Heart to Heart

   
  第69話 「その一言が命取り」







「単刀直入にお訊ねします
このお店には、魔法使いがいますね?」

「……は?」





 ある休日の昼飯時――

 俺とエリアは、アーケードにある『五月雨堂』という骨董品屋に来ていた。
 さくらとあかねが、あのオルゴールを買ったところである。

 目的は、あの時、さくらから聞いた話の内容にあった……、


 
――『古い物には魔が宿る』


 という、この店で働く『スフィー』という女の子が言った言葉の意味を確かめる為だ。

 もし、この『魔』というのが、俺達の求める『魔力』ならば、
エリアのサークレットの魔力調達のヒントになるかもしれないと思ったのだ。

 別に確証があったわけじゃない。
 この言葉も、ただの物の例えと考える方が自然だ。

 でも、とにかく、考えられることは全て確かめておきたかったのだ。

 と、いうわけで、まさに藁をも掴む思いで、五月雨堂にやって来たのだが、
どうやら大当たりだったようだ。

 何故なら、店主である『宮田 健太郎』さんと店員のスフィーちゃんを見た途端、
エリアが冒頭のセリフを言ったのだから。





「ま、魔法使いだなんて……」

 あまりに唐突なエリアの質問にうろたえる健太郎さん

「そ、そそ、そんなのいるわけないじゃないっ!」

 と、スフィーちゃんも細くて短い手をわたわたと振り乱し、必死で否定する。

 ……この二人の態度だけでも、状況証拠としては充分だな。

 俺がそう考えている間に、エリアはさらに追い討ちをかけていく。

「隠しても無駄ですよ。
この店内には魔力が充満していますし、頻繁に魔法が使われている形跡があります。
それに、あの整理棚やほうきには魔法が付与されています。
そして、何より……」

 と、そこまで一気にまくしたて、エリアはスフィーちゃんをジッと見つめる。

「スフィーさん……あなたには、
自分の対する認識能力を麻痺させる魔法がかかっています。
スフィーさん、多分、あなたは外見が頻繁に変化しているんじゃないですか?」

「「…………」」

 エリアの指摘に、唖然とする健太郎さんとスフィーちゃん。
 そして、健太郎さんは、ふっと軽く笑うと……、

「……スフィー、どうやら、彼女は全部感付いてるみたいだな」

「……そうみたいね」

 と、健太郎さんの言葉に、スフィーちゃんも肩を竦める。

「じゃあ、やっぱり……」

「ああ。スフィーは『グエンディーナ』っていう魔法の国の魔法使いだよ」

 と、俺が訊ねるまでもなく、健太郎さんは答えてくれた。
















「なるほどね……そんなことがあったんだ」

 店のカウンターでお茶を飲みつつ、
俺達はお互いの事情を全て説明した。

「しかしまあ、なつみちゃんの件といい、エリアちゃんの事といい、
異世界から魔法使いがやって来るのって、結構よくあることなんだな。
正直、かなり驚いたよ」

「それはこっちのセリフですよ。
まさか、スフィーちゃん……スフィーさんが二十歳越えてるだなんて」

 ……そう。
 見た目が幼児なのにも関わらず、スフィーさんは21歳なのだと言う。

 何でも、こちらの世界で大量の魔力を消費するようなことをすると、
背が縮んでしまうらしい。
 もちろん、時と共に回復するので、すぐに元の姿に戻れるとのことなのだが。

 さらに、もう一つ驚かされたことがある。
 以前、偶然プールで会った結花さんが健太郎さんの幼馴染みで、
リアンさんがスフィーさんの妹だと言うのだ。

 まったく、人の縁ってのは奇妙なものである。

「それで、必要な分の魔力が溜まるまで、
そのサークレットをこの店で預かって欲しい、ってわけだな?」

「そうなんです……頼めますか?」

 俺の言葉に、健太郎さんは心良く頷いてくれた。

「ああ、安心して俺達に任せてくれ」

「それでは、よろしくお願いします」

 と、エリアは大事に持っていたサークレットを健太郎さんに渡す。

「はい、確かに。
じゃあ、スフィー。これ、大切に保管しておいてくれ」

「おっけー♪」

 健太郎さんからサークレットを受け取り、
スフィーさんは店の奥へと走っていく。

 多分、倉庫にでもしまっておくのだろう。

「さて、と……じゃあ、話も終わったところで、昼飯でも食いに行くか?」

 と、健太郎さんはエプロンを外しつつ立ち上がる。

「誠君達も一緒にどうだ?
『HONEY BEE』に行くつもりだから、結花とリアンにも会えるぜ」

「はい。じゃあ、そうさせてもらいます」

「せっかくこうして知り合えたんだし、今日は俺が奢ってやるよ」













 で、場所は変わって……、

 喫茶店『HONEY BEE』――








 
ぱくぱくぱくぱく……

 
パクパクパクパク……


 
がつがつがつがつ……

 
ガツガツガツガツ……





「スフィーさん……ここのホットケーキ、美味しいですね」

「でしょ? あたしのオススメよ♪」





 
もぐもぐもぐもぐ……

 
モグモグモグモグ……


 
むしゃむしゃむしゃむしゃ……

 
ムシャムシャムシャムシャ……








「誠ぉっ!! スフィー!!
もう勘弁してくれぇぇーーっ!!」









 ちゃんちゃん♪








<おわり>
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