Heart to Heart

  
  第81話 「きれいなたましい」







「こちらポイントカードになります。
割引サービスがございますので、次回よりご利用下さい」

 棚に並べられたCDを物色する俺の横で、
カウンターの店員が接客をしている。

「ありがとうございました」

 店員から商品を受け取った客が、俺の後ろを通り過ぎていった。
 接客を終えた店員は、さっきまで続けていた商品登録を再開する。


 
ピッ! ピッ!


 店員がレジにバーコードを読み込ませる度に、短い機械御が鳴る。
 それを耳にしながら、俺は目的の商品を探し続けた。








 ここは、俺の行き付けのCDショップ。
 実は、俺の住む街からひと駅離れた商店街にあったりする。

 何故、わざわざこんな遠くの店まで来ているのかというと、
家の近くにある店では俺が買うようなマイナーなCDはあまり扱ってないんだな、これが。

 でも、こういう大きな店なら、品揃えも豊富だし、
さっき店員が言ってたポイントカードのようなサービスも充実している。

 てなわけで、俺はCDを買う時は、いつもこの店に来るのだ。

「まーくん、ありました?」

 CDが並ぶ棚とにらめっこする俺に、さくらが訊ねてきた。

 今日はさくらとあかねも一緒に来ている。
 多分、あかねは新作のコーナーにいるのだろう。
 『緒方 理奈』のニューアルバムがそろそろ出てるかも、とか言ってたからな。

「一応、見つけた。ただ、どっちが新しいのかわからん」

 と、俺はさくらに二枚のCDを見せる。

 二枚とも『桜井 あさひ』という声優のCDだ。
 これのどちらかに、俺が探している曲があるはずなのだ。

 曲名を見ればいいだろうって?
 悪かったな、曲名は忘れちまったんだよ。
 ただ、わかってるのは、新しい方のCDに入っているってことなんだけど、
ホント、これ、どっちが新しいやつなんだ?

「店員さんに聞いてみましょうか?」

「そうだな」

 さくらの言葉に頷き、俺は側のカウンターにいる店員に目を向けた。
 その店員は、大量の新作CDの商品登録にてんてこまいになっている。

 ……なんだか、声掛けるのがかわいそうだな。

「あっ! あの人に聞いてみましょう」

 さくらも俺と同じ事を思ったのだろう。
 少し離れたところでポスター貼りをしている女性店員を指差した。

「すみませーん」

 と、俺達が声を掛けると、女性店員はポスターを貼る手を止めてこちらを見た。

 赤っぽいオレンジ色のショートな髪――
 落ち着いた物腰――

 ちょっち目つきが鋭いけど、結構、いや、かなりの美人だ。
 胸のネームプレートを見ると『江美』と書かれている。

「なんでしょう?」

「えっと、このCDって、どっちが新しいんですか?」

 と、俺が訊ねると、女性店員……江美さんは、二枚のCDを手に取り、
それを交互に見比べる。

「……?」

 そして、表情を変えずに小首を傾げると……、

「しばらくおまちください」

 と、CDを持ってスタスタと歩いていってしまった。

「「…………」」

 顔を見合わせる俺とさくら。
 そして、江美さんの後を追った。

 それにしても……何と言うか、愛想の無い人だなぁ。
 クールと言うか、淡々としていると言うか……新人さんなのかな?

