Heart to Heart

    
第56話 「最低のレッテル」







「なーんだ。そういうことだったんですか」

「それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」

 と、ジト汗を流しながら言うさくらとあかね。
 そんな二人に、俺は眉間のシワを揉み解しつつ……、

「俺の話を聞こうともしなかったのは何処のどいつだ?」

「「……ごめんなさい」」

 淡々と言う俺に、二人は素直に頭を下げた。





 エリアの事を誤解したさくらとあかねにボコボコにされた後、
俺は二人に事情を説明した。

 エリアが異世界の住人であること。
 俺が作った召喚プログラムと魔法の暴走が原因でこちらの世界に来てしまったこと。
 ついでに、実はエリアが浩之達と知り合いだということ。

 とにかく、昨夜からのことを全て話した。

 最初は、二人とも信じられないといった様子だったが、
二人にやられた俺の傷を、エリアが回復魔法であっという間に治癒してしまったのを見て、
ようやく納得してくれたのだった。





「ところで、今日の予定はどうしましょうか?」

 なんとか誤解も解けたところで、
エリアが作った朝メシを四人で一緒に食べる。

 と、そこへ、俺のコーヒーのおかわりを淹れながら、
さくらがそう切り出してきた。

 ああ、そうか。
 そういえば、今日はデパートに水着を買いに行くつもりだったんだよな。

 ……さて、どうするかな?
 やっぱり、一緒に行くのがベストなんだけどな。
 でも、エリアの性格からすると……、

 と、俺が考えていると……、

「ねえねえ。お買い物、エリアさんも一緒に行こうよ」

 俺よりも先にあかねがエリアを誘っていた。

「は? で、ですが、私は……」

 予想通り、遠慮するエリア。
 しかし、俺達の行動に興味を示しているのは、
その表情から容易に見て取れる。

 やれやれ……しょうがねーなー。

「なあ、エリア。俺としても一緒に来てもらいたいんだけどな」

「い、いえ、私は留守番してますから……」

「昨夜会ったばかりの奴に留守を任せられる程、
俺は無警戒な人間じゃねーんだよ」

 もちろん、これは立て前だ。
 エリアが留守中に悪事をはたらくとは到底思えない。

 でも、こういう言い方をすれば、
根が控えめなエリアもついて来やすくなるだろうからな。

「と、いうわけで……エリア、お前に拒否権は無い。
だから、今日一日、俺達と行動をともにするように」

 そして、俺の意図を察してくれたのだろう。
 エリアはニコリと微笑み……、

「……はい。わかりました」

 と、心良く頷いてくれた。








 で、デパートの水着売り場にて――

「えへへへ〜♪ 今年は、この水着でまーくんを悩殺しちゃうんだから♪」

「うふふふ♪ わたしだって、負けませんよ♪」

「あー、はいはい」

 さっき買った新しい水着が入った紙袋を片手に、
さくらとあかねは俺に腕を絡めてきた。

 そんな二人の頭を撫でてやりながら、
俺はエリアに目を向け……、

「エリア、いいのは選べたか?」

 と、訊ねた。

 ちなみに、俺は三人がどんな水着を買ったのかは知らない。
 来週の日曜にプールに行くので、その時までは秘密と言われたのだ。

「ん? どうした? もしかして、それ、気に入らないのか?」

 俺達をジーッと見つめ、いつまでも答えないエリアに、
俺は彼女が持つ紙袋を指差し、もう一度訊ねる。

「いえ……そんなことないです。
でも、良かったんですか? 私の分まで」

 と、ようやく我に返ったエリアはそんなことを言う。

 多分、俺達が金を出し合って
エリアの分の水着も買ったことを気にしているのだろう。

「いいっていいって。気にすんな。
来週はお前も一緒にプールに行くんだから、水着は必要だろ?」

「は、はあ……」

 一応、頷くエリア。
 しかし、まだ納得しきれていないようだ。

 だが、この件では何を言っても無駄だと諦めたのだろう。
 エリアは、軽くタメ息をつき、話題を変えてきた。

「ところで……お見受けしたところ、
お二人とも、誠さんの恋人のようですね?」

「はい。そうですよ」

「うん。そうだよ」

 と、エリアの言葉に嬉しそうに答えるさくらとあかね。
 しかし、訊ねるエリアの表情は真剣そのもの。

「誠さん……それって、二股がけって言うのではないですか?」

「まあ……世間一般ではそう言うんだろうけど、
俺達は、そんなんじゃねーよ」

「……そうですか」

 俺の言葉を聞き、エリアは頷くと、
それっきり口を閉ざしてしまった。
















 それから、家に帰っても、
エリアは一言も口を聞いてくれなかった。

 俺がどんなに話し掛けても、エリアは応じてくれなかった。

 いや、一応、一言だけ喋ってはくれたが……、

「私は、居候の身ですから」

 ……と、晩メシを作る時に、そう言ったきりだ。

 テーブルに並べられた料理を、ただ黙々と食べる俺達。

 喋りながら食べるのが好きなわけじゃないが、
妙に雰囲気が居心地が悪い。
 こんなことなら、一人で食べている方が、よっぽどマシだ。

「なあ……」

 いい加減、エリアの態度に腹が立ってきた俺は、
箸を動かす手を止め、話し掛けた。

「言いたいことがあるなら……、
何か気に入らないことがあるなら、ハッキリ言えよっ!」





 本当は、分かっている。
 聞かなくても、分かっている。

 何故、エリアが俺と口を聞いてくれないのか。
 何故、俺を見るエリアの眼差しが冷たいのか。



 ――何故、エリアは、俺を軽蔑しているのか。



 全部、分かってるのだ。
 それでも、言わずにはいられなかった。

 それが、最低の行為だと、わかっていながら……、





「……わかりました。では、一言だけ言わせていただきます」





 そして、エリアは冷たく言い放つ。
















「……私は、あなたが嫌いです」








<おわり>
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