Heart to Heart
第107話 「スーパー犬チック」
ある日の昼休み――
屋上で昼メシを食べ終えた俺は、弁当を作って来てくれたお礼として、
さくらとあかねの頭をなでなでしていた。
俺の肩に頭を乗せて寄り添ってくる二人の頭を、優しく撫で続ける俺。
そして、俺に頭を撫でられ、ポーッとした顔で悦に浸るさくらとあかね。
まあ、何だ……、
ようするに、いつもの光景ってやつだな。
ただ、今日は、そのいつものとはちょっと違ってたりする。
何故なら、今日は浩之とあかりさんも一緒だからだ。
どうして、一緒になったのかと言うと、別に大した理由ではない。
ただ、屋上に来る途中でばったり会って、
どうせだから一緒に食べよう、という事になっただけだ。
てなわけで、今日は浩之達とお喋りしながら、昼メシを食べ、
今はこうして食後の穏やかなひとときを満喫していた。
「はふぅ……まーくん……もっと♪」(ポッ☆)
「うにや〜〜〜〜ん♪」(ポッ☆)
「はいはい……」
なでなでをねだってくるさくらとあかねを可愛いなと思いつつ、
俺はチラリと腕時計を見て、昼休みの残り時間を確認する。
五時限目開始の予鈴まで、あと約20分――
まだまだ、のんびりと過ごしていられそうだな。
と、そんな事を考えながら、俺は何気なく浩之達の方に視線を向ける。
すると、そこには……、
「お手!」
「わんっ♪」
「おかわり!」
「わわんっ♪」
「アゴッ!」
「きゅぅん♪」
……仲睦まじく、犬チックごっこを展開する二人の姿があった。
「おいおい……」
いきなりらぶらぶなシーンを目の前で繰り広げられ、俺はちょっとゲンナリする。
ったく、そういう事を人前でやるなよな。
見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜ。
まあ、そんな浩之達を見ながら、
さくら達の頭を撫でている俺が言えることじゃないかもしれねーけどな。
と、苦笑しつつ、俺は仲の良い浩之達の姿を眺める。
しかし……、
「ほ〜れ、よしよし」
「くう〜ん♪」
楽しそうにあかりさんをかいぐりかいぐりする浩之。
そして、嬉しそうに浩之に甘えるあかりさん。
そんな二人の姿を見て、俺はふと思った。
……この二人って、まるっきし、飼い犬とその飼い主だよな。
こういう言い方すると、あかりさんに失礼だろうけど、
どう見ても、今のあかりさんの姿は……犬だ。
飼い主……、
すなわち、ご主人様である浩之に甘える飼い犬そのものだ。
あかりさんの事だから、今は意図的にそういう風にしているんだろう。
まあ、思いきり素っていう可能性も否定できないけどな……、
とにかく、浩之に甘えるあかりさんの姿は、もう犬にしか見えない。
そう考えてしまった瞬間、
俺の脳裏によからぬイメージが浮かんでしまった。
そして……、
「……なあ、浩之?」
「ん? どうした、誠」
「お前ってさ……確か、昔、犬を飼ってたんだよな?」
「あ、ああ……それがどうかしたのか?」
「その犬が使ってた首輪と鎖……まだ残ってるのか?」
「当たり前じゃねーか。あれはボスの形見だからな。
ちゃんと大切にしまって……」
と、そこまで言って、浩之は言葉を詰まらせる。
そして、ちょっと考えた後、俺を横目でジーッと軽く睨んできた。
「誠……お前、何を考えてんだ?」
「……お前と同じ事だよ、浩之」
「お前な……いくらなんでも、俺がそんな倒錯的な事を……」
「……今、俺の家には、あかね特性の犬耳犬尻尾がある」
「――っ!!」
俺の言葉に、浩之は息を呑む。
ふっふっふっふっ……、
想像してる想像してる。
……さすがは浩之だな。
性欲魔人の二つ名は伊達じゃねーぜ。
と、そんな浩之の予想通りの反応に満足しつつ、俺はさらに話を続ける。
「ついでに、肉球グローブと肉球ブーツもあるぞ」
「…………」
浩之がゴクリッと生唾を飲み込む。
そして、俺はトドメの一言を、浩之に言い放った。
「…………どうする?」
この後、浩之が何て答えたかは……、
まあ、言うまでも無いよな。(笑)
<おわり>
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