Heart to Heart
第116話 「日本語って難しい」
「龍爪雷斬〜っ!!」
「ピコピコハンマーッ!」
「鳳凰天駆〜っ!!」
「タイダルウェーブッ!」
「……お前ら、煩い」
ある日の夜――
いつものように、俺達はリビングでくつろいでいた。
ちなみに、さくらとあかねは今夜は我が家にお泊まりだ。
これもいつもの事だから、今更、説明する必要も無いのだが……、
まあ、週末のいつもの光景ってやつだな。
で、冒頭のあかねとエリアのやり取りだが、
別に格闘技の類をやっているわけではない。
二人がやっている事は、もっと平和的な……、
「うみゃ〜♪ ボスキャラクリア〜♪」
「手強い相手でしたね〜♪」
……とまあ、今のセリフでも分かるように、
ようするに、二人でTVゲームをプレイしているのだ。
今、二人がプレイしているのは、有名な某RPGなのだが、
あのゲーム、主人公の技がやたらと多い。
さっきから二人が叫んでいたのは、その技の名前なわけだ。
で、まあ、何だ……、
別に仲良くゲームで遊ぶのはいいんだけど……、
「お前ら、イチイチ技の名前叫びながらプレイするなよ」
ソファーに腰を下ろし、新聞のスポーツ欄を読んでいた俺は、
苦労して中ボスを倒し、喜ぶ二人に軽くツッコんだ。
「す、すみません、誠さん。
どうも魔法を使う時に、実際に使う時の癖が出てしまって……」
「うにゅ〜……でも、技を使う時に叫ぶのはお約束だよ〜」
と、申し訳なさそうに俯く二人に、俺はやれやれと肩を竦める。
ったく、あかねだけならともかくエリアまで……、
まあ、気持ちは分からないでもないけどな。
「別に悪いとは言ってね〜よ。
ただ、もう少し静かにしてくれよな。近所迷惑になるから」
「「は〜い」」
俺の言葉に返事をし、ゲームを再開するあかね達しつつ、
俺は再び新聞に視線を戻す。
と、その時……、
「あかねちゃ〜ん、エリアさ〜ん。
そろそろ晩御飯出来ますから、切りの良いところで止めてくださいね〜」
……キッチンの方からさくらの声が聞こえてきた。
今夜の晩メシの当番はさくらだ。
さくらとあかねは、週に一、二回は我が家に泊まりに来る。
で、今までは、エリアと一緒に三人で作っていたのだが、
狭いキッチンで三人も動いていては逆に効率が悪いので、
最近はこうして当番制になっているのだ。
というわけで、今、さくらは一人でキッチンに立っている。
キッチンから漂ってくる匂いから察するに、
今夜の献立はおでんのようだ。
「みつけて〜、ゆあ〜どり〜む♪ こわれ〜〜かけた〜〜♪
と〜き〜にうも〜れた〜〜、そのちか〜らに〜、きづいて〜♪」
美味しそうな匂いとともに、さくらの歌声も聞こえてきた
その歌声から、かなり機嫌が良いことがわかる。
どうやら、おでんの出来は満足のいくもののようだ。
……こいつは期待できそうだな♪
冬は過ぎたと言っても、夜はまだまだ肌寒いこの季節……、
そういう時に、おでんのような温かい物って、凄く美味いんだよな。
おでん〜♪ おでん〜♪ あっつあつのおでん〜♪
早く出来ないかな〜♪
と、おでんが出来上がるのを今か今かと心待ちにしながら、
俺は新聞のテレビ覧をチェックする。
う〜む……、
最近、面白いアニメが放送されてないよな〜。
夜中に『すすめの三歩』が放送されてるけど、
あれ、原作のコミック持ってるから、無理して見る必要もないし……、
新作で良いのが無いなら、いっその事、
昔のスーパーロポットアニメでも再放送してくれればいいのに……、
と、そんな事を考えながら、テーブルの上に広げた新聞を読み耽っていると、
いつの間にキッチンから戻って来たのか、さくらが俺に声を掛けてきた。
「あの、まーくん……」
「ん? 何だ?」
新聞から目を離さぬまま、
脇に置いてあったお茶を啜りつつ、俺はさくらに返事をする。
そして、さくらは一言のたもうた。
「……おかしてください」
「――ぶっ!!」
そのあまりに大胆なさくらの発言に、
俺は飲んでいたお茶を思い切り吹き出していた。
「な、ななな、なにぃっ!?」
驚いた俺は、バッと顔を上げ、慌ててさくらを見た。
リビングでTVゲームをプレイしていたあかねとエリアも同様だ。
さくらの突然の発言に、ポカンと口を開けて、さくらを見つめる。
「……はい?」
その凍りついた雰囲気に気付いたのだろう。
俺達の視線を浴びる中、鍋を持ったさくらだけが、キョトンとした顔で首を傾げる。
「どうしたんですか? わたしの顔に何かついてます?」
「ど、どうしたって……お前……」
「さ、さくらちゃんってば……」(ポッ☆)
「……大胆です」(ポッ☆)
「――は?」
俺達の言葉に、さくらは再び首を傾げる。
そして、少し考えてから……、
ボンッ!!
……一気に顔が真っ赤になった。
どうやら、さっきの自分の発言が何を意味するのか気が付いたようだ。
「あ、あああ、あれは、そ、そういう意味で言ったわけじゃ……っ!」
熱い湯気が立ち昇る鍋を持ったまま、うろたえまくるさくら。
よく分からない言いながら、あたふたと無意味に歩き回る。
ハッキリ言って、かなり危ない状態だ。
ってゆーか、ムチャクチャ嫌な予感がするぞ。
「あ、あれは……その……お鍋をテーブルに置くという意味で・……、
決して、そんないやらしい意味では…………あっ!!」
……ほらな。
そんなうろたえた状態で動き回るのは良くない。
案の定、さくらはテーブルに足を引っ掛けて、前のめりに倒れた。
となれば、さくらが持っていた鍋はどうなるだろうか?
で、こういう場合、大抵、最も被害を被るのは……、
ザバッ!!
「あっちぃぃぃぃーーーっ!!」
まあ、何だ……、
エリアの魔法ですぐに治ったから良かったんだけど……、
さくら……次からは気をつけような。
それにしても……
『犯して』じゃなくて『置かして』か……、
……日本語って難しいぜ。
<おわり>
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