「にゃあ、さくら、フラン……?」

「――はい?」

「何でしょうか?」

「いや、暇だにゃ〜、って、思ってさ……」

「お暇なのでしたら、お散歩にでも、お出掛けになられてはどうでしょう?」

「いや、この姿で外に出ると、色々とにゃ……、
退屈ではにゃくにゃるけど、その分、厄介にゃ事ににゃりそうで……」

「確かに、仰る通りですね……」

「あっ! だったら、まーくんで遊びましょう?!」

「――えっ? 何だって?」

「……誠様、で?」








「はい♪ コレを使うんですよ♪」

「――そ、それはっ!?」











第195話 「まことじゃらし」










 ある日の午後――

 北国へと帰る祐一さん達を、
駅で見送った俺達は、我が家の縁側で、まったりしていた。

「静かだにゃ〜……」

「そうですね〜」

 フランが淹れてくれたお茶を飲みつつ、俺達は、家の中を見渡すと、ポツリと呟く。

 先程まで、祐一さんと名雪さんが居た我が家――

 ほんの数日間のことなのに……、
 何だか、家の中が、随分と静かになったような気がする。

 まあ、何だかんだで、騒がしい人達だからな……、
 いなければ、静かになるのは、当然の事なんだけど……、

「やっぱり……寂しいですか?」

「まぁにゃ……」

 数少ない、親友と呼べる人……、
 身内以外で、俺達の関係を、誰よりも理解してくれた人……、

 その祐一さんが……、
 再び、遠くへ行ってしまったのだ。

 ……寂しくないわけがない。

 電車の中で、手を振っていた祐一さん達の姿を、
ボンヤリと思い出しつつ、俺は、さくらの言葉に、気の抜けた返事をする。

「……っ!」

 と、返事をしてしまってから、俺は、自分の馬鹿さ加減に気が付いた。

 いかん、いかん……、
 さくらだって、俺と同じだってのに……、

 それに、俺達以上に……、
 なるみちゃん達は、寂しい想いをしてるのに……、

 そんな彼女達を、励まさなきゃいけない俺が、一番ヘコんでて、どうするんだってのっ!

「やれやれ……」

「――? どうかしましたか?」

「いや、何でもにゃい……」

 自分の不甲斐なさに、俺は、内心で舌打ちする。

 そんな俺の様子を訝しんだのか、
さくらが、首を傾げながら、俺の顔を覗き込んできた。

 それを誤魔化す為、俺は、お茶の残りを一気に煽り、空になった湯呑みを置いた。

 と、そこへ……、
 フランが、急須を構えて寄って来る。

「誠様、お茶の御代わりは如何ですか?」

「ああ、貰うよ、ありがとう」

「ふふふ、こうしてると、お茶菓子が欲しくなってきますね」

「そうだにゃ〜」

 フランから、お茶の御代わりを貰いつつ、俺は、さくらの言葉に頷く。

 確かに、こうして、まったりと、
お茶を飲んでいると、口が寂しくなってくるからな。

 こんな時、何処かの誰かみたいに、
手から和菓子でも出せれば、最高なんだけど……、

 と、俺が、そんな事を考えて、意味も無く、手をにぎにぎしていると……、

「まーくん、これで遊びませんか?」

「――ん〜っ?」

 不意に、何処から取り出したのか……、

 妙な道具を持ったさくらが、
ニコニコと微笑みながら、俺に話し掛けてきた。

 退屈さと眠気の所為か……、
 ペタッと猫耳を伏せながら、俺は、さくらに目を向ける。

 そして……、
 『それ』を見た瞬間……、



「――にゃにゃっ!?」



 ――俺の眠気は、一気に吹っ飛んだ。

 さくらの手に握られ……、
 パタパタと、忙しなく揺れる『それ』……、

 ねこじゃらし――
 正式名称『エノコロ草』――

 ――そう。
 さくらが持ち出してきたのは……、

 ……基本的な猫遊びグッズである『ねこじゃらし』だったのだ。

 まあ、さくらが持っているのは、
本物ではなく、ねこじゃらしを模した玩具なのだが……、

 本物だろうが、玩具だろうが……、
 猫に対しての、その効果は、全く同じなわけで……、


 
ぱたぱたぱた……


「まーくん♪ ほらほら、こっちですよ〜♪」

「うっ、ぐぐぐ……」

 その弾力性といい――
 不規則に揺れる動きといい――

 ああっ、もうっ!
 気になって仕方が無いっ!!

