Ｈｅａｒｔ　ｔｏ　Ｈｅａｒｔ

　　　　　　　　第１１８話　「新学期」

「ゆ〜めにむ〜かいま〜っす〜ぐ、あるこう〜♪
め〜に〜はみ〜え〜ない〜もの〜、しんじ〜て〜みよ〜うよ〜♪」


「じ〜ぶんだ〜け〜のほんとう〜のかみさま〜♪
き〜づ〜かな〜か〜った〜だけ〜、Ｉｔ’ｓ　ｍｙｓｅｌｆ　＆　ｙｏｕｒｓｅｌｆ♪」


「……お前ら、もうちょっと声のトーン落せよ」（汗）








　楽しい春休みも、あっという間に過ぎ……、

　桜の花びらが散り積もった通学路を、
俺達は学校へ向かって歩いていた。

　春の陽気に浮かれているのか、俺の両隣を固めたさくらとあかねは、
いつもの様に歌を唄いながら歩いている。

　ただ、今日はいつもよりノリノリだ。
　スキップを踏みながら、上機嫌にメロディーを紡ぎ出す。

　まあ、今日から新学期だし、テンションが上がる気持ちは分かるけど……、

　うう……、
　道行く人々の奇異なものを見るような視線が痛いぜ。（泣）

「高校に入って、もう一年か……早いもんだよな」

「そうですねぇ……」

　取り敢えず、二人の歌を中断させる為に、俺は適当な話題を振ってみる。

　すると、上手い具合に、二人は話に乗ってきた。

　ってゆーか、さくら達が俺の言葉を聞き逃すことなんて、ほとんど無い。

　コイツら、絶対音感でもあるのか、ってくらいに、
どんなに周囲が騒がしくても、俺の声を聞き分けるからな。

　本人達曰く、愛の力だそうだけど……、
　そういうのは、カクテルパーティー効果といって、ちゃんと学術的に……、

　って、ンな薀蓄たれても意味ねーか。
　さくら達の場合、マジで愛の力ってやつで何でも可能にしそうだからな。

　それはともかく……、

「今日から、わたし達も二年生ですね♪」

「まあ、そうなんだが……お前ら、不安じゃねーのか？」

「うにゅ？　何が？」

　俺の言葉に、あかねが小首を傾げる。
　見れば、さくらも同様だ。

　やれやれ……、
　やっぱり、気付いてなかったか。

「あのな……俺達の学校は、
一年から二年に進級する時に、クラス替えをするんだぞ」


「「あっ！！！」」


　ようやく、事の重大さに気がついたようだ。

　さくらとあかねは、さっきまでの機嫌は何処へやら、
ムチャクチャ不安そうな顔で、俺にすがり付いて来た。

「ど、どどど、どうしましょうっ！！」

「うみゃあ〜っ！　まーくんと別のクラスになっちゃうかもしれないよ〜っ！」

　俺とクラスが別々になってしまうのが余程悲しいのだろう。
　二人とも、瞳に涙を浮かべつつ、ギュ〜ッと俺に抱きつく。

　そんな二人に、俺が出来る事は……、


　なでなで……

　なでなで……


「あ……」

「……まーくん」

　……二人の不安を少しでも無くす為に、頭を撫でてやることだけだった。

「二人とも、とにかく落ち着け。
まだ、クラスが別々になるって決まったわけじゃねーんだから」

　と、二人の頭を撫でながら、俺は二人を元気付ける。

　だが、二人にそう言いつつも、
俺達が同じクラスになる可能性は極めて低いと、俺は確信していた。

　何故なら、俺達の存在は、学校でもかなり有名だからだ。

　学校内で、人目も憚らずイチャついてたら、そりゃ噂にもなるだろうし、
男一人に女二人（ホントは三人だけど）な関係なんだから、目立つに決まってる。

　つまり、学校側から見れば、俺達はかなり疎ましい存在なわけだ。
　俺達って、それこそ不純異性交遊の見本みたいなモンだからな。

　俺達としては、それはもう健全な関係を保っているつもりだが、
周りはそうは見てくれないし……、

　というわけで、学校側としては、なるべく俺達を引き離したいと考えるだろう。
　そして、今回のクラス替えはまさに格好の手段なわけだ。

　となれば、俺達が同じクラスになれるなんてことは……、


　………………。

　…………。

　……。


　さくらもあかねも、俺とは違い、頭の良い子だ。
　そんなことは、当然、わかっているだろう。

　それでも、この二人は……、

「そ、そうですよね？　まだ、決まったわけじゃないですものね」

「うみゅ、きっと大丈夫だよ！　また同じクラスになれるよ！」

　……絶対に諦めたりはしないんだよな。

　でも、こればっかりは、俺達でどうこう出来ることじゃない。
　俺達に出来ることは、ただ、幸運を祈るだけだ。

