「あの、まーくん……?」
「……にゃんだ?」
「一つ、訊いても良いですか?」
「ああ……」
「さっきから、気になってたんですけど……」
「…………」
「どうして、頭の上に、猫さんを乗せてるんですか?」
「……知るか」
第202話 「ねここねこ」
――最近、ちょっと困っている。
いや、まあ……、
確かに、体が幼くなって……、
さらに、猫になっただけでも、充分、困っているのだが……、
それについは、もう諦めた……、
っていうか、いい加減に、
慣れてきたので、もう、イチイチ気にしちゃいない。
では、一体……、
何に困っているのか、と言うと……、
――覚えているだろうか?
以前、俺が、真夜中の猫集会に参加した日の事を……、
あれ以来……、
どういう訳なのか……、
「にゃ〜、にゃ〜、にゃ〜」
「み〜、み〜、み〜」
「うみゃ〜、うみゃ〜、うみゃ〜」
何故か、やたらと……、
飼い猫、野良猫含め……、
近所の猫達が、我が家の庭に集まるようになったのだ。
「すっかり、溜まり場になってますね
「そうだにゃ〜……、
まあ、別に良いんだけどさ……」
縁側に腰を下ろし、
膝の上に三毛猫を抱いて、さくらが苦笑する。
そんな彼女の隣に座り、俺もまた、戯れる猫達の姿に、軽く溜息をついた。
――そう。
これについては、別に問題無い。
元々、猫は嫌いじゃないから、
我が家の庭が、猫集会場所になるのは、構わない。
迷惑なら、言えば分かってくれる奴らだし……、
じゃあ、一体――
何が、俺を困らせているのか――
それは――
「……降りろ、ミレイユ」
「――にゃあ」(やだ)
――コイツだ。
今日も今日とて……、
他の猫達と、一緒にやって来て……、
俺の姿を見るなり、頭の上に、パイルダーオンしてきた仔猫……、
その名を、ミレイユ――
初めて出会った時から、
既に、俺の頭の上に陣取っていやがったのだが……、
以前、約束した、鈴の首飾りを上げてからと言うもの……、
その傾向は、さらに、
強くなってきているような気がする。
まあ、懐かれているのだろうか、悪い気はしない。
悪い気はしないのだが……、
この家には、約一名……、
ヤキモチ妬きのデカイ猫がいるわけで……、
「うにゅ〜……」(怒)
ほら、聞こえてきたよ……、
俺のすぐ背後から、
腹の底に響くような、怖〜い鳴き声が……、(汗)
「あ、あかね……?」
俺は、ミレイユを頭に乗せたまま、後ろを振り向く。
すると、そこには――
今、まさに、爆発寸前の――
――我が家の猫が仁王立ちしていた。
「あかね……お、落ち着け……」
「うにゅ〜……」(怒)
恐る恐る、俺は、あかねに声を掛けるが……、
あかねは、俺にジト目を向けたまま……、
無言で、クマさんバットを取り出し、大上段に構える。
「さ、さくら……お前からも、何とか……」
藁にも縋る思いで……、
俺は、さくらに助けを求めようと、隣を見た。
しかし……、
すでに、そこに、さくらの姿は無く……、
彼女は、庭に出て、我関せずといった表情で、猫達に餌をやっている。
だが、それでも……、
一瞬だけ、こちらを見て……、
「…………」(ぷいっ)
俺と目が合った途端……、
さくらは、唇を尖らせ、
プイッと、明後日の方を向いてしまった。
なるほど……、
お前も、あかねと同様なわけね。
「はぁ〜……」(泣)
援軍が期待出来ない事を知り、ちょっと黄昏てみる。
そんな現実逃避をする俺に、
ゆっくりと、得物を構えたあかねが歩み寄る。
と、そこへ――
「にゃ〜……♪」
ミレイユが……、
たった一声……、
あかねに向かって、鳴いた。
それは、まるで――
あかねを挑発するかのように――
『悔しかったら、ボクみたいに乗ってみれば〜♪』
――と、言っているかのように。
しかも、ミレイユは……、
それだけでは、飽き足らず……、
――ぺろっ☆
「っっっ!?」
俺の頭から、肩に降りると……、
またしても……、
あかねに見せつける様に……、
そのザラザラとした猫舌を、俺の頬に……、
……それが、引き金となった。
「まーくんなんか――」
そして……、
俺は、今日も、空を舞う。
「――猫さんを抱えて
溺死しちゃえぇぇぇ〜〜〜っ!!」
「にょええええぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」
ううっ、あかね……、
いくらなんでも……、
猫に嫉妬するのは、どうかと思うぞ?(泣)
<おわり>
<戻る>