Heart to Heart
第110話 「お正月の遊び パートT」
え〜っと……、
まあ……何だ……、
とりあえず、まずは挨拶からだな。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。(ぺこっ)
――というわけで、正月だ。
まったく、時が過ぎるのは早いものである。
つい最近まで、夏休みだったような気がするが……、
……まあ、気のせいだろう。(笑)
とにかく、今はもう正月なんだ。
何となく季節外れな気もするが、とにかく、正月なんだ。
……文句は言わせん。
「もぐもぐ……ホント、このおせち料理、おいしいよね♪」
「もちろんです。わたし達四人で作ったんですから♪」
「あ、あの……誠様……お口に合いますでしょうか?」
「ん? おう、上手いぞ」
「うふふ♪ 良かったですね、フランさん♪」
一月二日――
元旦は過ぎたが、まだまだ正月の雰囲気が漂う中、
俺とさくらとあかねとエリア、そして、フランを加えたの五人は、
昨日、さくら達が作ったおせち料理の残りで、かなり遅めの朝メシを食べていた。
ちなみに、時間はすでにお昼頃――
昨夜は、浩之達と一緒に初詣に行っていたから、
その分、寝るのが遅くなってしまい、起きるのがこんな時間になってしまったのだ。
その初詣の時に、フランは俺達と同行していたので、
そのまま、さくら達同様、俺の家にお泊まりしていったわけだ。
てなわけで、今、こうして、正月特有のノンビリとした時間を、
大切な女の子達と一緒に満喫しているわけだ。
「……しかし、去年は色々とあったよな」
と、皆でおせち料理を食べている中、俺は何気なくそう呟き、
去年のことを振り返ってみる。
まず、中学を卒業して……、
無事、さくらとあかねと同じ高校に入学して……、
そして、浩之達と知り合ったのをきっかけに、いろんな人達との出会いがあった。
新しく入った高校では、浩之やあかりさん達と……、
夏休みには、隆山で耕一さん達と……、
肝試し大会の時に、芳晴さん達と……、
秋の文化祭のシーズンでは、祐介さん達と……、
冬の初めの頃に、陣九郎達と……、
そうそう……、
行き倒れになった時に、往人さんとも出会ったよな。
もちろん、出会いだけがあったわけじゃない。
親友との、つらい別れもあった。
『相沢 祐一』――
俺にとって、始めての親友。
俺とさくら達の特殊な関係を、誰よりも理解してくれた友達。
間違い無く、俺の中では、浩之と同格に位置する親友だろう。
その親友は、家庭の都合で、北海道へと引っ越していった。
別に、永遠に会えなくなったわけではない。
その気になれば、いつだって会える。
でも、やっぱり、ちょっと寂しくもある。
北海道は……遠いからな。
……本当に、いろんな人と出会った。
……別れがあった。
そして、いろんな事を経験した。
嬉しいこと――
楽しいこと――
悲しいこと――
中には、とんでもなく非現実的な出来事もあったよな。
その筆頭に上げられるのが……、
「……? 何ですか?」
俺がジッと見つめているのに気付いたのか、
エリアは箸を動かす手を止めると、俺と目を合わせ、小首を傾げた。
「いや……何でもない」
慌ててエリアから視線を逸らせつつ、俺は誤魔化すようにお茶を啜った。
――そう。
去年の思い出で、一番大切なのは……エリアとの出会いだ。
なにせ、異世界からやってきた魔法使いだって言うんだから、
琴音ちゃんや芹香さんにも負けないくらい、まさに非常識の極みだ。
そういえば、健太郎さんやスフィーさんと知り合ったのは、
エリアとの出会いがきっかけだったし……、
その時に作った悪魔召喚プログラムの件で、
ネット界の有名人である『電子の妖精』とも、
直接の面識は無いものの、知り合いになる事が出来た。
――本当に、世の中ってのは、出会いと別れの連続だよな。
ても、こうして考えてみると、俺の周りって普通の奴っていないような……、
性欲魔人――
黒魔術を使うお嬢様――
エクストリームチャンピオン――
超能力者――
メイドロボ――
異世界の魔法使い――
グエンディーナの王女様――
電波使い――
鬼――
電子の妖精――
天使――
吸血鬼――
人狼――
・
・
・
……これは、一体、何なんだ?
なんか、俺って、高校に入ってから、やたらと波乱万丈な人生送ってねーか?
つーか、何で、俺の周りにばっかり、こんな人外魔境なメンバーが勢揃いしてんだよ?
「………まーくん、どうしたんですか?」
俺が自分の数奇な境遇を思い知って、ちょっとブルー入っていると、
そんな俺の様子を気にしてか、さくらが声を掛けてきた。
「い、いや……何でもない……」
「……そうは見えませんけど?」
「は、はは……ちょっと、人生ってやつについて考えちまっただけだよ」
「は、はあ……そうですか?
でも、お正月早々、そんな暗い顔をしていのは良くないですよ」
「ああ……わかってる」
さくらの励ましの言葉を聞いても、俺はなかなか立ち直ることができない。
そんな俺を見兼ねたのか、さくらはスックと立ち上がると……、
「そんな暗い気分は、楽しく遊んで吹き飛ばしてしまいましょう。
実は、今日という日の為に、あかねちゃんと一緒に色々と準備をしていたんですよ♪」
……と、何やら嬉しそうにのたもうた。
一体、何を始めるつもりなんだ?
