「――今日は、皆に、新しい家族を紹介しようと思う」

「うにゅ、新しい家族……?」

「あっ、分かりました!
もしかして、フランさんのことですか?」

「さくら様……そのような……」

「勘違いするなっての……、
だいたい、フランは、とっくの昔に家族も同然だ」

「ま、誠様……」(ポッ☆)

「ほら、目の前に……、
ってゆ〜か、俺の頭の上にいるだろう?」

「頭の上って……」

「誠さん、まさか……」








「猫のミレイユだ……、
さあ、皆に、ちゃんと挨拶しろよ」

「にゃ〜♪」

「「「ええぇぇぇ〜〜〜〜っ!?」」」











第209話 「新しい家族」










 新学期――

 波瀾三昧の夏休みも終わり、
俺達は、久しぶりに、学校へとやって来た。



「よく考えると、妙に長い夏休みだったよな……」

「そうですね〜……、
なんか、二年くらい続いていたような気がします」

「特に、最後の一週間くらいは長かったよね」



 なんて、話をしつつ……、

 俺達三人+一匹は、
秋の始まりを告げる空の下、のんびりと、通学路を歩く。

 ――そう。
 ここにいるのは、三人と一匹だ。

 さて……、
 その『一匹』の正体だが……、

 ぶっちゃけて言うと、
つい、先日、俺の飼い猫となったミレイユだったりする。

 夏休み最後の日――

 俺の幼児&猫化が解け……、
 その事件をきっかけに、俺は、猫を飼う事にした。

 その理由については、
色々と複雑な事情なので、省略させてもらう。

 で、近所の野良猫達による、壮絶な争いの結果――

 白猫のミレイユが、
俺の飼い猫の座を勝ち取ったのだが――



「……学校にまで付いて来るなよ」

「にゃ〜……」



 俺は、頭の上に呼び掛ける。

 すると、例によって、
そこに陣取ったミレイユは、不満げな鳴き声を上げた。

 まったく……、
 懐いてくれるのは嬉しいのだが……、

 まさか、学校にまで、一緒に来ようとするとは……、

 尤も、好奇心旺盛なミレイユの場合、
学校という、新しい冒険の舞台が目当てなのだろうが……、

「やれやれ……」

「……と言う割には、嬉しそうですよ、まーくん」

「うにゃ〜……」

 困ったように溜息をつく俺に、さくらから、鋭い指摘がくる。

 それに同意するかのように、
あかねも、恨めし気な眼差しで、俺を睨んできた。

「は、ははは……」(汗)

 そんな二人の視線に、俺は、笑って誤魔化す事しか出来ない。

 さくらとあかねの言う通り、
今の俺の表情は、それはもう、緩んでいるのだろう。

 確かに、ミレイユの行動は、身勝手で、ちょっと迷惑ではある。

 だが、愛猫家にとっては、
それすらも、許容出来てしまうわけで……、

「ま、まあ、何だ……、
コイツが、飽きるまでの辛抱だし……」(汗)

「まーくん……ミレイユちゃんには甘いよね」

「まさか、猫になってた時に、
何かあったんじゃないでしょうね?」

「…………」(大汗)

 俺の言葉に、ますます、不機嫌になる二人。

 そして……、
 浴びせられる視線に、さらに圧力が……、

 ……ったく、勘弁してくれよ。

 以前にも、言ったと思うが……、
 猫を相手に、嫉妬するのは止めてくれ……、

 二人による、両サイドからの
辛辣な言葉責めに、俺は、内心で頭を抱える。

 思えば、ミレイユを飼う、と宣言してから、ずっと、こんな調子だ。

 俺が、ミレイユを構えば構う程、
さくら達の嫉妬の炎がの勢いが強くなっていくのだ。

 特に、それが顕著なのが、あかねである。

 相手が猫であるが故、
さくらとエリアは、比較的、穏やかなのだが……、

 猫達の間でも、『藤井家のデカい猫』と称されているあかね……、

 明らかに、あかねは、
ミレイユを意識し、対抗心を燃やしまくっている。

 昨夜も、自ら、猫さんモードになり、俺に迫って来やがったし……、

 そんな彼女達に対して、
フランだけが、俺が猫を飼う事に、手放しで賛成してくれた。

 それが、何故なのかは分からないが……、

 悟いフランのことだ……、
 もしかしたら、事情を察していたのかもしれないな……、

「――にゃにゃ」

「うん? どうした、ミレイユ?」

 頭の上のミレイユに、ぺちぺちと、頭を叩かれ、俺は、我に返った。

 見れば、いつの間にか、
俺達は、学校に到着し、教室の前に立っていた。

 どうやら、ミレイユを、頭に乗せたまま、ここまで来てしまったらしい。

「ぬう……、」

 今更ながら、周囲からの、奇異の視線が痛い。

 そりゃあ、頭に猫を乗せていれば、目立ちもするだろう。

 通り過ぎて行く生徒達は、
皆、首を傾げながら、俺を眺めている。

 おそらく――
 いや、間違い無く――

 ――教室に入れば、また、面倒な事になるのだろう。

 しかし、だからと言って、
ミレイユが、家に帰ってくれるとは思えないし……、

「ええい、ままよ……っ!」


 
――ガラッ!


