Heart to Heart
第151話 「お約束って大事だね」
「エリア……」
「誠さん……」
手を握り合い、俺とエリアは、一つのベッドの中で体を寄せ合う。
肌に感じる、お互いの体温――
伝わってくる、お互いの鼓動――
そして、どんどん昂ぶっていく、お互いへの愛情――
「いくぞ……」
「はい……ぅんっ」
合図の為のキス……、
その瞬間、エリアは緊張の為か、身を震わせて固くなるが、
徐々に緊張は解け、力が抜けて行く。
そんなエリアを優しく抱き締めながら、
俺は、彼女のパジャマのボタンを一つ一つ、外していった。
そして……、
「あ……」(ポッ☆)
衣擦れの音とともにパジャマが床に落ち、エリアの胸があらわになる。
だが、エリアは、それを素早く両手で隠してしまった。
「どうして隠すんだ?」
「だって、恥ずかしい……あんっ☆」
胸を隠してしまったことに対して、軽く抗議する俺。
そんな俺に、エリアは頬を赤くして答えようとしたが、
俺は、その言葉を遮るように、エリアの首筋に唇を押し当てた。
その途端、ビクンッと、エリアの背筋が反り返る。
「あっ……んん……はあ……」
そのまま、首筋から鎖骨へと、唇を這わせる俺。
その位置が変わる度に、ピクピクと、エリアの体は敏感に反応する。
そして、俺の唇が、両手では隠しきれていない部分に触れ……、
「――え?」
……ようとしたところで、俺はピタッと愛撫を止めた。
「ま、誠さん……?」
突然、愛撫を止めてしまった俺を、不思議そうに見詰めるエリア。
頬を上気させ、軽く息を乱したエリアのその表情は、
間違い無く、俺に愛撫の続きをねだっていた。
そんなエリアに、俺は意地悪な一言を言い放つ。
「エリアの胸、見たいな……」
「あう……」
その一言に、ちょっと泣きそうな表情になるエリア。
そんなッエリアの表情に、少し罪悪感を覚えたが、だからと言って、俺は譲る気は無い。
「ほら、エリア……」
しばらく、期待の眼差しを向けたまま、俺はエリアのお腹を撫で続ける。
その焦れったい感触に、はあっと悩ましげな息を吐くエリア。
そして、ついに観念したのだろう……、
「もう……意地悪です」(ポッ☆)
そう言って、エリアは小さく頷いてくれた。
ただ、一つだけ、条件を提示して……、
「でも、私だけ……なんて、恥ずかしいからイヤです」
と、俺のパジャマの裾を引っ張るエリア。
その意味を察した俺は、その時になって、ようやく、
未だに自分がパジャマを着たままだったという事に気が付いた。
「あっ……ごめん」
慌てて体を起こし、自分のパジャマを脱ぎ捨てる俺。
そして、エリア同様、下着だけの姿となった俺は、もう一度、エリアを抱きしめた。
――寒いのだろうか?
――それとも、不安なのだろうか?
小刻みに体を震わせている、そんなエリアの体を、心を……、
少しでも、暖めてあげる為に……、
その夜――
俺とエリアは、ついに結ばれようとしていた。
いや……、
ついに、というのは、間違いだ。
実を言うと、今までにも、何度かこういう事はあった。
何せ、エリアと出会い、半同居状態を始めてから、もう一年も経っているのだ。
二人きりの夜なんて、それこそ、数え切れないくらいに……、
となれば、当然……、
お互いに盛り上がってしまう夜もあるわけで……、
きっかけは、ほんの些細なもの――
ふと、見詰め合ってしまった時……、
何かの拍子に、手が触れ合ってしまった時……、
……そして、今夜もそうだった。
風呂に入った後、二人でソファーに座ってテレビを見ていた時、
不意に、お互いの手が触れ合ってしまった。
いつもなら、なんてこと無い出来事……、
でも、二人きりの為か、妙に意識してしまい……、
それでも、俺達は手を離そうとはしなかった。
それどころか……、
指を絡め、強く握り合い……、
……気が付けば、俺達は抱き合っていた。
抱き合い、唇を重ね、舌を絡め……、
もう、止まることは出来なかった。
そして、止まる必要も無かった。
本当なら、そのままソファーに押し倒してしまいそうだった。
エリアも、きっと、それを拒まなかっただろう。
でも、俺は、僅かに残った理性で、その衝動を抑え、エリアをそっと抱き上げた。
初めては、ちゃんと俺の部屋で迎えるために……、
それが、エリアにとって大切な事なのだと思ったから……、
そして……、
軽く微笑み、見詰め合い……、
そのまま、俺達は、二階にある俺の部屋へと……、
……とまあ、こんな具合で事は進み、現状に至っているわけである。
で、こういう言い方をするのも何だが……、
ここまでは、とても順調だ。
それはもう、怖いくらいに順調だ。
お互いに初めてだから、当然、緊張はある。
でも、今までにも、同じシチュエーションは、何度も続けているわけで……、
慣れた、と言ったら、少々語弊はあるが……、
俺もエリアも、凄く緊張しながら……、
それとは逆に、気持ちはとても落ち着いて……、
二人して、軽口を叩けるくらいの余裕があった。
「ほらほら♪ 俺も、ちゃんと脱いだんだから、今度はエリアの番だぞ♪」
