Heart to Heart
第137話 「世界で一番普通な人」
「ううう……俺は普通だ。
誰が何と言おうと普通なんだよ〜」(泣)
「……ゴ、ゴメンね。
誠君なら、ああいう店に入るの平気だと思ったから……」(汗)
「そりゃあ、あの手の店は、さくら達に連れられてよく行くけどさ……、
過去にバイトした経験もあるし……」(泣)
「そ、そうなの……」(汗)
「でもさ……俺が泣いてるのは、そんな理由じゃないんだよ」(泣)
「……ホントに、ごめんなさい」(汗)
と、汗ジトで、笑顔を引きつらせつつ、俺に頭を下げる美咲さん。
そんな美咲さんを前に、両目から涙を流しつつ、
俺は脇に置かれた紙袋を、ただ呆然と眺めるのだった。
今、俺と美咲さんは、例の同人ショップの近くにあるファミリーレストランにいる。
そこで、俺は、買い物に付き合ってくれたお礼、という事で、
美咲さんから、少し遅めの昼メシをご馳走になっていた。
――えっ?
お礼ってのはどういう事か、って?
そりゃあ、もちろん、一緒に同人ショップに行った事に対するお礼だよ。
まあ、普通に考えると、その程度なら、わざわざお礼をしてもらう程のことじゃないよな。
買い物に付き合うったって、出来るのは、せいぜいに荷物持ちくらいだし……、
……でも、今回の場合は、ちょっと特殊なんだよな。
何が、どう特殊なのかと言うと……、
それを説明する前に、まず、何故、美咲さんが俺を買い物に付き合わせたのかを、
ちゃんと説明しないといけないな。
よく考えてみてほしい……、
あの美咲さんが、たかが荷物持ちの為に、
自分から、誰かを買い物に付き合わせたりするだろうか?
しかも、帰ろうと背を向けた相手を呼び止めてまで……、
――その答えは、否だ。
美咲さんの性格からして、それは考えられない。
どんなに重い荷物を買い込もうと、美咲さんなら、自分で何とかしようとするだろう。
だから、荷物持ちの確保という理由は無くなる。
ならば、何故、俺を呼び止めてまで、買い物に付き合わせたのか?
その答えは簡単……、
一緒に行く相手が『俺でなければならなかった』からだ。
訊けば、どうやら、美咲さんは、同人ショップに行くのは今回が初めてだったらしい。
――やおいの世界には、前々から興味はあった美咲さん。
だが、その手の本はなかなか手に入らず、運良く手に入っても、
市販の本の内容では、気に入ったものが見つからない。
そこで、一体、誰に吹き込まれたのか……、
ひょんなことから、美咲さんは同人誌という世界の存在を知った。
その世界なら、自分の気に入る本が手に入るかもしれないと思い、
美咲さんは、同人誌の世界に足を踏み入れることを決意する。
だが、一人で同人ショップに入るのは、どうにも恥ずかしい。
……俺にも、その気持ちは良く分かる。
俺も、さくら達に連れられて、初めて同人ショップに入った時は、
何故か、妙に恥ずかしかったからな。
ってゆーか、今でも、一人で店に入るのは躊躇われたりするんだけど……、
まあ、世の中には、初めてでも堂々と店に入れる強者はいるのだろうが、
少なくとも、俺の場合、それは出来そうにない。
で、どうやら、美咲さんもその部類に入っていたようで、
どうしても、一人で同人ショップに入る事が出来ず、悩んでいたらしい。
……と、そこへ現れたのが、俺だった。
美咲さんは、俺が、さくら達の影響で、
同人世界に多少は足を突っ込んでいる、という事を、冬弥兄さんから聞いていた。
その俺を、偶然にも駅前で見つけた美咲さんは、
俺なら同人ショップに同行して貰えるだろう、と思い至り、俺を呼び止めたのだ。
つまり、今までの話を要約すると……、
やおい系同人誌を手に入れたくても、店に入る事ができなかった美咲さんは、
偶然、見つけた俺を同行させる事で、それを果たそうとした、というわけだ。
で、その結果……、
ファミレスのイスに座り、泣きながらオムライスを食べる俺の脇に……、
……やおい系同人誌が大量に詰まった紙袋が置かれているわけだ。
「……で、でも、誠君のおかけで、
