Heart to Heart
第171話 「添い寝」
ある日の朝――
目を覚ますと、目の前に母さんの寝顔があった。
「……どうして、俺のベッドに寝ていやがるんだ?」
まだ、窓の外は暗いというのに……、
ってゆーか、せっかくの夏休みの真っ只中だというのに……、
朝っぱらから、起き抜けに、母さんの寝顔を見せられ、俺の眠気は一気にフッ飛んでしまう。
そして、その事にブツブツと不満を漏らしつつ、
俺は時間を確認しようと、枕元に並んだ四つの目覚し時計に目を向けた。
午前5時12分――
時計の針が示す時間を見て、俺は思い切り顔をしかめる。
起きるには早すぎる……、
でも、もう一度寝してしまうには遅すぎる……、
……そんな、中途半端な時間だったからだ。
「ったく、しょうがね〜な〜……」
ここで二度寝してしまったら、絶対に、目が覚めるのは昼過ぎになるだろうし……、
と、このまま適当な時間までボーッとしている事に決めた俺は、
今や、すっかり移ってしまった浩之の口癖を呟きつつ、目覚まし時計のスイッチを切っていく。
なにせ、この四つの目覚ましには、
さくら達の『恥ずかしいセリフ』が録音されているからな。
こうして目が覚めているのだから、
わざわざ、それを耳にして、恥ずかしい思いをする事もないだろう。
まあ、ここにいるのが、俺一人だったら、別に良いのだが……、
なんといっても、今、この場には、母さんがいるのだ。
あんな恥ずかしいセリフを、母さんに聞かれたら、確実にからかわれる。
だから、絶対に、あれを母さんに聞かれるわけには――
「――っと、それはともかく、だ」
ちょっち現実逃避しかかっていた事に気付き、俺は慌てて我に返った。
そして、目の前にある問題を解決する為に、
隣で、それはもう幸せそうに眠っている母さんに視線を戻すと……、
「一体、いつの間に、潜り込んで来やがったんだ?」
そう呟きつつ、俺は昨夜の記憶を脳内から引っ張り出す。
確か、昨夜は……、
久しぶりに帰って来た母さんと晩メシを食べて――
レンタルビデオ屋で借りてきたアニメ映画を観て――
一緒に風呂に入ろうと乱入してきた母さんを撃退して――
そして、少しだけ、パソコンで作業をした後――、
……間違いなく、一人でベッドに入り、就寝した筈だ。
で、あるにも関わらず、
目覚めてみれば、隣で母さんが寝息を立てている。
ということは……、
「……夜中に、こっそり潜り込んで来やがったな?」
その結論に達し、俺はやれやれと大きくタメ息をつく。
まったく、何を考えているのやら……、
普通、そこまでして、高校生の息子と添い寝したがるか?
まあ、俺の周りには、そういう母親が、やたらと多いような気がするが……、
「――さて、どうしたものかな?」
とても子持ちの人妻とは思えない、
その小さな手で、俺のパジャマをギュッと掴み、スースーと眠る母さん。
そんな母さんの寝顔を眺めつつ、俺は、この状況をどう処理するかを考える。
(C)SAITO
「う〜む……」
いくらなんでも、こんな時間に叩き起こすのは可哀想だし……、
だからと言って、このまま、夜明けまで、
母さんと一緒に寝るのは、俺の精神衛生上、非常によろしくないし……、
「……困ったな」
と、小さく呻きつつ、俺は、何気なく、母さんの頬を突つく。
ぷにぷに……
「――ぬぬっ!?」
指先から伝わってくる、予想外の弾力に、俺は思わず驚愕の声を上げてしまう。
何故なら、月並みな例えになるが……、
まるで幼い子供の頬のような――
もしくは、出来立てのマシュマロのような――
……そんな、何とも言えない魅力的な感触だったのだ。
「こいつは、本当に人妻なのか?」
ぷにぷに……
ぷにぷに……
そんなことを呟きながらも、
母さんの頬を突つく、俺の手の動きは止まらない。
そして、俺が突つく度に……、
「うう〜ん……」
「ふみ〜……」
「うにゅ〜……」
なんとも可愛らしい……、
面白い声を上げて、母さんは反応を示す。
――よしっ!!
