「まこり〜ん、お買い物に行くよ〜!」

「また、荷物持ちか……、
用意するから、ちょっと待っててくれ」

「早く、早く〜っ!」

「はいはい……ほら、行こうぜ」

「――はい、まこりん♪」

「なあ、母さん……、
何で、俺に向かって両腕を広げる?」

「もちろん……抱っこ♪」

「――何故っ!?」

「この前、約束したでしょ?
お買い物に行く時は、抱っこしてくれるって♪」

「確かに、そんな事を言った、記憶はあるが、約束した覚えは無いっ!」

「まこりんの嘘吐き〜っ!
抱っこして〜! 抱っこ抱っこ〜っ!」

「駄々を捏ねるな、バカ母っ!!」

「……野菜炒め or すき焼き」(ぼそっ)

「うっ……」(汗)

「…………」(じ〜)

「…………」(大汗)

「…………」(じ〜)








「せめて、肩車にしてください」(泣)

「――よろしい♪」(嬉)











第214話 「たかいたか〜い」










「わ〜い、高い高〜い♪」

「だぁぁぁ〜〜〜っ!
危ないから、大人しくしろってのっ!!」








 とある休日――

 俺は、夕飯の買出しの為、
母さんと一緒に、いつもの商店街へとやって来た。

 何故か、母さんを肩車した状態で……、(泣)

 その理由は、至って簡単である。

 以前、俺が、母さんに、
つい言ってしまった、不用意な発言――


「自分の母親を抱っこ出来る奴なんて、
世界中を捜しても、俺くらいしかいないんじゃないか?」


 と、この発言を間に受け――

 母さんは、買い物に行く際に、
満面の笑顔で、俺に抱っこを要求してきたのだ。

 もちろん、天下の往来で、
そんな恥ずかしい真似が出来るわけがない。

 しかも、肩車する相手が、
某アインツベルンの少女の恰好をしているとなれば、尚更である。

 当然、俺は、即答で拒否を示した。

 だが、しかし……、
 母さんの巧妙な罠に嵌ってしまい……、

 泣く泣く、俺は、その要求を呑む羽目に……、

 とはいえ、さすがに、抱っこは、
勘弁して欲しかったので、肩車で妥協して貰ったのだが……、

     ・
     ・
     ・



「こんな子といいな、デキたらいいな♪
あんな夢、こんな夢、いっぱいある〜けど〜♪」


「…………」(汗)

「みんな、みんな、みんな、叶えてくれる♪
可愛い〜み〜ちゃんが、叶えてく〜れ〜る〜♪」


「…………」(大汗)

「木之本さ○らと〜、ヤリたいな〜♪
はいっ! コスプレ衣装〜♪」


「…………」(滝汗)

「あん、あん、あん☆(←艶っぽく)
とっても大好き、みこと〜ちゃん〜♪」


「……頼むから、大人しくしてくれ」(涙)



 まあ、何と言うか……、

 その程度で、母さんの、
異様なテンションが変わるわけもなく……、

 どっちにしても、俺への精神的ダメージは、大して変わらないようで……、

 ああ、まったく……、
 我ながら、馬鹿な事を口走っちまったモンだ。

「……後悔先に立たず、ってか?」

「ん〜、何が〜?」

「何でも無い……、
ところで、何処から済ませて行くんだ?」

 俺の呟きを耳にし、
母さんが、頭の上から、俺の顔を覗き込む。

 そんな無邪気な様子に、軽い頭痛を覚えつつ……、

 俺は、サッサと買い物を、
終わらせてしまおうと、母さんを促した。

 自然と、目線は、向かうべき店を探し……、

 ついつい……、
 キョロキョロと、周囲を見回してしまう。

 と、その時――



「えっとね〜、まずは――っ!?」



 一体、何があったのか……、

 突然、俺の肩に乗る、
母さんの体が、ピクンッと奮えた。

 そして、さっきまで、はしゃいでいたのが、嘘であったかのように……、

 母さんは、俺の髪を、
ギュッと掴んだまま、大人しくなる。

「……どうした?」

 様子が気になり、俺は、母さんを見上げる。

 すると、母さんは、
恥ずかしそうに、頬を赤く染めると……、

「あ、あのね、まこりん……、
あんまり、頭を動かさないで欲しいな」

「……なんでさ?」

「そんなに動かれちゃうと……、
みーちゃんの大事な所に、まこりんの頭が擦れ――」


 
ぺいっ!!