良い本が手に入ったから、ホントに助かっちゃたよ」
「そのせいで、俺はヒジョ〜〜〜に酷い目に遭ったんだけどな」
「う゛っ……」(汗)
なんとかフォローを入れようとしている美咲さんの言葉を一蹴しつつ、
俺はウェイトレスに追加の注文をする。
大人気無いと言う事なかれ……、
俺は、それだけ危ない橋を渡らされたんだからな。
これくらいの報酬は当然ってもんだ。
それに、俺は、日頃から歳上の女性にからかわれてるんだから、
こんな時くらいやり返したいし、な。
「そ、そういえば、誠君も何か買ってたみたいだけど……」
と、美咲さんは話題を変えようと話を振ってくる。
その半泣きに近い表情を見て、さすがにイジメ過ぎたと思った俺は、
そろそろ許して上げようと、その話に応じることにした。
「ああ……これか?」
美咲さんの言葉に頷き、俺はスプーンを動かす手を止めると、
美咲さんの物とは別の紙袋から、数冊の同人誌を取り出す。
……これは、俺が買った同人誌だ。
あのまま手ぶらで店を出たら、マジでソッチ系だと誤解されたままになりそうだったので、
カモフラージュの為に、ごく普通の同人誌を何冊か買ってきたのだ。
ちなみに、同人ショップに入ったことは何度かあっても、
同人誌を買うのは、今回が初めてだったりする。
「どんな本を買ったの?」
「……さあ?」
と、美咲さんの質問に首を傾げつつ、
俺は手に取った同人誌の作者とサークル名が書かれた部分を見る。
『ブラザー2』 千堂 かずき――
『辛味亭』 猪名川 由宇――
『CAT OR FISH!?』 大庭 詠美――
『Jamming Book Store』 長谷部 彩――
『新住所確定』 御影 すばる――
どの本が面白そうとか、そんな事は考えている余裕は無かったので、
なんとなく聞き覚えがある作者名の本を選んできた。
多分、以前、さくら達と同人ショップに行った時に、
二人から聞いていた名前に間違い無いはずだ。
これなら、さくら達に譲ってやれば、ムダな買い物にならなくて済むからな。
「さあ、って……知りもしないで買ったの?」
「まあ、これは、さくら達への土産ですから」
「うふふふ……誠君、優しいのね」
「優しいと言うか……ただの有効利用なんだけどな……」
と、何やら勘違いしている美咲さんに苦笑しつつ、俺は出した本を紙袋にしまう。
そして、スプーンを手に取り、食事を再開しようとした……、
その時……、
「あれ? 美咲さん……それに、誠か?
なんか随分と珍しい取り合わせだな?」
「と、冬弥兄さんっ!?」
「と、とと、冬弥君っ?!」
あまりに唐突な登場に、心底、驚く俺と美咲さん。
――そう。
いつの間に現れたのか、そこには冬弥兄さんがいたのだ。
ぬうっ……、
ぽけぽけな美咲さんはともかく、この俺に気配を感じさせないとは……、
さすがは冬弥兄さんだ。
その存在感の無さ、誰よりも優る普通さは、まさに俺の目指すところだな。
由綺姉と一緒だと、途端に漫才コンビのツッコミ役になる冬弥兄さん……、
でも、単独では、誰よりも、何処までも、
周囲に溶け込んでしまうくらいに平凡で普通な冬弥兄さん……、
いいなぁ〜……、
俺もいつか、冬弥兄さんみたいに『普通』になりたいな〜。
「誠……お前、今、物凄く失礼なことを考えているだろう?」
「そ、そうなことないですよ。
相変わらず、冬弥兄さんはズコイな〜、って……」
「……存在感が無くて悪かったな」
「――なっ!?」
「……何処までも平凡で、誰よりも普通で悪かったな」
「と、冬弥兄さん!? いつの間に俺の心を読めるようになったんだっ!?」
「誠君……声に出してた」
「ぐはっ!!」
美咲さんの指摘に、俺は思い切り頭を抱える。
うぐぐぐ……、
俺は何を祐一さんみたいなボケをかましてるんだよ。
と、とにかく、ここはサッサと話題を変えるに限るな。
でも、本気でいきなり現れたから、
どんな話題を冬弥兄さんに振って良いものか……、
と、俺が悩んでいると……、
「そういえば、どうして、冬弥君がここにいるの?
