Heart to Heart
第158話 「ねこあそび」
『桐島流最終奥義! 公相君っ!!』
『破邪剣征! 桜花天昇っ!!』
『アイリスのた〜いせつなお友達♪ イリス・プロディジュー・ジャポールッ!!』
「光あることを伝えん……エヴァン・ジルッ!!」」
『『狼虎滅却っ! いつだって、二人はっ! 一流のマジシャンッ!
アムール・ソルシエールッ!!!』』
とある日曜日の午後――
学期末のテストに向けた勉強を一時中断した俺は、
休憩と気分転換を兼ねて、リビングでTVゲームに興じていた。
――なに?
テスト前だってのに余裕だな、って?
あのな……、
いくらテスト前だからって、勉強ばっかりしてたら気が滅入っちまうだろ?
勉強ってのは、集中しようとすればする程、やたらと他の事が気になってくるし……、
すぐに眠気が襲ってきて、ウトウトしてくるし……、
そんな状態で、無理して続けたって、身に入るわけが無い。
だから、俺は、いつも、だいたい二時間くらい毎に休憩を入れるようにしているのだ。
そういうわけで、今、こうしてTVゲームをしているのも、
いわゆる気分転換の一つなのである。
……決して、現実逃避しているわけではない。
「それにしても……」
ポーズボタンを押し、ゲームを一時停止させると、俺は何気なく縁側へと視線を向ける。
そこには……、
「うみゅ〜……」
お気に入りのクッションを枕にして、昼寝をしているあかねの姿があった。
「はあ〜……あかねが羨ましい」
春の暖かい日差しの下、ぬくぬくと気持ち良さそうに眠っている、
あかねを見ながら、俺は深々と溜息をつく。
さて……、
何故、あかねが羨ましいのか、と言うと……、
まあ、今更、説明する必要は無いかもしれんが、
あかねは、俺達の中で一番、学校の成績が良かったりする。
なにせ、伊達眼鏡を掛けて、インテリモードになれば、
ミサイルの弾道計算を暗算ってやってしまうくらいの、いわば『歩くコンピューター』だ。
高校で学ぶレベルの知識を覚えることなど、あかねにとっては、造作も無いことなのだろう。
もっとも、何故か、常識レベルのことを、
見事なまでに、全く知らなかったりする事もあるのだが……、
随分と前の話だが、『トナカイって空飛ぶの?』発言は、まだ記憶に新しいし……、
まあ、ようするに、アレだ……、
『天才と何かは紙一重』ってやつだ。(笑)
特に、あかねの場合、インテリモードの副作用である猫さんモードの存在が、
それを顕著に表しているしな。
それはともかく……、
「ったく、いつまで猫さんモードでいるつもりだ?」
未だに眠っているあかねを横目に、そう呟きつつ、俺はやれやれと肩を竦める。
そして、壁に掛けられた時計にチラリと目を向けると、再び溜息をついた。
もう、かれこれ二時間くらい、猫さんモードは持続している。
期末テストに向けて、不安ありまくりの俺としては、
そろそろあかねに元に戻ってもらって、勉強を再開したいところなのだが……、
いっそ、あかねは放っておいて、俺だけで勉強を始めるか?
でも、俺一人でテスト勉強したって、大して効果があるとは思えない。
それに、猫さんモードのあかねが、いつ、俺にじゃれついてくるかも分からないから、
勉強に集中なんて出来ないし……、
となれば、やっぱり、あかねが元に戻るまで待つしかないわけで……、
「はあ〜……」
その結論に達した俺は、三度、溜息をつき、
コントローラーを手に取ると、中断していたTVゲームを再開する。
『ねえ、イチロー……長安の最後のお願い……、
ボク、かなえてあげても良いよ……』
「いや、その年齢で子供産むのは無理ってモンだろう?」
と、ゲーム内のキャラに向かって、思わずツッコミなんぞを入れつつ、プレイを続ける俺。
ちなみに、プレイしているのは、火葬(ト空?)戦記並にブッ飛んだ設定満載の、
某秘密部隊の外道隊長が主人公のゲームだ。
――ん?
