Heart to Heart

  
   第98話 「ぱじゃま・ぱーてぃー」







 突然だが、今、我が家には、
葵ちゃんと琴音ちゃんの二人が来ている

 ……しかも、お泊りで、だ。

 妙な事を想像するなよ。
 当然の如く、さくら・あかね・エリアも一緒だ。

 まあ……いわゆる、アレだ。
 女の子達の言うところの『パジャマパーティー』というやつだな。

 でも、何でわざわざ俺の家でやるんだ?
 そもそもは、さくらとあかねが企画したんだから、
二人のどちらかでやるモンじゃねーかの?

 まあ、賑やかなのは嫌いじゃねーから、
俺的には全然問題無いんだけどな。

 でも、さくら達はともかく、葵ちゃんと琴音ちゃんはいいのかな?
 好きでも無い男に自分のパジャマ姿を見られても、
平気なものなんだろうか?

 ……それとも、俺のこういう考え方が古いだけなのか?

「藤井君……どうしたの?」

「さっきからボ〜ッとしてますけど?」

 さっきから黙りこくっている俺を不思議に思ったのだろう。
 紅茶とお菓子を囲んで、さくら達と楽しくお喋りしていた二人が、
俺の方に目を向ける。

 そして、それに続いてさくら達も……、

「いや……何でもねぇよ。
ただ、皆のパジャマ姿が可愛いな〜、って思ってただけだ」

 と、俺が冗談混じりに言うと、
さくらとあかねとエリアの三人はポッと顔を赤くし……、

「もう……藤井君ったら……」

「お世辞を言っても何も出ませんよ」

 ……葵ちゃんと琴音ちゃんは、そう言って屈託無く微笑む。

 この笑顔を見る限りでは、俺にパジャマ姿を見られている事に関しては、
二人は何とも思っていないようだ。

 浩之以外の男は眼中に無いってか?
 ……まあ、いいけどさ。

 でも、何だかイチイチ気を遣ってた俺が馬鹿みたいじゃねーか。
 もういいや……気にするの止めよう。

「……別に、お世辞で言ったつもりはねーんだけどなぁ」

 と、何の気無しに、俺は言葉を続ける。

「誠さん……」

 そんな俺の言葉を聞き、
エリアが非難めいた視線を俺に向けてきた。

 見れば、さくらとあかねも、同じようにジト目で俺を睨んでいる。

「誠さんの事ですから、その言葉に他意は無いのでしょうけど……」

「そういうセリフ、わたし達以外の女の子に……」

「……あんまり気易く言っちゃダメだよ」

「はあ? どういうことだ?」

「誠さんが、それだけ朴念仁だという事です」

「…………誰がニンジンだ」

「……もういいです」

 と、深々とタメ息をつくエリア。
 同様に、呆れ顔のさくらとあかね。
 そして、何故かやたらとウケている葵ちゃんと琴音ちゃん。

「……???」

 そんな訳の分からない皆の様子に、
俺はただただ首を傾げるのだった。
















 と、まあ、そんなこんなで、
夜の他愛の無いお喋りの時間は続き……、

「……あの、もう一度、お風呂をお借りしても良いですか?」

 話も一区切りし、そろそろ布団の用意をしようかと思っていると、
いきなり、琴音ちゃんがそう俺に訊ねてきた。

「あ? 別に良いけど……でも、さっき入ったばっかりじゃねーか?」

「はい。少し体が冷えてしまったものですから」

 と、申し訳なさそうに言う琴音ちゃん。

 ……なるほど。
 女の子は冷え性な子が多いって言うからなぁ。

「あ……なら、私も……いいかな?」

 琴音ちゃんに続いて、葵ちゃんもおずおずと手を上げる。

 おいおい……葵ちゃんもかよ。
 ホント、女の子って体が冷えやすいんだな。

 さくら達がよく「まーくんの体ってあったかい♪」って言うけど、
そういうことなのかもなぁ。

「じゃあ、あたし達でお布団の準備しとくから、
二人で一緒に入ってきていいよ」

「では、お言葉に甘えさせて頂きますね。行こ、葵ちゃん」

