Heart to Heart
第113話 「お正月の遊び パートW」
『あらやだ……奥さん、あれ、見てくださいな』
『藤井さんのお宅、また何かやってるみたいねぇ』
『あんなもの堂々と上げたりして、恥ずかしくないのかしら?』
『まあ、いつもの事なんでしょうけどねぇ』
ううっ……、
何か、ご近所のみなさんの揶揄する声が聞こえてくるようだ。
と、内心悲嘆に暮れながら、
俺はやけ食いとばかりに雑煮を掻き込む。
「まーくん、あんまり急いで食べると、お餅が喉に詰まりますよ」
「やかまひい。これが食わずにいられるか……」
結局、俺の抵抗は無駄に終わり、
あの『まーくん大凧』は冬の空に上げられてしまった。
夕方になり、かなり空が暗くなってきた今も、あの凧は悠然と空を舞っている。
いい加減、降ろした方が良いのだが、
四人とも、正月シーズンが終わるまで、ずっと上げておくつもりらしい。
ンな長期間、あんなモン上げてたら……、
ぬう……またご町内に妙なウワサが広まっちまうぜ。
まあ、俺達の関係そのものが、既にここいら近辺では有名になっていて、
しっかりと認知されていたりするから、どんなウワサが立とうが、
別に私生活に影響は出ないのだが……、
でも、やっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしい。
というわけで、無駄とは思いつつも、再び抵抗を試みたりする。
「なあ……あの凧、いい加減に降ろさないか?」
「どうして?」
俺の言葉に、さくらから食後のお茶を受け取りつつ、あかねが首を傾げる。
「だからさ……もう夜も遅いし、かなり風強くなってきたみたいだし……」
「それについては心配ありません」
と、俺の言葉の途中で、エリアが割って入ってくる。
「あの凧には風の結界を施しておきましたから、
たとえ台風が来たとしても、絶対に落ちたりしません」
たかが凧に、ンな問答無用なマネするなよ。
全国の凧上げ協会の人達が泣くぞ。
……って、ちょっと待て。
スフィーさん達じゃあるまいし、エリアの魔法って、
そんなにバリエーションに富んでたか?
確か、エリアが使える魔法って、
攻撃系と回復系、それに補助系と移動系だけ……、
ようするに戦闘向きな魔法ばかりだった筈だぞ。
何で、風の結界なんて、汎用性のあるモンを……?
「……いつの間に、そんな魔法覚えたんだ?」
「誠さんのお部屋にあった小説の中で、
主人公がそういう魔法を使っているのを読んだんです。
それで、もしかしたら、私の風系の魔法を応用すれば
同じ魔法が出来るのではなかと思って……」
と、訊ねる俺に、さも簡単な事のように答えるエリア。
そういえば、最近、エリアに本を貸した覚えがあるな。
確か、某美少女天才魔道士が主人公の……、
……って、おいおい。
ということは、あの風の結界って……、
「……『翔封界(レイ・ウイング)』か」
「はい。確か、そういう名前でしたね」
「じゃあ、エリアさんて、お空が飛べるようになったんですか?」
「うにゅ〜、いいなぁ」
「エリア様……流石ですね」
口々にエリアを誉め、羨ましがるさくら達。
しかし、俺は……、
……いつか『竜破斬(ドラグ・スレイブ)』まで使えるようにならないだろうな。
と、一抹の不安を覚えるのだった。
「そ、それでは……お正月の最後の遊びを……」(ポッ☆)
「う、うみゅ……始めよっか」(ポッ☆)
晩メシを食べ、後片付けも終わり、リビングでのんびりと過ごしていると、
突然、さくらとあかねがそう言い出した。
おいおい……あの凧で終わりじゃなかったのか?
つーか、コイツら、何で、顔を赤くしてんだ?
「最後の遊びって……今度は何を始めるんだ?」
俺が訊ねると、さくらとあかねは、さらに恥ずかしいそうに頬を紅潮させ……、
「さ、最後は……」(ポポッ☆)
「……『まーくんコマ回し』だよ」(ポポッ☆)
……と、のたもうた。
……何だって? まーくんコマ回し?
う〜む……そりゃ、一体何だ?