どのへんが外道なのかって?
そりゃ、もちろん、下は12歳から上は23歳まで、
総勢13人のヒロインに手を出してる、って事に決まってるじゃね〜か。
まったく、外道っぷりも、ここまでくると大したものである。
人数だけなら浩之以上だし……、
まあ、俺は、さくらやあかね達のことがあるから、人のことは言えないんだけどさ……、
と、それはともかく……
それから、三十分くらい経っただろうか……、
「――あら?」
階段を降りる足音がしたかと思うと、
フィルスノーンから帰って来たエリアがリビングへとやって来た。
「誠さん? 今日はお勉強をするんじゃなかったんですか?」
テーブルの上に散乱している筆記用具や教科書の類――
それを放ったらかしてTVゲームなんぞをやって遊んでいる俺――
そんな光景を見て、エリアは、ちょっと批難めいた視線を俺に向ける。
まあ、確かに、端から見れば、勉強サボッてるようにしか見えないから、
真面目なエリアがそんな反応をするのも、もっともなのだが……、
「あんな状況じゃ、ロクに勉強なんてできね〜よ」
それでも、一応、弁解を試みようと、俺は縁側で寝ているあかねを指差す。
「……?」
軽く眉間にシワを寄せ、俺が指差す先に目を向けるエリア。
そこで、ようやく、あかねの現状に気が付いたようだ。
エリアは、足音をたてないように、ゆっくりとあかねに歩み寄ると、
そこに腰を下ろして、あかねの頭を撫で始める。
「もしかして、猫さんモードですか?」
「ああ……だから、あかねが元に戻るまでは、勉強なんて出来そうに無いだろ?」
「は、はあ……」
俺の言葉に、エリアは何となく釈然としない表情を浮かべつつも、一応、頷きを返す。
そして、あかねの頭を撫でるのを止めると、エリアはスクッと立ち上がった。
「誠さん、もうお昼ご飯は食べましたか?」
「いや、エリアが帰って来てから、一緒に食べようと思ってたから……」
「それじゃあ、すぐに作っちゃいますから、ちょっと待っててくださいね」
そう言って、ニコリと微笑み、キッチンへと向かうエリア。
すると……、
「ん〜……ふにゃ〜……」
そんなエリアの気配に気が付いたのだろう。
目を覚ましたあかねは、頭に着けた猫耳をピクピクと震わせつつ、眠そうな声を上げた。
そして、両前足……じゃなくて、両手を前に突き出すと、ググ〜ッと背筋を伸ばす。
その猫っぽい仕草から察するに、まだ、猫さんモードから戻っていないようだ。
過去の経験から、そろそろ戻っても良い頃合たど思うのだが……、
と、首を傾げる俺を余所に、まだ眠い目を、手の甲でゴシゴシと拭うあかね。
「あかねさん、おはようございます。
すぐにご飯にしますから、ちょっと待っててくださいね」
「うみゅ〜……」
エリアの声が聞こえているのかいないのか……、
あかねは、その言葉に生返事をするかのように鳴き、何やらキョロキョロと周囲を見回す。
そして、テレビの前に座っている俺に、その視線がピタッと止まったかと思うと……、
「うにゃ〜ん♪」
いきなり甘えた声を上げ、トコトコと俺に歩み寄り、
胡座をかいていた俺の足の間に、ストンと自分の体を納めてしまった。
さらに……、
「うにゅにゅにゅ〜……♪」
と、俺の服をギュッと掴んで、胸に頬を摺り寄せてくる。
「どうした? かまってほしいのか?」
「うみゃっ♪」
俺の問い掛けに、返事をするように、シュタッと片手を上げるあかね。
そして、今度は、俺の頬をペロペロと舐めてきた。
「よ〜しよしよし♪ それじゃあ、たっぷり可愛がってやるからな♪」
そんなかまって光線全開なあかねの態度に、
すっかり萌えてしまった俺は、ここぞとばかりに、思い切り遊んでやることにする。
なにせ、猫というのは気位が高く、自由を愛する動物である。
