Heart to Heart
第169話 「のどじまん」
さて、突然だが……、
夏の風物詩と言えば、何を思い浮かべるだろうか?
例えば……、
夏場の昼メシの定番である冷麦だったり――
頭にキーンとくるかき氷だったり――
よく冷えたスイカだったり――
・
・
・
なんか、食い物ばかりのような気がするが……、
とにかく、夏の風物詩と言えば、色々と思い浮かべる事だろう。
そして、その中には……、
祭りの出店回り、というものもあるのではないだろうか……、
そういうわけで……、
今、俺達は、商店街主催の夏祭りへと、繰り出していたりする。
みんな〜、なか〜よ〜く、わに〜なって〜♪
て〜をつ〜なぎ〜ましょ〜♪
たの〜し〜く、よう〜きに、さ〜あ、おどりま〜しょ〜〜♪
マイ〜ムマ〜イム〜の、なかから〜♪(ヨイショ)
まりょくほう〜しゅつ〜♪(にゃう〜ん)
ひ〜より〜んお〜んど〜で、ヨヨイのヨイ♪(それっ)
ま〜じか〜るハ〜ンマ〜、そ〜らを〜きる〜♪(にゃう〜ん)
みん〜な〜で〜、わら〜え〜ば〜♪ に〜ほん〜〜ば〜れ〜〜♪
盆踊り特有の、小気味良いリズムの音楽が流れる中……、
俺達は、カラコロと下駄を鳴らし、
道の両脇に並んだ出店を見て回りながら、いつもの商店街を歩く。
いや……、
この表現は、適切ではないな。
なにせ、今は、夏祭りの真っ最中なのだ。
当然、その装いは、いつもとは大きく変わっている。
休み無く、流れ続ける盆踊りの音楽――
アーケードの天井につるされた、たくさんの派手な飾り――
決して、広いとは言えない道に、所狭しと並べられた出店の数々――
そして、商店街の中心にある十字路には、大きな櫓が建てられ、
その上では、サリーちゃんの髭のおっさんが、威勢良く太鼓を叩いている。
さらには、その櫓の下で、ウチの学校の教頭とキノコ頭のおっさんがギターを弾き、
学食のホウメイさんがキーボードを奏でてるし……、
ゲストで呼ばれたのだろうか……、
声優のメグミ・レイナードが、何故か、ホウメイガールズと一緒に唄ってるし……、
おいおいおいおい……、
アカツキ校長まで、某プレ○リーな恰好であんな所に……、
しかも、何処から落ちてきたのか、脳天に金ダライが――
・
・
・
とまあ、色々とツッコミたいところが、多々あったりするが……、
たかが商店街が主催している程度の祭りとは、とても思えないような……、
ってゆーか、すでに祭りとは思えないような規模のバカ騒ぎが展開されているわけだ。
そんな、比喩的表現も込めたお祭り騒ぎを眺めながら――
「毎年の事とはいえ……相変わらずハジケてるよな」
「この商店街って、芸達者な人が多いから……」
「それ以前に、お祭り好きな人が多いんでしようね」
――俺達は、口々に、そんな感想を洩らす。
だがまあ、これも毎年のことなので、既に慣れたもの……、
俺達は、周囲の喧騒に構うことなく……、
一つの綿菓子を、皆で分け合って食べたり――
金魚すくいで、ゲットした金魚の数や大きさを競ったり――
輪投げで、無謀にも、奥に(文字通り)飾ってある景品を狙ったり――
……と、そんな感じで、のんびりと出店をひやかし、マイペースに祭りを満喫していた。
ちなみに……、
さくら達は、当然の如く、浴衣を着ているぞ。
さくらは、桜の花びらが刺繍された綺麗な桃色の浴衣――
あかねは、猫の顔が描かれた可愛らしい青色の浴衣――
エリアは、小さな白い水玉模様の清楚な黄色い浴衣――
フランは、花火模様が描かれた落ち着いた紺色の浴衣――
やっぱり、夏祭りを満喫するには、
気分を出す為にも、それなりの恰好をしないとな。
ついでに言うと、俺も、彼女達に合わせて、作務衣を着ていたりする。
まあ、男である俺の服装なんて、イチイチ説明したって面白くもなんともなだろうが……、
と、それはともかく……、
そんなこんなで、出店を一通り遊び回り……、
道の脇にあるベンチに腰を下ろして、休憩していると……、
「誠さん……あそこでは、何をしているのですか?」
「――んっ?」
俺の隣で、リンゴ飴を食べていたエリアが、
妙な盛り上がりを見せている祭りの一角を指差しつつ、俺に訊ねてきた。
「ああ、あれは――」
と、喋ろうとして、焼きそばを食べている最中だった事に気付き、
まず、俺は、口の中にある物を飲み込むことにする。
そして、エリアが指差す先を確認しつつ、
お茶を一気に飲み、口の中をスッキリさせてから、俺は彼女の質問に答えた。
「――あれは、喉自慢大会だな」
「のどじまん……ですか?」
「ようするに、歌のコンテストだよ。観客の前で歌を唄って、その上手さを競うんだ」
当然、優勝者には、それなりに豪華な賞品が出るぞ」
「はあ、そうなんですか……」
俺の説明を聞き、エリアは納得したように頷くと……、
何やら興味でも持ったのか、喉自慢大会の会場を凝視し始める。
「確か、前回の賞品は、一万円分の商品券、だったかな……?」
と、そう言って、去年の記憶を手繰りながら、
俺は、エリアにつられるように、喉自慢大会の方へと視線を向けた。
ほお……、
今、唄ってるのは、天河食堂の女の子じゃないか?
