Heart to Heart

   
  第71話 「花火でドキッ☆」







 
ヒュ〜〜〜……パンパンパンッ!


 
シュゥゥゥゥゥゥゥーーーーッ!


 
パチパチパチパチッ!


「……綺麗ですねぇ」

「だろ? やっぱり、夏には花火をやらなきゃな」

「それにしても、火薬にこういう使い方があるなんて、知りませんでした」

「エリアの世界には、花火ってないのか?」

「はい。お城で祝典用の大砲なら見たことありますけど、
こんなに綺麗ではありませんでしたから」

「そうかそうか。じゃあ、タップリ堪能してくれよな」

「はい。そうさせて頂きます」








 ある日の夜――

 俺達は花火をやるために、近くの公園に集まっていた。

 ちなみに、半袖シャツに短パンという恰好の俺に対し、女の子三人は浴衣姿である。
 しかも、うちわのオプション付き。

 なかなかにツボを押さえている。

 さて、そんなこんなで花火を始めたわけだが、
どうやら、エリアは花火は初体験らしく、
興味深々で、俺達のやることを眺めていた。

 ただ、打ち上げ花火だけは、例のガディム事件の時に見たことがあるらしい。

 だから、コンビニで売っているような花火に、
少々拍子抜けしていたようだったが……、

「私はこういう可愛い花火の方が好きです♪」

 と、お気に召したようだ。


 
シュパパパパァァーーーーッ!!


 手筒花火――


 
ドシューーーーーーーー……パァンッ!!


 ロケット花火――


 
シュババババババババババッ!!


 ドラゴン花火――


 
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜……ポポンッ!!


 落下傘――


 
ヒュ〜ンッ! ヒュ〜ンッ! ヒュ〜ンッ! ヒュ〜ンッ! ヒュ〜ンッ!


 十六連発――

 ……などなど。

 俺達は、次々と、新しい花火に火をつけていく。
 その度に、色とりどりの美しい輝きが闇夜に浮かび、俺達は歓声を上げる。

 そして、最後はお約束通り、線香花火で締めることになった。


 
シュシュシュシュシュ……


 
パチパチパチパチ……


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 俺達は何も言わず、ただ黙って線香花火の小さな輝きを見つめる。

 そして……、

「……あ、もう終わっちゃいました」

「あたしも……」

 さくらとあかねの線香花火が、同時に燃え落ちた。
 俺とエリアのは、まだ頑張っている。

「やっぱり四人でワンセットだと早いなぁ」

「あたし、もっと花火やりたいよ」

「そうだな。ちょっと物足りないよな」

「じゃあ、近くのコンビニで買ってきましょうか?」

 と、さくらが立ち上がる。

「ああ、じゃあ、俺が買ってくるよ。
これが終わるまで待っててくれ」

「ううん、いいよ。あたしとさくらちゃんで買ってくるから、
まーくんとエリアさんはここで待ってて」

「あかねちゃん、行きましょう」

 と、さくらとあかねは走っていってしまった。

「…………」

「…………」

「……行っちゃいましたね

「……ああ」

 顔を見合わせる二人。


  
シュシュシュシュシュ……


 
パチパチパチパチ……


 俺とエリアの線香花火は、なおも頑張って輝いている。

「しゃーねーな。続けるか」

「そうですね」

 俺達は頷き合い、線香花火に視線を戻した。


 
シュシュシュシュシュ……


 
パチパチパチパチ……


「……綺麗ですね」

「……そうだな」

 静かに光を放つ線香花火を、俺達はジッと見つめる。

「あ……」

 そして、俺の方が先に落ちた。

「はは……終わっちまった」

 と、何気なく俺はエリアに目を向ける。
 その時……、


 
――トクンッ


 一瞬、鼓動が跳ね上がった。

 線香花火の、淡いオレンジ色の光――
 夜の闇の中で浮かび上がる浴衣姿のエリア――

 ……綺麗だと思った。
 本当に、綺麗だと思った。

「あ……」

 エリアの線香花火の火が落ち、光が消えた。

「……私のも、終わっちゃいました」

 エリアもまた、俺の方を向き、静かに微笑む。


 
――ドキンッ!


 また、鼓動が高鳴る。
 しかも、さっきよりも強く。

「エ、エリア……」

「…………ま、誠さん」

 俺とエリアは、思わず見つめ合ってしまっていた。

 目を離すことが出来ない。
 いつまでも、こうしてエリアを見つめていたい。
 そんな気持ちになってくる。

 い、いかん……この妙な雰囲気をどうにかしなれけば。
 ……おっ、そうだっ!

 俺は慌てて立ち上がり、ポケットの中を探る。
 そして、後で皆を驚かせてやろうと隠し持っていたネズミ花火を取り出した。

「誠さん、それも花火なんですか?」

「ああ、まあな……」

 訊ねるエリアに頷きながら、俺はネズミ花火に火をつける。
 そして……、

「うりゃあっ!!」

 と、エリアの足元にバラ撒いた。


 
シュルシュルシュルシュルッ!!


 
シャシャシャシャシャシャシャシャッ!!


「え?! ひゃあっ!!」 

 足元で動き回るネズミ花火に驚き、
エリアは慌てて逃げる。

 しかし、ネズミ花火は執拗にエリアを追いかける。


 
シュルシュルシュルシュルッ!!


 
シャシャシャシャシャシャシャシャッ!!


「きゃっ! やだっ! いやぁんっ!」

 おおう……何だか悲鳴が色っぽいぞ。(爆)

「ま、誠さん! ニヤニヤしてないで、何とかしてください!」

「いや、なんとかって言われてもなぁ……」

 と、意地悪い笑みを浮かべる俺。
 そして……、


 
シャシャシャシャ……パパパパパパァンッ!!


