Heart to Heart
第174話 「さくらの日記」
ある日の午後――
俺は園村家へとやって来ていた。
「それじゃあ、お茶を煎れて来ますから、
まーくんは、遠慮しないで、ゆっくりと寛いでいてくださいね♪」
「あ、ああ……」
何と言うか……、
以前にも似たような事があったような……、
正確に言うと、126話前(?)と同じようなやり取りの後……、
さくらは、お茶を煎れる為、俺を部屋に残して、
パタパタとスリッパの音をたてながら、キッチンへと走って行く。
「さて、と……」
部屋を出て行くさくらを見送った俺は、
取り敢えず、座って待っていようと、手頃なクッションを探して、部屋を見回す。
そして、ベッドの上に、やたらとファンシーなクッションを見つけると、
それを床に無造作に置き、腰を下ろした。
まあ、クッションなんか使わなくても、ベッドに腰掛ければ良いのだろうが……、
「それは、何気に危険な匂いがするから却下、と……」
そんな事を呟きつつ、暇を持て余した俺は、
何か暇を潰せる物は無いかと、再び部屋を見回す。
しかし、男である俺の退屈凌ぎになるような物が、さくらの部屋にある訳も無く……、
「暇だな……」
と、軽く溜息をつき、俺は何となく天井を見上げた。
「…………」(大汗)
その瞬間……、
視界に飛び込んでくる、巨大な俺の顔写真……、
「まだ、貼ってあったのか……」(汗)
それを目の当たりにし、俺は頭を抱えると、ゲンナリとした表情で呟く。
やれやれ……、
前に、一度見てるから、多少は免疫は出来ていたが……、
やっぱり、こうもデカデカと、
自分の顔写真が貼られているのは勘弁して貰いたいな。
ってゆ〜か、せめて、俺がいる間だけでも剥がして欲しい。
自分の顔写真に見下ろされているような環境じゃ、
とてもじゃないが、テスト勉強に集中するなんて真似は出来ないし……、
まあ、それはともかく――
「はあ〜、気が重いな〜」
まさか、自分の顔写真から連想するとは思わなかったが……、
夏休み明けに行われる実力テストのことを思い出し、俺は再び溜息をつく。
――そう。
今日、園村家に来た理由は、まさに『それ』なのである。
実力テスト――
新学期での最初の難関――
それを無事に乗り切る為に、
こうして、園村家にテスト勉強をしに来ているわけだ。
まあ、夏休みは、まだ充分に残っているのだから、
そんなに焦る必要は無いのだろうが、早めに対策を練っておくに越した事は無いだろう?
ちなみに、あかねは、少し遅れて来る予定だ。
河合家は、自宅が本屋なので、夏休みのような長期休暇がある時期は、
入荷する本の量も増えて、それの整理の為、結構、忙しかったりするのである。
「……今度、手伝いにでも行くかな」
いつもいつも、色々と世話になってるわけだし……、
そんなことを呟きつつ、俺はテーブルに頬杖を付くと、
消しゴムを指先でコロコロと転がしながら、さくらが戻ってくるのを待つ。
と、そこへ――
「――んっ?」
ふと、視界に入った、さくらの勉強机……、
その上に、あまりにも無警戒に置かれた一冊の本……、
「…………」
もしや、と思い、俺は立ち上がると、勉強机に歩み寄る。
そして、その厚手の本を手に取ると、表紙に書かれた題名を見た。
そこには、『怒りと栄光の記録(1500円)』ではなく……、
ただ、簡素に……、
――『DIARY』と可愛らしく描かれていた。
「さくらの日記、か……」
それが予想通りの物だった事に、俺は満足げに呟く。
そして、本が開かないように、
固定しているベルトのボタンを外すと、おもむろにページを――
「――って、何やってる、俺っ!!」
その瞬間……、
己の行為に気が付いた俺は、
咄嗟に自分を罵倒する事で我に返り、慌てて本を閉じた。
「あ、危なかった……」
はあはあと息を乱し、そっと日記を元の位置に戻す俺。
そして、自分がやろうとしていた最低極まりない行為に、ちょっと自己嫌悪する。
まったく……、
半ば無意識だったとはいえ、女の子の日記を覗こうとするなんて……、
危なかった……、
本当に、マジで危なかった……、
俺は、もう少しで、さくらの信頼を裏切ってしまうところだった。
日記なんていう見られて困るような物を、
こうも無造作に晒していたさくらにも落ち度はあるのかもしれないが……、
それだって、さくらの俺に対する信頼の現れだったかもしれないじゃないかっ!
それなのに……、
俺って奴は『日記の中身が知りたい』なんて好奇心に囚われて……、
だいだい、よく考えてみろ?
『あの』さくらが書いてる日記なんだぞ?
一体、どんなドンデモナイ内容が書かれて――
……。
…………。
………………。
「……何が書かれているんだろう?」
思考が『日記の内容』に振れた途端、
抑えたはずの好奇心が、再び、俺の中にムクムクと湧き上がってきた。
そして、瞬時に……、
それはもう、某錬金術師を思わせる程のスピードで、
幾つもの日記のパターンがシミュレートされ、それが選択肢となって俺の頭の中に浮かび上がる。
『問い さくらの日記の内容はどんなものだと思いますか?』
1.ごく普通に、その日の出来事を書いている。(由綺姉タイプ)
2.好きな人に関する事を記録している。(あかりさんタイプ)
3.官能小説顔負けの妄想が書かれている。(琴音ちゃんタイプ)
4.何故か、絵日記。(母さんタイプ)
「……2か3、だな」
その選択肢から、俺は迷わず答えを導き出す。
正直、ハッキリ『3』と言い切りたかったが……、
敢えて、『2と3』を選んだのは『まだ、さくらは引き返せる』という願望の現れだろう。
――え? 琴音ちゃん?
