Heart to Heart

   
   第127話 「捨て犬?」







 春の日差しが暖かい、とある休日の午後――

 最近、商店街に開店した『天河食堂』で昼メシを食べた俺は、
食後の昼寝でもしようかと、いつもの公園へとやって来た。

 公園に降り積もった桜の花びらの絨毯の上を歩きながら、
俺はいつも昼寝のために利用している、公園の中心にある大きな木の下へと向かう。

 今日はこんなに暖かいんだし、俺が昼寝をしたら、
毎度のように猫達が寄って来るんだろうな。

 だったら、目が覚めてから、その猫達と戯れて休日の残りを過ごすのも悪くは無い。

 うむうむ……、
 まさに、愛猫家として正しい休日の過ごし方と言えるな。

 あ、でも……、
 また、前みたいに猫化したリアンさんが来たりしないように注意しないと……、

 などと、そんな感じで、昼寝後の予定を頭の中で思い描いていると、
俺は唐突に、ある物体を発見してしまった。
















「わんわん……」(泣)
















「…………」(汗)
















「くーんくーん……」(泣)
















「…………」(大汗)
















「わお〜ん……」(泣)
















 
……またかよ。


 『それ』を発見してしまった俺は、
人差し指で眉間のシワを揉み解しつつ、ゆっくりと歩み寄る。

 そして、『それ』の正面に立ち、ジッと見下ろすと、俺は大きく大きく溜息をついた。

「今度は初音ちゃんか……」

「うん……ゴメンね、誠君」

 と、呆れ口調で言う俺を見上げて、
初音ちゃんは申し訳なさそうに頭を垂れる。

 ――そう。
 そこにいたのは、隆山の柏木家にいる筈の初音ちゃんだった。

 しかも、以前、楓さんがそうであったように、
みかんのダンボールに入れられた状態で、だ。

 やれやれ……また、このパターンかよ。
 よく見れば、場所も前と同じみたいだし……、

 あの時と違う事と言えば、楓さんが猫グッズフル装備だったの対し、
初音ちゃんは犬耳犬尻尾と肉球グローブと肉球ブーツ、
そして、鎖付き首輪というオプション付きの犬グッズフル装備ってところくらいだ。

「……千鶴さんか?」

「うん……」

「ということは、お仕置きで捨て犬にされたわけか?」

「うん……」

 答えは分かりきってはいたが、一応、訊ねてみると、
初音ちゃんはちょっと泣きそうな顔でコクリと頷く。

 やっぱりか……、
 まあ、あの家でこんな事するのは千鶴さんくらいだからな。

 まったく、前にも思ったことだけど、最初に見つけたのが俺で良かったぜ。
 もし、妙な奴にお持ち帰りでもされていたら……、

 ううっ……想像するだけでも恐ろしい。
 本当に……本当に良かった。

「で、初音ちゃんは何をやったんだ?」

 取り敢えず、初音ちゃんが無事だったという幸運に感謝しつつ、
俺は理由を訊ねてみる。

「もしかして、楓さんみたいに耕一さんの寝床にでも潜り込んだのか?」

「ち、違うよっ! わたし、そんなこと……」

「でも、耕一さん絡みなんだろ?」

「…………」(ポッ☆)

 俺の言葉に、初音ちゃんは顔を真っ赤にしてしまう。

「……で、何をやったんだ?」

「そ、それは……」(ポポッ☆)

 もう一度、俺が訊ねると、初音ちゃんは恥ずかしそうに俺から視線を逸らした。
 そして、顔を赤くしたまま俯き、黙り込んでしまう。

 なるほど……、
 恥ずかしいから、出来れば言いたくないってところか?

