「――まこりん、髪、伸びたね?」

「う〜ん、そうかな……、
まあ、確かに、言われてみれば……」

「床屋さんに行ってきたら?」

「でも、金が勿体無いし……」

「も〜、まこりんったら、
男の娘でも、不精なのは、め〜なのよ」

「まだ、良いって……、
ってゆ〜か、さり気なく男の娘とか言うな!」

「……行く気は無い、と?」

「ああ……」








「――じゃあ、みーちゃんが切ってあげる♪」

「なんですと……?」











第210話 「さんぱつ」










「ちっちゃな頃から、ちっちゃくて〜♪
十五で、小2と呼ばれたよ〜♪」


「……黙ってやれよ、頼むから」








 あの日のこと――

 髪が伸びた、と指摘され、
俺は、母さんに、髪を切って貰うことになった。

 家の中を汚さぬよう、縁側に腰を下ろし……、

 ビニールシートで、体を覆うと……、
 俺は、ハサミを構えた母さんに身を任せる。

「それじゃあ、始めるよ〜」

「あ、ああ……」

 何処にでもある安物のハサミを、
チョキチョキと、何度も鳴らし、やる気満々の母さん。

 その様子を見て、俺は、少々、不安を覚えた。

 一体、何処で、そんなモノを手に入れて来たのか……、
 某5121小隊の学兵服という姿が、尚更、その不安を煽る。

 なにせ、母さんの行動は、予測不可能だからな……、

 例えば、ここで、切ってくれるのが、
フランとかだったら、安心して、任せられるんだけど……、

 それにさ……、
 ここで、毎度の如く、笑いの神に愛されでもしたら……、

 とても人前には出られないような髪形に……、

「…………」(大汗)

 ああ、やばい……、
 そう考えたら、急に危機感が……、

「母さん、やっぱり――」

「もう、髪を切ってる間は、動いちゃダメだよ」

 母さんを止めようと、俺は後ろを振り向く。

 だが、既に、散髪は、始まっており……、
 母さんは、俺の頭を掴むと、強引に、正面を向かせた。

 そして……、

「お子様みたいに可愛くて〜♪
周りはみ〜んな、萌えていた〜♪」


「…………」

 それはもう、上機嫌に……、

 珍妙な歌を唄いつつ、
ハサミを振るって、俺の髪を切り揃えていく。

 そんな母さんの、楽しそうな雰囲気に、俺は、軽く溜息をつく。

 ――もう、何を言っても無駄だな。

 こうなったら……、
 覚悟を決めて、任せるしかない。

 何だかんだ言っても、器用な人だし……、

 まさか、自分の息子が、
恥をかくような、おかしな髪型にはしないだろう。

 と、強引に、自分を納得させていると――



「……あら、お義母様?」

「あっ、おかえり〜、えりりん♪」



 ――エリアが帰って来たようだ。

 軽快な足取りで、階段を降り、
居間へとやって来たエリアは、俺達の姿を見て、首を傾げる。

 そして、すぐに、状況を理解したのか……、

 こちらに歩み寄ると、
興味深々といった感じで、俺の顔を覗き込んだ。



「散髪……ですか?」

「えりりんも、やる?」

「――はいっ! それはもう、是非っ!



 母さんの言葉に、即答するエリア。

 あなたの考えている事など、お見通し……、
 そんな笑顔で、母さんは、エリアにハサミを渡した。

「それじゃあ、失礼しますね♪」

「ああ……頼む」

 ハサミを受け取り、エリアが、俺の後ろに立つ。

 そして、櫛で、髪を梳きながら、
それはもう嬉しそうに、俺の髪を切り始めた。


 ちょき、ちょき――

 チョキ、チョキ――


「えりりん、上手だね〜」

「あちらの世界では、よく、子供達の髪を切ってあげてるんですよ」

「じゃあ、子供が出来て、
その子が大きくなった時も安心だね♪」

「あう……そ、そんな……」(ポッ☆)