確か、今日はバイトに行ってた筈じゃない?」
俺よりも先に、美咲さんが的確な話題転換をしてくれた。
見れば、美咲さんが俺に向かって微笑んでいる。
どうやら、俺をフォローしてくれたみたいだ。
もしかしたら、同人ショップでの件のお詫びのつもりかな?
まあ、そんな理由が無くても、美咲さんなら助けてくれただろうけど……、
それはともかく……、
確かに、美咲さんの言う通りだ。
美咲さんに会った時、冬弥兄さんはバイトに行っていると聞かされた。
その冬弥兄さんが、ファミレスにいるのは、どう考えてもおかしいぞ。
まさか……、
俺を買い物に付き合わせる為に、美咲さんがウソをついた、とか?
いやいや、それは無いだろう。
美咲さんみたいな人が、そんな真似をするなんて、絶対にありえない。
……じゃあ、どうして、冬弥兄さんがここに?
と、俺が頭を捻っていると……、
「ああ、確かに、今日は一日中バイトだよ。ってゆーか、今も仕事中だけど」
……そう言って、冬弥兄さんは俺の隣に座った。
「「…………?」」
その言葉に、俺と美咲さんが、どういう事か、と目で訊ねると、
冬弥兄さんは、メニューを開きつつ、話を続ける。
「ADのバイトってさ、一応、スタッフ全員にロケ弁が出るんだけど、
何か手違いがあったらしくて、人数分、足りなくなっちゃったんだよ」
「……それで、冬弥君だけお弁当抜きになったから、
こうしてお昼ご飯を食べに来たわけ?」
「ははは……そういうこと」
と、ちょっと呆れ顔の美咲さんの言葉に、
冬弥兄さんはポリポリと頭を掻きながら苦笑する。
やれやれ……、
普通なら、文句や愚痴の一つくらい洩らしても良いくらいなのに……、
久し振りに会ったけど、冬弥兄さんも、相変わらずお人好しだよな。
ってゆーか、冬弥兄さんといい、美咲さんといい、何でまた、
俺の周りには、こういう人が多いんだろうな?
何となく、そんな事を考えつつ、
冬弥兄さんの話を聞いた俺は、ふと、あることに思い至る。
「――あれ? ってことは、昼休みって、もうそんなに時間無いんじゃねーか?」
「あ、うん……そうかもな」
ウェイトレスに自分の分を注文し た冬弥兄さんが、俺の言葉にノンキに頷く。
おいおいおいおい……、
そんな事で良いのかよ?
詳しくは知らないけど、ADの仕事内容って、かなり忙しいって聞くぞ。
それこそ、メシ食ってる時間を惜しむくらいに……、
だからこそ、ロケ弁なんて物が用意されているわけだろうし……、
それなのに、こんな場所でノンピリとメシなんか食ってたら、
仕事に支障を来すんじゃないのか?
「なあ、冬弥兄さん……」
「――ん? どうした?」
「時間が無いんなら、さっき俺が追加注文したやつ食べても良いぞ」
「そうか? そいつは助かるよ。
じゃあ、有り難く、お言葉に甘えさせて貰おうかな」
と、そう言ってから、冬弥兄さんはテーブルに頬杖をついて、俺の方をジーッと見る。
「しかし、追加注文とは、相変わらずの健啖ぶりだな。
それに、相変わらずと言えば……」
そして、俺の脇に置いてある、同人誌の詰まった紙袋に目を向けて……、
「別に悪いとは言わないけど、同人誌だなんて……、
まだ、こんなオタクな趣味に走ってたんだな〜」
……おもむろに、その紙袋の中に手を突っ込んだ。
――って、そっちには美咲さんが買った物がっ!!
