Heart to Heart

      第154話 「あとのまつり」







「むねが〜ふる〜える〜♪ あわく〜ゆれ〜てる♪
まわる、こ〜のそ〜ら〜。みず〜い〜ろ〜♪」



 とある土曜日の午後――

 誠さんのお知り合いが経営するコンビニ『スリーアイズ』での用事を済まし、
家に帰って来たはるかは、早速、自分の部屋で、持ち帰った戦利品の確認をする事にしました。

 スキップを踏みながら階段を上がり、自室に入ると、
ベッドに腰掛け、袋から戦利品を取り出します。

「うふふふふふ……♪」

 あらあら……、
 はるかったら、いけませんね。

 これからの至福の時間のことを考えると、ついつい笑みがこぼれてしまいます。

 でも、それも仕方ないんです。
 何故なら、今回の戦利品は、それはもう期待の大きい物なのですから……、

 ――はい?
 さっきから言っている『戦利品』って何のことか、ですか?

 それはですね……、
 この、出来立てホヤホヤの写真のことなのです。

 つまり、さっき言っていたコンビニでの用事というのは、
この写真を取りに行っていたわけですね。

「さてさて、上手に撮れているでしょうか〜♪」

 袋の中から写真を取り出したはるかは、
鼻歌混じりで、その写り具合をチェックしていきます。

 何と言っても、今回のフィルムには、凄いのがたくさん入っていましたからね。

 これでもし、撮り逃してたり、ピントがズレてボヤけてたりしたら、
はるか、ショックで寝込んじゃいます。

 とは言っても、はるかやあやめさんが撮ったんですから、
そんな事は、万が一にも有り得ないんですけどね。

 それはともかく……、

「あらあらあらあら〜♪」

 一枚一枚、ゆっくりと、はるかは写真を眺めていきます。

 そして、写真の束から、今回のフィルムの中ではベスト3に入るであろう、
会心の一枚が出て来た瞬間、はかるは思わずそれに見入ってしまいました。

「はう〜……誠さんったら、可愛いです〜♪」

 それに写っていたのは、何を隠そう誠さんです。

 しかも、ただの誠さんでは無く、
何故か、ピンクハウス系のフリフリな服を着た誠さんなのです。

 はあ〜……、
 さすがは、みことさんの子供ですね。

 大きく成長した今でも、こういう愛らしさは、昔から全く損なわれていません。

 特に、恥ずかしそうに頬を赤く染めて、
上目遣いにカメラの方を見ている姿なんて、もう……、

 と、はるかは頬に手を当てて、ウットリと写真を眺めます。

 うふふふ……、
 誠さんに、無理を言って撮らせて頂いた甲斐がありました。

 さすがに女装をするは、かなり嫌がっていましたが、
はるか達がお願いすれば、誠さんは、大抵のことには頷いてくれますからね。

 ちなみに、どうやってお願いしたのかと言いますと……、

 はるかとあやめさんの二人掛かりで、ご褒美の前払いという意味も込めて、
い〜っぱいキスしてあげたんです♪

 そうしたら、誠さんは、はるか達が108回目キスしたところで頷いてくれました。

 うふふふ……♪
 よっぽど、はるか達のキスが嬉しかったんでしょうね〜♪

 あの時の誠さん、嬉し泣きしながら、服を着替えてましたから……、

 それにしても、キスの回数が、
ピッタリ煩悩の数と同じだったのは、偶然だったんでしょうか?

 ――そうですっ!
 とっても良いことを思いつきましたっ!