「そうそう。俺達は運が良いんだ。絶対に別々になったりなんかしねぇよ」

　……と言っても、クラス編成は人の手で行われるだけだから、
運が良いも何も無いんだけどな。

　それでも、俺達は……、
　自分達を繋ぐ絆と、万が一の可能性を信じて……、

　……ただ、ひたすら、奇跡を願うしかないのだ。
































　……な〜んてな♪


　――俺を甘く見てもらっちゃ困るぜ。

　そんな重大なことを、この俺が運任せにすると思ったのかよ？
　当然、出来る限りの努力はさせてもらったぞ。

　ちなみに言っておくが、俺は目的の為なら手段は選ばんからな。
　場合によっちゃ、悪魔だって平気で騙すぞ。（マジで）

　――あ？
　一体、どんな手を使ったのか、って？

　おいおい……忘れちゃいませんか？
　俺は悪魔召喚プログラムだって組んじゃう男だぜ？

　学校のデータベースに侵入するなんざ、朝メシ食いながらでも出来るぞ。
　……まあ、そんな行儀の悪いことはしないけどな。

　それと、このことはさくら達には内緒だ。
　一応、俺のやった事って犯罪だから、二人を巻き込みたくねーからな。

　もちろん、証拠を残すようなヘマはしてねーけど……、

　とまあ、そういうわけで、新たなクラス編成については、もうすでに手は打ってある。
　ってゆーか、俺達三人が同じクラスになる事は、既に確定事項だ。

　さらに、ついでと言っては何だが……、
















「おはようございまーす♪」


「うみゃ〜♪　おはよ〜♪」


「あっ！　おはよう、あかねちゃん、さくらちゃん！
藤井君もおはよう！　今日からまたよろしくね♪」


「藤井さん達も一緒だなんて……凄い偶然ですね。
まさに全員集合というところでしょうか」


「はわわ〜、みなさんと同じクラスになれて、とっても嬉しいですぅ〜♪」
















　不安そうなさくら達を元気付けつつ、
俺は校門で配られていたクラス編成の書かれたプリントを受け取った。

　そして、それを見て、パッと表情を輝かせるさくら達。
　計画の成功に一人ほくそ笑む俺。

　さくら達は、これも愛の力って言ってたけど……、

　まあ、そういう事にしておこう。
　わざわざ真実を話す必要もないしな。

　と、そんなことを話しつつ、俺達は新しい教室へと向かう。
　そこで、俺達は『いつものメンバー』に出会った。

　……つまり、そういうわけだ。

　俺達三人を同じクラスにするついでに、
葵ちゃんと琴音ちゃんとマルチも一緒にしちまったんだな。

　二年から三年へ進級する時には、クラス替えは行われないから、
あと二年間は、ずっとこのメンバーってわけだ。

　ふっふっふっふっ……、
　これで、あと二年間、楽しい高校生ライフがみんなで楽しめるってもんだ。

　……まあ、その分、色々と苦労も増えそうだけどな。

　ただ、一つだけ誤算があった。

「くっくっくっくっ……、
こんなに可愛い子が同じクラスにいるんだ。
今年こそっ！　今年こそっ！　彼女を持って見せるぞぉぉぉぉーーーっ！！」

「……いたのか、谷島」

「…………煩いです」

　わざわざ俺達の側まで来て、そう宣言する谷島に、
俺達は冷たい視線を向ける。

　……しまったな。
　コイツの存在をすっかり忘れて、チェックしてなかったぜ。
　もし、覚えてたら、絶対に他のクラスにしてたのによ。

　……ま、いいか。
　別に邪魔になるわけでもねぇし、な。


　キーンコーンカーンコーン……


　と、そんなこんなで、同じクラスになれた事を皆で喜んでいると、
朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴る。


　――ガラッ！


　そして、教室の前の扉が開き、このクラスの担任となる先生が、
青く長い髪と大きな胸を揺らしながら、元気良く入って来た。

　……って、おいおいおいおい。

　あれって、この学校の名物教師じゃ……、
















「みなさん、おはようございま〜す♪
今日からこのクラスの担任になった
ミスマル・ユリカで〜す♪　ぶいっ♪」


『ぶい〜っ？！』
















　まあ、何だ……、
　今年も色々と騒がしい一年になりそうだな。








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