「う〜、暑いぉ〜……」

「そうか? だいぶ、涼しくなってきてると思うが……」

「嘘だよ〜。凄く蒸し暑いぉ〜」

「まあ、お前は、あっちの気候に慣れてるからな〜」

「う〜、喉乾いたよ」

「……ちょっと休むか?」

「――うんっ♪」

「まったく、現金な奴だな……、
それじゃあ、そこの公園に寄ってくぞ」








「あ〜っ! 待ってよ〜、祐一〜っ!!」











第192話 「天敵、襲来」








 ある日のこと――

 俺は、いつもの公園で、昼寝をしていた。

 もう、すっかり仲良くなったカイト達と一緒に……、

 そろそろ、秋の到来を感じさせる、
心地良い風の中、俺はウトウトとまどろみ始める。

 そんな俺の様子を感じ取ったのか……、
 公園にいる猫達が、次々と俺の周りに集まってきた。

 そして、猫達は、俺の体に身を寄せると、体を丸くして眠ってしまう。

「ったく、俺は、お前らの暖房器具かよ?」

「まあ、似たようなモンだよ」

「はいはい……」

 俺の腹の上に乗ったシューゴの言葉に、俺は苦笑を浮かべる。

 なんとなく、納得いかないところもあったが……、

 それでも、警戒されているわけではなく……、
 むしろ、安心して無防備な姿を見せてくれている事を、嬉しく思いつつ……、

「ふわぁ〜……」

 俺は、猫達の心地良いぬくりもに身を委ね、大きな欠伸を上げる。

 そして……、
 そのまま、夢の世界へと……、
















 
――ぞわわっ!!
















「にゃ、にゃんだっ!?」

 突然、背筋を走り抜けた悪寒……、

 それを察知した瞬間、
眠り始めていた俺の眠気は一気にフッ飛んだ。



「――な、なになにっ!?」

「こ、この感覚……敵かっ!?」



 どうやら、猫達も、俺と同じモノを感じたようだ。

 素早く飛び起きた猫達は、
身を低く構えると、尻尾の逆立て、警戒体勢に入る。

 そして、猫達は、この悪寒を発する存在がいるであろう方へと、一斉に視線を向けた。

「あっちに……いるのか?」

「ああ……しかも、こっちに向かって来る」

 身構えながら、訊ねる俺に、
悪寒を感じる方角を見据えたまま、バルムンクは頷く。

 そして、チラリとカイトに視線を向けると……、

「――どうする?」

「どんな相手なのか分からないと、対応のしようがないよ」

 バルムンクに訊ねられ、軽く肩を竦めるカイト。
 だが、少し思案を巡らせると、リーダーらしく、すぐに行動を起こした。

「まず、僕ととオルカとバルンクで様子を見てくるよ」

 そう言い残し、カイトは二匹を連れて、走っていく。

「気をつけなさいよ、カイト……」

「カイトさん……」

 偵察に向かうカイト達を……、
 いや、正確には、カイトを、心配そうに見送る雌猫達……、

 そんな彼女達を見て、俺は――



「……俺が行くべきだったかにゃ?」



 ――と、少し後悔する。

 確かに、俺自身も、
迫り来る何かに、恐怖を覚えている。

 だが、それは、あくまでも、猫の本能が感じているモノだ。

 人間である俺にとっては、
それほど危険な事態ではないはずである。

 まあ、あまり、猫社会に干渉するのは良くないことなのだろうが……、

 ただ、ちょっと気になるのは……、

 この恐怖感が、商店街で、はるかさん達に、
追い駆けられている時の感覚に、良く似ている、ということだろうか……、

 と、そんなことを考えていると……、



「――みんな、逃げろっ!!」

「デカイ……デカすぎるっ! あんなのには勝てんっ!」

「全員、散れっ! アレの目的は俺達だっ!」



 偵察に向かっていた、
カイト達が、何やら猛スピードで戻って来た。

 しかも、かなり血相変えて……、

「な、何があったの、カイト!?」

 猫達の間では『勇者』と称されるカイト……、
 その勇敢なカイトの慌て振りを見て、ブラックローズが狼狽える。

 見れば、周囲にいる仲間達にも、かなり動揺が広がっていた。

「早く逃げるんだっ! いつもの場所で落ち合おうっ!」

 そんな仲間達に、カイトは、
走りながら、大声を張り上げて訴える。

 そして、その声で、我に返ったのか……、

 猫達は、一斉に……、
 バラバラの方角へと走り出した。



 ――俺を置き去りにして。



「一体、にゃにがあったんだ?」

 その場に、ポツンと立ち尽くし、
俺は、カイト達が逃げて行った方を、ボ〜ッと眺めながら首を傾げる。

 何を見たのか知らないけど……、
 そんなに、ヤバイのが迫って来てるのか?

「俺も、逃げた方が良いかも……」

 最初は、カイト達の代わりに、敵(?)に立ち向かうつもりだったのだが……、

 彼らの、あまりの逃げっぷりの速さに、
ちょっと不安になってきた俺は、逃げる猫達を追って走り出した。

 だが……、
 その判断は、少し遅かったらしい。

 ほんの数歩、走ったところで……、
 俺は、背後から、殺気にも似た戦慄を覚えた。

 と、次の瞬間――
















「猫さんだぉぉぉぉ〜〜〜っ!!」


 
むぎゅぅぅぅぅ〜〜〜っ!


「ぎぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」
















 俺は、背後から迫って来た……、
 なにやら、何処かで見覚えのある少女に……、

 思い切り……、
 それはもう、思い切り……、



「ねこー、ねこー、ねこー♪」

「きゅう〜……」



 ……意識を失うまで、抱き締められたのだった。
















「うわっ! 何やってるんだ、名雪っ!!」

「祐一〜♪ 猫さんだぉ〜♪」

「だぉ〜、じゃないっ! おい、ボウズ! しっかりしろっ!!」

「ねこー、ねこー、ねこー♪」
















 ああ……、
 なんか、幻聴が……、

 まさか、ここにいる筈の無い、祐一さんの声が聞こえるなんて……、
















「う〜っ! 猫さん、取ったらイヤだよ〜!」

「やかましいっ! 早く、その子を離せっ! 死んばまうだろうがっ!!」

「いや〜っ! 連れて帰る〜っ! わたしが飼うんだぉ〜っ!」

「誘拐犯になるつもりか、お前はぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
















 まだ、聞こえるよ……、

 もしかして……、
 俺、マジで、ヤバイか……も……、
























 で、その後――

 意識を取り戻した俺は、
祐一さんとの、思わぬ再会を果たし……、

 俺が猫少年になってしまった経緯の説明と――
 俺を締め落とした張本人である『水瀬 名雪』さんの紹介を終え――

 取り敢えず、祐一さん達と一緒に、我が家に向かったのだが……、

 お約束と言うか、何と言うか……、
 猫さんモードになっていた、あかねと遭遇し……、








「ねこー、ねこー、
猫さんだぉぉぉぉぉ〜〜っ!」


「ふみゃみゃみゃ〜〜〜っ!!」
















 ――名雪さん、再暴走。(爆)








<おわり>
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