 今年の大晦日は、さくらさん達も交えて、
除夜の鐘に合わせた年越しキスをしちゃいましょう♪

 はるかと、あやめさんと、さくらさんと……、
 108回なら、ちょうど六人で割り切れますからバッチリです♪

 あっ……でも、みことさんを計算に入れると、数が合わなくなっちゃいますね。

 だったらら、最近、誠さんと仲の良い、あの双子の姉妹さん達もご招待しちゃいましょうか?
 それなら、ちょうど九人になって、キレイに割り切れますし……、

 まあ、それはともかく……、

「この写真は大事に保管しておくことにしましょう♪」

 と、ルンルン気分で呟きつつ、はるかは、
その誠さんの女装写真を、他の写真とは分けた場所に置きました。

 そして、鑑賞の対象を次の写真へと……、





「あらあらあらあら♪」


「まあまあまあまあ♪」


「うふふふふふふふ♪」





 幸せそうに微笑みながら、誠さんに膝枕をしているさくらさん――
 はるかお手製のセイ○トテールの衣装を着たあかねさん――
 ボタンが取れてしまった誠さん制服を繕うエリアさん――
 誠さんに手を握られて、顔を赤くしているフランさん――


          ・
          ・
          ・





 次々と出てくる、微笑ましい光景が写された写真に心を奪われ、
はるかは、時間が過ぎていくのも忘れて、写真鑑賞に没頭してしまいます。

 はあ〜……、
 どれもこれも、全部、素敵です。

 特に、この一枚は最高ですね♪
 間違いなく、今回、現像した写真の中ではナンバー1です。

 猫さんに囲まれてお昼寝している誠さん――
 そんな誠さんの頬に、こっそりとキスしているさくらさん――

 誠さんの無防備な寝顔も素敵ですけど……、
 ちょっと恥ずかしそうに、誠さんにキスしているさくらさんの表情が、とっても可愛いです♪

「これも永久保存決定ですね」

 いつまでも眺めていたい衝動をグッと堪えて、
はるかは、その写真を先程の誠さんの写真を置いた場所と同じ位置に置きます。

 そして、コンビニから持ち帰った写真を全て確認し終えたはるかは、
本棚から数冊のアルバムを取り出しました。

 『さくらさんの成長記録』――
 『あかねさんのコスプレシリーズ』――
 『誠さんの萌え萌え写真集』――
 『みことさんのロリロリな世界』――

 と、それぞれに明記されたアルバムの中から、
はるかは、まずは、さくらさんの分のアルバムを開きます。

 そして……、

「さて♪ それでは整理を始めちゃいましょうか♪」
















「あらあらあらあら♪」

 満面の笑みを浮かべながら、
はるかは、一枚一枚、丁寧にアルバムに挟んでいきます。

 それにしても……、
 さすがにフィルム三本分の整理は大変ですね、

 特に、あかねさんの写真は、枚数が多いので尚更です。

 今回は、さくらさんも一緒になって撮っていた所為か、
いつにも増して、たくさん、あかねさんをお着替えさせちゃいましたからね……、

 あの時のあかねさん……、
 疲れ果てて、グッタリしてましたし……、

 もちろん、控えようとは思っているんですよ。
 でも、あかねさんって、本当に何を着ても似合うものですから……、

 だから、デパートなどで可愛い服を見つけると、
どうしても、それを着たあかねさんの姿を見てみたくなっちゃうんです。

 例えば、この某ファミレスの制服を着ているあかねさんなんて……、
 いえいえ、それよりも、こっちのサマードレスの方が……、
 そういえば、メイド服なんてものもありましたね……、


