Ｈｅａｒｔ ｔｏ Ｈｅａｒｔ
第１６２話 「手の平サイズ」
「……なんだ、これは？」
ある日の夜――
昼間に遊びに来ていたフランが作っておいてくれた晩メシを食べながら、
俺は撮り溜めしておいた深夜アニメを見ていた。
時計の針が０時を回った頃には、
それも見終わり、そろそろ寝ようかと、俺は自分の部屋へと向かう。
「ちょっと変わった戦国モノかと思ってたのに、
まさか、いきなりモビルスーツみたいなモンが出てくるとはなぁ〜……」
と、さっきまで見ていたアニメの内容を思い返しつつ、部屋着からパジャマに着替える俺。
そして、ベッドに横になろうと、
そちらに視線を向けた俺は、ふと、妙な物を発見した。
「……ぬいぐるみ、か？」
それを発見した俺は、眉間にシワを寄せて、訝しげに呟く。
――そう。
それは、ぬいぐるみであった。
サイズは、だいたい手の平に乗る程度……、
例えるなら、ＵＦＯキャッチャーの景品で良く見るくらいの大きさ……、
そんな、小さなぬいぐるみが、
どういうわけか、俺のベッドの上に、ぽてっと置かれていたのだ。
「どうして、こんな物が俺のベッドの上にあるんだ？」
そのぬいぐるみをヒョイッと持ち上げ、ベッドに腰を下ろすと、
俺は、それを見詰めつつ、記憶の糸を手繰る。
確か、朝には、こんな物は無かったよな……、
それに、最近、ゲーセンにだって寄っていないし……、
う〜む……、
やっぱり、身に覚えは無いぞ。
「――？ そういえば……」
と、ぬいぐるみをしげしげと眺め、
頭を捻らせていた俺は、不意に、ある事に気が付いた。
可愛い髪止めで纏められた金髪――
全てを真っ直ぐに見つめる純粋な蒼い瞳――
そして、すっかり見慣れたメイド服――
「なんか……妙にフランに似てるよな？」
何気なく、ぬいぐるみの髪をさわさわと弄りつつ、俺はそう呟く。
――そう。
そのぬいぐるみは、フランに良く似ていたのだ。
まるで、フランがデフォルメ化されて、
ぬいぐるみサイズになってしまったかのように……、
「まさか、本物のフランなんじゃ……って、そんなわけね〜か」
と、思わず馬鹿な事を考えてしまい、苦笑をもらす俺。
自動人形のフランが、小さなぬいぐるみになっちまうなんて……、
そんなの、ある意味、シャレになってない、っての……、
大方、さくらかあかねが作った物なのだろう。
あいつら、俺に似せたぬいぐるみを、やたらと大量に作ってるし、
何かの気紛れで、フランに似せたぬいぐるみを作ったのかもしれない。
……それとも、フラン自身が作って、持ってきたのかな？
そう仮定すれば、今朝まで無かったぬいぐるみが、
俺の部屋に置かれているのにも、一応、納得のいく説明が出来る。
なにせ、ついさっきまで、フランは家にいたのだ。
その帰り際に、このぬいぐるみを置いて行ったのかもしれない。
まあ、仮にそうだとしても、今度は、
フランが、そんな真似をする理由が分からなくなるのだが……、
「まっ、いいか……」
そんな細かい事など、別に気にする必要は無いだろう、と、
この件については、もう考えるのは止め、俺はゴロリとベッドに横になった。
「それにしても、良く出来てるよな〜……」
そして、両手でぬいぐるみを目前に掲げて、その出来具合に感心しつつ、
これを作ったのは、やっぱりフランだ、と、確信する。
その理由は簡単。
ハッキリ言って、上手すぎるのである。
造形もさることながら、その触り心地は、まさに絶品。
ぷにぷにしていて……、
それでいて、しっとりとしていて……、
いつまで触っていても飽きないであろう絶妙な感触……、
さくらとあかねが作ったぬいぐるみは見たことはあるが、
まだまだこの域には達していないのだ。
多分、エリアの技術も、さくら達と似たようなモンだろうし……、
となれば、考えられるのはフランしかいない。
やはり、この辺は、圧倒的な経験値の差によるものなのだろう。
まあ、裁縫が得意なはるかさんなら、アッサリ作ってしまいそうだが……、
それはともかく……、
「う〜ん……気持ち良いな〜♪」
間違い無く、某たれぱ○だを凌駕しているであろう、その感触に、魅入られた俺は、
思い付くがままに、ぬいぐるみに指を這わせる。
髪を軽く指先に巻きつけてみたり――
胸やお腹やお尻をフニフニと押してみたり――
お約束通り、下着を履いているのかどうか確認したり――
さらにはスカートの中に指を――
「――って、そこまでやったら変態だっ！」
思う存分に、ぬいぐるみを弄くり回していた俺は、
自分がやっている事に気付き、慌てて理性を奮い立たせた。
そして、何度か深呼吸をした後、ぬいぐるみから手を離し、それを枕元に置く。
「まったく……何やってるんだ、俺は」
頭をゴツゴツと殴りながら、自分を罵る俺。
危ない、危ない……、
もう少しで、変態と呼ばれても言い訳できない真似をしてしまうところだった……、
恐るべきは、このぬいぐるみ、だな。
フランに似ている所為だろうか……、
その感触に、ついつい夢中になってしまった。
「……もう寝よ」
ぬいぐるみに対して、ちょっとだけ戦慄を覚えつつ、俺は枕元に置いたそれをジッと眺める。
そうしている内に、再び、触りたいという衝動が芽生えてきたので、
俺は、咄嗟に部屋の明かりを消すと、頭から布団を被り、サッサと寝ようと目を閉じる。
そして――
せっかく、良い物を貰ったわけだし……、
今度、フランに会ったら、お礼を言っておかないとな……、
と、そんな事を考えながら――
「……おやすみ、フラン」
――俺は眠りに落ちていくのだった。
で、次の日の朝――
目を覚ました俺の腕の中にフランがいて――
しかも、間が悪い事に、それをさくら達に目撃されて――
それはもう……、
トンデモナイ騒ぎになったのは……、
……まあ、言うまでもないだろう。
「――ルミラ様っ！！」
「あら？ どうしたの、フランソワーズ？」
「まさか、ああなる事を分かっていらっしゃったのですかっ？！」
「んん〜？ 何のことかしら〜♪」
「惚けるのはお止めくださいっ！ ぬいぐるみの姿に変化して、
誠様のお部屋に行くように、ワタシにご指示下さったではないですかっ！！」
「そういえば、そうだったわね〜♪
それで、昨夜は、誠君に何をされちゃったのかしらん？」
「そ、それは……」（ポッ☆）
「それは〜？」（ニヤニヤ）
「誠様の手が……ワ、ワタシの……」（ポポッ☆）
「わたしの〜？」（ニヤニヤ）
「そ、それで、戻るに戻れなくなってしまいまして……」（ポポポッ☆）
「ふんふん、それで？」（ニヤニヤ）
「…………」（←顔を真っ赤にしている）
「…………」（←心底、楽しそう）
「…………」（←そんなルミラに気付き、無表情になる）
「…………？」（←フランの様子に首を傾げる）
「……ルミラ様」（ジトー）
「な、な〜に？」（汗）
「今夜のお夕飯は、ニンニクたっぷりのギョーザにさせて頂きます」（ぺこり）
「あああっ！！ そんな殺生なっ！！」（泣）
――ちゃんちゃん♪
＜おわり＞
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