それ故、猫の方から催促して来ない限り、
こちらから寄って行っても、逆に避けられだけなのだ。
だから、こちらからの一方的な愛情を押し付けるのではなく、相手の意思を尊重して、
歩み寄ってくるのを、ひたすら待つ。
そして、かまって欲しいと訴えてきた時には、思う存分、満足するまでかまってやる。
これこそが、猫の正しい可愛がり方……、
愛猫家としての、猫の正しい愛し方なのである。
とまあ、薀蓄はこのへんにしておくとして……、
早速、我が家の愛猫である『あかね猫』を、存分に可愛がってあげるとしよう♪
「ほ〜れ、こちょこちょ♪」
「ふみ〜♪」
まずは、猫遊びの基本(?)に則り、顎の下……、
「確か、ここも気持ち良かったんだよな?」
「うにゃ〜ん♪」
続いて、コスプレグッズであるにも関わらず、
どういうわけか、しっかりと感覚機能がある猫耳猫尻尾……、
「ふっふっふ〜っ♪ こ〜んなところも撫でちゃうぞ〜♪」
「ふにゃにゃにゃにゃ〜♪」
さらには、ゴロンと仰向けにして、
曝け出された、真っ白なすべすべのお腹を撫でたりして……、
「背中なんかどうだ? ほれ、ツツ〜……っと♪」
「にゃあ〜〜〜ん♪」(はぁと)
「あ、あの……」(汗)
・
・
・
「ほおずりほおずり〜♪」
「み〜み〜み〜♪」(はぁと)
「ま、誠さん……?」(大汗)
・
・
・
「ああっ、もうっ! 可愛いなぁ〜♪」
「ふみゅう〜〜〜っん♪」(はぁと)
「しくしくしくしくしくしく……」(泣)
・
・
・
とまあ、こんな感じで……、
小一時間程、これでもかと言うくらいに可愛がってやると……、
「ふに〜〜〜〜〜〜……♪」(はぁと)
ウットリとした表情を浮かべたまま、
あかね猫は、俺の膝の上で、クテッと力尽きてしまった。
その満ち足りた様子を見た限りでは、どうやら、満足してくれたようだ。
これなら、次に気が付いた時には、元に戻っているだろう。
「やれやれ……」
再び、眠ってしまったあかねを、起こしてしまわないように膝から降ろし、
そっと抱き上げると、俺はゆっくりと、あかねをソファーに横たえた。
そして、縁側からクッションを持ってきて、あかねの頭の下に入れてやる。
「さて、と……じゃあ、もうしばらく、待つとしますか」
気持ち良さそうに眠るあかねの頬を二、三度、ツンツンと突付いて、反応を楽しんだ後、
俺は軽く肩を竦め、床に置きっぱなしにしてあったコントローラーを手に取る。
と、ちょうど、そのタイミングで……、
ぐぅぅぅぅ〜〜〜……
……思い切り、腹の虫が鳴った。
「あう……」
突然、湧き上がってきた空腹感に、
俺は昼メシを食べていなかった事に気付き、腹を押さえる。
そして、それと同時に、ある事を思い出していた。
「あれ? そういえば、エリアは何処に行ったんだ?」
確か、昼メシを作りに、キッチンに入っていたと思うのだが……、
もう、あれから、かなり時間は経っているというのに、一体、何をしているのだろう?
「まあ、いいか……もうちょっとだけ、待ってみよう」
これだけ時間が掛かっている、ということは、
もしかしたらご馳走を作ってくれているのかもしれないし……、
「〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜♪」
と、空腹感を堪えながらも、期待に胸を膨らませ、
今、プレイしているゲームの主題歌を鼻歌で口ずさみつつ、俺はゲームを再開するのだった。
まさか、エリアが……、
「こ、これを着ければ、私も誠さんと……、
で、でも、こんなの着けるなんて、ちょっと恥ずかしいですし……」(ポッ☆)
と、キッチンで、あかね特製の猫耳猫尻尾を持って、
何やら葛藤しているとは、知りもしないで……、
はあ〜……、
ご飯は、まだかな〜♪
<おわり>
<戻る>