トゥルルルルル……
トゥルルルルル……
――ガチャ
「――はい、藤井ですけど?」
『もしもし、誠君……?』
「えっ……その声は……」
『ふふふ〜、私は誰でしょ〜?』
「――ゆ、由綺姉?!」
『ピンポ〜ン♪ 正解で〜す♪』
第197話 「ともだちのわ」
お昼休み〜は、ウキウキウォッチング♪
あっちこっち、そっちこっち、いい○も〜♪
お昼休み〜は、ウキウキウォッチング♪
あっちこっち、そっちこっち、いい○も〜♪
『笑ってい○とも』――
お昼の定番とも言える、
その番組を見ながら、俺は、昼メシを食べていた。
この番組……、
普段は、そんなに見ていないのだが……、
……実は、今日は特別だったりする。
なにせ、今日の放送は、
由綺姉が、ゲストとして出演しているのだ。
……ならば、由綺姉の弟分としては、見ないわけにはいくまい。
ちなみに……、
先週は、理奈さんだった。
この番組の趣旨は、その日のゲストが、
次の日のゲストを紹介して、友達の輪を作っていく、というものなので……、
まあ、ようするに……、
そういう繋がりで、今日は、由綺姉の出演となったわけだ。
『今日のゲストは、森川 由綺さんです!』
『みなさん、こんにちわ〜♪』
オープニングが終わり――
番組の前半に行われる、
司会者とゲストとのトークコーナーが始まる。
おっと……、
早速、由綺姉の出番か……、
昼メシを食べる手を休め、俺は、ビデオの録画スイッチを押す。
それと同時に、サングラスをかけた、
司会者に紹介され、舞台袖から、由綺姉が登場した。
う〜む……、
また、妙なドジ踏まなきゃ良いけど……、
と、そんな心配をしつつ、俺は、ブラウン管越しに、由綺姉の姿を眺める。
きっと、カメラの下でADやってる、
冬弥兄さんも、同じような心配してるんだろうな〜。
これは、余談だが……、
視聴者のほとんどが、由綺姉の天然ボケ……、
特に、冬弥兄さん関係のボケを期待していたりするらしい。
――えっ?
何で、そんな事を知ってるのか?
だって……、
英二さんと弥生さんが、そう言ってたし……、
……知らぬは、本人達だけである。
まあ、それはともかく――
『それでは、そろそろ、お友達を紹介して頂きましょう』
『あっ、はい……それじゃあ……』
近況報告――
何気ない雑談――
由綺姉の今後の活動――
そんな話題を繋げつつ……、
トークコーナーは、恙無く進行していく。
……この調子なら、俺の心配は、杞憂に終わりそうだな。
と、俺が、ホッと胸を撫で下ろす中……、
このコーナーの最後のお約束である、
今日のゲストが、明日のゲストを紹介する場面となった。
その日のゲストが……、
明日のゲストを電話で紹介する、アレである。
さてさて……、
由綺姉は、誰を紹介するのかな?
『え〜っと……じゃあ、とう――』
一体、何を言おうとしたのか……、
受話器を受け取った由綺姉は、
何かを言おうとして、慌てて、口に手を当て、言葉を呑み込む。
分かる……、
俺は、分かったぞ……、
……今、絶対、冬弥兄さんの名前を出そうとしてな。
見れば、由綺姉の目線は、カメラよりも下に向いている。
多分、ADをやってる冬弥兄さんが、
スケッチブックを使って、素早くツッコミを入れたのだろう。
書いた言葉は――
『俺を紹介してどうするっ!!』
――といったところか。
その言葉の意味を理解した由綺姉は、
可愛らしく舌を出すと、コツンッと自分の頭を叩く。
そして――
『――あっ! そっか、そっか!
冬弥君は恋人だから、
お友達として、紹介は出来ないよね♪』
やっちまった……、
またしても……、
やっちまったよ、由綺姉は……、
『…………』(大汗)
『それじゃあ、あの子にしようかな〜♪』
呆然とする観客――
言葉を失う司会者――
すっかり固まってしまった会場で……、
ただ一人……、
それに気付かぬ由綺姉は……、
……嬉々として、受話器のボタンを押し始める。
あの、由綺姉……、
この状況で、一体、誰に電話するつもりだよ?
と、俺が首を傾げていると……、
トゥルルルルル……
トゥルルルルル……
何と言うか……、
絶妙なタイミングで……、
我が家の電話が、けたたましく鳴り始めた。
まったく……、
せっかく、面白くなってきたのに……、
軽く舌打ちしつつ、俺は、受話器を取る。
すると……、
受話器の向こうから聞こえてきたのは……、
『――もしもし、誠君?
明日、来てくれるかな〜?』
「行けるかぁぁぁぁーーーーっ!!」
ううっ、由綺姉……、
やっぱり、あなたは最強だよ……、(泣)
<おわり>
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