Heart to Heart

      
第67話 「なかなか美味」







 
わ〜らび〜〜〜もち♪

 
わらびもちだ〜〜〜よ〜〜〜♪


「ただいまー」

「「「おかえりなさーい」」」

 日曜日――

 ちょっとした用事で出掛けていた俺が、手土産片手に帰ってくると、
さくら、あかね、エリアの三人の声が出迎えてくれた。

 ちゃんと靴を揃えて脱ぎ、リビングに向かうと、
テレビの前に敷かれたマットの上で、エリアがぎこちない動きで踊っている。

「へえ〜、結構上手くなったじゃねーか」

 一時期流行ったダンスゲームをプレイするエリアの上達振りを賞賛する俺。

「あ、ありがとうございます。
でも、さくらさんやあかねさんと比べたら、まだまだです」

 と、頬を赤くするエリア。

「そんなことねーって。
だいたいヒドゥンモードが出来る二人と比較すること自体が間違ってるっての」

 そう言って、俺は買ってきた手土産を皆の前に置いて、
床に腰を降ろした。

「……? まーくん、何買ってきたの?」

「わらびもち。さっき、そこで屋台を見つけてな。
ついつい買ってきちまった」

 と、俺はパックに入ったわらびもちを皆に配る。

「まーくん、甘い物には目がないですからね」

 クスクスと微笑むさくら。

「そういうこと言う人、嫌い……じゃなくて、そういうこと言う奴にはやらないぞ」

 と、俺はさくらの分のわらびもちを手元に引き寄せる。
 わらびもちは、ちゃんと四人分買って来たのだ。

「あっ! いりますいります」

 さくらは慌てて、俺の手から自分の分を奪い取る。

 別に、最初からさくらの分を奪うつもりなんか無い。
 ま、こういうやり取りは、やってて楽しいものだ。

「ふにゃ〜♪ 美味しいよぉ♪」

 と、俺とさくらがそんなやり取りをしているうちに、
あかねは既に自分のをパクつき始めていた。

「こらこら。買ってきた俺より先に食べるとは何事だ」

「だって、冷たいうちに食べなきゃ美味しくないよ」

 と、爪楊枝を口に咥えるあかね。

 むう……確かにその通りだ。
 俺も早く食さねばっ!!

「でわでわ……」

 爪楊枝を持つ俺。
 と、その時、エリアが困った表情をしているのに気が付いた。

「どうした?」

「誠さん……これ、どのようにして食べるのですか?」

 エリアが俺に訊ねてくる。
 どうやら、エリアの世界には、わらびもちなる食べ物は存在していないようだ。

「よし。じゃあ、実践してやるから、よーく見てろよ」

 俺は爪楊枝をわらびもちに突き刺す。
 そして、パックの底に溜まっている黄粉をまんべんなく塗りたくると……、


 
ぱくっ!


 と、おもむろに口に咥えた。

「とまあ、こういう風に食べるわけだ」

「わかりました。それでは……」

 俺の見様見真似で、エリアはわらびもちに黄粉を塗る。


 
ぱくっ!


「どうだ? うまいだろ?」

「はい、とっても♪ 冷たくて、甘くて、美味しいです」

「だろ? やっぱり夏はこれに限るよな」

 と、そう言いつつわらびもちを食べる俺に、あかねがつっこむ。

「まーくん、何でもそう言うよね?」

 続いて、さくら。

「スイカでも、かき氷でも、そうめんでも……ですね」

「ふふふ♪ 誠さんは、食いしん坊さんですねぇ」

 二人の言葉に、口元に手を当てて微笑むエリア。

「……悪かったな。食い意地が張っててよ」

「うふふふ♪」

「あははは♪」

「くすくすくす♪」

 拗ねる俺を見て、三人から笑顔がこぼれる。

 ……ちっ。
 こいつら、人をからかって遊んでやがるな。

 ま、いいけどさ。
 楽しんでくれてるみたいだし、俺が食い意地が張ってるのは事実だからな。

 それに、この程度で、三人の笑顔が見られるなら安いもんだ。

 と、俺が苦笑していると……、

「……ハッ……ハッ……クシュンッ!」

 突然、エリアがクシャミをした。

 どうやら、笑い声で巻き上がった黄粉が、
偶然、鼻腔を刺激したのだろう。

 で、そのクシャミの勢いで、
エリアのパックの中の黄粉が、正面に座る俺にふりかかった。

「けほっ……うあ〜……」

 顔中、黄粉まみれになった俺は、軽く咳き込み、うめく。

「ああっ! す、すみません!」

「エ、エリア……濡れタオルくれ」

「は、はいっ!」

 俺の言葉に、エリアは慌てて立ち上がり、キッチンに走る。

「う〜……ベトベトする〜」

 顔の黄粉を手で拭い取り、それを舐める俺。

 そんな俺を、さくらとあかねが、
妙に嬉しそうに見ているのに気付いた。

「うふふふ♪ 大変ですねぇ♪」

「あたし達が取ってあげる〜♪」

 と、二人は俺ににじり寄って来る。

 こ、こいつら……まさか……っ!?

