「まいど〜、ペンギン便で〜す!」

「あっ、鈴香さん……いつも、ご苦労さまです」

「ありがと♪ それじゃあ、ハンコかサイン、お願いね」

「ふ・じ・い……っと、これで良いですか?」

「はい、どうも。ご利用ありがとうございました!」


 
キキィィィィィーーーーッ!!

 
ブロロロローーーーッ!!


「鈴香さん、相変わらずだな〜……、
それにしても、一体、誰が何を送って――って、これはっ!?」








「――秋子さんっ!?」











第183話 「お約束にも程がある」










 ある日のこと――

 これも、いわゆる暑中お見舞いなのだろうか……、

 またしても……、
 秋子さんから、大量のジャムが送られてきた。

 イチゴジャム、ブルーベリージャム、リンゴジャム――

 そして、当然の如く……、
 その中には、例のオレンジ色の物体もあった。

 色とりどりの、美味しそうなジャムの中で、一際、異彩を放つ『それ』――

 他の物はともかく……、
 こればっかりは、全力で遠慮したいのだが……、

 だからと言って、捨てるわけにもいかず……、
 その物体の処理に困った俺は、以前のようにスフィーさんにお裾分けする事にした。

 ――えっ?
 それは、ただの道連れ?

 べ、別に良いじゃないかっ!?
 何事も、仲間が多いに越した事は無いだろう?

 ――そうっ!
 まさに、人類、皆、兄弟っ!!

 謎ジャムで広げよう、友達の輪っ!!


 ……。

 …………。

 ………………。


 ……友達、無くすかもしれんな、俺。(汗)

 でも、背に腹は変えられないし……、
 後で、楓さんやすばるさんにも送っておこう。(爆)

 まあ、それはともかく……、

 そういうわけで、俺は大量のジャムを手土産に、
健太郎さんとスフィーさんがいる五月雨堂へと向かったのだが……、

 そんな俺を――
 手荒く歓迎してくれたのは――
















「まじかるサンダァァァーーッ!!」


「んにょぇぇぇぇぇーーーっ!!」
















 ――スフィーさんの電撃魔法だった。
















「うっ、う〜ん……」

「あっ! まこと、気が付いた?」

「おい……大丈夫か?」

「こ、ここは……?」

 目を覚ますと……、
 そこは、知らない天井だった。

 まあ、多分、五月雨堂の奥にある茶の間なのだろうが……、

 どうやら、俺は、そこに寝かされていたらしい。
 目を開けると、俺の顔を覗き込む、健太郎さんとスフィーさん(Lv1)の顔があった。

「取り敢えず、何があったのか、詳しく説明してもらいたいんだけど……?」

 朦朧とする意識の中、スフィーさんの攻撃魔法をくらって、
気絶した事を思い出した俺は、少しキツ目の口調で事情の説明を要求する。

 一応、こっちは被害者だしな……、
 いきなり攻撃魔法が飛んできた理由を聞く権利はあるたずだ。

 もし、くだらない理由だったら、それ相応の償いはしてもらわないとな。

 そうだな……、
 これを口実に、例のジャムを……、

 クックックックッ……、

「え、えっとね……」(汗)

「そ、それはだな……」(汗)

 そんな俺の邪悪な笑みに、嫌な予感を覚えたのだろう……、
 健太郎さんとスフィーさんは、冷や汗を浮かべながら、事情を話し始めた。

 と、言っても、話の内容は、だいたい予想通りで……、

 詳しい内容は、健太郎さんの名誉の為に伏せるが、
ようするに、俺は、運悪く、二人の痴話喧嘩の煽りをくらってしまったわけだ。

「――とまあ、そういうわけなんだ」

「まったく……俺じゃなかったら、絶対、死んでましたよ」

「うりゅ〜、ゴメンなさい」

 深々と頭を下げる二人を、俺はジト目で睨み続ける。
 もちろん、ここで、さり気無くジャムの詰め合わせを渡す事も忘れない。

 本当は、もう、別に怒ってはいないのだが……、

 人類の自滅指数を一つ上げているような、
そんなシロモノを処分するには、手段を選んではいられないのだ。

 許してくれ……、
 健太郎さん、スフィーさん……、

 ……他のジャムは、責任持って、俺が美味しく頂くからさ♪



「それでな、誠……もう一つ、お前に謝らないといけない事があんだ」

「――へっ?」



 例のブツの処分に成功し、俺はほくそ笑む。

 と、そこへ、健太郎さんが、
それまで以上に、申し訳無さそうに、話を切り出した。

「俺を感電死寸前にした以外に、何かあるんですか?」

「そ、それはだな……」

 訊ねる俺に、健太郎さんは、何やら言い難そうに視線を逸らす。
 そんな健太郎さんに代わり、スフィーさんが、俺達の間に割って入ると……、

「まこと……これ、見て」

「何です……?」

 いつの間に持ってきたのか……、
 スフィーさんは、俺の目の前に、手鏡を差し出してきた。

 俺は手鏡を受け取ると、言われるまま、それに目を落とす。

 そして……、
 その中に映る、自分の姿を目にし……、


 ……。

 …………。

 ………………。

















「は……」

「ね、ねぇ……まこと?」(汗)
















「ははは……」

「お、おい……返事しろよ」(汗)
















「はははは……」

「「…………」」(大汗)
















「あははははははははははははは
はははははははははははははは
はははははははははっ!!」(壊)

















「ああ、まことが壊れたぁぁぁぁーーー!!」

「しっかりしろっ! ソッチに行くな! 帰って来いっ!!」

 目の前に、突き付けられた現実――

 その、あまりに信じ難い現実に――
 その、あまりにトンデモナイ現実に――

 俺の理性は――



「あはははははははははははっ!!」



 ――完全にブッ壊れた。

 そして、思い切りアッチの世界に逝ってしまった俺は、
目の前の現実を受け入れる事が出来ず、乾いた笑い声を上げ始める。

「さすがの誠も、これには堪えられなかったかっ!
おい、スフィー! すぐに、リアンとなつみちゃんを呼んでくれ!!」

「う、うんっ、分かった!」

 自分達だけでは、どうにもならないと悟ったのだろう……、
 壊れた笑い声を上げ続ける俺を見て、健太郎さん達が慌てて動き始める。

 そんな二人の声を、耳にしながら……、

 ――どうか、嘘であって欲しい。
 ――ただの目の錯覚であって欲しい。

 と、そんな僅かな希望にすがるように……、

 俺は、残った理性を総動員して……、
 もう一度、未だに握っていた手鏡の覗き込む。

 だが……、
 やはり、現実は厳しく……、

 その手鏡の中には……、
















 幼い少年に変貌した……、

 自分の姿が、ハッキリと映し出されていた。








<おわり>
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