俺、今日は一日ゴロゴロして過ごすつもりだったのに……、
妙にテンションの高いさくらに、俺は首を傾げる。
でもまあ、今の暗い気分を解消できるなら、
さくら達に付き合ってみるのも悪く無い、かな?
この時、俺はまだ気付いていなかった。
このさくらの一言が、つらく長い一日の始まりだったという事を……、
「……それではっ!!
これより第1回『まーくんカルタ取り大会』を始めます♪」
「わーっ♪」
「ぱちぱちぱちぱち〜♪」
さくらが宣言すると同時に、
あかねとエリアが待ってましたとばかりに拍手をする。
そんな三人の様子と、リビングに並べられた大量の写真、
そして自分の手にある読み札を見て……、
「……はあ〜」
……と、俺は大きくタメ息をつき、ちょっと自分の判断を後悔していた。
何で、高校生にもなって、カルタ取りなんかしなくちゃいけないんだ?
――そう。
今日は一日、楽しく遊ぼうと、さくら達が提案したのはカルタ取りだった。
で、その提案を聞いた時、俺は文句を言おうかと思ったりもしたのだが、
今、我が家には正月初体験のエリアがいる。
ならば、ここは一つ、正月ならではの遊びに興じてみるのいいだろうと考えたのだが、
まさか、こんな異色ルールのカルタ取りだったとは思わなかったぜ。
「…………はあ〜」
目の前に並んだカルタ取りグッズを見て、俺はもう一度、溜息をついた。
何故、たかがカルタ取りで、俺がこんなにも重い気分になっているのかと言うと、
カルタ用の札の代わりに、さくらとあかねが用意したのは、
俺の姿が写った大量の写真だったからだ。
二人はそれを丁寧に床に並べた後、俺に手作りの読み札を押し付ける。
そして、今からやるさくらとあかねが独自に考えたカルタ取りのルールを、
それはもう楽しそうに説明してくれた。
題して『まーくんカルタ取り』っ!
……なんかもう、聞いただけで逃げ出したくなるような題名だ。
つか、説明するだけで、イチイチそんな嬉しそうな顔をするなよな。
イネス先生か、お前らは。
……っと、話が逸れたな。
で、その『まーくんカルタ取り』のルールだが……、
それは至って簡単。
基本的には普通のカルタと同じだ。
ただ、違うのは、取り札代わりの写真の表には、
一切、文面は書かれておらず、裏にその写真の内容に適した文面が書かれているという点だ。
つまり、それと同じ文面が、俺の持つ読み札にも書かれていて、
俺が読み上げた文面を聞き、それに当てはまる写真を、
その写真に写った内容だけで判断し、素早く取る、というわけだ。
まあ、何て言うか……、
いかにも、さくらとあかねが考えそうな遊びだよな。
……てなわけで、
その超イロモノカルタ取りが、今、始まろうとしているわけだ。
「……じゃあ、読むぞ」
と、俺は読み札を手に取り、軽く皆を見回す。
「……はい」
「うん……いいよ」
「いつでも、どうぞ」
「……ワタシ、頑張ります」
緊張の面持ちで、俺が読み上げるのを今か今かと待つ四人。
何故、四人が、こうも真剣なのかと言うと、
取った写真は、そのまま所有権を得ることができるらしい。
しかも、ここに並べられた写真は、
全部、ポラロイドで撮られていて、ネガは存在しない。
つまり、この世に一枚しか存在しない写真ばかり……、
ようするに、全部、レア物なわけだ。
それを聞いた時は……、
――写真にレアとかコモンとかってあるのかよ?
と、思わずツッコミたくなったが、
まあ、本人達にとっては重大なことなのだろう、と思い止まった。
とにかく、そういうわけで、
四人とも、たかがカルタにこんなにも真剣になっているわけだ。
……って、ちょっと待て。
さくらとあかねとエリアはともかく、
何でフランまであんなにやる気出してんだ?
「…………」
……ま、いいか。
深く考えるのは止めよう。
きっと、よく気が付くフランのことだ。
雰囲気を読み取って、さくら達に合わせてくれているのだろう。
「……まーくん。焦らさないで、早くしてよ」
「おっと、わりぃわりぃ……じゃあ、いくぞ」
あかねの言葉に我に返った俺は、慌てて読み札に視線を落す。
そして、おもむろに文面を読み上げ……、
「…………」
こ、こんな文面を、俺に音読しろって言うのか?
……そんなに酷なことはないだろ?
「まーくん、早く読んでください」
「あ、ああ……」
急かすさくらの言葉に頷きつつ、俺は覚悟を決めた。
――このカルタ取りが終わったら、俺の精神は崩壊しているかもしれん。
と、本気で不安を抱えながら、
俺は次々とそれを読み上げていった。
「『お』こった顔も、とってもステキ♪」
「はいっ!!」
「『い』っぱい食べてね、わたしの手料理♪」
「そこですっ!!」
「『て』と手を繋いで、一緒に登校♪」
「うみゃあっ!!」
「『こ』ん夜はお泊まり。一緒にお寝む♪」
「……取れました」
・
・
・
……まあ、なんだ。
みんなが楽しんでくれているわけだから、別にいいんだけどさ……、
…………勘弁してくれよ。(泣)
<おわり>
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