「バナナが一本ありました〜♪
青〜いお屋根の〜、藤井家で〜♪」

「…………」(汗)

「娘が四人で取りあっこ〜♪」

「…………」(大汗)

「バナナは、ツルンと逃げてった♪
バナナ〜は、ど〜こへ、行ったかな〜♪」

「…………」(滝汗)

「バナナん、バナナん、バ〜ナ〜ナ♪」

「…………」(涙)








「……まこりん、逃げちゃダメだよ」

「――やかましいわっ!」(怒)











第206話 「せんとうかいし」










 突然だが――

 我が家の風呂が、ぶっ壊れた。








「んふふ〜、銭湯なんて久しぶりだね〜♪」

「そうだにゃ……」


 というわけで――

 今日は、母さんと一緒に、
最寄の銭湯にやって来ていたりする。

 正直なところ、たかが風呂の為に、ここまで来るのは面倒だったのだが……、

 やはり、この暑い季節……、
 ちゃんと汗を流さないと、ベトベトして気持ち悪い。

 それに、明日には、修理屋が来てくれるから、今日一日だけの事だし……、

 ――なに?
 面倒なら、さくら達の家の風呂を借りれば良い、って?

 いや、まあ……、
 確かに、そういう手もあったのだが……、

 そうなると、ほぼ確実に、
さくら達や、人妻ズと一緒に入る羽目になるわけで……、

 俺が幼児化してからというもの……、
 ただでさえ、皆、リミッターが緩みまくっているのだ。

 いくらなんでも、地雷源に、
自ら飛び込むような真似が出来るわけがない。

 そんな自殺行為をするくらいなら――



「な〜に、まこりん……、
あっ、もしかして、もっと、バナナ欲しかった?」

「いや、もういい……」



 バナナを食べながら――

 某風見学園の制服を着た母さんと、
一緒に、銭湯に来た方が、よっぽどマシである。

「それじゃあ……また、後でにゃ」

 母さんと、店内に入り、
番台に座る婆さんに、代金を払うと、俺は男湯へと向かう。

 だが、そんな俺の襟首を、母さんが引っ掴んだ。

「まこりん……何処に行くのかな?」

「男湯……」

「――どうして?」

「だって、俺は男だし……」

 ひしひしと、嫌な予感を覚え……、

 ってゆ〜か、ある意味、
予想通りの、母さんの行動に、俺は冷や汗を流す。

 確かに……、
 今の俺ならば、女湯に入る事は可能だか……、

 だからと言って、みすみす、母さんの思い通りになるわけにはいかない。

 俺は、平静を装いつつ、
正論を唱えることで、母さんに抵抗を示す。

 だが、しかし……、
 相手は、あの母さんである。

 そんな正論程度が、通用するわけもなく……、

 嫌がる俺を見て、母さんは、
ますます楽しそうな表情で、俺を女湯に引き擦り込もうとする。

「母親相手に、何を意識してるのかな〜?」

「母さんはともかく……、
他にも客が、何人かいるだろうが!」

「こんなトコに、年頃の女の子なんて……、
せいぜい、人妻か、お婆ちゃんくらいだと思うよ」

「いや、でもさ……」

「あのね、誠……、
私は、あなたの為を思って言ってるのよ?」

「――へっ?」

 いつまでも、抵抗を続ける俺に、業を煮やしたのか……、

 突然、シリアスモードになると、
母さんは、ビシッと、俺の鼻の先に、指を突きつけた。

 そんな母さんの態度に、俺は、目を白黒させる。

「あなたの体は、そんなに幼くなってるのよ?
お風呂場なんかで一人にして、もしもの事があったらどうするの?」

「そ、それは……、
確かに、安全とは言い切れないけど……」

 久々のシリアスモード……、
 その迫力に圧され、俺は、思わず後ずさった。

 そんな俺を見て、母さんは、さらに追い討ちを掛けて来る。

「あなたが心配なのよ……、
だから、私とお風呂に入りなさい、良いわね?」

「わ、わかったよ……」

 俺の身を案じてくれている、
母さんの気持ちに、ちょっぴり感動なんてしつつ……、

 俺は、その真剣な眼差しを前に、渋々ながら頷く。

 と、その途端――

 母さんの表情が――
 コンマ1秒の素早さで緩み――



「わ〜い、やったね、みーちゃん♪
まこりんと一緒に、なかす、すすきの、ニュ〜ヨ〜ク〜♪」

「…………」(大汗)