「――きゃうっ!?」

 皆まで言わせず……、

 俺は、母さんの足を掴み、
持ち上げると、問答無用で投げ捨てた。

「ふえ……」

 いきなり投げられて、受身が取れなかったようだ。

 尻餅をついた母さんは、
目に涙を浮かべて、腰の辺りを擦っている。

 ううっ……、
 ちょっぴり罪悪感……、

 で、でも、こんな人前で、
あんな事を口走る、母さんが悪いんだし……、

 と、俺が、そんな事を考えていると……、

 ようやく、痛みが引いたらしく……、
 母さんは、頬を膨らませ、上目遣いで、俺を睨んできた。

 そして――



「うわ〜ん! まこりんが捨てた〜!
さんざん弄んだ挙句に、みーちゃんを捨てた〜!」

「人聞きの悪い事を言うなっ!」

「でもでも、事実だもんっ!
みーちゃんの局部を、後頭部でグリグリと――」

「やかましいわ、このバカ母っ!!
そんなに息子の社会的地位を墜落させたいのか!?」

「――何を今更」

「言いやがったな、こんちくしょう!!」

     ・
     ・
     ・



 次々と、投下される爆弾――

 その爆弾に対して、
俺は、声を張り上げて、抵抗を示すが……、

「うわ〜んっ!!
まこりんに、捨てられた〜っ!!」

「いい加減に黙れぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」

 見た目が幼い故だろう……、

 母さんから放たれる、
問題発言という名の爆弾は、あまりにも破壊力が在り過ぎた。

 周囲を見れば……、

 通り過ぎて行く人は、皆、
俺に対して、白い目を向けて去って行く。





 ――終わった。

 なんて言うか……、
 社会性とか、そういうモノが……、





「…………」(泣)

 ――ちょっと黄昏てみる。

 見上げれば……、
 空は、すっかり秋の色……、

 拭き抜ける風は、
何だか、とても冷たく感じられた。

「あ、あの……まこりん……?」

 そんな俺の様子を見て、さすがに、やり過ぎたと思ったのか……、

 フォローを入れようと、
母さんは、躊躇いがちに、俺へと歩み寄る。

 と、そこへ――

 まるで、お約束のように……、
 今の俺に対して、トドメを刺す二人が現れた。



「んに〜! まこ兄〜♪」

「お兄ちゃん……こんにちは☆」

「お、おう……」(汗)

「見たぞ、見たぞ〜♪
まこ兄、みーちゃんに肩車してたでしょ〜?」

「あ、あの……私達も、良い?」

「…………」(大汗)



 やって来たのは、双子姉妹――

 どうやら、母さんが、
肩車をされていたのを目撃して、羨ましくなったようだ。

 駆け寄って来た二人は……、

 俺の服の袖を掴むと、
上目遣いで、肩車をおねだりしてくる。

 特に、なるみちゃんなんて、瞳をウルウルさせてるし……、

「……もう、好きにしてくれ」(泣)

「わ〜いっ!!」

 そんな二人のお願いを、
無下に断ることなど出来るわけもなく――

     ・
     ・
     ・
















 ……。

 …………。

 ………………。
















 とまあ、そういうわけで――

 俺は、買い物が終わるまで、
双子姉妹を、交代で、肩車する事になったのだが――





「んみぃ〜、高〜い♪」

「まこ兄! 次は、ボクだからねっ!」

「あ、ああ……」(汗)





 こうして、彼女達を、肩車していると……、

 考えてはいけないと思いつつも……、
 先程の、母さんの爆弾発言を思い出してしまい……、

 俺の意識は、ついつい、
後頭部に感じる、微妙な感触へと――



「考えるな〜、考えるな〜、考えるな〜」

「んに? まこ兄、どうしたの?」

「何でも無い……何でも無いんだ」

「まこりんも……、
まだまだ、未熟だよねぇ〜」

「――やかましいわ!」

     ・
     ・
     ・



 こうして――
 俺は、自分の理性を――

 いや、社会性を保つ為、
必死の思いで、『何か』を堪えながら……、

 買い物が終わるまで……、
 延々と、三人を、肩車し続けるのだった。
















 うううっ……、

 いつも思うが……、
 何故、俺ばかりが、こんな目に……、(大泣)








<おわり>
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