Heart to Heart

     第163話 「あせって早合点」







「さあっ♪ す〜いこんで〜くれ〜♪
ぼくのさ〜び〜しさ〜、こどく〜を、ぜ〜んぶきみが〜♪」


「さあっ♪ か〜みくだいて〜くれ〜♪
くだらんこ〜と、なや〜みすぎ〜る〜、ぼくの、わ〜るい、くせ〜を〜♪」




「あ、あかねちゃん、さくらちゃん……、
お願いだから、水着を選ぶなら、もうちょっと静かに……」(汗)


「二人とも、気合い入りすぎて、すっかりテンション上がってますね」(汗)





 無事に一学期も終わり――

 高校生活二度目の夏休みがやって来ました。

 まあ、二度目と言っても、来年は大学受験がありますから、
実質、高校最後の夏休みとも言えます。

 なにせ、わたし達が志望する冬弥お兄さん達が通っている大学って、
ちょっとレベルが高いんですよね。

 こういう事を言うのは、ちょっと気が引けるのですが……、
 特に、まーくんにとっては難関なのです。(ちなみに、あかねちゃんは楽勝です)

 ですから、来年の夏休みは、
受験勉強をメインに計画を立てなければいけません。

 もちろん、息抜きも兼ねて、旅行などには行くつもりですけど……、

 ああ、でも……、
 その頃には、まーくんは18歳になっていますよね……、

 法律では、男性は18歳、女性は16歳で、結婚は可能です。
 そして、お互いの両親の了承があれば、未成年でも結婚は出来ます。

 つまり……、
 来年の今頃には……、





学生結婚♪





 ……なんて事になってしまっているかもしれません♪

 そうなれば……、
 あとは、もうトントン拍子に……、





婚約っ!(はぁと)
結婚っ!(はぁと)
初夜っ!(はぁと)
出産っ!(はぁと)



そして……、



夢の四世帯家族完成っ!(はぁと)





 ……な〜んて事になっちゃってるかもしれません♪

 まあ、相手が朴念仁のまーくんですから、その可能性はかなり薄いですが……、
 でも、万が一、ということもあるでしょうし……、

 ――クスッ♪

 もしかしたら、来年の夏は、
受験勉強どころではないかもしれませんねぇ。(はぁと)

 うふ……♪
 うふふふ……♪

 うふふふふふふふ……♪


 ……。

 …………。

 ………………。


 ――はっ!?

 い、いけません……、
 のっけから、トリップしてしまいました……、(大汗)

 夏の暑さで、頭がちょっと熱暴走でも起こしているのかもしれませんね。

 わたしとしたことが……、
 琴音さんみたいに、妄想に耽ってしまうなんて……、

 と、とにかくです……、(汗)

 そういうわけなので、何の気兼ねも無しに、夏休みを楽しめるのは、
高校生活では、今年が最後になってしまうわけです。

 ですから、今年の夏休みは、
悔いを残さないように、目一杯、夏を満喫しなければいけません。

 そして、今年こそ……、
 この夏こそ、まーくんと……、(ポッ☆)

 うふふふ……、
 うふふふふふふふ……♪

    ・
    ・
    ・




「あああ……なんだか、琴音ちゃんがもう一人いるみたい」(泣)

「葵ちゃん……それ、どういう意味?」(汗)





 とまあ、そういうわけで――

 今日は、みんなで駅前のデパートに来ています。

 目的は、新しい水着の購入です。
 去年と同じ水着では、まーくんを悩殺出来ませんからね♪

 ちなみに、さっきから外野でツッコミ入れてるのは、琴音さんと葵さんです。
 せっかく、お買い物に行くのですから、大勢の方が楽しいですからね。

「――それで、今年はどんな水着にしたんです?」

「ふぁい……?」

 買い物も終わり、デパートを出たわたし達は、
この後、特に予定も無かったので、他愛ないお喋りをしながら街を歩きます。

 そして、通り掛ったクレープ屋さんで買ったクレーブを頬張っていると、
何の脈絡もなく、唐突に、琴音さんが、わたしに訊ねてきました。

「もぐもぐ……んくっ……何です?」

 口の中に入っていたクレープを飲み込み、わたしは琴音さんに訊き返します。
 すると、琴音さんは、口元に手を当てて、ニンマリと微笑むと……、

「だから、さくらちゃんとあかねちゃんは、
今年は、どんな水着で、藤井さんを誘惑するんですか?」

「そ、それは……」(ポッ☆)

