Heart to Heart
第57話 「魔力を求めて」
「おーい! 勇者浩之ーっ!」
ぶぴっ!
昼休み――
カフェオレをちゅーちゅーやりながら廊下を歩く浩之を発見し、
俺は早速、例のネタを使った。
「ぐっ……ゲホゲホッ!」
俺の思わぬ発言に咽込む浩之。
俺はそんな浩之に駆け寄り、背中を擦ってやる。
「おいおい、大丈夫か? 勇者浩之」
「……なあ、誠……何で、俺が勇者なんだよ?」
と、俺に訊ねる浩之の顔は、
驚きと困惑が入り混じった微妙な表情だ。
自分が『勇者』と呼ばれる理由には心当たりはある。
しかし、それをコイツが知っているわけがない。
じゃあ、何で俺を『勇者』なんて呼ぶのだろう?
……と、そんな表情で俺を見る。
「だって、お前、この世界の勇者なんだろ?」
いちいち引っ張るのも何なので、
俺はとっとと種明かしをすることにした。
だいたい、今日、浩之に声をかけたのには別の理由があるからな。
「破壊神『ガディム』を倒した勇者浩之。
異世界から来た光の勇者のお墨付き……違うか?」
俺がそう言うと、浩之は一気に真剣な表情になる。
さすがは浩之だ。
俺の一言で、だいたいの事情を察したみたいだな。
「……誠……とりあえず、場所を変えるぞ」
で、屋上――
「……なるほどねぇ、そういうことか」
俺から全ての事情を聞き、浩之は納得顔でうんうんと頷く。
「でも、確か、前にあいつらが来た時は、
自力でこっちの世界に来てたし、自力で戻っていったぜ?」
「エリア一人じゃ無理なんだとさ。
えーっと、何て言ったっけ……フィル……フィル……」
「『フィルスソード』か?」
「そうそう、それだ。どうやら、異世界への道を開くには、
そのフィルスソードが無いと無理なんだと」
「つまり……エリア一人じゃ自力で戻れないってわけか」
「そういうことなんだ。
だから、エリアがこっちの世界に来た状況を、もう一度再現するしかない。
召喚プログラムの方は、俺が何とかするしかねーから……」
「後は、サークレットの魔力の調達ってわけだ。
で、先輩の力を借りたい、と」
「ああ。黒魔術が得意な芹香さんなら、
何とかしてもらえるんじゃねーか、ってな」
「わかった。じゃあ、俺からも先輩に頼んでやるよ。
ま、先輩なら二つ返事でOKしてくれるだろうけどな」
「ああ、頼む。
じゃあ、放課後……オカ研の部室でいいか?」
「おう。ちゃんとエリアも連れて来いよ」
そして、放課後――
ギギィー……
「……お邪魔しまーす」
妙に不気味な音をたてるドアを開き、
俺とエリアは薄暗い部室の中へと入った。
「おう、誠。遅かったな」
部室には、既に浩之と芹香さん、それにあかりさんも来ていた。
「ああ、悪い悪い。家までエリアを迎えに行ってたもんだからさ……な?」
俺は後ろにいるエリアに同意を求める。
だが、エリアはそんな俺を無視して、
浩之達の前に出ると……、
「浩之さん、あかりさん、芹香さん、お久しぶりです」
「おう、久しぶりだな」
「お久しぶり、エリアちゃん」
「…………(ぺこ)」
「浩之ちゃんから、エリアちゃんがこっちに来てるって聞いてビックリしたよ。
まさか、こんな形で再会するなんて」
「はい。そうですねぇ」
「あ、そうそう。あの時に撮った写真、ちゃんと残してあるから、
今度、見せてあげるね」
「まあ、本当ですか? それはぜひ」
と、思い出話に花を咲かせ始める。
「…………」
そんな四人を、ただ黙って見守る俺。
ちっ……なんだか、俺だけ蚊帳の外だな。
「じゃあ、浩之、後は頼む」
俺はそう言って、部室を出ようとする。
が、浩之に呼び止められた。
「おい、誠。先輩の話を聞いていかないのかよ?」
「魔力云々に関してはエリアにし分からねぇんだから、
俺がここにいたって仕方ねぇだろ?」
「それはそうかもしれないけど、そういう言い方は……」