適当な時間まで、これで遊ぶことに決定っ!(爆)
ぷにぷに……
「うみゅうみゅ……」
ぷにぷに……
「ん〜……」
ぷにぷに……
「ふにゅにゅ〜……」
はっはっはっはっ!
いや〜、なかなか楽しいな〜♪(壊)
実の母親を玩具にして楽しんでいる自分に、
ちょっと疑問を感じつつ、俺は調子にのって、何度も何度も母さんの頬を突つく。
そして、これ以上、続けたら、
そろそろ起きるかも、と、手を止めようとした、その時……、
――ぱくっ!!
「――うおっ!?」
いきなり、母さんが思わぬ反撃を繰り出してきた。
なんと、母さんは、素早く俺の手を掴んだかと思うと、
さっきまで、自分の頬を突ついていた俺の指を、口に咥えてしまったのだ。
「お、おいおい……」(汗)
あまりに突然の出来事に、一瞬、俺は言葉を失う。
だが、すぐに我に返ると、母さんの口から指を抜こうと、手を引いた。
しかし、どういう訳か、母さんに掴まれた俺の手は、ピクリとも動かない。
多分、寝ている母さんを起こさないように、と、
無意識に手加減してしまっている所為もあるのだろうが……、
それを踏まえたとしても、ここまでビクともしない、というのは、ちょっとおかしい。
もしかして、実は、もうとっくの昔に起きてるんじゃないのか?
で、寝たふりをして、俺をからかっているんじゃないのか?
その可能性は、大いにありそうだが……、
だけど、今の母さんは、どう見ても、寝ているようにしか見えないし……、
「う、う〜む……」
と、俺が首を傾げている間も、
母さんは、俺の指を咥えたまま放そうとしない。
それどころか、母さんは、口の中で、俺の指に舌を絡め始めた。
「んふふふふふ……♪」
ちゅぱちゅぱ……
「…………」(大汗)
しっかりと、両手で俺を手を掴んで……、
ちゅぱちゅぱと、なんだか凄くえっちな音をたてて……、
俺の指を舐め回しながら、母さんは嬉しそうな声を上げる。
一体、どんな夢を見ているのだろうか?
まあ、多分、アイスキャンディーでも食べている夢でも見ているのだろうけど……、
間違っても、親父のアレを
しゃぶっている夢なんかじゃないばすだ。(爆)
ってゆーか、マジでそうであって欲しい。(泣)
いくら寝惚けた行為とはいえ、自分の息子の指を、
旦那のアレの代わりにする母親なんて、ムチャクチャ嫌すぎる。
だが、しかし……、
そんな、俺の願いを嘲笑うかのように……、
「んっんっ、ちゅっちゅっ……♪」
「んむんむ……はむ……♪」
「ちゅぱちゅぱ……んふふ〜♪」
それはもう、熱心に……、
とても、アイスキャンディーを舐めているとは思えない勢いで……、
母さんは、俺の指を、いやらしく舐め回していく。
「……勘弁してくれよ」(泣)
そんな母さんの姿を目の当たりにし、
最悪の予想を裏付けられてしまった俺は、ただただ涙するしかない。
――ここまでされたら、もう決定的だ。
認めたくはないが……、
間違いなく、今、母さんは、かなりアダルトな夢を見ている。
それも、青少年には刺激が強すぎる、物凄く濃厚なやつを……、
そして、その夢が終わるまで、俺の指は、絶対に解放されないだろう。
つまり……、
「――諦めるしかない、か」(泣)
抵抗することの無意味さに気付いた俺は、そう呟きながら、大きく溜息をつく。
そして、未だに俺の指を舐めている母さんは、
そのまま満足するまで好きにさせておくことに決めると――
「寝よう……寝てしまおう」
――俺は、目の前の現実から逃避するかのように、目を閉じた。
まあ、何だ……、
夢の内容はともかくとして……、
どんな時でも、夫婦の仲が良いのは、息子としては喜ばしいことだよな。
と、無理矢理、自分を納得させながら……、
――だが、甘かった。
―ー俺は、母さんを、まだまだ甘く見ていた。
何故なら、母さんの次の一言は……、
……俺の予想を遥かに超越していたのだ。
「――あれ? まこりんの、小さくなった?」
「一体、どんな夢を
見とるんじゃぁぁぁぁぁーーっ!!」
ああ、母さん……、
頼むから、もう少し母親らしくしてくれ……、
……いや、マジで。(号泣)
<おわり>
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