Heart to Heart

    第176話 「女四人(?)姦しい」







「なんですとぉぉぉぉーーーっ!!」





 ある日のこと――

 暇を持て余していた俺は、
何となく、新聞の折り込み広告を眺めていた。

 そして、その驚愕の内容を目にした瞬間、俺は思わず大声を上げてしまう。

「ど、どうしたの、まーくん?」

 いきなり、俺が大声を上げた事に驚いたのだろう。
 傍でゲームをプレイしていたあかねが、それを中断し、俺に向き直る。

「どうしたもこうしたもあるかっ!!」

 そんなあかねに、俺は興奮覚めやらぬ勢いで、その問題のチラシを……、

 冬弥兄さん達が通う夕凪大学がある、
隣街のケーキ屋の広告を、あかねに突き付けた。

「大変だぞ、あかねっ!!
悠長にケルベロスのレベルを上げてる場合じゃないっ!」

「――うにゅ?」

 俺の勢いに、ちょっと圧されながらも、
あかねは、目の前に広げられたチラシを手に取り、その内容に目を走らせる。

 ちなみに、その内容だが――


 
『夏季限定! スペシャルデコレーションケーキ!
 先着100名様のみ、なんと半額っ!!』


 ――というものだったりする。

 そして、その内容を読み終えると……、

「確かに、まーくんにとっては一大事かもね〜」

 そう言って、あかねは、
納得したように、ウンウンと何度も頷いた。

「状況を理解したなら、サッサと行くぞっ!!」

 サイフをズボンのポケットに突っ込み、俺は慌てて立ち上がる。

 なにせ、先着100名までは半額なのだ。
 もちろん、半額じゃなくても食べるが、どうせなら安い方が良いからな。

 だが、しかし……、
 一刻も早く、件の店に行かなければならないのにも関わらず……、

「うにゅ〜、ケルベロスもオルトロスも、水属性に弱いのが難点だよねぇ」

 何事も無かったかのように、あかねはゲームを再開してしまった。

「おい、何やってるんだよっ!?
早く行かないと間に合わないだろうがっ!!」

 その場で駆け足をして急かすが、やっぱり、あかねは動こうとしない。

 それどころか……、

「ねえ、まーくん……このチラシ、ちゃんと全部読んだ?」

 △ボタンを押して、ゲームをオートモードに切り替えると、
あかねは、そう言って、さっきのチラシを、ヒラヒラと振ってみせた。

「まーくんは、そのケーキ、食べられないよ。
手段を選ばない、って言うなら、方法が無いわけじゃないけど……」

「……どういう事だ?」

 あかねの言葉の意味を図りかね、俺は首を傾げる。
 そんな俺を見て、あかねは軽く溜息をつくと、チラシの『とある部分』を指差した。

「ほら、ここ見て」

「――ん?」

 あかねに言われるまま、俺は彼女が指差す場所に目を向ける。
 そして、そこに書かれた文字を見て、言葉を失った。

 何故なら……、
 なんと、そこには……、





 
『但し、女性限定です♪』





 ……と、書かれていたのだ。
















 ……。

 …………。

 ………………。


















「そんな馬鹿なぁぁぁーーーっ!!」
























 その後――

 あかねの機転によって……、
 俺は、無事、期間限定ケーキを味わう事が出来た。

 しかし、それと同時に……、
 何か、大切なモノを失う羽目になってしまったのだが……、
















 ちなみに……、

 一体、どんな方法を使ったのか、と言うと……、
















「うにゃ〜♪ まさか、弥生さんに貰った『アレ』が、
こんなカタチで役に立つなんて、全然思わなかったね〜♪」


「今の俺に話し掛けるな……、
ケーキは食べたんだから、即行で家に帰るぞ」

「ええ〜、せっかく、隣街まで来たんだから、ちょっとお散歩していこうよ〜」

「却下だっ!! もし、こんなところを知り合いに見られでもしたら――」



「あれ、あかねちゃん? こっちで会うなんて珍しいね」

「やっほ〜、あかねちゃん♪ 元気にしてる?」



「うみゃっ! 由綺お姉ちゃんだ!」

「由綺姉……しかも、理奈さんまで……」

「――えっ? もしかして……誠君なの?」

「やだ〜♪ どうして、そんな恰好してるの〜♪ かわい〜♪」

「い、いや……これには、深い事情が……」

「そうだっ! せっかく会えたんだし、これから、皆で何処かに遊びに行かない?」

「そうねぇ〜♪ 女の子『四人』でね〜♪」

「うみゃっ! さんせ〜♪」

「あ、あの……俺は、サッサと帰りたい――」

「ほらほら、行くわよ……ま・こ・と・ちゃん♪」

「いやぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」


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 ――頼む。

 後生だから……、
 それについては、何も訊かないでくれ。(泣)








<おわり>
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