まったく見当もつかんぞ。
「……俺がコマになるのか?」
「い、いえ……まーくんはコマを回す方です」(ポッ☆)
「それでね……あたし達が、その……コマになるの」(ポッ☆)
「…………あ?」
要領を得ない二人の説明に、俺は首を傾げる。
「だ、だからね……えっと……着物の帯をね……」(ポッ☆)
「そ、その……時代劇で、よくあるじゃないですか」(ポッ☆)
「時代劇って……?」
腕を組み、少し考えてみる。
まーくんコマ回し――
回すのが俺――
コマがさくら達――
着物の帯――
時代劇――
それらの情報が、俺の頭の中で、
パズルのピースのように組み合わさっていく。
そして……、
……謎は全て解けた。
『よいではないか♪ よいではないか♪』
『あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜』
……ぐはっ!!
その答えに達した瞬間、俺はマジで卒倒しそうになった。
「な、何を考えてんだ、お前らはっ!!」
自分の理性を保つ為、さくら達にそう怒鳴りつつ、
俺は頭の中の妄想を振り払う。
「うにゅ〜……だって……」
「まーくん、今日はずっとわたし達の我侭に付き合ってくれたから……」
と、俺に怒鳴られ、バツが悪そうにシュンと俯くさくらとあかね。
そんな二人の姿に、俺は冷静さを取り戻した。
興奮と怒りで頭に上っていた血が、一気に引いていく。
そ、そうか……二人とも、俺の為に……、
俺の為に、恥ずかしいのを我慢して……、
「ゴメン……怒鳴って悪かった。
俺の為に、色々と考えてくれたんだよな」
「まーくん……」
「でもな、だからってな。
浩之じゃあるまいし、俺がンな事するわね〜だろ?」
「と、言われるわりには、しっかりとワタシの帯を掴んでいますが?」
ぬおっ!!
フランに言われ、俺は始めてそれに気がついた。
いつの間にか、俺の手はしっかりとフランの帯を掴んでいたのだ。
「…………」(じと〜)
「…………(じと〜)」
「…………(じと〜)」
「…………(じと〜)」
……四人の刺すような視線が痛い。(泣)
ううっ……、
理性は働きつつも、体は本能に従ってしまうなんて……、
俺の体よ……いつからお前はそんなに浩之チックになってしまったんだ。
いつもなら、こういった欲求は食欲が抑えてくれるんだが、
今は晩メシ食ったばっかで胃は満たされてるからなぁ。
と、とにかく、こうなった以上、後には引けない。
ヘタに誤魔化そうとしたら、それこそドツボだ。
となれば、やるべきことはただ一つ……、
「……じゃあ、やるか」
「…………」(ポッ☆)
「…………」(ポッ☆)
「…………」(ポッ☆)
「…………」(ポッ☆)
俺の一言に、四人の顔が一気に赤くなる。
それを了解の合図と見た俺は、
早速、『まーくんコマ回し』を始めることにした。
さて、ちょうど帯を持っている事だし、まずはフランから……、
と、俺が帯を持つ手に力を込める。
だが……、
「あの……一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
出鼻を挫くようなタイミングで、フランがおずおずと手を上げる。
「……な、何だ?」
思わずつんのめってしまいつつ、俺はフランの顔を見る。
すると、フランはもじもじと指を絡めながら……、
「コマ回しを始めるのは良いのですが……」
「あ、ああ……」
「それが終わったら、そのまま姫初めになだれ込むのですか?」(ポッ☆)
するぺちっ!!
あまりに予想外なフランの言葉に、俺達は一斉にコケたのであった。
……と、まあ、色々とあったわけだが、
「そ〜れっ! 回れ回れ〜♪」
「きゃ〜〜〜〜っ♪」
「うにゅ〜〜〜♪ 目が回るよ〜〜〜♪」
「ああ〜〜〜ん♪ そんなぁ〜〜〜♪」
「誠様〜〜〜♪ お戯れを〜〜〜♪」
……今年の正月は、
例年以上に楽しく過ごせて、ご満悦な俺達なのであった。(爆)
あ〜、ちなみに……、
一応、言っておくが、姫初めまではしてねーからな。(核爆)
<おわり>
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