョイチョイッと……、

 唐突に、制服の袖を、
引っ張られ、俺は、そちらへ目を向けた。

 すると、不思議顔で、
小首を傾げた、くるみちゃんが……、

     ・
     ・
     ・








「まこ兄は、どうして、
ボク達と同じ服を着てないの?」

「…………」(大汗)
















 もう、何と言うか……、

 この後の展開が……、
 だいたい、読めてきた気がする。(涙)
















「いや、まあ……、
ほらっ、俺は男だからさ……」

「え〜、可愛いのに……」

「俺が、そんなの着たって、似合うわけないだろ?」

「絶対に似合うよ〜♪
ねぇねぇ、なるみも、そう思うよね?」

「え、え〜っと……」(汗)

 半ば無駄と諦めつつ……、

 俺は、引きつった笑みを、
浮かべながら、ささやかな抵抗を試みる。

 だが、そんな俺の意見など、完璧に無視して……、



「なになに〜?
面白そうな話してるじゃない」

「藤井君が、女装するんだって〜」

「……制服はどうすんのよ?」

「あんたの服なら、サイズ合うでしょ?」
体操服があるんだし、ちょっと、それ貸しなさい」

「ええ〜、何で、私のを……、
まあ、藤井君が着るなら、別に良いけど……」

「わ〜いっ! まこ兄とお揃い〜♪」

     ・
     ・
     ・



 事態は急速に……、

 わらわらと集まってきた、
クラスの女子達をも、巻き込んで、一気に進展していく。

 次々と、教室を追い出されていく男達――
 制服以外にも用意されていく、様々な衣装――

 そして――

 爛々と、妖しい光を放つ、腐女子達の瞳――

「……ヤバイ」

 着々と進行していく、着せ替えショーの準備……、

 その光景を前に、身の危険を感じた俺は、
この場から脱出しようと、こそこそと、教室の出口へと向かった。

 あいつらは、準備に夢中だ……、

 ならば、追い出される、
男達の中に混ざっていけば、気付かれないはず……、

 だが……、



「――うぐっ!?」

「何処に行くつもりですか、藤井さん?」



 ……その考えは、甘かった。

 教室の出口の目の前――

 脱出まで、あと一歩、というところで、
まるで、金縛りに遭ったかの様に、俺の体が動かなくなる。

 言うまでもなく……、
 その原因は、琴音ちゃんの超能力だ。

「頼む、琴音ちゃん……、
後生だから、見逃してくれ……」

「でも、芸人として、皆の期待に応えるべきでは?」

「――俺は、芸人じゃないっ!」

「芸人街道まっしぐら、ですね」

「迷わず行けよ、行けばわかるさ」

「葵ちゃんまで、煽るな〜っ!
ってゆ〜か、人の話を聞けぇぇぇ〜〜〜っ!!」

「さあさあ、藤井さん♪
クラスの皆が、お待ちかねですよ♪」

「うわ〜〜〜〜んっ!!
体が勝手にぃぃぃ〜〜〜〜〜っ!!」

     ・
     ・
     ・
















 で、結局――

 どうなったのか、と言うと――
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「いやぁぁぁ〜〜〜っ!!
もう勘弁してぇぇぇ〜〜〜〜っ!!
せめて、ブルマだけは、
ブルマだけはぁぁぁ〜〜〜っ!!」

















 ……。

 …………。

 ………………。
















 うううう……、

 俺、もう、立ち直れないかも……、(大泣)








<おわり>
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