 あまりにストレートな質問に、わたしは言葉を詰まらせてしまいました。

 しかし、あかねちゃんは、
わたしみたいに狼狽えたりしなかったようです。

 買ったばかりの水着が入った紙袋を、それはもう得意気に掲げると、
えっへんと胸を張って、琴音さんに話し始めました。

「えっとね、あたしは――」

「――はい、ストップ」

 それを邪魔するように、わたしはあかねちゃんの口に、
さっきまで自分が食べていた、食べ掛けのクレープを突っ込みます。

 ここで、琴音さん達に話したりしたら、まーくんの耳に届いてしまうかもしれません。

 やっぱり、こういうのは、本番当日(?)にお披露目して、
まーくんをビックリさせたいですからね。

 水着はプールや海で着てこそ華というものです。
 となれば、当然、そっちの方が、まーくんへのインパクトは強いはず……、

 せっかく、まーくん誘惑アイテムである新しい水着を買ったのですから、
より効果的な場面で使うべきなのです。

「むぐぐ……っ?」

「あかねちゃん……それは、まだ秘密です♪」

「…………」(コクン)

 突然、わたしに口を塞がれ、目を見開いて、抗議の声を上げるあかねちゃん。

 でも、あかねちゃんは、とても賢い子です。
 わたしの『秘密』という言葉だけで、それをちゃんと理解してくれました。

 そして……、
 そういう事に察しの良い人が、ここにもう一人……、

「もしかして、旅行にでも行くんですか?」

「はい、また隆山に行くつもりです」

 訊ねる琴音さんに、今度はアッサリと、わたしは頷きます。
 まあ、別に隠すような事でもないですし……、

「てっきり、帰ったら、早速、お披露目かと思ってたんですけど……」

 わたしの言葉を聞き、大いに納得したように……、
 でも、少しだけ意外そうに呟いて、琴音さんは苦笑しました。

「それでも別に良いんですけどね……、
今日は、まーくんは、約束があるそうで、お留守なんです」

「ホントは、まーくんと一緒にお買い物に行きたかったのに……」

 今朝の、まーくんとの電話でのやり取りを思い出し、わたしはちょっと寂しげに微笑みます。

 あかねちゃんなんかは、もっと露骨です。
 頬をぷぅっと膨らませ、イジケたように、道に落ちていた空き缶を蹴飛ばして……、

 あらら、自販機の横に置かれゴミ箱に、綺麗に入りましたね。
 さすがは、あかねちゃん♪ ナイスシュートです♪

 まあ、それはともかく――

「藤井君が、さくらちゃん達の誘いを断わるなんて珍しいね?」

 さっきから、ずっと黙ったまま、
わたし達の話を聞いていた葵ちゃんが、そう言って、小首を傾げます。

 そして……、

「その約束って……誰と約束してたんだろ?」

 葵ちゃんは、首を傾げつつ、わたしの方に視線を向けると、
『聞いてないの?』と、目で訊ねてきました。

 そんな葵ちゃんの問いに、わたしは首を横に振ります。

 言われてみれば、その通りです……、
 どうして、わたしは、まーくんに電話した時に、約束の相手のことを訊かなかったのでしょう?

 まあ、あの時は、特に気にしませんでしたから……、
 まーくんが約束するような相手といえば、大抵、浩之さんでしょうし……、

「まーくん……誰と会っているんでしょう?」

 やっぱり、浩之さんでしょうか?
 それとも、冬弥お兄さんでしょうか?

 雅史さんって事は、絶対に有り得ないでしょうけど……、

 うううう……、
 改めて考えてみると、だんだん気になってきました。

 もちろん、親しい仲とはいえ、プライベートな事を知りたがるのは、
良くないことなのは分かっていますけど……、

 分かっていても、やっばり気になります。
 何だか、妙に悪い予感がして不安になってきましたし……、

 そういえば……、
 何も、相手が男の人だとは限らないんですよね……、

 と、思い至った瞬間――

「――はっ! も、もしかしてっ!?」

 脳裏に、トンデモナイ想像が浮かび上がり、
わたしは思わず大声を上げてしまいそうになり、慌てて口を手で塞ぎました。



 まさか……、
 
まーくん、浮気しているのではっ!?



