Heart to Heart

       
第64話 「自覚無し」







「……ん?」

 ある日、あてもなく外をぶらぶらと散歩していると、
道の真ん中に、腕が落ちているのを発見した。

 何でこんなところにあんな物が……って、ちょっと待てっ!!


「……腕っ!?」


 俺は慌ててその腕を拾い上げる。
 そして、手に取ってみて分かった。

 これ……ただの腕じゃねーな。

 って、だいたい、ただの腕が道に落ちてるわけねーっての。
 もし落ちてたら、マジで怖いぞ。

「うーむ……」

 しげしげと腕を見つめる俺。

 切断面から歯車やらコードやらが覗いている。
 どうやら、メイドロボの腕みてーだな。
 でも、その割には、構造が簡素過ぎるような……、

 と、俺が腕の観察を続けていると……、

「……あの」

「え?」

 突然、後ろから呼び掛けられ、俺は振り返る。

 そこには、買い物篭を持った十四、五歳くらいの美少女がいた。

 スラリと細く華奢な体。
 涼しげな黄色い薄手のワンピース。
 そして、綺麗な金色の髪。

 まるで、フランス人形を思わせる少女だった。

「その腕、ワタシの腕なのですが」

 抑揚の少ない声で彼女が言う。

 見れば、彼女の右腕は存在していなかった。

 どうやら、この子が、この腕の持ち主らしい。
 ってことは、この子、メイドロボか。
 でも、こんな型のメイドロボなんてあったっけ?

「なあ、普通、腕なんて落とすもんじゃねーと思うんだけど、
もしかして、ここで何かあったのか?」

 と、俺が訊ねると、彼女はコクッと頷く。

「はい。実は、先程、この辺りで
トラックに撥ねられそうになっていた犬さんを発見しまして。
それで、飛び出して、その犬さんを助けたまでは良かったのですが、
その衝撃で腕が千切れてしまいました。
しかも、服がトラックに引っ掛かって、数十メートル程、引き摺られてしまいました」

 確かに、見れば彼女の服は泥だらけのボロボロだ。
 どうやら、マジみたいだな。

「おいおい……運転手は気付いてなかったのかよ?」

「気付いているようでした。ですが、ワタシが人間では無いと知ると、
ワタシを打ち捨てて、そのまま行ってしまいました」

 相手がロボットだからって、平気で轢き逃げかよ。
 ……ひでぇ奴だな。

「……悪かったな」

 と、突然、頭を下げた俺に、彼女は小首を傾げる。

「どうして、あなたが謝るのですか?」

「その運転手と同じ人間として、だよ。
許してくれ……でもさ、人間はそんな奴ばかりじゃねーって、信じてくれよな?」

「はい。それは重々承知しております。
現に、あなたは自動人形でしかないワタシに謝ってくださいましたから」


 
――にこっ☆


 ……あ。
 一瞬、ほんの一瞬だったけど、笑った。

 この子、もしかして『心』があるのか?
 マルチほど、ハッキリしたものじゃねーかもしれないけど、
セリオ並にはあるのかもしれねーな。

「あの……」

 彼女に声を掛けられ、俺の思考は中断した。

「何だ?」

「差し出がましいとは思いますが、実は、お願いがあります」

「……お願いって?」

「はい。壊れた腕を修理したいので、工具を貸して頂きたいのです」

 彼女の言葉に、俺はちょっと悩む。

 こんな素性のわからない子を、
家に連れていって良いのだろうか?