「冬弥兄さんっ! ちょっと待ったっ!」
「冬弥君っ! それは違うのっ!」
慌てて冬弥兄さんを止めに入る俺と美咲さん。
しかし、それも間に合わず……、
「一体、どんな本を買って…………っ!?」
……冬弥兄さんの手によって、一冊の本が紙袋から取り出された。
それは、間違い無く、美咲さんが買ったやおい本――
しかも、表紙を見ただけで、その内容が一目瞭然のタイプの――
「…………」
「…………」
「…………」
それを見た瞬間、冬弥兄さんの顔が一気に真っ青になった。
同時に、俺と美咲さんの時間も止まる。
……。
…………。
………………。
じばらくの沈黙――
……。
…………。
………………。
――そして、時は動き出す。
「あのな、誠……」
その沈黙を、最初に破ったのは、冬弥兄さんだった。
「一応、前もって言っておくが……」
引きつった笑みを浮かべながら、本を紙袋の中に戻す冬弥兄さん。
そして、ススッと後ずさり、ちょっとだけ俺から距離を置いて、キッパリと言い放つ。
「……俺は、お前相手に上にも下にもなる気はないぞ」
「――それは残念」
「何でそうなるっ!!」
勘違いしまくりの冬弥兄さんに、俺は思い切りツッコむ。
ちなみに、なんか美咲さんの方から、不穏な発言が聞こえたような気がしたが、
それは即行で記憶から削除だ。
「だ、だって……この本、お前が買って来たんだろ?」
「何で、俺がそんな本を買わなくちゃならないんだよ?」(泣)
遠縁とはいえ、肉親である冬弥兄さんにまで疑われ、
俺は再び滝のような涙を流しながら、それを必死に否定する。
冬弥兄さん……、
あんたも、そういうことを言うのか?
何度も言うが、俺は普通なんだよ。
同性愛を否定するつもりは無いが、俺自身は120%ノーマルなんだよ。
だいたい、俺にはさくら達という、立派すぎる恋人がいるんだぞ。
それは、冬弥兄さんだって、良く知ってるはずじゃねーか。
それなのに……、
それなのに、何でそういうこと言うかなっ!?
「冬弥兄さんっ!! 俺は普通なんだよっ!
普通でいたいんだよっ!!
頼むから普通でいさせてくれよっ!!」(血涙)
「わ、わかった……わかったから、そんな血の涙を流しながら訴えるなよ」
比喩ではなく、マジで血の涙を流しながら詰め寄る俺に、冬弥兄さんは汗ジトで頷く。
そして、再び、やおい本の入った紙袋に目を向けると……、
「じゃあ、あの本は誰が買った物なんだ?」
……と、呟き、その視線は、ゆっくりと美咲さんの方へと向かう。
「……って、まさかっ!?」
ある事実に思い至り、目を見開く冬弥兄さん。
それと同時に、美咲さんの顔が耳まで真っ赤になり……、
「ち、ちち、違うよっ! わ、私が買ったんじゃないわよっ!」
……と、両手をパタパタと振って、必死で否定する。
冬弥兄さんは、単純な消去法で美咲さんの方を見ただけなのだろうが、
何気にそれが真実だったりするからなぁ……、
……って、ちょっと待った。
もしかして、美咲さんがやおい好きっていうの、みんなには秘密なのか?
やおい好きの女性って、結構オープンだって聞くけど、
美咲さんは、そうじゃないのか?
まあ、確かに、美咲さんの性格なら、それを隠したいって気持ちも頷ける。
しかも、相手が冬弥兄さんとなれば、尚更だ。
何故なら、美咲さんも、理奈さん同様、冬弥兄さんのことを……、
と、とにかく……、
美咲さんの名誉の為にも、早く誤魔化さねばっ!!