「――って、そんなわけないですよね」

 そう言いつつ、わたしはブンブンッと頭を振って、
ついつい思い浮かべてしまった想像を、脳裏から打ち消します。

 まーくんには、わたし達がいるんですから、浮気なんてするわけがありませんよね。

 確かに、ここ最近、みことさんのお友達の、
あの双子姉妹に、妙に懐かれてるみたいですけど……、

 でも、相手は、お子様なんですから、大丈夫のはずです。

 もっとも、まーくんの体に流れる尚也おじさまの血が不安材料ではありますが……、

 とにかく、わたしは、まーくんの恋人で、
将来のお嫁さんになのですから、ちゃんとまーくんを信じてあげないと……、

 一瞬とはいえ、まーくんを疑ってしまった事を反省し、
わたしは、心の中で、まーくんに謝罪します。

 と、その時――





「あの……あそこにいるの、藤井さんじゃないですか?」

「――はい?」





 琴音ちゃんの、不意打ち気味の言葉に反応し、
わたしは、慌てて我に返ると、素早く、琴音ちゃんが示す方へと目を向けました。

「あ……」

「うみゃ……」

 琴音ちゃんが示した先は……、
 わたし達がいる場所から、車道を挟んだ、反対側の歩道……、

 大通りだった為、車道の幅か広く、
ちょっと遠くて、その姿は判別し難いですが、間違いありません。

「まーくん……?」

「うみゃみゃ……?」

 まーくんの姿を認めた、わたしとあかねちゃんは、
あまりのタイミングの良さに、その場に、呆然と立ち尽くしてしまいます。

 いえ、そうではありませんね……、
 別に、現れたタイミングなどは些細なことです。

 それ以上に、わたしとあかねちゃんを驚かせたのは……、

 なんと、まーくんは……、
















わたし達の知らない女の人と
仲良く一緒に歩いていたのですっ!!



しかも、とても綺麗な人ですっ!!



さらには……、








「やっきにっく、やっきにっく、うっれしっいな〜♪」

「ホ〜ルモン、タ〜ンし〜お、じょ〜うカ〜ルビ〜、ですの〜♪」








なんだか、凄く楽しそうですっ!!


二人並んで、スキップなんか踏んでますっ!








間違いありませんっ!!
これは浮気の現行犯ですっ!!
















「男と女が二人で焼肉、ですか?」

「それって、デキてるとも言うよね?」

「つまり、まーくんとあの女の人は……」

「……そんな焼肉チックな関係なの?」







「あれ? あの人って、確か、大影流の……」

「葵ちゃん? 知ってる人なの?」

「う、うん……大影流柔術の道場で会ったことがあるの」

「どうして、そんな人と藤井さんが……?」

「多分、食べ物関係じゃないかな?
すばるさんも、藤井君並に、良く食べる人だったから……」








「うふ、うふふ、うふふふふふふふ……」(怒)

「まーくん……あたし達の誘いを断わっておいて……」(怒)

「これはもう、お仕置きが必要ですね」(怒)

「うみゅ、泣いても許して上げないんだから……」(怒)







「そういえば、今朝の新聞広告の中に、
開店したばかりの焼肉屋さんのチラシがありましたよね?」


「確か、30分で10人前を食べたら賞金が出る、っていうのだったっけ?」

「…………」(汗)

「…………」(汗)

「よく見たら、楓さんとスフィーさんが先立って歩いてますよ」

「という事は……今日は四人でお食事会だったんだ」








「取り敢えず、エリアさんとフランさんにも連絡を……」(怒)

「まーくん……浮気は許さないよ……」(怒)







「……もう、止めても無駄ですね」

「そ、そうだね……」

「…………」(大汗)

「…………」(大汗)

「……い、いきましょうか?」

「そ、そうだね……巻き込まれないうちに……」

「藤井さん……ご武運を……」(合掌)
















「まーくんの浮気者ぉぉぉっ!!」

「うみゃああああーーーっ!!」


「二人とも、ちょっと待てっ!
とにかく待てっ!
 急いで待てっ!
これは誤解だっ!
 冤罪だっ!!」


「問答――っ!!」

「――無用っ!!」
















「ぎぃやあああああああああ
あああああああああああああ
あああああああーーーっ!!」
















「ぱ、ぱぎゅ? 何が起こったんですの?」

「あ〜、気にしなくて良いよ。いつものことだから」

「…………」(コクコク)

「そ、そうですの……?」(汗)

「そうそう♪ それよりも、早く食べに行こうよ♪」

「……はい、行きましょう」

「え、えっと……でも、誠君は助けなくて良いですの?」

「じゃれ合ってるだけだから、放って置けば良いよ」

「……仲の良い証拠です」

「ぱ、ぱぎゅ〜……」








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