ちょっと意外だな……、
こういう行事には、あまり参加しないタイプだと思っていたのに……、
「そういえば……」(ボソッ)
「――はい?」
残りの焼きそばも食べ終わり、俺はボ〜ッと喉自慢大会の様子を眺める。
そして、ふと、ある事を思い出し、俺は軽く声を上げた。
それに反応し、喉自慢大会の方に向いていたエリアの視線が、こっちに戻ってくる。
「どうしたんですか?
「いや……喉自慢大会には、ちょっとイヤな思い出があってさ」
「……どんな思い出なんです?」
「それがさ、俺達が、まだガキだった頃、さくらとあかねが――っ!!」
そこまで言った瞬間――
俺の背筋に、ぞわぞわっとイヤな予感が駆け巡った。
「――まさかっ!!」
それを感じると同時に、俺は素早く立ち上がると、すぐ側にいる筈の、さくらとあかねの姿を探す。
だが、しかし……、
案の定、二人の姿は、そこには無かった。
「おいっ、フラン! さくらとあかねは何処に行ったっ!?」
迫り来る最悪の事態に恐怖し……、
俺は慌てて、後ろに立っていたフランに、さくらとあかねの居場所を訊ねる。
すると、フランは……、
「さくら様とあかね様でしたら、あちらにいらっしゃいますが……」
……と、そう言って、喉自慢大会の会場とは、全く正反対の方に目を向けた。
「な、なに……?」
俺の予想に反するフランの答えに、半ば拍子抜けしつつ、彼女の視線の先を追っていくと、
そこには、人数分の焼きとうもろこしを買っている、さくらとあかねの姿が……、
「はあ……やれやれ……」
一瞬、あの『すきすきまーくん事件』が、再び起こるのでは、と思ったのだが……、
どうやら、俺の杞憂でしかなかったようだな……、
と、二人の姿を確認した俺は、安堵の溜息を吐きつつ、ベンチに腰を下ろす。
だが、運命の……、
ってゆーか、お笑いの神様は、あまりにも無情だった……、
「あら? あんなところに、お義母様が……」
「――なにっ!?」
喉自慢大会の様子を眺めていたエリアの口から出た、決定的なその一言……、
それを耳にした瞬間……、
さっき感じたばかりの、あのイヤな予感が蘇る。
そして……、
俺が、再び勢い良く立ち上がるのと――
喉自慢大会の会場から、悪夢のような唄声が聞こえてきたのは――
……ほぼ、同時であった。
「まっこりんと、みーちゃんが、
むっぎばったけ〜♪
こっそり、えっちキスし〜たい
じゃな〜いか〜♪」
次の瞬間――
俺の血を吐くような大絶叫が……、
お盆祭りの会場である商店街中に響き渡ったのは……、
――まあ、言うまでもないだろう。(泣)
ああ、またしても……、
またしても、商店街の皆さんに、いらぬ話題を提供して……、
頼むから……、
もう、勘弁してください……、(大泣)
おまけ――
「まったく……トンデモナイ替え歌を唄いやがって……、
しかも、何気に聞き捨てならない単語まで出てたような気がするし……」
「まこりんったら、取り消し線のところまで気にしちゃダメだよ♪」
「やかましいわっ! このバカ母がっ!!
だいたい、何で、俺と母さんが、麦畑でこっそりキスなんぞしなきゃならんのだっ!」
「え〜? じゃあ、堂々とするの?」(ポッ☆)
「――するかっ!!」
――ちゃんちゃん♪
<おわり>
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