 ホントに……初音ちゃん、何をやったんだろう?
 初音ちゃんの性格からして、そんなに大胆な真似をしたとは思えないけど……、

 う〜む……、
 ちょっと……いや、かなり気になるけど……、

 でもまあ、別に無理に聞く必要もないか。
 無理に聞き出すのも、初音ちゃんが可哀相だし……、

 これが他の子だったりしたら、意地悪して何としてでも聞き出すところだけど、
何故か、初音ちゃんにはそういう事って出来ないんだよな。

 うむ……これも初音ちゃんの人徳ってやつなのかな?
 初音ちゃんは、マルチと同じくらいに良い子だから……、

 まあ、それはともかく……、

「言いたくないなら、別に言わなくてもいいよ」

「……ありがとう、誠君」

 俺が手をひらひらと振ってそう言うと、
安心した初音ちゃんはニッコリと笑顔を取り戻す。

「で、これからどうするんだ? やっぱり、俺が拾っていくべきか?」

「うん……そうしてくれると助かる」

「そうか……」

 俺の言葉にまたまた申し訳なさそうに頷く初音ちゃんを見て、
俺は溜息とともに空を仰ぎ見る。

 はあ〜……、
 また、ご近所に妙な話題を提供しちまう事になりそうだな。

 なんかもう、すっげー頭痛い。
 楓さんの時も、偶然、琴音ちゃんに見られてて、変な誤解されちまったし……、

 でも、このまま捨て犬ちっくな初音ちゃんを放っていくわけにもいかない。
 そんな事したら、ちょっとシャレにならない事態になりそうだ。

 ……まあ、しょうがねーか。
 こうなりゃ、とことん付き合ってやろう。

 『毒を食らわば皿まで。皿を食らわばちゃぶ台まで』ってやつだ。

 でも、このまま家に連れて帰るのはちょっとマズイし、
何だか千鶴さんの思惑通りって感じで気に入らないな……、

 となれば、ここは……、
























 その夜、柏木邸にて――


「なあ、千鶴姉……初音の姿が見えないんだけど、何処に行ったか知らない?」

「ああ……初音なら、この間の件でお仕置きの真っ最中よ♪」

「お仕置きって……まさか、楓みたいに置き去りにしてきたのか?!
何を考えてるんだよ、千鶴姉っ! 初音はあたし達みたいに鬼の力を使えないんだぞ!
何かあったらどうするんだよっ!?」

「大丈夫よ♪ ちゃんと誠君が拾ってくれるのを確認してから帰って来たから♪」

「そうなのか? なら良いけど……でも、あんまり妙な真似は控えろよ」

「梓姉さん……ご飯まだ?」

「ああ、ちょっと待ってな。すぐに用意するから」


 
トゥルルルルルルル……

 
トゥルルルルルルル……


「……電話」

「あ、わたしが出るわ」


 
ガチャ――


「はい、もしもし、柏木ですけど……?」

『こんばんは、千鶴さん。誠です』

「あら、誠君? こんばんは」

『こんな時間にすみません。実は初音ちゃんのことで……』

「ああ、誠君が拾ってくれたんですか? ありがとうございます。
それで、今、初音はそっちにいるんですよね?」

『いえ……いませんよ』

「――え?」

『いや〜、さすがに独り暮しの男の家に女の子を泊めるわけにはいきませんから、
拾ってすぐに耕一さんの家に届けました』

「な、なんですってっ!? どうして、そんな……っ!?」」

『だって、同じ独り暮らしでも、他人の俺より、
身内である耕一さんのトコに連れていくのが当然じゃないですか』

「そ、それはそうですけど……」

『というわけで、今夜一晩、初音ちゃんは耕一さんのトコに泊まっていきますから』

「そんなのいけません! 危険過ぎますっ!」

『ああ、もちろん、俺やさくら達も耕一さんのトコに行きますよ。
二人きりにするのもマズイし、久し振りに皆で話をするのも悪くないですから』

「そ、そう? それなら安心ですけど……」

『はい……だから、初音ちゃんの事については心配いりません』

「え、ええ……わざわざどうもありがとうございます」

『それじゃあ、そういうわけなんで……千鶴さん、おやすみなさい』

「は、はい……おやすみなさい、誠君」


 
ガチャン――

 
ツーツーツー……


「千鶴姉さん……誠君から?」

「ええ……初音は今夜は誠君達と一緒に耕一さんの家でお泊りするそうよ」

「……羨ましい」

「ちぇっ、初音の奴、お仕置きの割には楽しんでるな」

「まあまあ、別に良いじゃない。それより、早く晩御飯にしましょう」

「……お腹空いた」

「はいはい……ちょっと待ってろよ」
























 ふっふっふっふっ……、

 甘い……甘いよ、千鶴さん。
 俺がそんな野暮な真似するわけねーだろ?

 当然、今頃、耕一さんと初音ちゃんは二人きりさ……、
















 ……まあ、この後、どうなるかは、耕一さんの理性次第かな?








<おわり>
<戻る>