「ま、待て、お前らっ! それはちょっとマズイだろっ!」

 妖艶な笑みを浮かべて近寄ってくる二人に、俺は後ずさる。

 こいつらが何をしようとしているのかは、容易に想像がついた。
 正直なところ、やってもらってもいいかなって思う。
 でも、三人だけの時ならまだしも、今は、エリアがいるわけだから、
そういうわけにもいかない。

 ……なのに、何故か抵抗が消極的に。(笑)

「うふふふ……まーくん♪」


 
ぺろぺろ……


「えへへへ〜……まーくぅん♪」


 
ぺろぺろ……


「……やっぱり、こうなるのな」

 予想通り、俺の顔についた黄粉を舐め取っていくさくらとあかね。

 うう……二人の舌の感触がなんとも心地良い。
 理性が飛びそうだぜ。

 と、二人の行為に身を委ねていると……、


 
んじぃ〜〜〜……


「う゛っ!」

 とってもいた〜い視線に気が付いた。
 もちろん、その視線の主は、キッチンから濡れタオルを持ってきたエリアだ。

 半眼で俺を睨むエリア。
 何となく、さくらとあかねを羨んでいる様にも見えるが、それは気のせいだろう。

 ううっ……それにしても、かなり機嫌が悪そうだ。

 まあ、当然か。
 俺の顔を拭く為に濡れタオルを持ってきたのに、
急いで戻ってみれば、こんな状況になってるわけだからな。

「あ、あのさ、エリア……」

 一応、言い訳はしておこうと、俺はエリアに目を向ける。
 だが、エリアは俺と目が合うと、何故か恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。

「……?」

 エリアの予想外の反応に、俺は首を傾げる。

「まーくん……美味しいです☆」


 
ぺろぺろ……


「甘いよぉ♪」


 
ぺろぺろ……


 そんな俺達にお構いなく、さくらとあかねは舐め続ける。

 だが、さすがにエリアの視線に気がついたのだろう。
 二人は舐めるのを止めた。

 そして、とんでもないことをのたもうた。


「エリアさんも、一緒にどうですか?」


「まーくん、甘くて美味しいよ♪」


 さくらとあかねにしてみれば、これは冗談のつもりだったのだろう。
 俺も、エリアがこんな事に参加してくるとは思っていなかった。

 しかし……、

「そ、そんな……そんな恥ずかしいこと、できませんよ(ポッ☆)」

 と、口では拒否しながらも、
エリアは何故かいそいそと俺の側へとやって来た。

「で、ですが、食べ物を粗末にしてはいけませんからね(ポポッ☆)」

 そう言って、俺の顔をジッと見つめる。

 ま、まさか……エリアも舐めるのか?!
 それはちょっと、いや、かなり恥ずかしいぞ。

 と、混乱しつつも、何処か期待に胸を膨らませる俺。

 だが、エリアは直接舐めるという行為はしなかった。
 その代わり、爪楊枝をわらびもちに突き刺すと……、


 
ぬりぬり……


 
ぱくっ!


 と、わらびもちで俺の顔についた黄粉を拭い取り、
それは食べてしまった。

「うふふふふふ♪」

 何故か、妙に幸せそうに頬に手を当てるエリア。

 ……こういう食べ方って、そんなに美味しいのかな?

「あ、それ美味しそうです」

「あたしもあたしも〜♪」

 ぱくぱくと俺の顔についた黄粉でわらびもちを食べるエリアを見て、
さくらとあかねもそれを真似しはじめる。

 そして……、








 
ぬりぬり……


 
ぱくっ!


 
ぬりぬり……


 
ぱくっ!


 
ぬりぬり……


 
ぱくっ!








「なあ、お前ら……美味しいか?」


「はい♪ それはもう♪」


「とっても♪」


「美味しいですよ♪」








 結局、三人が食べ終わるまで、
俺は身動きが取れなかったのだった。

 ……なんだかなぁ。








<おわり>
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