 エリアの足元でネズミ花火が破裂し……、

「きゃあっ!!」

 それに驚いたエリアが、俺に抱きついてきた。

 突然、小柄で華奢な体が、俺の胸に飛び込んできて、
俺は思わず抱きしめてしまっていた。

「あ……」

「ま、誠さん……」

 二人の目がバッチリと合う。

「わ、わりぃ……」

 俺は慌ててエリアから離れようと手を離した。
 だが……、


 
――ギュッ!


 エリアは、俺の背中に回した手を離してはくれなかった。

「お、おい、エリア……?」

 身動ぎする俺。
 しかし、エリアは離れてくれない。

 か、勘弁してくれ。
 こんなところをさくらとあかねに見られたら……シャレにならん。(大汗)

「た、頼む……エリア、離してくれ」

「ダメです。イジワルした罰です。
さくらさんとあかねさんが戻ってくるまで、離しません」

 と、エリアはいっそう腕に力を込める。

 力尽くで振り解こうと思えば出来ないことはない。
 でも、何故か、そうすることが出来なかった。

「なあ、エリア……」

「ダメです」

 ……取り付くしまもねぇな。

 やれやれと、肩を竦める俺。

 ええいっ!! こうなりゃヤケだっ!!
 毒を食らわば皿までっ! 皿を食らわばちゃぶ台までっ!


 
――ギュッ!


「あっ……?!」

 俺は思い切り抱き返してやった。

 左手を腰に回し、右手を頭に添えて、胸に押しつけてやる。

「ま、誠……さん?」

 案の定、うろたえまくるエリア。

「離さないんだろ? だったら離すな」

 そう言って、俺は抱きしめる腕に力を込める。

「ああ……」

 少し苦しそうな声を上げるエリア。
 でも、俺は構わずエリアを抱きしめ続けた。

「…………」

「…………」

 夜の公園で、お互い何も言わずに抱き合う俺達。


 
トクン、トクン、トクン、トクン、トクン……


 自分の胸が早鐘のように鳴っているのが分かる。
 頭を押しつけているから、多分、エリアもそれに気付いているだろう。

 そして、俺もまた、触れ合った体から、エリアの鼓動を感じていた。

「誠さんの胸……ドキドキしてます」

「……そりゃそうだろうな」

「どうしてですか?」

「そりゃお前、エリアみたいな可愛い子と抱き合ってれば…………っ!!」

 途中で、慌てて口を噤む俺。

 な、何を恥ずかしい事を口走ってんだ、俺は。

「そ、そういうエリアこそ……どうしてなんだ?」

 何とか誤魔化そうと、俺はエリアに問い返した。
 が、言ってしまってから、後悔する。

 これじゃあ、墓穴じゃねーか。
 いや……てゆーか、泥沼? やぶ蛇?

 ああっ! 事態は全然好転してねーーーーっ!!
 てゆーか、余計に悪くなってねーか?
 何かもう頭が混乱してわけがわかんなくなってきたぞっ!

「わ、私は……」

 俺の問い掛けに、エリアは俯いてしまう。
 だが、ふいに俺を見上げてきた。

 ……瞳が、潤んでる。

「誠さん……わ、私は……」

 そして、エリアの口から言葉が紡ぎ出され……、








「まーく〜〜〜〜〜んっ!」


「花火買ってきたよ〜〜〜〜〜っ!」








「っっ!!」


「っっっ!!!」


 遠くから聞こえてきたさくらとかねの声に、俺達は慌てて離れた。

 そして、内心焦りつつも、そこらに落ちている花火の残骸を拾い集め、
何事も無かったかのように振舞おうと努力する。

 だが、お互い、動きはぎこちなく、妙に距離を置いている。

「……どうしたの?」

「何かあったんですか?」

 駆けて来たさくらとあかねは、そんな俺達の様子を見て、首を傾げる。

「……な、何でもない何でもない。
さ、早く第2ラウンド始めようぜ」

「はい。そうですね♪」

「えへへ〜♪ さっきよりもいっぱい買ってきたんだよ〜♪」

 と、先程までの事を何とか誤魔化そうとする俺に、
何も知らないさくらとあかねはにっこりと微笑みを返してくれる。

 この、俺を信じて疑わない笑顔……、

 ……ううっ。
 別に浮気してたわけじゃないけど、罪悪感が……、

 助けて、冬弥兄さん。(笑)

 さくら、あかね……許せ。
 もうあんなことは二度としないから。

「まーくん、何、ボーッとしてるんですか? 早く始めましょう」

「ほらほら、エリアさんも♪」

 さくらが俺の肩をツンツンと突付き、
あかねがゴミ拾いをしていたエリアを引っ張って来る。

 で、そのまま第2ラウンドへとなだれ込む。

 最初の内は、俺とエリアも互いを意識してぎこちなかったが……、

「ほらほら、見て見て、まーくん♪ 綺麗でしょ?」

 両手に花火を持って無邪気にはしゃぐあかねと……、

「あらあら、あかねちゃん、あんまり回ってると目を回しちゃいますよ」

 クスクスと楽しそうに微笑むさくらの姿を見ているうちに……、

「ははははははっ!」

「ふふふふふふっ!」

 いつしか、さっの事など忘れて、自然に笑い合えるようになっていたのだった。
















 ……しかし、気になるなぁ。

 エリア、あの時、何て言おうとしてたんだろう?
 それに、エリアのあの態度……、





 まさか、エリア……俺のことを?





 ……はは、まさかな。
 エリアみたいな可愛い子が、俺なんかのことを……、
 ンなことあるわけねぇだろが。

 エリアって、かなり純情だから、
大方、男である俺と抱き合ったりなんかしたから、それで緊張しちゃったんだろう。








 自意識過剰だっての、俺。








<おわり>
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