「う、うん」

 あかねの言葉に頷き、
琴音ちゃんは葵ちゃんを伴って風呂場へと向かった。

 それを見送り、俺も立ち上がる。

「んじゃ、俺は布団を持って来るから、その間に片付けといてくれ」

「「「は〜い」」」

 お菓子や食器などで散らかったリビングの後片付けをさくら達に任せ、
俺は来客用の布団を用意する為に、物置きへと向かった。

 物置きへ行くには風呂場の前を通らないといけない。

 そこを素通りしつつ、葵ちゃん達が入っているのを横目で確認すると、
俺は物置の戸を静かに開けた。

「え〜っと……布団、布団っと……」

 物置の中をザッと見回し、目的の物を探す俺。

「おっ! あったあった」

 奥の方に布団を発見し、俺はそれを二組引っ張り出す。

「……よっと」

 二組を一度に持っていくのはちょっち無理だから、
取り敢えず一組をその場に残し、布団を持ち上げる。

 そして、リビングへ戻ろうとして……、

「…………」

 ……風呂場の前で、俺は足を止めた。

 そういえば、この風呂に、さくら達以外の女の子が入るなんて、
初めてのことだよなぁ〜。

 耳を澄ませば、お湯が流れる音に混ざって、
葵ちゃんと琴音ちゃんの楽しげな声が聞こえてくる。

 そんな魅力的なシュチュエーションを目前にして……、



 
……覗いちゃおうかな♪



 と、漢の浪漫とも言える欲望が、湧き上がってくる。

「…………」

 俺は、さりげなく風呂場の戸に目を向ける。

 どうやら、今は一緒に体を洗っている最中の様だ。
 曇りガラスの向こうに、葵ちゃんの青い髪と、琴音ちゃんの薄紫色の髪、
そして、二人の綺麗な肌の色が……って、

「ヤバイヤバイ……いつまでもいんなトコにいたら、
マジで半殺しにされちまう」

 さくらのフライパン――
 あかねのクマさんバット――
 葵ちゃんの格闘技――
 琴音ちゃんの超能力――

 それらでズタボロにされた自分の姿を想像し、
俺はブンブンッと頭を振って煩悩を振り払う。

 そして、俺は風呂場から視線を離し、
サッサとその場から立ち去ろうと踵を……、

「…………」

 ……返そうとして、再び、俺は立ち止まった。

 ふと、思い出してしまったのだ。
 以前、偶然にも見てしまった『ある出来事』を……、

 そう……それは、学校の屋上で……、

「……まさか、な」

 と、思いつつ、もう一度、俺は風呂場の中へと耳を澄ます。
















「あっ♪ 葵ちゃん♪ 胸、ちょっと大きくなったんじゃない?」


「あうんっ……こ、琴音ちゃん……そんなとこ触っちゃ、ダメェ……」
















「――っっっ!!!」


 それを耳にした瞬間、
俺はダッシュでその場から離れた。

 そして、さくら達がいるリビングへと駆け戻り、
持っていた布団を放ると……、


「うおおおおーーーっ!!!」


 
がんがんがんがんっ!!


 手加減抜きで、頭を壁に打ちつける。

「ま、誠さんっ!?」

「まーくん、どうしたのっ!?」

「まーくん、落ち着いてくださぁぁぁぁぁいっ!!」

 突然、錯乱した俺を見て、慌てふためくさくら達。
 そんなさくら達に構わず、俺は……、








「俺は何も聞いていないっ! 何も聞いていないっ!
何も聞いてないんだぁーっ!」








 何としてでも、さっきの記憶を消し去ろうと、
俺は頭を打ちつけ続けるのであった。
















 まあ、あの二人の事だから、
多分、ふざけ会っていただけなんだろうけど……、

 ううっ……、
 こりゃ、今夜は眠れそうにね〜よぉ。(泣)








<おわり>
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