 でも、何故か憎めない。

 ――ああ、この人はこういう風にしか喋れない人なんだな。

 と、素直に納得できてしまう。
 そんな問答無用の雰囲気を持っている人だ。

 そんな事を考えているうちに、江美さんの足が止まった。
 そこは、さっきのカウンターだ。

「芳晴」

「はい、なんですか?」

 商品登録をしていた店員……芳晴さんは、
江美さんの声に素早く反応して顔を上げる。

「これとこれはどちらが新しいのかと、お客様に訊ねられたのだが」

「あ、こっちの方が新しいです。先月出たばっかですから」

「そうか」

 芳晴さんの言葉に頷き、江美さんは追い駆けて来た俺達に向き直る。
 そして、俺に右手に持ったCDを見せた。

「こちらが新しい方です」

「そうですか? じゃあ、それ、貰えますか?」

「わかりました。それでは、あちらのカウンターへどうぞ」

 そう言って、江美さんは俺とさくらを隣りのレジへと案内する。
 と、その時……、


 
クイッ、クイッ


 誰かが、後ろから江美さんのエプロンを引っ張った。

「む……?」

 それに気付き、江美さんは後ろを振り返る。
 そこには、江美さんを見上げるあかねの姿があった。

「どうされました?」

「どうした、あかね?」

「どうしたんですか、あかねちゃん?」

 と、三人同時にあかねに訊ねる俺達。
 そして、そんな自分達がちょっと可笑しくて、顔を見合わせ、苦笑する。

「うにゅ? 何が可笑しいの、まーくん?」

「いや、何でもねーよ。で、探し物は見つかったか?」

「ううん。見つからないの」

 と、訊ねる俺に、あかねは首を横に振った。
 そして、江美さんに向き直る。

「ねえ、緒方 理奈のニューアルバムってまだ発売されてないの?
もしまだなら予約したいんだけど、それに特典ってつくの?」

「……?」

 そのあかねの質問に、江美さんはまたしても首を傾げる。
 そして、隣りのレジの芳晴さんの方を向くと……、

「芳晴」

「はい?」

 江美さんに呼び掛けられ、再び仕事の手を止める芳晴さん。
 何処となく、嬉しそうなのは、気のせいだろうか?

「緒方 理奈のニューアルバムとやらは、もう発売されたのだろうか?」

「まだですよ。今月の22日です」

「そうか。あと、それに予約特典はつくのだろうか?」

「ポスターがつきます。あと、初回版のみボーナストラックがあるそうですけど」

「そうか。わかった」

 芳晴さんの言葉に頷き、江美さんは俺達の方、正確にはあかねを見る。

「うみゅ」

 江美さんが「どうしますか?」と、目で訊ねてきたので、
あかねはにっこり笑って頷く。

「うむ……」

 それに頷き返し、再び芳晴さんの方を向く江美さん。

 ハッキリ言って、端から見てると妙なやり取りだよな。
 ……何か、笑える。

「芳晴。こちらのお客様が、先程のアルバムを予約されるそうだ」

「あ、はい。わかりました」

 江美さんの言葉に、芳晴さんは俺達の前へとやって来る。
 そして、人の良さそうな笑みを浮かべると、俺達に訊ねてきた。

「前金をいただく形となりますが、よろしいでしょうか?」

「はい」

 と、頷く俺達。

「ではお手数ですが、こちらの用紙にお名前とお電話番号をお書きください」

 と、出された用紙に、あかねは必要事項を記入していく。
 そして、全て書き終え、それを芳晴さんに渡した。

「これでいい?」

「はい、結構です。それでは、商品の方はこちらで取り寄せておきますので、
発売日当日、もしくはそれ以降の日に、もう一度こちらにおこしください」

「うんっ!」

 芳晴さんの言葉に、元気良く頷くあかね。

 さてと、俺も目的の物は購入したわけだし、そろそろ帰るとしますかね。

「さくら、あかね……行くぞ」

「あ、待ってくださいっ!」

「うにゅ〜! まーくん、待って〜っ!」

 店の出口へと向かう俺を、さくらとあかねが慌てて追い駆けて来る。

「ありがとうございましたー」

 そして、芳晴さん達に見送られ、俺達は店を出たのだった。
















 CDショップを出てから、しばらく三人で街を歩き回った。

 で、夕暮れ時になり、せっかくだから、
今夜は何処かでメシでも食っていこうかと話していると……、

「……もし、そこの少年」

 突然、妙に時代掛かった口調で、後ろから誰かに呼び止められた。

「はい?」

 振り返ると、そこにはさっきのCDショップの店員の江美さんの姿が。

 もう仕事は終わったのだろうか、店のエプロンは着けていない……って当たり前か。
 あんな恰好で、街中を歩いたりはしないだろう。

 何となく、この人なら平気な顔してやりそうな雰囲気あるけど……、

「何ですか?」

 あまりに唐突な再会に戸惑いつつ、俺は江美さんに訊ねる。
 すると……、

「……忘れ物だ」

 と、江美さんは俺に長い紙筒を差し出した。

「これは?」

「さっき予約していったCDの予約特典のポスターだ」

「は、はあ……ありがとうございます」

 何処か釈然としないまま、俺は江美さんからポスターを受け取る。

 もしかして、わざわざ持ってきてくれたのか?
 でも、江美さん、もう仕事は終わってるはずだよな?