 それはもう、嬉しそうに……、
 スキップ踏みながら、女湯へと入っていく。

「ほらほら、まこんり♪ 早くおいでよ〜」

「何て言うか……、
俺は、今、モーレツに騙された気分だ」

 暖簾の向こうから、母さんの急かす声が聞こえる。

 その陽気さに、大きく溜息を付きつつ、
俺は、覚悟を決めて、女湯へと、足を踏み入れた。

「――ああ、もうっ!
こうにゃったら、ヤケクソだっ!」

 開き直った俺は、ずかずかと奥に進み……、

 思いきり良く服を脱ぐと、
床に置かれたカゴに、乱暴に放り込む。

 そして、タオルも持たず、堂々と、浴場のガラス戸を開けた。

 ――そう。
 一体、何を意識する必要がある?

 所詮は、小さな銭湯……、

 先程、母さんが言ってた通り、
こんなローカルな場所にいるのは、年寄りばかりと相場は決まって……、

     ・
     ・
     ・
















「あ〜っ! まこ兄だぁ〜っ!」

「えっ……お、お兄ちゃん?」(ポポッ☆)
















 おお、神よ……、

 何で、アンタは……、
 いつもいつも、俺に試練を与えるのですか?
(作者:だって楽しいし♪)
















「んに〜♪ まこ兄とお風呂〜♪」

「は、ははは……」(壊)



 半ばヤケクソ気味に――

 開き直った俺は、
真っ裸で、女湯へと踊り込んだ。

 そこに待っていたのは、鹿島親子――

 その姿を見た瞬間、俺は、回れ右をして、逃亡を計る。

 しかし、後から入って来た、母さんに道を阻まれ……、

 さらには、可愛いモノが、
大好きな鹿島さんに、抱き上げられ……、

 ……俺の逃亡は、アッサリと失敗に終わった。

 で、完全に、逃げ場を失った俺は、
鹿島さんの手によって、全身を洗われ、湯船に浸かっている。

 もちろん、母さん達も一緒である。

 しかも、双子に至っては、
それが当然であるかのように、俺の両隣を独占中だ。

 ただ、ピッタリと、俺にくっ付いて来る、くるみちゃんに対し……、

 恥ずかしがっているのか……、
 なるみちゃんは、顔を赤くして、俺から、少し距離を置いていた。



「な、なるみちゃん……?」

「――っ!?」



 周囲を女性陣に囲まれ――

 そして、くるみちゃんの、
張りのある、すべすべの肌の感触に――

 ――意識を半壊させつつ、俺は、なるみちゃんの様子を伺う。

 すると、なるみちゃんは……、
 ますます、顔を赤くして、俺から離れてしまった。

 それどころか、まるで逃げるように、湯を掻き分け、鹿島さんの後ろに隠れてしまう。

 でも、彼女の視線だけは……、
 先程から、ずっと、俺から離れておらず……、

「……やれやれ」

 彼女の、そんな態度に、俺は溜息をつく。

 だからさ、なるみちゃん……、
 そういう、女の子な態度を取られると、余計に意識しちゃうんですけど……、

 どうせなら、くるみちゃんみたいに、
開けっ広げに接してくれた方が、こっちも楽なのに……、

「……みーちゃん、どう思います?」

「んふふ〜、なーちゃん……、
もしかしたら、本気になっちゃったのかな〜?」

 そんな俺の苦悩も知らず……、

 いや、分かっていて、無視しつつ、
母さんと鹿島さんは、何やら勝手な事をほざいてるし……、

 そして、くるみちゃんは……、

「んに〜♪」

「…………」

 俺を独占して、すっかり、ご満悦のようだ。

 さっきまでは、寄り添っていただけなのに……、

 調子に乗ってきたのか……、
 くるみちゃんは、俺の腕を抱き、肩に頭を預けてくる。

「う〜……」

 そんな妹の姿を見て……、

 恥ずかしがり屋で、
引っ込み思案のお姉ちゃんは、ちょっぴり涙目……、

 だが、今の俺には、なるみちゃんを気に掛けている余裕など無く……、

 抱かれた腕から伝わってくる――
 くるみちゃんの感触を相手に、懸命に理性を――


 ……。

 …………。

 ………………。


 ――って、ちょっと待てっ!

