Heart to Heart

  
     第99話 「まーきんぐ」







 とある土曜のお昼頃――

 『フィルスノーン』での仕事を早めに切り上げた私は、
あちらの世界特有の果実をお土産に、お家へと帰りました。

 あ、この場合の『お家』というのは、誠さんの家のことですよ。

 い、一応、その……
『誠さんの妻(きゃっ♪)』というのが、
私の立場ですから。(ポッ☆)

 まあ、『フィルスノーン』ではともかく、
誠さん達の世界では正式なものではないんですけどね。

「うふふふ♪」

 いつものように机の引き出しから身を乗り出し、
誠さんの部屋に出た私は、籠に入った果実を見つつ、私は微笑む。

 実は、今日、私が持ってきたこの果実は、その甘さもさることながら、
とても滋養がある果物で、あちらの世界では重宝されているものなんです。

 もちろん、その分、手に入れるのも困難な物なのですが、
今回はティリアさんがお裾分けしてくれたんです。

 そこで、最近、誠さんが夏バテ気味だったことを思い出し、
一緒に食べ思って、こうして持ってきたわけです。

 ……誠さん、喜んでくれるでしょうか?

 この果実に豪快にかぶりつき、
それはもう美味しそうに食べる誠さんの姿を想像し、私の頬が緩む。

 誠さんって、何かを食べてる時が、一番幸せそうな顔してるんですよね。
 それが美味しいものだったら特に、です。

 私は、そして、さくらさんもあかねさんも、
そんな時の誠さんの表情が……、(ポッ☆)

 ……と、いけません。
 こんな所で、いつまでもポ〜ッとしているわけにはいきまんよね。

 きっと、誠さんはお腹を空かせているはずです。
 早く、お昼ご飯を作ってあげなくっちゃ♪

「〜♪ 〜♪」

 鼻歌混じりに誠さんの部屋を出た私は、軽快な足取りで階段を降ります。
 そして、リビングへと足を踏み入れました。

 そこで私が見たものは……、

「まあ……♪」

 タンクトップにトランクスだけという格好のまま、
リビングの床の上で大の字になって眠る誠さんの姿でした。

 見れば、そのすぐ側には、お盆の上に置かれた空のカップラーメン。
 しかも、四つも、です。

 ははあ……なるほど。
 どうやら、カップラーメンで空腹が満たされて、
そのままお昼寝してしまったみたいですねぇ。

 もう、誠さんったら……、
 もう少し待っていてくれたら、こんな物じゃなくて、
私の愛情たっぷりの(きゃっ♪)手料理をお腹一杯食べさせてあげたのに……、

 と、軽く息を吐きつつ、私は再び誠さんの姿に目をはしらせます。

 そのあまりの無防備さと無警戒さ……、
 思わず襲いたく……って、違いますっ!

 とにかく……いくら季節は夏とはいえ、
こんな薄着のままで寝ているのは良くないですよね。

 と、私はタオルケットを一枚用意して、眠っている誠さんの体にそっと掛けました。

「…………」

 そして、タオルケットの上から誠さんの胸をポンポンと叩きながら、
私はその心地良さそうな表情を眺めます。

 ふふふ……誠さんの寝顔って、本当に可愛いです♪
 いつまで見ていても飽きませんね。

 ……そうですっ! 膝枕をしてあげましょう♪

 ふと名案が浮かび、私はポンッと手を叩きました。
 そして、いそいそと誠さんの顔の側で正座する。

 はふぅ……膝枕っていいですよねぇ♪
 誠さんの頭の重みが、何とも心地良くて、あたたかくて……、

 うっとりと頬を染めつつ、誠さんを起こしてしまわないように、
そっと誠さんの頭を持ち上げる私。

 ですが、その時……、


「――っ!!!」


 私は、とんでもないものを発見してしまいました。

 なんと、誠さんの首筋に、何やら小さな痣のようなものがあるのですっ!
 それは、何となく唇の形のようにも見えて……、

 もしかして……、
 もしかして……、

 あ、あれって、……
キスマーク?!


