Heart to Heart

  
   第100話 「目と目で通じ合う」







「……ん……ああ、そうか……寂しくなるな」





 ある日の夜――

 私が晩御飯の用意をしていると、突然、電話が掛かってきました。

 お料理をしていて私は手が離せなかったので、
二階にいる誠さんを呼んで電話に出てもらったのですが……、

「……長いですねぇ」

 と、私はテーブルに並べた料理を眺めつつ、ポツリと呟きました。

「……はぁ」

 と、軽くタメ息を吐きつつ、私はリビングへと目を向けます。
 そこには……、





「あ? ああ、分かってるよ。大きな世話だ。
だいたい、人の事とやかく言う前にだな……」





 コードレスの受話器片手にソファーに座り、楽しそうにお喋りをする誠さんの姿。

 その姿を見て、私は再びタメ息をつく。

 もう、かれこれ三十分にはなります。
 一体、いつまで話しているつもりでしょうか?

 このままでは、お料理が冷めてしまいます。
 せっかく作ったのですから、美味しく食べてもらいたいのに……、

 と、誠さんのお電話が早く終わってほしいと願う私。
 ですが、なかなか終わる気配はありません。

 それにしても、誠さんがこんなに長電話をするなんて、珍しい事もあるものですね。
 いつもなら、用件だけを話して、それはそれは手短に済ませてしまうのに……、

 一体、電話の相手は誰なのでしょう。
 どんなお話をしているのでしょう?

 お話の内容からすると、相手は男の方のようですけど……、

 ……それはともかく、そろそろお話を切り上げてもらわないといけませんね。

 と、私は意を決すると、スックと立ち上がり、リビングへと向かいました。
 そして、静かに誠さんの側に寄り、ちょいちょいと誠さんの肩を軽く突付きました。

「――??」

 それに気付いた誠さんは、
会話を続けたまま
『どうした?』という顔で私を見ます。

 その誠さんの視線を受け止め、私は少し不機嫌な表情をしつつ、
同じように誠さんに目で゜訴えかけました。








『誠さん、もうご飯ができてるんですけど』


 ――軽く口を尖らせる私。


『ああ、分かってる。 もうすぐ終わるから』


 ――ひらひらと片手を振って頷く誠さん。


『早くしてくださいね。お料理が冷めちゃいますから』


 ――プイッと、そっぽを向く私。


『分かった分かった。ところで、今日の晩メシは……ビーフシチューか?』


 ――キッチンの方へ顔を向け、鼻をクンクンと鳴らし、首を傾げる誠さん。


『はい。たくさん作りましたから、お腹いっぱい食べてくださいね♪』


 ――そんな誠さんに、にっこりと微笑む私。


『おう! もちろんだ♪


 ――グッと親指を立てて、嬉しそうに微笑む誠さん。








 ちなみに、このやり取りの間も、誠さんは電話でお話を続けています。

 私と誠さんは、目と表情と仕草だけで、
意思の疎通が出来てしまっているわけです。

 うふふふ……♪
 何だか本当の夫婦みたいで、ちょっと照れちゃいますね♪

 まあ、実際に、私と誠さんは
夫婦なんですけど♪(きゃっ☆)
















 それから、数分後――

「ああ……向こうは寒いだろうけど、風邪引くなよ。
あ? 気が早い? まあ、確かに、まだ先の話だけどな。
じゃあ、暇があったら、今度はこっちから電話するから」

 ……ようやく、お話が終わるようです。

「じゃあ、またな。おやすみ」

 と、最後にそう言って、誠さんは受話器を置きました。

「ごめん、エリア……待たせちまったな」

「……一体、誰と話してたんですか?」

 そのタイミングを見計らって、私は誠さんに訊ねました。
 さっきから、ずっとそれが気になってたんです。

「あ? ああ、中学の時の一つ上の先輩……まあ、友達だな」

「そうですか。まあ、懐かしいのは分かりますけど、
男の人の長電話はみっともないですよ」

 と、ジト目で誠さんを軽く睨む私。
 その私の視線に、誠さんは少しうろたえます。

「しょうがねーだろ。大事な話だったんだからさ」

「……どんなご用事だったんです?」

「ああ……何でも、冬頃になったら、
北海道にいる従妹の家に引っ越すって……」

 と、誠さんがそう言いかけた、その時……、


 
ぐぅぅぅぅ〜〜〜〜……


 ……誠さんのお腹が大きな音をたてました。

「ぐは……」

 その音に、誠さんは照れ臭そうに片手で顔を押さえます。

 ふふ……♪
 ホント、誠さんのこういうところって、可愛いです♪

「クスッ♪ 待っててくださいね。今、シチューを温めなおしますから♪」

「あ、ああ……頼む」

 バツが悪そうに苦笑し、頭を掻く誠さん。
 そんな誠さんの表情が何だか可笑しくて……、

「……くすくす♪」

「何を笑ってんだ?」

「い〜え♪ 何でもありません♪」

 こぼれそうになる笑みを何とか堪えつつ、
私は再びガスコンロに火を点けたのでした。
















 誠さんは、気付いているのでしょうか?
 さっき、目で会話できてしまっていたことに……、

 うふふふ……♪
 だんだん、私もさくらさんやあかねさんと同じ域にまで達してきたみたいです。

 でも、一緒に過ごしてきた時間が、圧倒的に違う分、
まだまださくらさん達には敵いませんね。

 だから、もっともっと頑張らないといけません。

 頑張って、頑張って、『誠さんが好き』っていう気持ちを膨らませて、
過ごしてきた時間の差を埋めなければいけません。

 そうしなければ、いつまで経っても……、


 
――私は誠さんの妻です(はぁと)


 ……と、堂々と胸を張って言う事はできませんからね♪








 誠さん、待っててくださいね♪

 私、いっぱいいっぱい頑張って……、
 さくらさんやあかねさんに負けないくらい、あなたとの絆を強くして……、

 一日でも早く、あなたの妻を名乗るに相応しい女の子になってみせますからね♪








<おわり>
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