 ……ってことは何か?
 仕事が終わったにも関わらず、この近辺にいるかどうかも分からない、
見つかるかどうかも分からない、そんな俺達を探し出したのか?

 しかも、ポスターを持ち歩いてたってことは、
俺達を探し出せると確信していたってことになるぞ?

 ……この人、一体何者だ?

 俺は江美さんをまじまじと見つめた。
 しかし、その無表情からは何も読み取ることはできない。

 ……ま、いいか。
 難しく考えるのは止めよう。

「でも、よく俺達を見つけられましたね?」

 ポスターをあかねに手渡しつつ、俺は江美さんに訊ねた。

 別に何かを意図したわけではない。
 満足のいく答えが返ってくると思ったわけでもない。

 ただ、何となく言ったひと言――

 しかし、それに返された言葉は、俺の予想を越えていた。

「遠くからでもすぐに分かる。お前達の魂はとても綺麗だからな」

「「「……は?」」」

 江美さんの言った事が一瞬理解できず、俺達は間の抜けた声を上げてしまう。

 ……魂?
 俺達の魂が綺麗だって?

 と、訳が分からず首を傾げる俺達。
 そんな俺達に構わず、江美さんは言葉を続ける。

「それに、お前達の魂は、まるで一つに繋がっているかの様にも見える。
そういう魂は、とても珍しい」

 と、俺達を眩しそうに見つめ、江美さんは微笑む。
 その微笑みは、冗談を言っているようには見えなかった。

 もしかして、この人……妙な宗教関係の人なのか?
 それとも……本当に俺達の『魂』ってやつが見えるのか?

 江美さんの表情を見ていて、俺は何となく後者のような気がした。
 そして、次の江美さんの言葉が、それを裏付けた。

「ただ、気になる事が一つある。お前達の魂は『運命』という名の……、
いや、その言葉すら陳腐に思えてしまう程に強い『絆』で繋がっている。
しかし、そのうちの一本が、遥か彼方に伸びているのが見える。
何処までも何処までも遠く……まるで、この世とは違う場所にまで伸びているような……、
それは一体、何なのだ?」

 瞳を閉じて、空を見上げ、夢見るように呟く江美さん。
 その江美さんの言葉を聞き、俺は確信した。

 ――この人は、本当に『魂』というものが見えている。

 ……と。

 多分、江美さんが言っているのは、エリアのことだ。
 今、エリアはあちらの世界……『フィルスノーン』に行っている。

 江美さんは、そのエリアと俺達との繋がりが、ハッキリと見えているのだ。

「教えてほしい。お前達の魂の絆は、一体何処に向かって伸びているのだ?」

「……常人では想像もつかない程、遠い遠い場所ですよ。
もしかしたら、この世界じゃないかもしれませんね」

 俺がそう答えると、江美さんは満足気に頷く。

「そうか……私の言葉を疑う事無く正しく理解したか。
さすがは、あの子が認めた男だな」

「「「……はい?」」」

 またしても不可解な事を言う江美さんに、俺達は再び首を傾げる。
 だが、江美さんは、そんな俺達に構わず……、

「それでは、邪魔したな」

 それだけを言い残し、スタスタと立ち去ってしまった。

「…………」

「…………」

「…………」

 ただただ、呆然と江美さんを見送る俺達。
 そして、お互いに顔を見合わせる。

「一体、何だったんだ?」

「……さあ?」

「うみゅ〜?」
















 エリアから、江美さんが、
デュラル家最後の一人『死神のエビル』だと教えられたのは、
それから、数日後のことであった。








<おわり>
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