Heart to Heart
第111話 「お正月の遊び パートU」
精神崩壊スレスレの中、例のカルタ大会が終わり――
勝ち取った写真にしばらく見惚れていたさくら達は、
そろそろ次の遊びを始めようとしていた。
「次は『まーくん羽根突き』だよ♪」
「古より、暁天のセペデトの輝く七の月、下流では定期的な氾濫が起こり、
洪水とともにその両岸の砂漠地帯に黒い沃土を堆積させ…………なに?」
ちょっぴりアッチの世界に行っていた俺は、
あかねのその言葉に、ようやくコッチの世界に戻って来ることができた。
「うにゅ〜……だから、次は『まーくん羽根突き』をするの」
俺が話を聞いていなかった事に、ちょっと口を尖らせるあかね。
おいおい……そんなに可愛らしく唇を突き出されたら、
思わず吸い付き……って、違う違う。
と、とにかく、次は羽根突きをするわけだな。
では、早速、庭へ……、
「あの、誠さん……」
「……ん?」
羽根突きをする為に、庭へ出ようとする俺を、エリアが呼び止めた。
見れば、少し顔を赤くして、何やら恥ずかしそうにもじもじと手を動かしている。
「エリア、どうした?」
と、俺がエリアに訊ねると、
さくらとあかねが心底呆れたという表情を浮かべる。
「どうした、って……」
「まーくん……鈍すぎだよ」
「あ? 何がだ?」
「あの、誠様……失礼を承知で言わせて頂きます。
エリア様の今のお姿を見て、何か仰るべき事があると思うのですが……」
「……??」
フランの言葉に、俺は注意深くエリアの姿に目を走らせ……ああっ!!
それに気付いた俺は、ようやく納得がいった。
さっきまでは普段通りの服装だったのに、
いつの間にか着物に着替えていたのだ。
よ〜く見てみれば、さくらとあかね、そしてフランも、着物姿になっている。
皆、自分の髪の色に合わせた綺麗な着物だ。
うーむ、いかんいかん。
これは失礼な事をしちまったな。
「悪いな、気が付かなくて……良く似合ってるよ」
なでなでなでなで……
「あ……」(ポッ☆)
俺に頭を撫でられ、嬉しそうに頬を赤く染めるエリア。
そんなエリアが可愛くて、俺はなでなでを続ける。
「しかし、お前ら、着物の着付けなんか出来たんだな?」
「あのね、フランちゃんが着せてくれたんだよ♪」
「とっても上手でした」
「あ、ありがとうございます……」(ポッ☆)
さくら達に口々に誉められ、照れるフラン。
なるほど、さすがはフラン。
数百年生きてるのは伊達じゃねーな。
「そうかそうか。んじゃ、フランにも……」
なでなでなでなで……
「ま、誠様……そのようなお戯れは……」(ポッ☆)
空いた手で、フランの頭も撫でる俺。
フランは言葉では拒否しつつも、その表情は嬉しそうだ。
だから、当然、俺は撫でるのを止めない。
で、そうなってくると、
黙っていられないのが、もうあと二人いるわけで……、
「うみゃ〜ん♪ まーくん、あたしも〜♪」
「なでなでしてください〜♪」
「はいはい……」
……とまあ、こうなるわけだ。
ったく、年が明けても相変わらずだな。
まあ、それがさくら達の可愛いところなんだけどさ。
「……ところで、羽根突きやるんじゃなかったのか?」
ひとしきり四人を撫でた後――
俺がそう言って話を切り出すと、
うっとりとしていたさくら達はハッと我に返った。
「ああっ! そういえば、そうでした!」
「すっかり忘れてたよ」
と、俺の指摘にポンッと手を叩くさくらとあかね。
「うふふ♪ では、早速、始めましょう♪」
そう言って、いそいそと庭へと出ていくエリア。
そして、慌ててそれを追うさくらとあかねとフラン。
「やれやれ……」
そんな四人の姿に苦笑しつつ、俺もさくら達を追って庭に出た。
そして、全員分の羽子板を用意し、
五人が庭に集まったところで……、
「……で? その『まーくん羽根突き』ってのはどうやるんだ?
まさか、俺を羽根の代わりにして打ち合うとか言うんじゃねーだろうな?」
……『まーくん』とついている以上、
また妙なルールが加わっているに違いないからな。
と、そんな事を考えつつ、俺はさくらとあかねに訊ねたのだが……、
「そんなしませんっ!」
「そうだよっ! まーくんにそんなヒドイ事できないよ!」
……力一杯否定されてしまった。
……だったら、何でお前達は、
その手にフライパンとクマさんバットを握っているんだ?
と、ツッコミたくなったが、敢えてその衝動を堪える。
まあ、多分、羽子板の代わりに、
使い慣れた得物を使うつもりなのだろう。
「じゃあ、どの辺が『まーくん羽子突き』なんだよ?」
「それはですね……」
「普通の羽根突きって、失敗したら、お顔に墨を塗られるんだよね?」
「……ああ」
同意を求めるあかねの言葉に、ぎこちなく頷く俺。
……何か、この後の展開が読めてきたぞ。
「だけどね、『まーくん羽根突き』の場合は……」
「……勝った人が、まーくんのお顔にキスマークをつけるんです」(ポッ☆)
……やっぱり、そういうパターンか。
ったく、いつもながら、恥ずかしいネタを思い付きやがって……、
「一つ訊くが……もし俺が勝ったら、どうなるんだ?」
答えは分かりきっていたが、一応、訊いてみる。
で、やっぱり、答えは予想通りだった。
「それは、もちろん……」(ポッ☆)
「まーくんがあたし達に……」(ポッ☆)
「まあ……」(ポッ☆)
「もしかして、ワタシも、ですか……?」(ポッ☆)
と、顔を真っ赤に染める四人。
こいつら……俺と対戦した時は、負ける気満々みたいだな。
……まあ、いいんだけどさ。
「……んじゃ、始めるとすっか?」
「「「「は〜い♪」」」」
――てなわけで、
カルタ取りに続くお正月の遊び第三弾の、
『まーくん羽根突き大会』が開催された……、
……のだが、
……忘れちゃいけない。
こういう時には、何処からともなく必ず現れる、
神出鬼没の最強コンビがいるということを……、
「あらあらあらあら♪ そんな楽しそうなことを……」
「……私達抜きでやるつもりじゃないでしょうね?」
……誰か、助けてくれぇ〜。(泣)
<おわり>
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