「ううっ……誠さん、目がえっちですよ」
「当然だろ? えっちなことしてるんだから」
「誠さん……意地悪です」
そんな軽口を交し合いながらも、俺達は、熱く火照った肌を寄せ合う。
少しずつ、少しずつ……、
そうする事で、互いの心と体を昂ぶらせていく。
ただ、触れ合っているだけで……、
ただ、見詰め合っているだけで……、
甘くて……、
あたたくて……、
まるで、お互いの体が溶け合っていくような……、
今にも、昇り詰めてしまいそうな……、
そんな、幸せな快感が、俺達の心を満たしていく。
その快感の中、俺達は確信していた。
今夜こそ……、
ようやく、結ばれる事が出来る、と……、
「……あまり、ジロジロ見ないでくださいね?」(ポッ☆)
「ん〜、努力する」
「もう……しょうがないですね♪」
しつこくねだる俺に、ちょっとだけ嬉しそうに苦笑するエリア。
そして、恥ずかしげに、俺から目を逸らし、
ゆっくりと、胸を覆う手をどけて……、
俺の目の前に、エリアの慎ましくて可愛らしい胸が晒され……、
……だが、世の中、そんなに甘くは無かったりする。
「こんばんは〜♪
遊びに来たわよ〜ん♪」
唐突に……、
あまりにも唐突に……、
ガラッと大きな音をたてて、俺の机の引き出しが開いた。
と、同時に、こちらの世界とフィルスノーンとを繋ぐ亜空間トンネルの出入り口である、
その引き出しの中から、陽気な挨拶とともに、ティリアさんが姿を現す。
そして……、
「あ……」
「い……?」
「う……?」
ベッドの中で抱き合った姿勢のまま、呆然としている俺達と目が合い、
瞬時に状況を理解したティリアさんは、ピキッと表情を凍らせた。
「あ、あの……」(汗)
「…………」(怒)
「…………」(怒)
引きつった笑みを浮かべるティリアさんを、俺達は怒気を含んだ視線で見詰める。
ティリアさんは、そんな俺達に、恐る恐るといった口調で訊ねた。
「あ、あたし……また、やっちゃった?」
――そう。
『また』である。
何度も言うが……、
俺とエリアは、今までにも、こうして良い雰囲気になった事がある。
そして、今夜のように、結ばれようとした事だって、何度かある。
だが、しかし……、
今まで、一度として、想いを遂げたことは無い。
何故なら、俺達が結ばれようとすると、必ずと言って良いほど、邪魔が入るのだ。
例えば、いきなり、何の脈絡も無く、志保から電話が掛かって来たり――
あるいは、外からチャルメラの音が聞こえてきて、ムードぶち壊しにされたり――
それはもう、多種多様に渡って……、
嫌がらせとしか思えないくらにバッチリのタイミングに……、
そして、その中でも、特に多いケースが……、
「ほほほほほほほほ……」
またしても、最悪なタイミングで乱入してしまった事に気付き、
その場に立ち尽くしてしまうティリアさん。
そんなティリアさんを前に、エリアが、突然、乾いた笑い声を上げた。
しかも、不自然なくらいに、満面の笑みを浮かべて……、
そして、シーツを体に巻き付け、ゆらりと立ち上がる。
――ヤバイッ!!
――今のエリアは危険だっ!!
その笑い声を聞いた瞬間、俺の背筋に戦慄がはしる。
エリアがああいう笑い方をした時は、ブチキレ寸前の兆候なのだ。
付き合いの長いティリアさんも、その事を良く知っているのだろう。
エリアの様子が豹変したことを知り、顔が真っ青になっている。
「ほほほほほほほほ……」
怖い笑みを浮かべたまま、ティリアさんに歩み寄るエリア。
そのあまりの恐怖に、ティリアさんは、まるで金縛りにでもされたかのように動けない。
ちなみに、俺は、エリアを止めるつもりは、毛頭無い。
さすがの俺も、こう何度も邪魔されれば、腹も立つのだ。
というわけで、ティリアさんには、攻撃呪文の一発か二発は覚悟してもらおう。
ティリアさん、ご愁傷様……、
でも、自業自得なんだからな……、
と、内心で呟き、俺は、ティリアさんに向かって十字を切る。
「ほほほほほほ……」
ティリアさんの目の前で、ピタッと立ち止まるエリア。
そして、ゆっくりと、両腕を上げると……、
おもむろに、呪文を唱え……、
その後――
怒ったエリアによって、ティリアさんがどんな目に遭ったかは、
わざわざ言うまでも無いだろう……、
ってゆーか、自業自得だし……、
で、まあ、そっちはどうでも良いとして……、
ティリアさんの乱入によって、すっかり盛り上がった雰囲気を、
ブチ壊しにされてしまった俺達は、というと……、
「……もう、寝ようか」(汗)
「…………」(泣)
さすがに、あんな事があった後に、続きが出来るわけもなく……、
「ううっ……やっぱり、私って不幸……」(号泣)
「は、はははははは……」(大汗)
その夜もまた……、
俺達は、結ばれる事が出来なかったのであった。
はあ〜……、
これでまた、エリアの欲求不満が……、
エリアの行動が、色んな意味で過激になっていく。
お願いだから……、
もう、勘弁してくれよ……、(泣)
<おわり>
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