Heart to Heart
第114話 「あなたは何属性?」
3!
2!
1!
「どか〜んっ!」
「わ〜い♪」
「エリアちゃんの魔法講座♪」
「……お前ら、何をネタ合わせなんかやってんだ?」(汗)
ある日の午後――
特に何もする事が無く、俺達はボケ〜ッと過ごしていた。
まあ、さくらの髪をさわさわしたり、あかねの頭をなでなでしたり、
エリアの体をだきだきしたりはしていたけどな。
堕落と言うか、墜落と言うか……、
怠惰な生活を送ってるよな、俺達って。
とにかく、せっかくの休日を、無為に過ごすのは勿体無い。
何よりも、あまりに退屈で死にそうだ。
そう考えた俺は、何か暇潰しになるような事はないかと、
さくら達に訊ねたのだが……、
「それでしたら、ちょっと私の練習に付き合っていただけませんか?」
……と、俺が訊ねた途端、エリアがある提案をしてきた。
その提案とは、魔法理論の講義、というものだった。
何でも、『フィルスノーン』の方で、
子供達に魔法の勉強を教えて欲しいと頼まれたらしい。
まあ、エリアは世界を救った勇者御一行様の一人だし、
それでなくても、優秀な魔法使いだからな。
子供達の親から、そういうのを頼まれる事もあるんだろう。
で、魔法を使うのはともかく、人に教える為に授業を開くのは初めてなので、
練習の為に俺達に生徒役になって欲しい、ということらしい。
そういう事なら、協力を惜しむつもりは無い。
それに、一度、本物の魔法ってやつについて詳しく聞いてみたかったし……、
というわけで、エリアの魔法講座を、
さくらとあかねと一緒に受けることになったのだが……、
エリア……、
その前置き、本番でもやるつもりなのか?
「……ったく、妙なこと覚えてきやがって」
指揮棒片手にホワイトボードの前に立つエリアに軽くツッコミを入れた後、
俺は眉間のシワを指で揉み解しつつ、そう呻いた。
俺のそんな冷たい反応に、エリアは残念そうにシュンとうな垂れる。
……ちょっと悪いことしたかな?
少しくらいなら、ノリを合わせてやるべきだったかな?
いやいや……これは練習なんだから、心を鬼にしないとな。
と、落ち込むエリアを見て、ちょっと胸を痛めつつ、
俺は敢えて情けを捨てる。
……しかし、本当に何処であんなネタ仕入れてきたんだ?
だいたい、そのホワイトボードは何処から持ってきたんだ?
我が家には、そんなモンなかったはずだぞ?
それに、さくらとあかねまで一緒になって……、
………………。
…………。
……。
……なるほど。
ネタの情報源は間違い無くさくら達だな。
そういえば、今のパターンは、
俺達の学校の保険医であるイネス先生のお得意のパターンだし……、
「す、すみません。相手は子供なので、
教育番組風にやってみようかと思いまして……」
「向こうのガキ共に教育番組のノリが分かってたまるかっ!