「おいおい、邪魔するなっての」

 慣れた手付きで、ハサミが鳴り、
俺の髪が、パラパラと、シートの上に落ちていく。

 時折、母さんがチャチャを入れ、手が止まったりするものの……、

 概ね、順調に、散髪が続けられる。

 そして――
 いつしか、眠気を覚え始め――



「――終わりましたよ」

「お……?」



 ウトウトしかけたところで……、

 俺の体を覆っていた、
ビニールシートが、取り除かれた。

「お〜……♪」

 途端、眠気が覚めた俺は、
エリアから受け取った手鏡で、自分の頭を見る。

 上も、横も、後ろも――
 何処も、不恰好なところは無い。

 エリアの手によって、俺の髪は、
元の髪型のまま、綺麗に短く切り揃えられていた。

「――ありがとう、エリア」

「はい、また、いつでも言ってくださいね♪」

「む〜、途中までは、
みーちゃんが、切ってあげてたのに〜」

「はいはい、母さんも、ありがとな」

「――よろしい」

 エリアには、心から……、
 そして、母さんには、おざなりに感謝する。

「それにしても……ここまで、とはな」

 手鏡に映る、自分の姿……、

 それを眺めつつ、俺は、
ちょっと羨望の眼差しを、エリアに向けた。

「こんなに上手いなら……、
これからは、床屋じゃなくて、エリアに頼もうかな」

「そういう事なら、任せてください」

 切り落とされた俺の髪を、
ホウキとチリトリで集めながら、エリアが微笑む。

 そして、軽く掃除を終えると、俺の隣に腰を下ろし……、

「じゃあ、これからは、
遠慮なく、私に言ってくださいね」

「……ああ」

 俺の肩に頭を預け、
エリアは、そのまま、俺に寄り添ってきた。

 なんとなく、良い雰囲気……、

 さり気なさを装いつつ、俺は、
彼女を抱き寄せようと、そっと、肩に手を伸ばす。

 と、そこへ――



「さあさあ、今度は、髭剃りだよ〜♪」

「「――っ!?」」



 両手に、カミソリとクリームを持ち……、

 突然、満面の笑みを浮かべた、
母さんが、俺とエリアの間に、割って入ってきた。

 いきなりの乱入者に、俺達は、慌てて、身を離す。

 考えて見れば、今更、
母さんの前で、照れる事も無いのかもしれんが……、

 ……まあ、そのへんは気分の問題だ。

 それはともかく――

「俺は、まだ、そんな真似するような歳じゃないぞ?」

「そんな事ないよ〜……、
ちゃんと、ムダ毛は処理して、清潔にしなきゃ、め〜なのよ」

 本物の床屋じゃないのだから……、

 髪を切り揃えるだけで、
何も、わざわざ、そこまでする必要は無い。

 そう考え、俺は、母さんの提案を、丁重に断る。

 だが、母さんは――
 そんな俺の言葉に構う事無く――



「……さあ、始めよっか♪」



 カミソリを構えたまま――

 おもむろに――
 俺のズボンに手を伸ばしてきた。

「待てっ! 一体、何処の毛を剃るつもりだ
ってゆ〜か、それは、ムダ毛(?)じゃないだろうっ!?」

 ナニを考えているのか……、

 俺のズボンを下ろそうと、
母さんの手が、ベルトを掴み、それを外しに掛かる。

 慌てて、その手を、払い除けると、俺は、ズザザッと、母さんから離れた。

 そんな俺に、手をワキワキと動かす、母さんが迫る。

「まあまあ、気にしない♪
あとで、みーちゃんのも剃らせてあげるから♪」

「全力で断らせてもらうっ!」

「え〜、嫌なの〜?」

「嫌に決まっとるだろうが!
だいたい、剃る毛が無いだろう、このパイ○ン人妻っ!」

「あ、あの……誠さん、お義母様……?」

 さっきまでの……、
 ほのぼのとした雰囲気は、何処へやら……、

 すっかり、いつもの調子に戻ってしまった俺達……、

 それについて来られないのか……、
 エリアは、戸惑った表情で、言葉を失っている。

 そんな彼女に、母さんが――



「だったら……えりりんのなら、良いよね?」

「「――はい?」」



 唐突に、話を振られ――

 訳が分からない様子で、エリアの目が点となる。

 そして、俺もまた――
 思わず、エリアへと視線を向け――

     ・
     ・
     ・








「あ……」

「う……」








 ――思い切り、目が合った。
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「…………」(想像中)

「…………」(想像中)
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「ふえぇぇぇ〜〜んっ!!
ごめんなさぁぁ〜〜い!!」(脱兎)


「――なにがっ!?」
















 え、え〜っと……、

 それって、もしかして……、
 『そういう事』なんでしょうか、エリアさん……、(大汗)








<おわり>
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