俺の素っ気無い言葉に、あかりさんの口調が少しきつくなる。
しかし、その途中で、浩之が割って入った。
「わかった。お前も色々と忙しいんだろ? ここは俺に任せとけ」
「ああ……頼む」
と、それだけを言い残し、俺は部室を後にした。
さて、あっちはエリアに任せて、
俺は俺で、俺の出来ることをしますかね。
そして、夕方頃になり――
ガチャッ――
バタンッ――
パタパタパタパタ――
どうやら、エリアが帰って来たのだろう。
玄関のドアが開く音とスリッパの音を聞き、俺はキーを叩く手を止めた。
一応、「おかえり」を言うために立ち上がる。
そして、ドアに手を伸ばすと……、
ガチャッ――
突然、外側からドアが開けられた。
「よっ!」
「……浩之か」
そこには、浩之が立っていた。
どうやら、エリアを家まで送って来てくれたのだろう。
「エリアは?」
「下で晩メシの準備してるよ。ところで、どこまで進んだんだ?」
「……何の話だ?」
「とぼけるなって。あれから、ずっと召喚プログラムを直してたんだろ?」
「……っ!?」
と、シニカルに笑う浩之に、俺は何も言えなくなってしまう。
やれやれ……お見通しかよ。
ホント……こいつにはかなわねぇな。
「いつから気付いてたんだ?」
「最初からだ。ったく、お前は言葉が足りないんだよ。
あかりのやつ、お前のこと見損なった、なんて言ってたぞ。
まあ、ちゃんと誤解は解いておいてやるけどよ」
「しょうがねーだろ、照れクサイんだから。
そんなことより、魔力の件はどうなったんだ?」
俺が訊ねると、途端に、浩之の顔は真剣なものになる。
「ああ。その事だけどな。結果だけ言うと、無理だってよ」
「そっか……芹香さんでも無理か」
「一応、先輩の名誉の為に言っておくけど、
サークレットに魔力を蓄えさせる事は、できないことはないらしい。
ただ、極端に効率が悪くてな。かなり時間がかかるんだと」
「かなりって……どれくらいだ?」
「最低一年」
「……話にならねーな」
キッパリと言われた浩之の言葉に、俺は心底落胆する。
そんな俺の反応に、浩之はニヤッと微笑む。
「でも、一つだけ吉報があるぞ」
「吉報?」
「ああ。人為的に魔力を調達するのが無理となると、
当然、サークレットの魔力を吸収する機能に頼るしかないわけだよな?」
「そうなるな。でも、この世界の大気中には魔力なんて存在してねーんだぞ」
「普通はな。てもな、先輩の話では、
局所的にだけど、そういう空間がこの世界にも存在しているらしい」
「……マジか?」
「マジだ。もっとも、そうそうホイホイあるわけじゃねーがな。
さすがに、先輩も知らないって言ってたし」
と、肩を竦める浩之。
「どうだ? 少しは役に立てそうか?」
「おうっ! サンキューな、浩之」
「礼なら、先輩に言ってくれよ。俺はただ先輩の言葉を伝えただけだからな」
と、浩之はクルッと背を向ける。
「じゃあ、何か協力できることがあったら、いつでも言ってくれ」
そう言って、背を向けたままヒラヒラと手を振りつつ、
浩之は帰っていった。
「……よっしゃっ!!」
浩之が帰るのを見送り、
俺は両手で頬を叩いて気合いを入れる。
いいぞっ! 少しは道が見えてきた!
魔力の調達に関しては、浩之が言っていた
『魔力に満ちた空間』を探し出せば、後はOKだ。
もっとも、それを探し出すのが大変だが、
まあ、手段が見つかっただけでも良しとしよう。
「となれば、後は……」
と、俺はパソコンに目を向ける。
「俺次第……ってことだな」
そして、俺はプログラムの復旧作業を再開した。
待ってろよ、エリア。
すぐに、元の世界に帰れるようにしてやるからな。
<おわり>
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