「――と、冬弥兄さんっ!!」
「な、何だっ!?」
テーブルを軽く叩きながら、俺は勢い良く冬弥兄さんに詰め寄った。
「じ、実はさ、俺の知り合いに佐藤 雅史って奴がいるんだけど、
そいつが、もうこれでもかっていうくらいのホモ奴なんだよっ!!」
「そ、そうなのか……?」
その俺の勢いに圧されて、冬弥兄さんは美咲さんから視線を外す。
――よしっ!!
美咲さんから意識が逸れたっ!
ここで、深く考える余裕を与えずに、一気にたたみ掛けるっ!!
「それでさっ! この本は全部、そいつに頼まれた物なんだっ!
美咲さんには、この本を買う為に、協力して貰ったんだっ!
悪いとは思ったけど、男の俺が、
こういう本を買うのは躊躇われるからさっ!」
「そ、そうか……わかった。
そうだよな……よく考えれば、美咲さんが、やおい本なんて買うわけないよな」
「そうそうっ! その通りっ! なっ? 美咲さん?」
「う、うんうん……」
どうやら納得してくれたようで、冬弥兄さんは腕を組んでウンウンと頷く。
それに同調するように、そして、その偽りの事実を強調するように、
俺と美咲さんもコクコクと何度も首を縦に振った。
ふう〜……、
な、なんとか誤解をされずに済んだか……、
赤の他人ならまだしも、肉親である冬弥兄さんにホモ疑惑を抱かれたりしたら、
俺はショックで立ち直れなくなっちまうぜ。
そして、それは美咲さんにとっても言える事だろう。
まあ、俺についてはともかく、美咲さんについは誤解でも何でもないのだが……、
と、俺がやれやれと胸を撫で下ろしていると、
冬弥兄さんは、半分同情が混ざった目で、俺を見てきた。
「それにしても、やおい本を買ってくるように頼むホモ野郎とは……、
お前も厄介な友人を持ったもんだな」
「その性癖さえ差し引けば、良い奴なんだけどな……」
そう言いつつ、俺はようやく食事を再開する。
でも……、
俺の友達の約半分を、それ以上に厄介な人外魔境が締めている、って事を知ったら、
冬弥兄さんはどんな顔をするだろうな?
なんて事を考えつつ……、
俺は、すっかり冷めてしまったオムライスを、一気に口の中に掻き込んだ。
それから、しばらくして――
「……じゃあ、俺はそろそろ時間だから」
「あ、ああ……」
「冬弥君……お仕事、頑張ってね」
「誠……お前は、美咲さんに迷惑掛けたんだから、
ちゃんとお礼を言っておくんだぞ」
「わかってるよ。それより、急がなくて良いのか?」
「おっと……それじゃあ、また今度、ゆっくり話でもしような。
美咲さんも、また明日、大学で」
「う、うん……またね、冬弥君」
昼メシを食べ終え、冬弥兄さんはバイトへと戻っていく。
それを、軽く手を振って見送る俺と美咲さん。
ちなみに、その笑顔はちょっと引きつっていたりする。
そして……、
「…………」
「…………」
ファミレスを出ていく冬弥兄さんを見送った俺達は……、
「はあ〜……」
「ふう〜……」
……何とか誤魔化し通せた事に安堵し、深々と溜息をつく。
そして、一息ついた俺は、申し訳なさそうに俯いている美咲さんと、
顔を合わせぬまま、おもむろにメニューを開いた。
「美咲さん……」
「……何?」
「……デザートも頼んでいいかな?」
「……お手柔らかにね」(泣)
というわけで……、
また、渡らなくても良い危ない橋を渡らされた俺は、
キッチリと、その報酬としてデザートも奢って貰ったのだった。
美咲さん……、
同人誌代と俺の食事代……、
どっちが高くつくことになるんだろうな?
まあ、何だ……、
何事にも、人件費は高くつくってことで……、
そういうわけだから、運が悪かったと思って、諦めてくれ。
多少は手加減するからさ。
…………多少は、な。
<おわり>
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