ンなことマジでやったら、即、シラけるぞっ!」
「そ、そういえばそうですよね……」
俺に言われて初めて気が付いたといった表情で、エリアは一人納得して頷く。
まあ、何ていうか……、
エリア、お前もすっかりこっちの世界に馴染んだな。
「で、では……普通に始めますね」
「ああ……そうしてくれ」
……ってゆーか、最初から普通にやってくれよ。
と、内心呟きつつ、俺はさくらとあかねが両隣りに座ったのを確認すると、
エリアの講義に耳を傾けた。
「え〜っと、それでは、今日は属性について説明したいと思います」
「しつも〜ん」
「は、はい? 何ですか、誠さん」
「属性って何だ?」
講義が始まったばかりだと言うのに、
俺はいきなり手を上げて、話の腰を折ってやる。
意地悪かもしれないが、こういう事にしっかりと対応できるように、
色んな事態に慣れさせないとな。
それに、本当に属性ってのが何なのかよく分かねぇし。
まあ、ゲームとかで、すっかりお馴染みな単語なんだけど……、
「え、え〜っと……属性というのはですね。
呪文を唱え、発動させる事によって生じる主なエネルギーの種類の事です。
その種類にはいつくかありまして、主な属性は火・水・地・風・光・闇の六種類です」
俺の唐突な質問にも、エリアは意外とすんなり答える。
どうやら、前もってしっかりとシュミレートしていたようだ。
う〜ん……さすがはエリア。
俺なんかと違って勉強熱心だよな。
「また、属性にはもう一つの意味がありまして、
それは、人が誰しも持っている魔力のステータスという意味です」
「ステータス、ですか?」
「ようするに、先天的に持っている魔法に関する才能ですね。
これによって、どの属性に属する魔法が使えるようになるかが決まります。
例えば、私は生まれつき風の属性を持っていますから、
主に風系の魔法が得意分野になるわけです」
「それって、生まれつき決まっちゃってるの?」
「そうですね。こればっかりは本当に先天的なものなので、どうにもなりません。
努力すれば、他の属性の魔法も多少は使えるようになりますが、
それにも限界はありますね。現に私は風系と火系の魔法しか使えませんから」
次々と飛び出す俺達の質問に、エリアはスラスラと答えていく。
しかも、教科書などの教材を見る事も無く、だ。
……これなら、もう練習の必要なんて無いんじゃねーか?
と、俺が思っている中も、講義は着々と進んでいく。
エリアの熱弁はドンドンヒートアップしていき、
それに比例するように、内容も専門的なものになっていった。
魔法概論とか、呪文構成の法則とか、
子供にそこまで話して理解できるのか、っていうくらいに……、
何か、エクストリームについて語ってる葵ちゃんの姿とダブるな。
もしかして、エリアって、実は魔法オタクなのか?
となると、授業の内容としては、子供向けではないな。
まあ、俺達くらいの年齢なら、多少はついて行けるけど……、
それに、この熱弁癖も良くない。
こんなに熱く足られたら、生徒は逆に冷めちまうぜ。
その辺のトコ、後でキッチリ注意しとかないとな……、
と、そんな事を考えつつ、エリアの講義をそれなりに興味深く聞いていると、
突然、あかねが手を上げた。
「ねえねえ、エリアさん?」
「つまり、魔族と人間とでは潜在的な理由から、魔力の許容量に圧倒的な差があります。
ならば何故、人間の使う魔法が魔族に通用するのか?
その理由が呪文または儀式です。
人間は長い呪文、複雑な儀式を用いる事により、
その少ない魔力を効率良く使って魔法を発動させるんです。
芹香さんの黒魔術なんかが良い例ですね。
ようするに、呪文というものは、魔法は発動させる際、
足りない魔力を補う為のいわば…………何ですか、あかねさん?」
あかねが手を上げたのに気付かず、熱弁を振るい続けるエリア。
しかし、しばらくしてからようやくそれに気付き、エリアは口を閉じる。
それを確認し、あかねはわざわざ立ち上がってから、エリアに訊ねた。
「あたし達の属性って何なの?」
「――はあ?」
あかねのその質問に、俺は思い切り眉をひそめた。
あかねって、無茶苦茶頭は良いんだけど、
たま〜に、こういう的外れな事を言うんだよな。
「あのなぁ……俺達に属性なんかが備わってるわけねぇだろ?
こっちの世界に魔法なんて無いんだから……な?」
と、俺はエリアに同意を求める。
しかし、エリアは首を横に振って答えた。
「そんなこと無いですよ。
魔法が使える使えないに関わらず、人には誰しも属性は備わっています。
そして、それは住む世界の違う誠さん達にも言えることです」
「そ、そうなのか?」
「はい。ちなみに、さくらさんは火属性で、あかねさんは水属性ですね」
「わ、わかるのかよ?!」
サラリとさくら達の属性を言うエリアにちょっと驚く俺。
そんな俺に、エリアは、さも当たり前のことのように頷く。
「もちろんですよ。一人前の魔法使いなら誰にでもできる事です」
「な、なるほど……」
ということは、エリアの言う通りなら、
さくらは火属性で、あかねは水属性なわけか……、
……何て言うか、らしいと言えばらしい属性だな。
――ん?