 ……。

 …………。

 ………………。


 とまあ、時々、過去に撮った写真に目を奪われて、
手が止まったりもしましたが、概ね、作業は順調に進んでいきました。

「ふう……」

 アルバムを整理もあらかた済んだところで、はるかは軽く息をつきます。

 そして、チラリと時計を見れば、既に午後4時を過ぎていました。
 途中、何度かトリップしてしまった所為か、随分、時間が経ってしまったようですね。

 さて、どうしましょうか?
 そろそろ、お夕飯の準備を始めなければいけないのですが……、

 と、はるかは、最後に残った誠さんの写真に目を向けます。

 枚数こそ少ないものの、この写真の整理をするとなると、
のんびり屋さんのはるかでは、まだまだ時間は掛かってしまいそうです。

 それに、誠さんの写真を整理する、ということは、
これまでと同様に、アルバムを開いて、過去の写真を見てしまうわけで……、

 そうなれば、間違いなく、はるかはトリップしてしまうでしょう。
 そして、余計に時間が掛かってしまうことに……、

 お夕飯の準備が少し遅くなってしまうのは、そんなに大きな問題ではありません。
 ただ、それ以上の問題として、そろそろ、さくらさんが帰って来る時間なのです。

 はるかが、お夕飯の準備もせずに、お部屋に篭っていたりしたら、
きっと、さくらさんは、はるかを呼びに来るでしょう。

 それまでに、写真を片付け終えていれば、大丈夫なのですが……、
 もし、万が一、間に合わず、さくらさんに、このアルバムの存在を知られてしまったら……、

 このアルバムに納められている写真は、さくらさん達が持っていないものばかりです。
 何せ、まだ、さくらさん達が、自分で写真を撮る事が出来なかった頃の写真ですからね。

 赤ちゃんの頃の誠さん――
 幼稚園児の頃の誠さん――
 小学校低学年の頃の誠さん――

 今でも、それなりの恰好をすれば、充分に可愛い誠さん……、
 となれば、幼い頃は、もっと可愛いのは当たり前……、

 このアルバムの中には、その誠さんの、幼い頃の姿が納められているのです。

 そんな、国宝級とも言える写真の存在を知ったら、絶対にさくらさんは……、

 い、嫌ですっ!!
 絶対に渡したくないですっ!!

 このアルバムの中にいる萌え萌えな誠さんだけは、はるかのものですっ!
 さくらさん達には、本物の誠さんがいるんですら、これくらい許してくれても良いじゃないですかっ!

 そんな、はるかの意見など、アッサリと無視して……、
 問答無用で取り上げられてしまうでしょう。

 というわけで、そんな最悪の事態を回避する為にも、
お片付けは後回しにして、お夕飯の準備を先にした方が良いかもしれません。

 ですが、さすがに、このままにしておくのは、もっと危険です。
 もし、はるかが、お夕飯の準備をしている間に、さくらさんに写真を見られてしまったら……、

 まあ、さくらさんが無断で、はるかのお部屋に入るとは思えませんけど……、

 そうですね……、
 ここは、やはり、お夕飯の準備を優先して……、

 でも、やっぱり、ちゃんと片付けておかないと気になりますし……、


 ……。

 …………。

 ………………。


 う〜ん……、
 きっと、大丈夫ですよね?

 写真を見て、トリップさえしなければ、
さくらさんが帰って来るまでに、片付けられますよね?

 ――はいっ!
 そうと決まれば、善は急げ、ですっ!

「……急いで片付けてしまいましょう」

 そう決断したはるかは、さくらさんが帰って来る前に、
素早く片付けてしまおうと、誠さんのアルバムのページを開きました。

 そして……、
















「…………」
















「…………」
















「…………はふぅ〜」
















「あらあら、誠さんったら……♪」
















「さすがに、みことさんの血を引いているだけはありますね〜♪」
















「……これなんか、もう萌え萌えです〜♪」
















「はうっ! は、鼻血が……」
















 
――ガチャ
















「お母さん? 晩ご飯の準備が全然……って、ああっ!!」

「――さ、さくらさんっ!?」
















「…………」

「…………」
















「こ、これは……?」

「あ、あらあら……」(汗)
















「……お母さん?」

「な、何でしょうか……さくらさん?」(大汗)

「この写真は、何ですか?」

「そ、それはですね……」(滝汗)
















「お母さん……」(ニッコリ)

「は、はい……」(汗)











「――没収」

「はう〜……」(泣)
















 さくらさん……、
 いくらなんでもヒドイです……、

 そりゃあ、さくらさんに内緒で、
誠さんの写真を持っていたはるかが悪いのかもしれませんが……、

 何も、全部、取り上げなくったって良いじゃありませんか。
 せっかく、今まで集めたはるかを宝物を……、

 ふ〜んだ……、
 いいですよ、いいですよ。

 何と言っても、全ての写真のネガは、ちゃんと保管して……、








「もちろん、ネガも全部出してくださいね


「ああっ! そんなっ!?」








 しくしくしくしく……、(大泣)








<おわり>
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