 意を決っして……、

 俺は、思い切り良く、
扉を開け放つと、教室の中へと踏み込んだ。

 それまで、雑談に興じていた生徒達の視線が、一瞬、俺に集る。

 俺は、それに臆する事無く、
堂々とした態度で、自分の席へと向かい、腰を下ろした。

 そして、次の瞬間、巻き起こるであろう騒動に身構える。

 ――さあ、来い!

 どんなに騒がれようが、
真正面から受けて立ってやるぜっ!
















 ……。

 …………。

 ………………。
















 ……。

 …………。

 ………………。
















 ――あれ?

 ――何故に、無反応?
















「――藤井さん、おはようございます」

「おはよー、藤井君」

「誠さん、おはようございますです〜」



 全く、俺に構う事無く……、

 あまりにも、平然と……、
 雑談を再開するクラスメート一同。

 そんな彼らの反応に、
半ば拍子抜けしていると、いつものメンツが集ってきた。

「お、おはよう……、
あのさ、一つ、訊いても良いかな?」

「うん、良いけど……」

 俺達の席に集って来た、マルチ、葵ちゃん、琴音ちゃんの三人……、

 そんな彼女達に、ぎこちない挨拶を返しつつ、
俺は、一番の常識派であろう、葵ちゃんに、話を振ってみる。

「どうして……誰も、コイツについて訊いて来ないんだ?」

 キラキラと目を輝かせ、物珍しげに、
周囲を観察している、ミレイユを指差し、俺は、ストレートに訊ねる。

 すると、三人は、顔を見合わせ――

 何やら、困ったような――
 それでいて、ちょっと呆れたような笑みを浮かべると――



「藤井さんですから……」

「藤井君だから……」

「誠さんですから〜……」



 ――と、声を揃えて、のたもうた。

「ああ、そうですか……、
それだけで、納得されちまうんだな……」

 三人の答えを聞き、力尽きたように、俺は、机に突っ伏す。

 うううう……、
 何となく、気付いてはいたけど……、

 ……俺って、そういう風に認識されてたんだな。

 ってゆ〜か……、
 葵ちゃんや、琴音ちゃんだけならともかく……、

 マルチにまで、そ〜ゆ〜目で見られると、凄くヘコむんですけど……、

「ところで、藤井さん……この子、何なんですか?」

「何って……我が家の新しい家族だよ」

「――えっ?」

 ミレイユの頭を撫でながら……、
 琴音ちゃんが、俺と彼女との関係を訊ねる。

 それに対し、机に伏したまま、そっけなく答えると……、

 琴音ちゃんは……、
 いや、彼女だけでなく、他の二人までもが絶句した。

 そして……、



「ま、誠さん……」

「あかねちゃん達だけでは飽き足らず……」

「とうとう、猫にまで手を……」

「――待てや、コラ」



 ……冗談にも程がある。

 チラチラと、こちらを見ながら、
三人は、声を潜めて、トンデモナイ話を始める。

 その内容を耳にし、さすがに、カチンときた俺は、彼女達を制止しようと声を掛ける。

 だが、そんな俺に構わず……、

 話の内容は……、
 さらに、エスカレートしていき……、

     ・
     ・
     ・
















「でも、新しい家族、って事は……、
その子、猫化してた時に出来た、新しい恋人なんだよね?」


「――違うっ!!」

「そ、それでは……誠さんの子供ですか?」

「何でそうなるっ!!」

「母親は誰なんですか?
藤井さん、男として、ちゃんと責任は取ってくださいね」


「だ〜か〜ら〜、ミレイユは、俺の飼い猫――」

「まーくん……そういう事だったんですね」

「――はい?」

「まーくん、猫好きなのに……、
今まで、猫を飼おうなんてしませんでした」


「あ、あの……さくら、さん?」(汗)

「それなのに……、
突然、ミレイユちゃんを飼う、だなんて……」


「お、おい……」(大汗)

「うにゃ、ようやく、納得出来たよ……」

「…………」(滝汗)

     ・
     ・
     ・
















「まーくん……、
こうなったら、わたし達も――」


「あたし達も、まーくんと、
子供作るのぉぉぉぉぉぉっ!!」


「誤解だぁぁぁぁぁぁっ!!
落ち着け、お前らぁぁぁぁぁっ!!」

















 こうして――
 新学期早々から――

 俺達は、いつものように……、
 学校中に、話題を振り撒くのであった。(泣)








<おわり>
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