Heart to Heart

    
第58話 「無理はしないで」







「ふわぁ〜〜〜……」

 朝――

 いつまで経っても、いつもの待ち合わせ場所に来ないまーくんを迎えに行こうと、
わたしとあかねちゃんはまーくんのお家に向かいました。

 そして、チャイムを鳴らそうと指を伸ばすと、
丁度良いタイミングでまーくんが玄関から出てきました。

 しかも、大きな欠伸をしながら。

「まーくん? また、お寝坊さんですか?」

「もうこれで三日連続だよ」

「ん……ああ、わりぃわりぃ」

 本当に眠そうに目を擦るまーくん。

「……もう一度、顔、洗ってきた方が良いんじゃないですか?」

 あまりに眠そうにしているまーくんに、
エリアさんが呆れた口調で言いました。

「…………大丈夫だ。別にいいよ」

「「……?」」

 まーくんとエリアさんのやりとりに、
わたしとあかねちゃんは首を傾げます。

 いつも思うんですけど、
エリアさんって、まーくんと話す時だけ、妙に素っ気無いんですよね。

 まーくんも、そんなエリアさんに
どう接したら良いのか分からないって雰囲気ですし。

 ……それに、それ以上に気になることがあります。

「まーくん……何だかやつれてない?」

 と、あかねちゃんが言いました。
 どうやら、あかねちゃんも気付いているみたいですね。

「まーくん、どうしたんですか? 顔色が悪いですよ?」

 あかねちゃんに続いて、わたしも訊ねました。

 まーくん、最近、ずっとこんな調子です。
 頬は少しゲッソリしてますし、目の下に隈もありますし……、

 ううっ……これでは、まーくんの凛々しくて端正な顔立ちが台無しですよぉ。

「大丈夫だって。何でもねぇよ」

 と、まーくんはわたし達を安心させるように微笑みます。
 でも、そんなに弱々しく微笑まれても、説得力無いです。

「エリアさん……まーくんの調子、どう思います?」

 まーくんに訊ねても、大丈夫だと強がるだけなので、
わたしはエリアさんに訊いてみることにしました。

「さあ? 最近、朝はいつもこんな調子ですよ。
今朝も、朝食はいらないって言われましたし」





 予想外のエリアさんの言葉に、わたしとあかねちゃんは、
心底驚きました。

「ま、まーくんっ!! 本当に大丈夫なんですか?!」

「無理しちゃダメだよっ!! 今日は学校休んだ方がいいよっ!!」

「おいおい、大袈裟だな」

「まーくんがご飯を食べないだなんて……絶対、危険な状態ですっ!!」

「不吉な事の前触れだよぉっ!!」

「……お前ら、そりゃどーゆー意味だ?」(怒)





「…………どうせ、俺は食欲魔人だよ」

 と、ちょっと拗ねるまーくん。

「とにかく、別に心配はいらねーって。
ただ、ちょっと今朝は何も食べたくなかっただけだよ。
ほら、そろそろ行かねーと遅刻しちまうぞ」

 そう言って、まーくんは歩き出します。

「う、うん……」

「わかりました。でも、無理はしないでくださいね

 強情なまーくんに、わたし達は渋々頷きました。

「それじゃあ、エリアさん、行ってきまーす」

「留守番、よろしくお願いしますね」

「はい。いってらっしゃいませ」

 エリアさんに見送られ、まーくんを追い駆けるわたしとあかねちゃん。

「あ……」

「まーくん……まだあんなトコにいる」

 いつもなら、足の早いまーくんになかなか追いつけないのですが、
今日は簡単に追いついてしまいました。

 それも当然ですよね。
 まーくん、足取りがふらふらしてますから。

 やっぱり、体の具合が悪いみたいですね。
 と、言うよりも、疲れているのでしょうか?

「……それはそうでしょうね」

 と、わたしはポツリと呟く。
















 ――だって、毎晩のように徹夜しているのですから。
















「……まーくん」

「ん?」

「……エリアさんのためにも、頑張ってくださいね」

「でも、無理だけはしないでね」

「ああ、分かってる。
さくら、あかね……ありがとな」








<おわり>
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