じゃあ、俺は何属性になるんだ?
「なあ、エリア……俺はどんな……」
自分の属性が妙に気になった俺は、そう言ってエリアに訪ねようとしたのだが、
それを遮るように、突然、さくらが妙なことを言い出した。
「エリアさん、わたしとあかねちゃんの属性はそんなのじゃないですよ」
と、そう言って、さくらは、いきなり俺の腕に抱きついてくる。
「うみゅ♪ そうだよ♪」
さくらの言葉に同意するように、あかねも俺に抱きついてきた。
そして……、
「わたし達の〜……」
「属性は〜……」
「「まーくん属性です(だよ)♪」」
「…………」(汗)
「…………」(汗)
「……お前ら、属性の意味を履き違えてねーか?」
さくらとあかねの的外れな発言に半ば呆れつつ、
俺はさくらとあかねをジト目で見る。
ったく、今は魔法に関する属性の話をしているのであって、
『そういう意味』の『属性』の話をしてるわけじゃねーんだぞ。
まあ、コイツらの場合、
あながち間違ってないような気もするが……、
「エリアが真面目に授業をやってんだから、お前らもちゃんと聞いてろよ」
そう言って、さくらとあかねを窘めるが、二人は俺から離れようとしない。
それどころか、ますます俺に体を摺り寄せて……、
「うふふふふふ……まーくん♪」
「うにゅ〜♪」
「…………」
……ったく、しょうがねーなー。
「おい、エリア。お前からも何とか言ってやって…………ん?」
俺から離れる気配の無いさくら達に肩を竦めると、
俺は助けを求めるようにエリアの方に目を向けた。
しかし、さっきまでいた場所にエリアの姿は無く……、
「そ、それでしたら、
私だって誠さん属性ですっ!」
「うおっ!!」
いつの間に俺の背後に移動したのか。
不意打ち気味に、エリアが後ろから俺に飛びついてきた。
そして、エリアは、両腕を俺の首に巻きつけ、ギュッと抱きしめてくる。
ギュッ……
ふにふにふに……
うむむむむむむむ……、
背中にエリアの慎ましい胸の感触が……じゃなくてっ!!
「お、おい、エリア……、
先生のお前が授業放棄してどうすんだよ?」
と、俺は背中に感じる甘美な感触に対して理性を総動員しつつ、
エリアに離れるように言う。
だが、案の定というか、エリアは離れようとはしない。
さくらとあかねに対抗するように、体をくっつけてくる。
そして、それを見たさくらとあかねも負けじと……、
「はふぅ……まーくん♪」(ポッ☆)
「うみゃあ〜ん♪」(ポッ☆)
「誠さん……♪」(ポッ☆)
「……やれやれ」
で、結局――
講義の練習などほったらかして、
その日は一日中、スキンシップを楽しんでしまう俺達なのであった。
ちなみに、その日の夜――
「そういえばさ……」
「はい?」
「昼間、訊きそびれちまったけど、俺の属性は何なんだ?」
「誠さんの属性ですか?」
「ああ……俺は何属性なんだ?」
「誠さんの場合、主な六つの属性とは違う、ちょっと特殊な属性ですね」
「――というと?」
「ギャグ属性です」
「…………」
……知らなかった。
俺のギャグキャラ体質って、さくらとあかねと付き合っているうちに身についた、
いわゆる後天的なものだとばっかり思っていたのに……、
……実は、先天的なものだったんだな。
ってことは……、
俺って生まれつき……?
………………。
…………。
……。
……シクシクシクシク。(泣)
それから数日間――
俺は立ち直る事が出来なかった。
<おわり>
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