彼女は、もう、とっくの昔に手遅れだろ?(爆)
だって、もう、逝くトコまで逝っちゃってるし……、(核爆)
まあ、それはともかく――
「……というわけで、答え合わせは大事だよな」
何が『というわけで』なのかは、永遠の謎として……、
俺は、先程、机の上に戻したばかりの日記に、再び手を伸ばす。
一応、誤解の無いように言っておくが……、
この俺の行為は、さっきまでの『女の子の日記の内容を見てみたい』という、不純なものではない。
あくまでも、疑問を解消する為の行為であり……、
もっと、こう、純粋な探求心――
――ってゆーか、怖いもの見たさだ。
だから、俺が日記を見てしまっても、ぜ〜んぜん問題ナッシング♪
だいたい、こんな面白そうな――
こんな見られて困るような物を、無造作に晒しておいたさくらが悪いのである。
なんか、さっきと言ってる事が正反対のような……、
――ってゆーか、完全に自己弁護モードに、
入ってしまっているような気がするが、そんな事は些細なことだよな。
とまあ、そういうわけで……、
「許せ、さくら……」
心の中で謝罪しつつ、さくらの日記を手に取った。
そして、おもむろに――
ちょっとだけ、期待に胸を躍らせながら――
俺は、ゆっくりとページを開き……、
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
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まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
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まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
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まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
・
・
・
――バンッ!!
……その中の内容を見た瞬間、即行で本を閉じた。
「ヤ、ヤバかった……」(大汗)
背筋に冷たい戦慄を覚えつつ、俺は、冷や汗を流しながら、
未だ震える手で、その『危険物』を、まるで壊れ物を扱うかの様に、元の場所に戻す。
日記じゃない……、
これは、日記なんて平和的な物じゃない。
この物体は、間違いなく精神破壊兵器だ。
あと、ほんの一瞬……、
本を閉じのが遅かったら……、
……確実にヤられていた。
まあ、多少、大袈裟な表現かもしれんが……、
ここまで危機感を覚えたのは、
千鶴さんの料理や、秋子さんの謎ジャムを食べさせられた時以来だぞ。
「それにしても……、
まさか、第5の選択肢で来るとはな……」
さくらの日記の予想外の威力に、俺は戦慄を覚える。
そして、取り敢えず、今、見たモノは全て忘れる事に決めると、
可能な限り、その危険物から離れた位置に座り直した。
と、そこへ――
「お待たせしました〜♪」
前もって、お茶の準備しておいたのだろうか……、
予想していたよりも早く、お茶を乗せたお盆を持ったさくらが、部屋に戻って来た。
「お、おう……早かったな」(汗)
「……?」
努めて、平静を装いつつ、俺はさくらを出迎える。
しかし、そこは、やっぱり幼馴染……、
さくらは、ひと目で俺の様子がおかしいのを見抜いてしまった。
「どうしたんですか? 何か、顔色が悪いですよ?」
そう言って、さくらは、テーブルの上にお盆を置きつつ、俺の顔を覗き込む。
「そ、そそ、そんなことは無いぞ。はっはっはっはっ」(汗)
「……そうですか?」
さくらの鋭いツッコミに狼狽えながらも、何とか誤魔化そうと、乾いた笑い声を上げる俺。
そんな俺の態度が、余計に不信に思えたのだろう。
さくらは、小首を傾げながら、さらに訝しげな表情を強めた。
「大丈夫、大丈夫! 別に何でも無いって!
それよりも、テスト勉強なんてものは、サッサと済ませちまおうぜ!」
「……???」
それに対し、俺は、ひたすらシラを切り通す。
ここまで来たら、もう後には引けないし……、
さくらの日記を覗いてしまった事がバレるわけにはいかないからな。
そして・・…、
一応、納得してくれたのだろう。
さくらは、小さく溜息をつくと、教科書を広げ、この話題を打ち切ってくれた。
「まあ、まーくんがそう言うなら、別に良いですけど……、
でも、もし体調が悪いのなら、無理しないで、ちゃんと言ってくださいね」
「あ、ああ……」
「それでは、まずは英語から始めましょうか」
「うへぇ〜……いきなりかよ」
「うふふふ、頑張ってくださいね」
ただでさえ、テスト勉強なんてクソ面白くも無いのに……、
初っ端から、苦手な英語の勉強を始めると言われ、俺はテーブルに突っ伏す。
それを見て、クスクスと笑みを零しながら、さくらは俺を激励する。
その、まるで可憐な花のような……、
あの日記の壊れっぷりが嘘に思えてくるような微笑みを眺めつつ……、
俺は――
実際のところ……、
コイツの頭の中って、どうなってるんだろうな?
――と、そんな好奇心を抱くのであった。
おまけ――
??? 「さくらちゃんの頭の中を見たいの? 止めた方が良いと思うよ」
?? 「そうだよね……そんな事したら、取り返しのつかない事になるよ」
??? 「さくらちゃんに初めて会った時……、
長瀬ちゃん、何もしてないのに倒れちゃったもんね」
?? 「ううう、さくらちゃんの妄想にあてられて……、
あの時は、本気で精神が汚染されるかと思ったよ」(泣)
??? 「よしよし……もう怖くないからね」(なでなで)
?? 「瑠璃子さ〜ん……」(泣)
?? 「そこぉぉぉぉぉーーーっ! 何やってるのぉぉぉぉーーーーっ!?」(怒)
<おわり>
<戻る>
協力 くのう○おき さん
元ネタ 『天才バ○ボン』の『馬の小説』より