 親父じゃあるまいし……、
 俺は、一体、何を考えているっ!?

 良いか、冷静になれ……、

 俺は、高校生だぞ?
 そして、相手は、十歳も離れた幼女だぞ?

 ……そんな彼女達に、何を意識する事がある?

 どんなに、行動が女の子してても、所詮は子供だ。

 何も気にする必要は無い。
 大人として、余裕を持った態度で接すれば良いのだ。

 だいたい、この状況で、双子ばかりを意識するのもおかしい。

 よく考えてみれば、
目の前には、鹿島さんだっているのだ。

 双子姉妹の母親とはいえ――
 二十代の、まだ幼さの残る肢体――

 大人としては……、

 ってゆ〜か、思春期真っ盛りの、
健全な青少年としては、そっちの方を意識するべきでは――





 ――ふにっ☆


「あう……」(汗)





 すみません……、

 やっぱり、視覚よりも、
触覚の方が、色々と破壊力が強いみたいです。

「あ、あのさ……、
くるみちゃん、もう少し離れて……」

「え〜? どうして〜?」

 引き攣った笑みを浮かべつつ、
俺は、くるみちゃんに、体を離すように要求する。

 しかし、相手は子供……、
 男の悲しい性を、察してくれる訳も無く……、

 俺の言葉に、くるみちゃんは、小首を傾げると、より強く、俺の腕に抱きついてきた。

 それは、まるで……、
 離れたくないと、意思表示するかのよう……、

 となれば、当然の如く、お互いの密着度も上がるわけで……、



 ――ふにふに☆


「あうあうあう……」(大汗)



 ……もしかして、薮蛇?

 自分から、より窮地に、
足を踏み込んでしまった俺は、助けを求めて母さん達を見る。

 だが、しかし……、

 母さんと鹿島さんは、
我関せずとばかりに、俺から視線を逸らしやがった。

 その代わり……、

 鹿島さんの背に隠れていた、
なるみちゃんと、バッチリと目が合って……、





「…………」(怒)

「…………」(滝汗)





 あの、なるみさん……?

 どうして……、
 そのように怒っていらっしゃるのでしょうか?





「お兄ちゃん……」(怒)

「は、はい……」(汗)

 頬を目一杯に膨らませ……、
 すっかり、ご機嫌斜めのなるみちゃん。

 ぺったんな胸を両手で隠して、ザハザハと、お湯を掻き分けて近寄ってくる。

 そして……、
 俺の目の前まで迫り……、

 意を決したように、軽く深呼吸をすると……、

     ・
     ・
     ・
















「んにに……っ?!」(←くるみちゃん、ビックリ)

「あらら〜……」(←母さん、ニンマリ)

「まあ、大胆……♪」(←鹿島さん、照れる)
















 それはもう――
 これ以上無い位に真正面から――

 まるで、全身を投げ出すかのように――
















「ううう〜……っ!」(←なるみちゃん、抱きつき)

「あわわわわわ……」(←俺、硬直)
















 なるみちゃん――

 フライングボディーアタック、敢行――
















「…………」(ぎゅ〜)

「あ……あう……」(呆然)
















 密着率120%――
















 ぷにぷに〜……、

 すべすべ〜……、

 つるつる〜……、
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「きゅ〜……」(バタッ)

「ああっ、お兄ちゃん、しっかりして〜!?」

「んに〜っ! まこ兄〜!」

「まこりん、まだまだだね……」

「あら〜、のぼせちゃったかな〜?」
















 すみません……、

 いくら、相手が幼女とはいえ……、
 これは、さすがに、刺激が強過ぎです。(泣)








<おわり>
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