「にゃっ! にゃっ! にゃっ!」

 伏せていた猫耳を、ピンッと尖らせ……、

 我慢出来なくなった俺は、
目の前で揺れるねこじゃらしに向かって、手を伸ばす。

 だが、さくらは、俺の手が届くか届かないかの、
微妙な位置で揺らしている為、なかなか、それを掴む事が出来ない。

「ぬっ! にゃっ! ほっ!」

「うふふふ……♪」

 ねこじゃらしに向かって、俺は、必死に手を伸ばす。

 その姿を眺めつつ、さくらは、
楽しそうに微笑みながら、ねこじゃらしを振り続ける。

 そして……、

「…………」

 そんな俺達の姿を、フランは、黙っていている。

 だが……、
 何を思ったのか……、

 唐突に、フランは、立ち上がると……、



「あの……誠様」

「――んにゃ?」



 さくらの隣に腰を下ろし……、

 これまた、何処から取り出したのか……、
 俺の目の前で、器用に、お手玉を投げ始めた。


 
ぽむぽむぽむぽむ……


「おっ? おっ? おっ?」

 フランの投げる三つのお手玉が、
俺の目の前で、円を描きながら、華麗に宙を舞う。

 その動きに、目を奪われた俺は、ねこじゃらしを追うのを止めた。

「……どうですか、誠様?」

「う〜、目が離せにゃい〜」

 俺の興味は、完全に、お手玉へと向いてしまい……、
 ねこじゃらしの事など、すっかり忘れて、俺は、お手玉を見つめ続ける。

 すると……、

「まーくん、まーくん♪ こっちも楽しいですよ〜」

「にゃにゃにゃっ!?」


 
ぱたぱたぱた……


 さくらも、負けじと、ねこじゃらしを振り……、

 それを目にした俺の手は、
ほとんど無意識に、ねこじゃらしを追ってしまう。

「…………♪」

「むむむむむむ……っ!」


 
ぽむぽむぽむぽむ……


 そんな俺に構わず、黙々と、お手玉を投げ続けるフラン。

 となれば、当然の如く……、
 俺は、その動きにも、敏感に反応してしまい……、








「ほらほら、まーくん♪」(ぱたぱたぱた)

「…………♪」(ぽむぽむぽむ)

「あうあうあうあう……」(キョロキョロキョロ)

     ・
     ・
     ・








 ねこじゃらしか――
 お手玉か――

 どっちを見て良いのか、迷ってしまうわけで――
















「まーくん、楽しいですよ〜☆」(ぱたぱたぱた)

「…………♪」(ぽむぽむぽむ)

「あうあうあうあう……」(キョロキョロキョロ)
















「えいえいえいえい♪」(ぱたぱたぱた)

「…………♪」(ぽむぽむぽむ)

「あうあうあうあう……」(キョロキョロキョロ)
















「それそれ♪ まーくん、こっちですよ〜☆」(ぱたぱたぱた)

「…………♪」(ぽむぽむぽむ)

「あうあうあうあう……」(キョロキョロキョロ)
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「きゅ〜……」(バタッ)

「ああっ、まーくんっ!?」

「ま、誠様! お気を確かにっ!?」
























 あう〜……、
 遊んでくれるのは良いんだけど……、

 ……頼むから、どっちかだけにしてくれ〜。(倒)








<おわり>
<戻る>