「う〜む、困った……」
「うにゃ〜……」(すやすや)
「どうしたものか……」
「す〜す〜……」(すやすや)
「…………」(汗)
「く〜……」(すやすや)
「……う、動けん」(大汗)
「み〜……」(すやすや)
第213話 「添い寝 ファイナル」
ある日の夜中――
ふと、目を覚ました俺は、
真っ暗な部屋の中で、何かの気配を感じた。
こんな夜更けに、一体、何が……、
と、ほんの一瞬だけ、
寝惚けた頭で考え、俺は体を起こす
だが、すぐに、その正体に気付き、再び横になった。
良く考えてみれば……、
俺以外に、この部屋にいる奴といえば……、
「――ミレイユ?」
「み〜……」
念の為、俺は、彼女に呼び掛けてみる。
すると、案の定、我が愛猫だったようだ。
小さく鳴いて返事をすると、ミレイユは、トテトテと寄って来る。
「にや、にゃ」
「ああ、おかえり……」
ただいま、と言うかのように、俺の頬を叩くミレイユ。
そんな彼女に微笑みながら、
俺は、そっと、ミレイユの頭を撫でてやった。
ちょうど、猫集会から帰って来たところなのだろう。
秋の夜風に晒された、
ミレイユの体は、すっかり冷えてしまっている。
「ほら……こっち来い」
「みにゃ〜♪」
俺は、彼女の体を温めようと、布団を捲り、中へと誘う。
すると、ミレイユは、嬉しそうに、
布団に潜り込むと、俺の脇に陣取り体を丸くした。
「まったく……」
温かな布団の中、早速、寝息をたて始めるミレイユ。
そんな彼女の背中を撫で、
苦笑混じりに、軽く溜息をつきながら、俺は、ふと、思う。
――夜歩きは、猫の大事な習性だ。
それを身を以って知っていた俺は、
ミレイユが、いつでも帰って来られるように、少しだけ窓を開けてある。
とはいえ、これから、気候は寒くなる一方だ。
一晩中、窓を開けておくなんて、
馬鹿な真似は出来ないし、無用心過ぎる……、
何より、まだ仔猫のミレイユが、夜に出歩くのは心配だ。
風邪をひくかもしれないし……、
もしかしたら、事故に遭うかもしれない。
だから、せめて、秋と冬の、
寒い気候の間だけは、夜歩きは控えて欲しいところなのだが……、
「無理だろうな〜……」
ポツリと呟き、俺は、考えを改める。
先にも述べたが……、
猫集会や夜歩きは、猫の習性である。
生まれた時から飼い猫ならともかく……、
元々、生粋の野良猫であり、猫一倍、
好奇心旺盛なミレイユには、夜歩きを止めるなんて無理な話だ。
となると、別の方法を考えなければならない。
例えば、今、着けている鈴の変わりに、
首輪を着けて、飼い猫である事を明確にする、とか……、
「ダメだな……」
俺は、小さく頭を振り、その考えを破棄する。
猫は、自由を愛する動物である。
飼い主とはいえ、こちらの都合で、そんな真似は出来ない。
この鈴だって、ミレイユ自身が、
それを望んだから、着けているだけなのだ。
「頼むから……、
あまり、心配させないでくれよ?」
俺は、ミレイユの首にある鈴を、
指で軽く弾きつつ、彼女を、そっと抱き寄せた。
――この件については、明日にでも、ミレイユと話をしよう。
尤も、今の俺には、あの時の様に、
猫と言葉を交わす、なんて真似は出来ないのだが……、
「ふあ……」
なんて事を考えながら、欠伸を一つ……、
俺は、愛猫のぬくもりを感じながら、
再び、重くなり始めた瞼の誘惑に逆らう事無く、目を閉じる。
そして――
ゆっくりと、夢の中へと――
ガチャッ……
と、そこへ――
突然、部屋のドアが静かに開かれた。
見れば、部屋の入り口には、
両腕に枕を抱えた、パジャマ姿のあかねが――
「――って、猫さんモードじゃね〜かっ!」
あかねの頭にある猫耳――
そして、腰の辺りで揺れる尻尾――
あまりに唐突な、その姿を見て、
俺の眠気は、遥か彼方へと、一気にフッ飛んだ。
「あ、あかね……?」
そういえば、今日は、さくらとあかねが、泊まっていたんだっけ……、
などと思いつつ、俺は、
眠そうに目を擦るあかねに、俺恐る恐る呼び掛ける。
だが、やはり、寝惚けているのか、
あかねは、それに反応せず、こちらへ歩み寄ると……、
――ぽむっ!