 
ドキドキドキドキ……


 私は高鳴る胸を押さえながら、それをまじまじと見つめる。

 よく見ると、それは首筋だけではありませんでした。
 タンクトップの開いた襟から見え隠れする誠さんの逞しい胸元(ポッ☆)にも、
いくつか同じようなものがあります。

 だ、誰がこんなことを?
 真っ先に考えられるのは、さくらさんとあかねさんですけど……、

 でも、違いますよね。
 さくらさんとあかねさんは、誠さんが寝ている隙にこんな事をする人ではありません。
 あの二人なら、誠さんが起きている時に、堂々とするはずです。

 だとしたら、一体誰が……、

 と、私が頭を捻っていると……、


 
ピンポーン♪ ピンポーン♪


 突然、玄関からチャイムが聞こえてきました。

「あ、はいはい」

 慌てて私は玄関へと向かい、ドアを開ける。
 そこには……、

「あら? エリアちゃん、帰ってたの?」

 あかねさんのお母様であるあやめさんが立っていました。
 手には何やら大きな紙袋を持っています。

「どうしたんですか? 誠さんなら、今、お昼寝してますけど?」

「ええ、
『知ってるわ』。ちょっとお邪魔するわね」

 そう言うと、あやめさんは家に上がり込み、
真っ直ぐにリビングに向かいます。

 ……はい?
 あやめさん、今、知っている、と言いませんでしたか?

 どうして、今、来たばかりのあやめさんが、
誠さんがお昼寝していることを知っているのでしょう?

 と、首を傾げつつ、私はあやめさんを追い、リビングに入りました。

「え〜っと……あ、あったあった♪」

 ビデオテープが並べられた棚の中をゴソゴソと漁るあやめさん。
 そして、目的の物を見つけたのか、一本のビデオテープを取り出しました。

 あ……あれは赤ちゃんの頃の誠さん達が録画されている例のテープです。
 どうやら、あれを取りに来たみですね。

「実は、ついさっきね、貸していたビデオを返してもらいに来たのよ」

 と、あやめさんは持っていた紙袋にそのテープを入れます。
 見れば、紙袋の中には、たくさんのビデオテープが……、

 ちなみに、全部、ジャッ〇ーなんとかという人が主演の映画です。

「……で、家に上がってみれば、誠君寝てるじゃない?
起こすのも可哀想だから、勝手に持っていったのよ。
その時に、テープを一本持っていくの忘れちゃってね。
それで、こうして戻ってきたわけ」

 と、私に説明しつつ、あめさんは玄関に向かい、再び靴を履きます。

「……つまり、あやめさんは、私が帰ってくる以前に、
一度、ここに来ているわけですね?」

「そういうことよん♪」

 訊ねる私に、ドアのノブに手を掛けたまま、しれっと答えるあやめさん。

 やはり、あやるさんは私よりも先に、
お昼寝している誠さんを発見していたようです。

 ということは……、
 もしかして……、








「……あやめさん?」

「ん? な〜に?」

「もしかして……誠さんについてるキスマークって……」


「私のよん♪」


「…………」








「じゃ、エリアちゃん、またね♪


 
――バタンッ


 ヒラヒラと手を振ってから、あやめさんは家を出ていきました。

「…………」

 閉められたドアを、ただただ呆然と見つめる私。

 あやめさんとはるかさんは誠さんに対してのみキス魔の傾向がある、と、
誠さん達から聞いてはいましたが、まさか、キスマークまで……、

 ううっ……ズルイです。
 誠さんの
である私でさえ、まだそんな事したことないのに……、
 それどころか、キスだってまだ数える程しか……、

「……負けてはいられませんっ!」

 私はクルリと踵を返すと、リビングへと戻りました。

 ……私だって、
 ……私だって、

 誠さんが寝ている隙に、あやめさんに負けないくらい、
いっぱいいっぱいキスマークをつけちゃいますっ!

 誠さんは私達の誠さんなのですっ!
 その証を、誠さんの体中につけちゃいますっ!

 ホントは、誠さんが起きてる時に堂々としたいところですが、
それは、さすがに、ちょっと恥ずかしいですから。(ポッ☆)

 と、頬を赤らめつつ、私は勢い込んでリビングへと入りました。

 しかし……、
















「ふわあ〜……あ、エリア、おはよう」
















「シクシクシクシクシクシク……」(泣)

 目を覚ました誠さんの姿を見て、
いきなり目論みが潰えた事を悟り、私は心の中で涙する。

 うううっ……、
 私って、やっぱり不幸なんですね。(泣)








<おわり>
<戻る>