 俺は顎に手を当てて考えつつ、彼女を見る。

 彼女は、俺の返事を待って、ただジッとその場に佇んでいる。

 ……悪い子には、見えねーよな。

 ま、いいか。
 何かあったらあったで、その時はその時だ。

 第一、ここで断ったりしたら、その後、気になって仕方なくなるしな。
 一度、関わったんだ。最後まで関わってみるのも面白い。

「わかった。じゃあ、俺の家、すぐ近くだから、行くか」

 と、俺は女の子が持つ買い物籠を手に取る。

「……あ」

「そんなんじゃ、荷物持つのも大変だろ?
ほら、サッサと行こうぜ」

 有無を言わせず、買い物篭を持って、俺は自宅へ向かう。
 彼女は、そんな俺を見て、しばらく立ち止まっていたが……、

「……ありがとうございます」

 そう言って、俺の斜め後ろをついて来た。





 ――で、自宅に到着。





「ただいまー」

 俺が玄関に入ると……、

「おかえりなさーい」

 と、奥からエリアが駆けて来た。

 わざわざ出迎えてくれなくても良いんだけどなぁ。
 でも、悪い気はしないから、ま、いいか。

「ただいま、エリア」

「おかえりなさい、誠さん。あら? お客様で……」

 俺が連れて来た女の子を見て、エリアの表情が固まる。

 その場に流れる、一瞬の沈黙。

 そして、それを最初に破ったのは、例の女の子だった。

「お久しぶりです、エリアさん」

「……やっぱり、フランソワーズさんっ?!」

















「……なるほどねぇ。
例のガディム事件の時の知り合いなわけだ」

「……はい」

「そうなんです」

 玄関で立ち話するのも何なので、
取り敢えず、俺達はリビングに腰を落ち着けた。

 彼女……フランソワーズというらしい……の泥だらけになった服を
洗濯機に突っ込み、エリアの服に着替えさせてから、
俺は、二人が知り合った経緯を訊ねたのだが……、

 俺は、世の中は狭い、と、つくづく思った。

 どうやら、浩之達も関わった、例のガディム事件で、
一緒に闘った仲間らしい。

 しかも、彼女は魔界の出身、いわゆる魔族というやつで、
魔法と科学を融合させて作られた自動人形だと言う。

 ったく、黒魔術やら超能力やら、異世界やら魔界やら、
浩之達と知り合ってから、やたらと妙な奴に関わってるよな、俺。

 ま、みんな、可愛い女の子だから、良いんだけどさ。(笑)

 ……って、ちょっと待て。
 魔族?

「あのさ……」

 物置から出してきた工具箱の中身を広げつつ、
俺はフランソワーズに訊ねる。

「魔族だって言うんなら、エリアが元の世界に帰る方法、何とかならねーか?
方法じゃなくたっていい。魔力が満ちている空間ってのを知っていたら、
その場所を教えて欲しいんだけど」

 ……そうだ。
 魔族と言えば、いわば魔法のスペシャリスト。
 エリアのことを、何とかしてもらえるかもしれない。

 と、俺は、思い切り期待していたのだが……、

「……申し上げにくいのですが、
自動人形でしかないワタシには、亜空間転移魔法は扱えません。
おそらく、ルミラ様達でも無理でしょう。それ程に、高度な魔法なのです」

 フランソワーズにキッパリと言われ、俺は落胆する。

「では、魔力に満ちた空間はご存知ありませんか?」

 と、エリアが訊ねるが、
フランソワーズは済まなさそうに首を横に振る。

「……お役に立てず、まことに申し訳ありません」

「いや、いいっていいって。無理はモンはしょうがねーよ。
ところで、道具はこんなモンでいいか?」

 自分が役に立てなかった事に責任を感じているフランソワーズを見て、
俺は慌てて話題を変えることにした。

「もし、何か足りないものがあったら言ってくれ。
すぐに用意するからさ」

 目の前に並べられた工具類を見回すフランソワーズ。
 そして、足りないも物を見つけたのだろう。
 スッと顔を上げて、俺を見る。

「あの、ピアノ線のような細くて硬い物はありませんか?
腕を屈曲運動させるのに、どうしても必要なのですが」

「細くて硬い物?」

 なるほど、筋肉組織の代わりってわけか。
 でも、家にピアノ線なんて……そうだっ! あれならっ!