ごそごそ……
むぎゅ〜〜〜っ!
お約束と言うか、何と言うか……、
寝惚けたあかねは、
布団に潜り込み、そのまま眠ってしまった。
しかも、両腕で、しっかりと、俺を抱きしめて……、
いや、違うな……、
これはもう、抱きしめるなんてモンじゃない。
なにせ、完全に……、
俺の上に乗っかってるし……、
「まあ、重くは無いから、良いけどさ……」
おそらく、夜の冷え込みに、耐え切れなくなったのだろう。
で、あかねは、寝惚けたまま、
暖かい場所を求めて、俺の所にやって来た。
あたかも、ぬくもりを求める猫のように……、
そんな、あかねの猫っぽさに、
半ば呆れつつ、俺は、彼女の頭を撫でる。
そして……、
「――ったく、しょうがね〜な〜」
誰かさんの口癖を真似つつ……、
俺は、あかねの頭を、
優しく撫で続けたまま、再び、目を閉じた。
だが……、
ここで、またしても……、
ガチャ――
ガチャ――
俺の安眠を妨害する者が……、
待ち構えていたかの様に、
二人同時に、この部屋へと入って来た。
一人は、あかね同様、ドアを開けて――
もう一人は、異世界への、
亜空間トンネルである、俺の机の引出しから――
「やれやれ……」
このパターンからして、
現れたのは、さくらとエリアだろう。
そう考えた俺は、軽く溜息を付きつつも、二人を迎え入れようと、目を開ける。
そして……、
二人の姿を見て……、
「…………」(呆然)
俺は、驚きのあまり……、
今度こそ……、
本気で、目が覚めた。
は、裸ワイシャツですか、さくらさん!?
裾から覗く、白い生足が眩しすぎっ!
もしかして、そのワイシャツって、俺のですかっ!?
エリアなんて、透け透けのネグリジェだし!
いや、違うか……、
あれは、まさか、水の羽衣ってやつですか!?
そんなモノを、寝巻き代わりにしてるなんて……、
――ああ、もうっ!
目のやり場に困り過ぎるっ!
ってゆ〜か、お前ら……、
普段から、そんな、
挑発的な恰好で寝てるのかっ!?
で、結局――
さくら達の乱入によって、
どんな状態になってしまったのか、と言うと――
「まーくん……♪」(ごそごそ)
「誠さぁん……♪」(すりすり)
「うにゃ〜ん……♪」(ごろごろ)
「か、勘弁してくれ……」(大泣)
――こうなった。(泣)
具体的に言うと、俺の体の上には、あかねが寝そべり……、
両サイドは、俺の腕を抱く、
さくらとエリアによって、ガッチリと固められ……、
……そして、枕下では、ミレイユが丸くなる。
ああ、まさに――
これぞ、まさしく、桃源郷――
さすがに、ちょっと暑いけど……、
寝返り打てなくて、割りと苦しいけど……、
それでも、大切な子達に囲まれて、幸せを感じずにはいられない。
寝惚けているとはいえ……、
いや、だからこそ……、
さくら達が、俺に対して、
無防備な姿を見せてくれている事が、嬉しく思える。
何故なら……、
それだけ、俺を信用してくれている、という事なのだから……、
とはいえ――
「う、う〜む……」(汗)
一応、俺だって、健全な男の子だ。
こんな挑発的な姿をした、
三人もの女の子と、添い寝なんぞしていれば……、
当然、色々と元気になってしまうわけで……、
・
・
・
「まーくん……」(すりすり)
「うみゃ〜ん……」(ぺろぺろ)
「誠さん……」(ぎゅ〜)
取り敢えず……、
朝まで、理性が保つかな、俺……、(泣)
<おわり>
<戻る>
おまけ――
「ル、ルミラ様〜……っ!」
「どうしたの、アレイ……、
そんなに慌てないで、取り敢えず、落ち着きなさい」
「あ、あの、それが……、
先程から、フランソワーズさんの様子が……」
「――フランソワーズが?」
「メイドロボのセンサースーツを片手に、ずっと悩んでるんです」
「放っておきなさい……、
多分、本音と建前が攻めぎ合ってるのよ」
「は、はあ……?」
「それにしても……、
そんな物、どうやって手に入れたのかしら?」
「実は、みことさんから送られて来た小包に……」
「なるほど……」