「ちょっと待ってろ」

 と言って、俺は物置に戻り、釣具セットからテグスを出した。

 テグスってのは、意外と硬いからな。
 二重三重にすれば、ピアノ線の代わりになるだろう。

「……これでいいか?」

 リビングに戻り、フランソワーズにテグスを渡す。

「はい。充分です。ありがとうございます」

 そう言って、フランソワーズは自分の右腕を修理し始める。
 しかし、片手では上手くいかないようだ。
 道具を落としたり、部品を落としたりと、なかなか修理は捗らない。

 ……やれやれ。

 俺は軽く肩を竦めると、フランソワーズからドライバーを取り上げる。

「……あ」

「俺がやるよ。フランソワーズは指示してくれ」

「……申し訳ありません、誠さん」
















 それから、夕方頃になって……、

 修理も無事完了したフランソワーズは、
元から着ていた服に着替え、玄関に立っていた。

 当然、俺とエリアも一緒だ。
 フランソワーズを見送るためにな。

「誠さん、エリアさん、今日はご迷惑をおかけしました。
このお礼は、いつか必ずさせていただきます」

「いいって。気にするなよ。友達だろ?」

「……友達?」

 俺の言葉に、フランソワーズは何やら戸惑っている。

「ああ、今日から、お前は俺達の友達だ。
あ、もしかして、そんな馴れ馴れしくされたら、迷惑か?」

 と、訊ねる俺に、フランソワーズは
ふるふると首を横に振る。

「いいえ、そんなことありません……嬉しいです」

「そっか。じゃあ、これからは友達として、よろしくな」

「……はい。よろしくおねがいします」

 俺の言葉に、フランソワーズは嬉しそうにペコリと頭を下げる。
 そんなフランソワーズが無性に可愛く思えて、俺は……、


 
なでなでなでなで……


 と、ついついフランソワーズの頭を撫でていた。

「あ……(ポッ☆)」

 まるでマルチの様に、頬を赤らめるフランソワーズ。

「ははははっ、何だか可愛いな」

「そ、そんな……お戯れを(ポッ☆)」

「冗談なんかじゃねーって。ほれ、いい子いい子♪」

 と、俺がなでなでを続けようとすると……、

「そ、それでは、ワタシはこれで失礼させていただきます。
おやすみなさいませ……ま、誠様(ポッ☆)」

 そう言い残し、足早に去ってしまった。

「…………」

「…………」

 走っていくフランソワーズを、ただ呆然と見送る俺達。

「なあ、あいつ……今、俺のこと『誠様』って……?」

「……そうです、
ねっ!


 
ぎゅむぅぅぅ〜〜〜っ!


「いったぁぁぁーーーっ!!」


 最後の『ねっ!』と同時に、
エリアに尻を思い切りつねられ、俺は悲鳴を上げる。

「何すんだよっ!?」

「知りませんっ!」

 つねられたところを擦りつつ、俺はエリアに文句を言う。
 しかし、そんな俺を無視して、エリアはぷいっとそっぽを向くと、
そのまま家の奥へと行ってしまった。

 ……ったく、何だってんだよ。

 あ〜、クソッ! まだヒリヒリするぜ。
 こりゃ、絶対に痕が残ってるぞ。

 と、エリアの不可解な態度に毒ついていると、
家の奥からエリアの不機嫌な声が飛んできた。

「誠さん! 今日のこと、さくらさんとあかねさんにも言いますからね!」








 で、次の日――








「まーく〜〜〜〜〜〜ん……」(怒)


 
ぎゅむぅぅぅ〜〜〜っ!


「まーく〜〜〜〜〜〜ん……」(怒)


 
ぎゅむむぅぅぅ〜〜〜っ!


「いてててててててっ!!」








 何故か、俺はさくらとあかねに
両頬を力一杯つねられたのだった。

 ううっ……何で俺がこんな目に……。(泣)








<おわり>
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